地球温暖化、エネルギーの枯渇問題など、私達の将来の持続可能性を損なう恐れがある環境問題の解決のためには、大量生産・大量流通・大量消費・大量廃棄を基調とする産業や生活のあり方の見直しが必要であると指摘されて久しい。
例えば、第一次環境基本計画(1994)では、第1部の中で、「今後対応すべき環境問題の特質」として、「今日の環境問題の多くは、都市・生活型公害や地球温暖化問題等に見られるように、通常の事業活動や日常生活一般による環境への負荷の増大に起因する部分が多い。その解決のためには、経済社会システムの在り方や生活様式を見直していくことが必要であり、そのために、広範な主体による自主的、積極的な環境保全に対する参加が必要である。」と記している。
このため、国の政策では、単体対策ではなく、地域全体での総合的な取組みを推進してきた。その延長上に、近年の環境モデル都市や環境未来都市等の取組みがあり、環境に配慮するモデル地域の実現を目指している。
環境未来都市の計画には、「ライフスタイル変革(あるいは転換)」と表記した取組みがみられる。これまでとは異なる環境配慮型で豊かな生活様式への転換を意図した表記だと考えられるが、その内容は、住宅用太陽光発電の普及に伴う発電量の見える化と節電行動のナビゲーションをさしている。つまり、日常生活におけるエネルギー消費行動の改善を促すもので、抜本的という意味でのライフスタイル変革にはなっていない。生活様式やその根底にある価値規範は変えずに改善を図るだけでは、「経済システムの在り方や生活様式を見直す」という要請には答えていない。
そもそも、政府の「新成長戦略」(2010年6月閣議決定)に示されたように、環境未来都市の狙いは、「未来に向けた技術、仕組み、サービス、まちづくりで世界トップクラスの成功事例を生み出し、国内外への普及展開を図る」ことにある。環境未来都市は、経済成戦略として位置づけられるもので、「経済システムの在り方や生活様式を見直す」モデルを作ろうという志向が欠如しているのであるから、抜本的なライフスタイル革新に踏み込むものにはならない。
一方、環境政策においては、温室効果ガスの排出削減が特に民生家庭部門で削減できていないように、今もまだ、不特定多数の環境配慮の普及を図ることが課題となっている。このため、マスメディアの活用、企業ぐるみの取組を促すなど、戦略的な環境広報がなされてきたが、そうした手法にも行き詰まり感がある。「チームマイナス6%」を合言葉に、2010年の温室効果ガス排出削減率6%を国民運動は、クールビズの普及で成功をおさめたが、それに続く成果は十分とはいえない。
こうした環境配慮の普及の行き詰まりの理由は、①戦略性がなく、限定的な予算内での創意工夫に留まっていること、②普及啓発の手法が精緻でないこと等にあると考えられる。加えて、③普及を図ろうとする環境配慮行動自体に魅力がなく、やり甲斐や楽しさが創出されていないことも、普及の阻害要因になっていると考えられる。
このため、革新的な生活様式の創出が普及啓発の膠着を打開する可能性があると考えられる。しかし、行政の普及施策では、公益性の観点から、特定の主体の一歩進んだ取組みよりも不特定多数への普及が優先される傾向にある。生活様式の見直しに踏み込んだ学習や変革的なライフスタイルの普及は、普及施策としては扱いにくいのであろう。
以上のように、環境未来都市等におけるライフスタイル変革に係る取組みは従来の生活様式の効率化支援に留まっており、環境配慮の普及政策において普及を図ろうとする行動もまたライフスタイル革新に踏み込んでいない状況にある。
現状の膠着を打開し、環境問題の構造的解決を図るためには、新たなライフスタイルを創造し、それを広げていくこと、また生活様式の見直しに踏み込んだ、生活者の気づきと主体的な取組みを促すような普及政策が展開することが期待される。