korou's Column

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山口百恵の歌唱力

2019-05-17 | J-POP

このところ

中川右介という人の書くノンフィクションに

ハマっている。

 

数年前に読んだ「松田聖子と中森明菜」などは

今までに読んだこの種の本のなかでは

最も面白い本だった。

 

今回、その「松田聖子と中森明菜」の前篇にあたる

「山口百恵」という本を図書館で借りて読んでみた。

すでに読み終わったのだが

今年読んだ本の中では一番面白かった。

 

この本のおかげで

今までもいろいろと聴いてきたはずの

山口百恵のヒットシングル曲について

より細かなニュアンスを知ることができた。

そのことは

自分にとっては結構新鮮な驚きだった。

 

☆☆☆

 

山口百恵の歌唱力については

アイドル歌手としてのデビューでもあり

あまり注目もされていなかったのは事実だろう。

声質に特徴があるわけでもなく

声量も今一つ。

サビでの声の伸びも地声のままで

聴き心地が良いとはお世辞にも言えなかった。

 

そんな状態だったのに

歌唱力が突然開花した決定的瞬間があって

それが1974年の夏・・・

ということを今回初めて知った。

 

まず開花前のシングル曲。

1975年6月10日発売の「夏ひらく青春」

夏ひらく青春

 

歌唱力開花後のシングル曲が

1975年9月21日発売の「ささやかな欲望」

ささやかな欲望

 

 

ごく普通に歌っていた「夏ひらく青春」に比べて

曲調が全然違うとはいえ

「ささやかな欲望」での感情の込め方は尋常ではない。

アイドル歌手の領域を超えている。

「たったこの2、3か月で、彼女に一体何があったんだ?」

と思わずレコーディングディレクターが驚愕したというエピソードも

十分頷ける。

 

しかし、次のシングル曲「白い約束」では

この「ささやかな欲望」で見せた過剰なまでの感情移入は消え去り

以前までのあっさりとした歌唱に戻っている。

とはいえ、よくよく聴いてみると

曲の急所で絶妙のニュアンスが込められるようになっていて

ある意味職人的なタッチの歌唱に進化しているのが分かる。

 

リアルタイムで山口百恵の曲と出会っていた当時の自分は

この「白い約束」を聴いて

初めて彼女の歌唱力について思いを馳せた記憶がある。

この人は案外歌が上手いんじゃないかと。

実際には、その1つ前の曲から進化していたのだ。

 

☆☆☆

 

「横須賀ストーリー」(1976.6.21発売)についても

著者の中川氏は

皆知っている歌詞だろうけどあえて記してみる、と前置きして

その素晴らしさを分析している。

まず印象的なイントロについて

これは編曲の荻田光雄の優れた仕事と紹介。

それから、いきなり「これっきり」を繰り返す意外な始まり方。

横須賀を舞台にした歌であるはずなのに

横須賀らしい風景を具体的に示した言葉は一つもない歌詞というのも

特徴的で

そのことが意味することを

中川さんは詳しく説明していく。

そうした分析を読んだうえで

あらためて「横須賀ストーリー」を聴き直すと

本当に優れた楽曲に思えてきた。

 

横須賀ストーリー

 

☆☆☆

 

最後は「プレイバックPart2」(1978.5.1発売)について。

ふだんから歌詞をいい加減に聴いているせいで

この曲についても

本当はどういう歌詞なのかということについて

今までじっくりと考えたことがなかった。

今回、初めてその意味を知った(我ながら遅すぎる!)

 

車を運転しているときの2つの場面で

それぞれ「ある言葉」に気づき

その「ある言葉」が自分の恋愛の特定のシーンを

”プレイバック”させたというのが

この曲の歌詞である。

 

それゆえに

車のミラーをこすったときの

「馬鹿にしないでよ そっちのせいよ」の歌詞の歌い方と

恋人との会話のなかで言った

「馬鹿にしないでよ そっちのせいよ」の歌詞の歌い方とでは

ニュアンスを変えて歌う必要があるのだという指摘。

阿木燿子は、そのあたりを

あえて山口百恵の歌手としての表現力に委ね

百恵さんは、何も指示されなくても

そのあたりをしっかりと表現した。

歌詞の一番最後は「あなたのもとへ Play Back」なので

この歌の女性は

馬鹿にしないでよ、と強めに言ってはみても

結局は彼氏とは別れたりはしないのである。

そのニュアンスは

「そっちのせいよ」の歌い方で伝わっってくる。

ミラーをこすった相手には強気のままだが

恋人には強気のままでは居られないのである。

 

山口百恵 (Yamaguchi Momoe)プレイバックPart2

(注:約2分頃から曲開始)

 

ここまで見事に歌い分けていたとは

この曲がリアルタイムに流行っていたときには気付かなかった。

彼女は、歌手活動と女優活動を一体として考えていたらしいが

まさに歌の世界の中で「演技」をしているかのようである。

もはや歌唱力などという基準を超越していると思う。

 

声質も「演技力」込みで

ちょうどいい具合に「強い女性」バージョンに仕上げてきている。

この声質のなかで

細かいニュアンスを込めることができたので

もはや他の歌手のカヴァーなどを許さない独自の世界が

展開できているのだ。

この曲のカヴァーだけは

今のところ誰も成功していないように思える。

 

今日の記事のタイトルは

「山口百恵の歌唱力」としてみたが

最後は「歌唱力」を超えた話になってしまった。

本当に彼女は前人未踏のアイドルです。

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