気候変動の避けられない影響に対する適応策は、防災対策と共通する点があるが、異なる点もある。気候変動適応と防災との関連について、意見交換をする機会があったので、まとめておく。
特に、気候変動適応と防災対策における対象となるリスク、対策の段階とレベル、リスクから守るもの・回避したいこと、について、まとめる。基本的には、防災対策では、気候災害を扱っており、対策の考え方も共通するのであるが、長期的な対策であるか否かという点が大きく異なる。
1.対象となるリスク・影響分野
防災対策は、自然要因である自然災害、人為要因である事故災害が対象となる。防災対策のうち、自然災害(風水害)に対する対策が気候変動対策と重なる。気候変動は豪雨の増加、渇水等を増幅されるため、この意味では気候変動への適応策は、防災対策のうちの、増幅する風水害への対策としての性質を持つ。
ただし、気候変動の影響は、風水害に関することだけではない。自然生態系の変化、農業の変化、水質悪化等も気候変動への影響である。こうした影響は、突発的な災害というより、ざん新的な変化であり、防災対策の対象ではない。この意味で、気候変動適応は防災対策とは異なる影響分野のリスクを対象とする。
扱う影響分野が異なる理由は、気候変動の影響の長期性による。防災対策は短期的なリスクの増幅は扱うが、長期的なリスクの変化は扱わないためである。
ただし、防災対策であっても、長期的な変化を予測した、長期的な対応が必要である。この意味では、防災対策も気候変動(及びその他の長期的リスク)を考慮したものに、改良していく必要があるだろう。
2.対策の段階とレベル
当方が作成している「地域適応ガイドライン」では、気候変動適応には、「防御」、「影響最小化」、「転換」という3つのレベルがあると整理している。これに対して、防災計画では、「予防」、「応急」、「復旧・復興」という3つの段階で、対策を整理している。防災計画の3つの段階は、災害の発生前、発生直後、その後という時間軸の流れで整理したものである。「防御」と「影響最小化」、「転換」はすべて「予防」に対応するものである。
水災害分野ので気候変動適応でいえば、「防御」は、ゼロリスクを目指して、堤防を高くすること、「影響最小化」は、堤防では防ぎきれないことを想定し、早く逃げる準備をしておくこと、「転換」は早く逃げる頻度が多くなることを避けるために、居住地を再編することである。
気候変動は長期的に進行するものであり、それを予測し、予防することが主眼である。ただし、気候変動適応であっても、応急、復旧・復興への備えを視野に入れておかなければならないだろう。
なお、防災分野では、減災という考え方をするが、これは気候変動適応で整理している「影響最小化」に相当すると理解している。
3.リスクから守ること・回避したいこと
気候変動適応では、気候変動から守るものを3つのタイプに分けている。「生命」、「生活の質や財産」、「自然や文化」である。
大規模な自然災害への対策を定めた国土強靭化基本計画では、避けるべき事態の基本目標として、Ⅰ.人命の保護が最大限図られる、Ⅱ.国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持される、Ⅲ.国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化、Ⅳ.迅速な復旧復興を設定し、「起きてはならない最悪の事態」を具体的に設定している。
国土強靭化基本計画における「起きてはならない最悪の事態」は、大規模な災害時の生命や生活の質や財産の保護を重視した内容である。この点は、気候変動適応における3つのタイプのうちの「生命」、「生活の質や財産」に対応する。気候変動適応では、「自然や文化」も守るべき対象とするが、これは対象とするリスクによるダメージの大きさの相違でもある。つまり、圧倒的に大きなダメージを想定する国土強靭化基本計画と、ざん進的で広範囲なダメージを想定する気候変動適応の相違である。
なお、防災計画では、国土強靭化基本計画のように、リスクから守ること・回避したいことを明確にしているわけではない。