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政策と連動する気候変動教育の実践と評価:「気候変動のおかやま学」実践塾のケース

2023年03月17日 | 気候変動緩和・低炭素社会

武蔵野大学環境研究所の紀要に下記の原稿が掲載されました。

「政策と連動する気候変動教育の実践と評価:「気候変動のおかやま学」実践塾のケース」

次のような内容です。

(1)本研究の目的

 筆者が首謀し、2021年度に岡山市の事業として実施した「気候変動のおかやま学」実践塾(以下、おかやま実践塾)について、気候変動教育のあるべき要件を満たすどうかを評価し、今後の改良点などを検討することを目的とする。

 おかやま実践塾の目的や実施内容は日本環境教育学会「気候変動教育」研究会が提示した気候変動教育のあるべき5要件に対応して設計したものと考えているが、プログラムの内容や目的の達成度等において、まだまだ改良すべき点がある。新しい試みを評価することで、今後の取組みへの具体的な示唆を得ることができる。

(2)評価対象となる「気候変動のおかやま学」実践塾の概要

 おかやま実践塾は、全国各地で実施してきた「気候変動の地元学」の岡山市版として、2021年度に実施した。さかのぼれば、筆者は「気候変動の地元学」を岡山市内の公民館で開催することを提案し、それを受け入れてくれた富山公民館にて、2020年度に「気候変動のとみやま学」を実施した。同公民館の取組みは公民館長の意向を受け、地域リーダーを参加者とし、気候変動社会に向けた個々のライフスタイル宣言をするものであった。先行した富山公民館の取組みを発展させて、おかやま実践塾を企画し、開催した。

 また、筆者は、2020年度「地域の主体による持続可能なカーボンゼロ社会の選択に向けた研究会」[1]を主宰し、岡山市の緩和策・適応策を進める仕組みを検討した。この検討成果に基づき、「岡山市内の企業・市民活動・行政における各分野において、カーボンゼロ社会(及び気候変動適応社会)を担うフロントランナーの人材育成を行なうこと」を目的として、おかやま実践塾を企画した。同研究会には岡山市職員も参加し、富山公民館の実績もあったことから、おかやま実践塾の実践予算を岡山市に確保していただくことができた。

 2020年度後半に準備し、2021年度に28名の参加申込みを得て、5回に分けて開催した。参加者は企業、NPO、教育、大学等の関係者が混在し、年齢層も10歳代~60歳代と幅広い構成となった。当初は10名くらいの少数精鋭により、密な学びを行うことを想定していたが応募が多く、途中で申込受付を締め切ることとした。なお、個人的事情等から毎回を通して参加が困難という人も多く、最終回の参加者は18名にとどまった。

 おかやま実践塾の特徴として4点をあげる。第1に、フロントランナーの育成という目的に即して、フロントランナー候補者となるNPOリーダー等の参加を促した。フロントランナー候補者を対象とした理由は、トランジションマネジメントにおいては、イノベーションの生成を始めるフロントランナーを大切にし、フロントランナーに学びと役割を提供することが必要だという考え方に基づいている。

第2に、気候変動の緩和策と適応策の両方を並列に扱い、両方を検討対象とした。具体的には1回目との理論学習において緩和と適応の両方を節飯、2回目は緩和策、3回目は適応策について、将来ビジョンを考えるワークショップを行った。

第3に、2050年の社会ビジョンを描き、それを実現するために参加者自らが立ち上げていくプロジェクトの立案を行うというように、ムーンショット&バックキャスティングの手順を踏んだ。

第4に、社会を変えためには異なる考え方の相互理解と内省が必要という観点から、4回目に哲学対話の回を設けた。この哲学対話は「変わる/変えるために何が必要?」をテーマとして、①気候変動から離れて考えてみる(グループでの対話)、②気候変動も交えて対話する (全体での対話)、③ふりかえり、という手順で行った。哲学対話は、「知らないことを知るのではなく、知っていることを改めて問う」、「知識や情報の一方的な伝達ではなく、誰もが対等に話し合い、学び合う」、「問題解決より本当の問題とは何かを考える」という方針を持ち、合意形成のための対話とは異なる。

4.本研究の方法

 日本環境教育学会「気候変動教育」研究会が示した気候変動教育のあるべき5要件を評価項目とし、以下の4つを側面から、おかやま実践塾の評価を行う。

(1)「気候変動のおかやま学」実践塾の実施内容の評価

 おかやま実践塾の実施内容を整理し、あるべき5要件に対応してどのように工夫され、実施されたか、改良すべき点はないかという観点から、実施内容の評価を行う。

 5要件とは、「①SDGsと気候変動対策を両立させる理想の社会を目指す教育であること」(以下、SDGsと気候変動対策の両立と表記)、「②社会転換のための思考を身につけ、革新を生み出し、先駆けて実践できる人を育むこと」(以下、社会転換人材の育成と表記)、「③異なる価値規範を乗り越える対話と共創を生み出すこと」(以下、異なる価値観での対話と共創と表記)、「④緩和策と適応策(さらに両立策)、技術対策と根本対策を体系的にとらえること」(以下、緩和と適応、技術と根本の体系と表記、⑤地域の気候変動政策の実践と連動する教育システムであること)(以下、地域の政策と連動する教育と表記)である。

 (2)「気候変動のおかやま学」実践塾でのワークショップの結果

 ワークショップの結果として作成されたビジョンやプロジェクトの内容が、あるべき5要件を満たすものかどうかを評価する。特に、「①SDGsと気候変動対策の両立」と「④緩和策と適応策、技術と根本の体系」という観点から十分な内容であるかを評価する。

(3)「気候変動のおかやま学」実践塾によるコンピテンシー等の自己評価結果

おかやま実践塾の事前と事後に行った参加者アンケートにより、参加者のリテラシーとコンピテンシーの自己評価の回答を得ており、これにより、学習効果を把握する[2]。これは、あるべき5要件のうち、「②社会転換人材の育成」という観点からの学習効果の評価である。

(4)「気候変動のおかやま学」実践塾その後のアクション

 おかやま実践塾は参加者がフロントランナーとなって動きだすこと、検討結果が岡山市の政策に反映されることを目的としていることから、2022年度に参加者を集めたフォロー検討会を開催している。この結果から、教育と政策の連動の側面で評価を行う。これは、あるべき5要件のうち、「⑤地域の政策と連動する教育」に関する結果の評価である。

[1] この研究会は、岡山市内の大学、国の研究機関、岡山市、地元新聞社、県地球温暖化防止活動推進センター、哲学カフェ主催者等から構成した。この研究会の地元銀行、商工会議所等の関係者を加えて、2021年度に企画運営委員会を設置し、おかやま実践塾の企画と評価を行った。

[2] アンケートで用いたリテラシーは問題認知と行動意図の形成要因に関連するもので、環境配慮行動に関する社会心理学の知見や白井ら(2017)の研究をもとにしている。コンピテンシーは高橋ら(2019)の研究成果を活用している。リテラシーとコンピテンシーを包含関係で整理する場合もあるが、本研究では並列の関係にあるものとしている。

 


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