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数字でみる環境問題~環境の算術

2008年01月16日 | 環境の算術
*「環境の算術」という連載の1回目を転載する。

■環境の算術とは
 算術というと、なんだか難しく聞こえるかも知れない。しかし、数字や数式を使うことで、概念的になりがちな問題をわかりやすく捉えることもできる。
また、環境問題は深刻な問題である、一人ひとりができることをやりましょう、という時代ではなくなった。どれだけ深刻な問題で、一人ひとりが何をどれだけ成すべきか、それを定量的に知る(知らせる)ことが大事である。

■問題を身近に捉える

 筆者は、調査研究を主とするシンクタンクの仕事を通じて、環境問題をテーマにした博物館展示を企画・製作する機会を得たことがある(注1)。

 地球温暖化、廃棄物、あるいは資源・エネルギーの枯渇等の問題を身近に感じ、また自らの問題として捉えてもらうには、どのような見せ方が効果的なのかを思案した。サイコロや実物のハンズオン展示などと様々な工夫した。その一つとして、生活者一人が環境に与えている影響(負荷)の程度を、重さで体験してもらうことにした。

 例えば、日本人1人の1日当たりの二酸化炭素排出量は、3.6キロである(注2)。これと同じ重さのサイコロを用意して、秤にのせて量ってみようという按配である。3.6キロを手に持っていると、予想外に重い。そして、1ヶ月30日の1人当たり二酸化炭素排出量は、100キロを越える(私の体重より重い)。1年365日では1.3トンにもなる。これに日本の総人口を乗じたら・・・。このように、身近な数字を入り口とすることで、大きな問題を実感することができる。

 また、日本で排出されるゴミの量を伝えるため、ゴミの容積の大きさを、富士山何杯分かに相当するのか、その換算も試してみた。ホームページで調べると富士山の容積は、約1兆4千万立方メートル。1年間に捨てられるゴミの量は富士山の200分の1。ゴミを地上に積み上げていけば、200年で富士山を築くことができる。資源が枯渇している200年後に、ゴミの富士山ができているとすれば、まさに富の山となり、採掘権が争われるに違いない。

 野球のドーム球場何杯分かという換算もした。1年間に日本中から出るゴミの重量を設定した比重で換算すると、体積にして7億立方メートル。これを、ドーム球場の容積125万立方メートルで割ると570杯になる。余談だが、東京ドームと名古屋ドームの容積はほぼ同じらしい。

 ゴミの量を愛知県の土地面積で割算することも試した。これは、日本のゴミを愛知県に埋め立た場合の高さとなる。愛知県の面積は約55億平方メートルだから、約13cmである。10年埋めるとすると、子供の背丈よりも高くなってしまう。

 結局、換算単位の身近さを考慮し、ドーム球場の換算を採用することになった。これにより、展示物の背景画として、ドーム球場が570個描かれた。

 数字にしてみて、思ったより小さいなと実感したこともある。例えば、東京都内の森林面積(5.3万ヘクタール)は、日本全体の森林面積の0.2%に過ぎない。それが吸収する二酸化炭素の量は、東京都内で排出される二酸化炭素の量に比較して圧倒的に少ない。都内の年間の二酸化炭素排出量67百万トンに対し、都内森林の吸収量は27万トン、0.4%に過ぎない。

 もっとも、森林面積率99%の山村地域で計算しても、排出量の方が上回る。この数字は、森林(の力)が小さいというより、人間の排出量が如何に大きかと見るべきである。

 このように、環境問題の全体の大きさ(深刻さ)や一人ひとりの環境負荷の大きさ(問題への寄与度)を身近に捉えるために、様々な数字の単位換算が行われている。環境負荷量を空間(体積、面積)当たりに換算すれば濃度や密度になり。時間当たりに換算すれば速度になる。この連載では、換算することでわかりやすくした数字を紹介していきたい。

 なお、国立環境研究所が作成しているホームページ(注2)でも同様の試みをしている。「自転車をこいで発電。23人でやっと蛍光灯1本」、「ごみ処理にかかる費用。年間2.7兆円。1人当たり年間1万8千円。」という数字を解説するコーナーがある。

■見えないところを見る

 環境問題の本質は、自分以外の他者(環境)のことを軽視し、他者にツケまわしをすることである。この他者へのツケまわしの部分は、日常生活の中でなかなか実感されることがない。この見えないところの大きさを数字にする作業が様々に実施されている。

 例えば、フードマイルという指標がある。食料となる野菜等の輸送距離(あるいは輸送距離に輸送量を乗じた値)のことである。この指標は、グローバル経済が地域外に過剰に依存する姿の異常さや危うさを明らかにしてくれる。

 青果物の輸送距離は、中央卸売市場の年報から求めることができる。この年報では、野菜・果物の品目別に入荷先の都道府県が分かる。中央卸売市場と入荷先の地域との距離に入荷量を乗じ、入荷総量で割れば、平均輸送距離が求められる。

 例えば、平成15年の大阪中央卸売市場年報の分析結果を引用する。カボチャの平均輸送距離は5千キロメートル強、バイレショやタマネギは1千キロメートル強である。輸入物のグレーツフルーツやオレンジ、レモンに到っては、1万キロメートルを上回る。

 東京郊外に居住する私の通勤距離は片道20キロメートルであるから、カボチャの輸送距離は私の通勤の125日分に相当する。カボチャも詰め込まれて、長距離を移動してくれて、ご苦労さん、である。

 自給率の低下や通年で旬以外のものを求める食生活の変化により、フードマイルは増加してきた。いつでも、どこでも、欲しいものが食べられることは、生活水準は向上と言えるのかも知れない。しかし、遠くに依存すればするほど、輸送過程でエネルギーを消費し、二酸化炭素を排出することは自明なことである。

 なお、距離が2倍になったからといって、二酸化炭素排出量が2倍になるわけではない。距離によって、輸送手段が異なるからである。それでは、輸送手段を考慮するとして、私たちが食する野菜等の輸送過程の二酸化炭素排出量はどれだけなのだろうか。その年間総量は、家庭生活から排出される二酸化炭素量に対して、どの程度の重みを持つのだろうか。そんなことを究明していく必要がある。

 また、他への依存の度合いを示すエコロジカル・フットプリント(足跡、踏みつけた面積)という指標もある。これは、人間の活動を支える土地面積の大きさを示す。自分の生活を支えてくれる土地は、直接的には家屋の占有面積であり、職場のささやかな机回りかも知れない。しかし、野菜を育てる農地、牛肉を育てる牧草地、サンマを成長させる海、紙の原料となる樹木を育てる森林等にも、私たちの暮らしは依存している。

 あるホームページ(注4)では、日本人1人当たりのエコロジカル・フットプリントを6ヘクタール、地球が実際に供給可能な面積は、一人当たり約二ヘクタールと紹介している。これから、世界中の人々が日本人のような暮らしをはじめるとしたら、地球は3個必要、逆に言えば、日本人は足跡を3分の一に戻すことが求められると説明している。

 この他、見えない部分の影響を重さで示すリュックサックという指標がある。
リュックサック、ドイツのヴッパータール研究所で名づけられたもので、"製品が背負った重荷"という訳が、ニュアンスに近い。

 リュックサックの例として、化石・鉱物資源の採掘・精製の際に廃棄される物質量を計算したものがある。例えば、石油1トンのリュックサックは0.1トン、石炭は6トン、セメントは10トン、鉄は14トンという数字がある。鉄1トンを消費することは、同時に見えない部分で14トンの物質を消費していることになる。

 石油のリュックサックが小さいのは、採掘した分をほとんど利用するためである。鉄のリュックサックは、鉄鉱石のうち利用しない分が大きいためである。

 他者へのツケまわしという環境問題の本質であり、それを数字で実感し、理解することが大事である。
 
■合理的に解決策を考える

 数字を示すだけでなく、簡単な算術を用いて、問題の構造や解決策の考え方を示すことも大事である。

 例えば、LCA(ライフサイクルアナリシス)や問題の要因を分解して考える方法等を紹介しようと考えている。

 LCAについては、ご存知の方も多いだろうが、モノの製造、輸送、使用、廃棄といったライフサイクル全体の環境影響を分析する方法である。

 例えば、自動車の製造から廃棄の流れでは、製造段階よりも使用段階の二酸化炭素排出が圧倒的に多く、燃費のよい車の開発、あるいはエコドライブの推奨等がより重要となる。

 ただし、自動車の燃料についてみると、燃料の製造過程の二酸化炭素排出量のウエイトが高く、製造エネルギーの少ない燃料の選択が重要となる。

 このように、LCAは、対策の優先順位の検討や、代替案の比較を行う際になくてはならない方法である。先に示した見えない環境負荷を捉えることも、広い意味ではLCAである。

 また、問題の要因を分解して考えることも必要である。その方法として、中間項を設定する方法がある。例えば、日本の二酸化炭素排出量は、次式で表現される。

(二酸化炭素の排出量)=(エネルギー消費量当たり二酸化炭素排出量)
             ×(活動量当たりのエネルギー消費量)
             ×(人口当たり活動量)×(人口)

 つまり、排出量を減らすために人口を減らすことが無理としたら、まず(人口当たりの活動量)を減らすことが求められる。食生活でいえば、食べる量を減らせばよい。肥満に悩む日本人は、無駄な飲食を止めればよい。

 次に、(活動量当たりのエネルギー消費量)を減らすこと。例えば、フードマイルの例で示したように、地産地消(近場で生産されたものを食する)を行えばよい。食べる量を我慢するのではないが、旬でないものは食べないというように、食事の質は変えることなる。

 さらに、(エネルギー消費量当たり二酸化炭素排出量)を減らすことも考えられる。このためには、新エネルギー等の利用が必要となる。このように、中間項に分解する方法は、対策メニューを整理するうえで、また対策効果の感度を分析する上で有効である。

注1)トヨタ自動車が愛知県豊田市に整備した「里山学習館 エコの森ハウス」の展示制作のこと。
注2)環境省資料より。家庭部門からの二酸化炭素排出量を換算。
注3)EICネットのワンポイントエコライフ
注4)サスティナブル・ライフデザイン研究所のHPより

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