サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

持続可能な地域づくりに向けた統合転換を担う人と組織 ~気候変動の緩和と適応、SDGsの推進を中心として

2023年05月14日 | レポート

2022年度に、武蔵野大学しあわせ研究所の研究予算を使い、地域におけるゼロカーボンや気候変動適応、SDGsへの取組を進めるための統合転換を担う人と組織に関する研究を行いました。その概要をここに報告しておきます。

1.研究の背景

 気候変動による非常事態が露わになるなか、ゼロカーボンに向けた緩和策(温室効果ガスの排出削減)の加速化と、緩和策の最大限の実施でも避けられない気候変動の影響に対する適応策の推進が最優先の取組課題となっている。地域においては、国の政策に追随するだけでは政策の受容性と効果を高めることができず、地域特性に応じた地域主導の気候変動への緩和策と適応策の推進が必要となっている。また、地域においては、人口縮小、高齢化、地域産業の衰退等の社会経済的な面での地域課題が深刻であり、これらのローカルSDGsに関わる課題の解決が待ったなしとなっている。

 こうした中、ゼロカーボン宣言に基づく地域づくり、地域気候変動適応センターを核とした気候変動適応策の計画、あるいは地域課題の解決を目指して環境と経済・社会の統合的発展を図るSDGs未来都市の事業が進められている。具体的にいえば、「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」、すなわちゼロカーボンを宣言した地方自治体は934地域(46都道府県、998市区町村)となっている(2023年3月末時点)。2018年の気候変動適応法により設置が努力義務となっている地域気候変動適応センターについては、設置済の地方自治体は56地域(41都道府県、15市区町村)となっている(2023年4月時点)。SDGs未来都市については、毎年、約30地域が選ばれ、2022年までの5年間で154地域となっている。

 これらの取組みは1つの地域において同時並行的に進められている場合が多いが、気候変動への緩和と適応、ローカルSDGs、あるいは地域課題の解決に関する取組みは相互に関連していることから、連携させて統合的に進めるべきものである。例えば、地域における再生可能エネルギー事業は緩和策であるとともに、非常時の電源確保につながる適応策でもある。加えて、再生可能エネルギーの事業収益を地域課題の解決に活用することができる。

 また、これらの取組みに共通して必要かつ重要な方向性として、「つなぐ(統合する)」ことと「かえる(転換する)」ことが重要である。「つなぐ」ことについては、気候変動の緩和と適応、SDGsへの取組みをつなぐことに加えて、様々な側面でつなぐべき対象がある。特に、①行政内の担当部署間や産学官・地域間の連携・共創②環境・SDGs対策と産業振興とウエルビーイングの向上等との統合のデザインが重要である。「かえる」ことについては、③リフレ-ミングによる慣性の規範や方法の変革・転換とともに、④Z世代等の若い世代の参加と主導による転換が重要である。

 こうした「つなぐ」ことと「かえる」ことを重視する取組みを包括して、「統合的アプローチによる転換のコーディネイト(略して、統合転換コーディネイト)」と呼ぶことにする。

2.研究の目的と方法

 既往研究から、統合転換コーディネイトを担う人と組織が持つ機能、その課題と克服の方法について、おおよその知見を得ることができる。ただし、それらの知見は、気候変動への緩和と適応やSDGs未来都市に関する直接的なものではないことから、本研究では気候変動への緩和と適応やSDGs未来都市に関する統合転換コーディネイトの実態を調査する。

 そのうえで、これらの分野における統合転換コーディネイトを担う人と組織のあり方を論じる。そして、このあるべき姿を実現するために、統合転換コーディネイトを担う人材を育成、支援する仕組み、特にデジタルプラットフォームの活用に注目し、そのデザインを行うものとする。

 コーディネイターの育成となるといわゆる研修事業が考えられるが、一過的な研修では十分な学習成果が得られない。むしろ、研修の場で社会関係資本が形成され、それが研修後に活用され、情報交流や意見交換がなされることが重要であると考えられる。この情報交流や意見交換の場としてデジタルプラットフォームを構築し、統合転換コーディネイトを属人的なノウハウや先進地域の特殊解にしないように、コーディネイター相互の情報共有と学習を支援する動きを起こすことが本研究の最終的な目的である。デジタルプラットフォームとしては、オープンソースの参加型民主主義プラットフォームであるDecidimの活用可能性を検討する。

 また、上記の検討にあたり研究会を設置し、検討を行った。この検討の成果は、持続可能な地域創造ネットワークの2022年度全国大会(武蔵野大学有明キャンパスにて開催)の分科会で報告し、持続可能な地域づくりに取り組む地方自治体の首長や職員達と意見交換を行った。

3.研究結果の要点

 本研究では、コーディネイターに関連する既往研究を踏まえて、SDGs未来都市等における中間支援組織の現状調査を行った。

 この結果、①統合転換コーディネイターや中間支援組織を設けていない地域が多いこと②統合転換コーディネイターや中間支援組織を設置したとしても、その役割を担う人材の確保や育成が十分ではないこと③統合転換コーディネイターが活躍する地域はあるものの、その継続性に課題があること、を明らかにした。これを踏まえ、本研究では、統合転換コーディネイターの要件と中間支援組織の配置のあり方(図参照)を整理し、さらに統合転換コーディネイターを育成・支援するデジタルプラットフォームの構想を検討した。

 今後は、①本研究の成果をたたき台にしてデジタルプラットフォームの試験運用と評価・見直し・普及を進めていくこと、②関連する政策の分析と課題解決の方法の提案を精緻化することが研究課題となる。

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