サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

地域におけるライフスタイル革新のための普及戦略を。

2015年03月22日 | 環境イノベーションとその普及

 今日の環境問題の解決のためには、環境配慮に関する意識と行動の普及が必要である。このため、都道府県や市町村の環境基本計画をみると、どの計画をみても、環境配慮の普及に関して、普及啓発や環境学習、環境活動、主体間の連携、環境情報の提供等に係る施策が列挙されている。

 

 しかし、これらの施策の記述はあまりに淡々としていて、環境配慮の普及に関する問題意識が足りないように思える。例えば、筆者は次のような問題点を列挙することができる。

•環境熱心層等の特定の主体の参加や利用に留まっており、広く地域住民を巻き込む動きとなっていない。
•100人の1歩、ちょいエコが重視され(それは悪いことではないが)、「ライフスタイル革新」といいつつ、革新になっていない。
•行動の実施を狙いとして、受容性や両立性が重視されているが、環境問題への危機意識を基盤とする啓発が十分に実施されていない
•普及啓発等の達成目標とそれを実現するための手法の体系化がなされていない。行動実施だけが目標ではないはず。
•行政、企業、NPO等の連携をいうのはよいが、目標の共有化や連携によるアクションの具体像が示されていない。
•環境情報の提供、普及啓発、環境学習、環境行動の支援等の関連づけがない。
•ソーシャルマーケティングや環境心理学、リスク心理学の知見が反映されていない。
•対象設定と対象に応じた普及啓発等が合理的に企図されていない。
 

 そうした中、環境配慮の普及に関して、踏み込んだ記述をしている地方自治体の環境計画がないだろうか、とWEB検索をしてみた。3地域ほど、紹介する。

 

 1つめは、「東京都環境基本計画(2008年3月)」である。少し時間がたった計画であるが、「第3部 横断的・総合的施策」「第2章 持続可能な都市づくりを促進する仕組みの構築」の中で、「5 戦略的環境広報」として、次のような記述をしている。提案に基づく双方向での広報と、メディアミックスに踏み込んだ記述をしている点が注目される。

 

「今後、多くの主体を巻き込み、環境保全行動へのムーブメントを起こしていくためには、行政からの一方的な情報提供だけでは不十分である。都はこれまでも、ディーゼル車NO作戦や地球温暖化阻止!東京作戦などを展開していく過程で、グリーンペーパーの発行やインターネット討論会などを行い、政策形成過程の情報や問題提起、解決策の提案を盛り込んだ双方向かつ提案型の広報に積極的に取り組んできた。」

 
「今後は、都民や事業者がそれぞれ具体的にどう取り組めばよいのかが実感できるよう、都民参加型の企画もまじえた広報活動をこれまで以上に積極的に行い、都民や事業者の理解と行動を促進していく。あわせて、情報化社会の進展により広報媒体のポテンシャルが高度に発展していく中で、多様な広報媒体から最適な手段を選択し、様々な世代・立場の人々に都の方針・取組状況をタイムリーかつ効果的に伝え、都民・事業者等の環境保全に向けた活動を促す広報戦略を展開していく。」
 
 2つめは、「横浜市環境管理計画(2015年1月)」である。同計画では、「第 7 章環境行政のさらなる推進」「7.2 環境プロモーション」において、「市民への戦略的な環境プロモーション」に関する次のような記述をしている。行政側の営業マインドとコミュニケーションという言葉を使っている。
 
「市民の環境への意識は高まっており、多くの環境活動団体や企業が高い活動意欲を持って環境行動を実践し、横浜の環境を支えています。しかし、関心があるが行動には至っていない市民も多く、意識から身近な環境行動の実践に移行するためには、何らかのきっかけが必要です。また、環境活動団体や企業と行政との連携により、取組の輪を継続的に拡大し、取組のさらなる活性化につなげることも必要です。そこで、これまで多用してきた行政からの一方通行の広報ではなく、行政側が営業マインドを持って、市民・活動団体・企業等とのコミュニケーションを活発化させ、行動の推進につなげます。」
 

 3つめに、「北九州市環境基本計画(2012年2月)」をあげる。同計画では、「第3部 基本施策の展開」の「第1章 北九州市民環境力の持続的な発展」で、環境先進都市であることの周知を狙いとして、やはりコミュニケーションという方向性を提示している。

 

「本市は、これまで、「世界の環境首都」の実現を目指して、様々な取組を積極的に進めてきました。平成23 年6月には、経済協力開発機構(OECD)よりグリーンシティプログラムにおける世界のモデル都市に選定されるなど、その取組は国内外からも高く評価されています。一方で、これらの取組について市民一人ひとりが身近なこととして実感し、環境行動の変革に導かれているとはいえません。」

 
「市民への周知に対する更なる工夫・改善を図りながら、インターネットによる環境情報ポータルサイトをはじめ、環境マスコットキャラクター「ていたん」を活用した環境未来都市づくりへの理解促進、環境情報誌による情報発信など、様々な媒体・機会を活用した情報発信に取り組むとともに、シンポジウムやイベント等で直接的に市民と対話するなど、双方向でのコミュニケーションの促進が必要です。」
 
 
 普及啓発に関して、踏み込んだ記述がされたとしても、せいぜい、上記のような程度である。普及啓発が十分に成果をあげている状況であるならば、多くの記述をする必要はないが、どの地域でも膠着感があるのが実情ではないだろうか。
 
 特に、誰を対象に、どのような意識・行動の形成を目指して、どのような効果的な方法で、施策を展開するのか。「ライフスタイル革新」といえるような創造的な目標を持ち、情報システムや地域間連携等を活かす戦略づくりと、研究と連動する実験的施策を期待したい。以下に、実験的施策の例を示していく。
 
•HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の普及を活かした普及啓発と情報提供、環境学習への誘導
•カーボンオフセット等で連携する大都市と地方の農山村の相互連携による新たなライフスタイルの創造と学習
•市民共同発電、小売電力の自由化など、再生可能エネルギーへの関与を契機とした意識・行動の革新
•気候変動の地域への影響を地域住民等が調べ、緩和と適応を学ぶ「気候変動の地元学」の導入
•少子高齢化時代における高齢者を活用する環境学習・環境活動
•防災や安全・安心、農林水産業振興、地域活性化・地域再生、地域再配置・集落再編等と関連づけた住民主導の企画・
•女性や若年層を区別した、女性や若年層主導の普及啓発や環境学習プログラムの企画・実験
•地域内でのワークショップの徹底的開催、大学との連携 等
 
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