サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

構造的環境政策(脱物質化、サービサイジング)

2020年02月14日 | 持続可能性

(1)モノを生産・消費しない経済(脱物質経済)とは

 モノの生産・消費を抑制しつつ、経済を発展させる脱物質経済は、循環型社会、脱炭素社会、自然共生社会を根本的に実現する手段となる。脱物資経済には2つの方向性がある(図参照)。

 1つの方向は、付加価値が高く、かつ長く使えるモノを生産し、モノを長く使う経済(高付加価値・長寿命化による脱物質経済)である。

 モノを長く使う経済のメニューは、誰がモノを所有するかという観点から分類することできる。例えば、①製造者によるメンテナンスや修理事業者によるリペア・リフォーム等のように同じ所有者が長く使い続ける場合、②リユースびんの回収・再充填、中古製品の売買等のように所有者を変えながらモノが長く使われる場合、③カーシェアリング等のように、複数の利用者が共同利用を行なう場合がある。

 2つめの方向は、モノではなく、サービスを売る経済(サービサイジングによる脱物質経済)である。この例として、リース・レンタル、家庭でモノを所有しない外部サービス利用、モノの電子化がある。

 リース・レンタルはモノの所有ではなく、モノの使用というサービスを売っている。Pay per Useは現在、導入されていないが、洗濯機を家庭に置き、それを使用する時に代金を支払うという、住宅内でコインランドリーのような仕組みとして導入実験がなされたことがある。

 外部サービス利用の例としてコインランドリーがある。今日ではコインランドリーを社交場とするビジネスもみられ、古くて新しいサービサイジングである。電子化による脱物質化としては、音楽の電子配信、チケットレス等がある。

 なお、タクシーの配車サービス等を一元的に行なう「シェアエコノミー」は、空いた資源の状況を利用者にお知らせ、その効率的な利用を図るものである。しかし、必要以上に需要を喚起する場合もあり、環境に配慮しているとは言いがたい面もある。

 

(2)脱物質経済化がなぜ進まない

 リサイクル法による拡大生産者責任による仕組みの整備や地方自治体によるごみの有料化の導入が進み、一定の効果を上げている。しかし、脱物質化を進める取組みは大きな流れとなっていない。その理由として、4点をあげる。

 第1に、リサイクルが免罪符となり、それ以上の対策の必要性が求めれにくい。例えば、ペットボトルはリサイクルしているから、あるいは薄肉化といった改善努力をしているか、生産・消費しても許されるという社会通念が形成されていないだろうか。これを「免罪符」問題と呼ぶことにする。

 第2に、リサイクル処理設備等がいったん整備されると、その処理設備の安定稼働が必要となり、処理設備にとっての原材料となる廃棄物の削減が期待されない状況が出てくる。また、2Rをさらに進めるためには、新たな制度や設備を整備するための費用(スイッチングコスト)が必要となる。つまり、リサイクル設備・制度の整備によって、システムが固定化されてしまう。これを「ロックイン」問題と呼ぶことができる。

 第3に、2Rの促進は大量生産・大量消費・大量廃棄という構造を転換させることになる。このため、これまで大量生産によって利益を得てきた事業者やその関係団体等は従来のビジネスモデルを守ろうとする。これを「経路依存」問題と呼ぶ。

 第4に、サービサイジングを担う受け皿となるビジネスが未成熟である。例えば、リユース・リペアの市場は、景気の変動を受けやすく、揺れ動いてきた産業である。景気に左右されるようでは、リユース・リペア産業の安定した発展は見込めない。また、リユース製品等はその品質や安全性を保障する制度や行政支援策が不十分である。これらを、「受け皿」問題と呼ぼう。

 

(3)脱物質経済を進める動き

 脱物質経済の方向に踏み出す新たな動きは、ニッチではあるが進みつつある。例えば、焼酎びんやワインびんの回収・リユースを行う飲料製造事業者、インターネットでのオークションやフリマ-ケット、電気自動車等のリースやシェアリング等である。

 地方自治体やリユース業界では、リユースショップの認定を行うことで、リユース業界への信頼性を高めようとしている。また、京都市ごみ減量推進会議の京都の修理ナビサイト「もっぺん」のように、修理やリメイクやリユースを担う地域のお店紹介が行われている。

 さらに、高度情報化は脱物質化ビジネスを後押しする。既に普及しているインターネットによるオークション等に加えて、IOTによるモノの故障診断やメンテナンスのナビゲーション、使用料に応じた課金システム等の新たなビジネスモデルの普及が考えられる。

 脱物質化による消費者メリットはある。製品等の購入や買換費用の抑制、モノを長く使うことによる愛着の高まり、モノの維持管理を通じたモノの供給者との関係性の構築等である。脱物質化による消費者メリットを、製品・サービスの付加価値として訴求するビジネス革新が期待される。

 

(4)コミュニティ・ビジネスによる脱物質化

 使用者間のモノの交換やサービス主導への転換を図る脱物質経済においては、人と人との関係づくり、すなわち社会関係資本の形成が重要である。

 その例として、NPO法人スペースふうのリユース食器のレンタル事業を記す。スペースふうはもともと、山梨県増穂町で地域活動に取組む主婦の集まりであった。当初は子育てやリサイクルショップ等をなんでもやっていたが、2001年が転機となった。イベントでの使い捨て食器に心を痛めている中、法人代表がドイツではリユース容器が当たり前と知り、啓示を受けて始めたのが「リユース食器のレンタル事業」である。

 この事業は、イベント主催者にイベント時に使用する食器を貸し出し、イベント終了後に汚れたまま食器を回収し、洗浄・殺菌・保管し、リユースを行なうというシステムである。容器と滅菌の乾燥機、作業場等の確保が必要となるが、その資金は地元企業からの寄付、国の助成により調達した。

 やがて、全国からリユース食器の注文が来るようになり、全国各地で同様の事業を行ないたいという団体の視察が来るようになった。全国各地へのリユース食器のトラック輸送は環境負荷となるため、全国各地での拠点づくりとネットワーク化を進めてきた。2005年にリユース食器普及のための全国大会が新潟県で開催された際、リユース食器ネットワークが結成され、各地の取組みをつなげている(2020年現在47団体が参加)。

 この事業はコミュニティ・ビジネスである。コミュニティ・ビジネスとは、地域主体がビジネスの手法で地域課題の解決を図る取組みである(樋口・白井(2010))。コミュニティ・ビジネスの特徴は、「地域の互酬関係に依拠しながら、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)を動員し、事業活動を通じて、地域の問題を解決していくことで、社会関係資本を再生産していくことにある(神原(2005)」。まさに、スペースふうは事業の立ち上げから拡大に至る段階で、大学や企業、行政等との関係をつくり、その支援を得てきており、他方面の社会関係資本を形成しながら事業を成立させてきた。

 脱物質化を図る取組みで事業採算性が確保しにくいとすれば、社会関係資本の形成・活用と一体的となった事業展開が重要である。

 

参考文献:

樋口一清・白井信雄(2010)サステイナブル企業論~社会的役割の拡大と地域環境の革新から、中央経済社

神原理編著(2005)コミュニティ・ビジネスと自治体活性化、白桃書房

 

 


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