仙台POSSE(NPO法人POSSE仙台支部)活動報告

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「被災遺児」世帯と「震災遺児」世帯から見えてくる福祉の不在

2012-12-22 16:04:29 | 記事

政どこへ-被災地は問う(5)被災遺児/支援の谷間、負担増
 8年前、一念発起して購入したマンションが東日本大震災で大規模半壊になった。
 仙台市泉区の神山道子さん(50)=仮名=は私立高校3年の長女(17)と2人で修繕を終えたマンションで暮らす。
 2001年、体調を崩した夫=当時(53)=と死別した。今は独立する長男(19)はまだ小学1年生、長女は幼稚園児だった。「一人で育てなくては…。子どもに惨めな思いだけはさせたくない」。外資系企業に職を得た。
 仙台市役所に母子家庭への公的支援などを相談した。「子どものため、手元に資産を残したほうがいい」と助言された。
 マンションの価格は2600万円。月8万円の32年ローンを組んだ。
 夜遅くまでの勤務、仕事をしながらの家事、育児…。06年、体に不調を来し、転職を余儀なくされた。身分は正社員から契約社員に。年収は100万円以上減った。住宅ローンがのしかかる。

 民主党政権は10年、中学生以下の「子ども手当」と「公立高校の授業料無償化」を始めた。
 その年、神山さんの長女は資格取得を目指し仙台市の私立高校に入学していて、手当の恩恵には預かれなかった。長男も私立高校に通っていた。
 私立高校生には就学支援金が支給された。しかし、2人が通う高校の授業料には足りない。
 授業料ばかりが教育費ではない。入学金、制服代、教科書代…。給料と遺族基礎年金だけではやりくりできず、遺児を支援する「あしなが育英会」の奨学金と国の教育ローンを借りた。
 子ども手当や高校無償化と引き換えに、16歳未満の子どもがいる世帯の税を軽減する「年少扶養控除」が廃止され、16~18歳の「特定扶養控除」も縮小された。子育て世帯には実質的に「増税」となった。
 民主党の目玉政策だった子ども手当も中途半端に終わった。月2万6000円の約束は実現できず、1万3000円を支給したが、支給額を引き下げて所得制限を導入。名称も以前の「児童手当」に戻った。

 神山さんには不公平感も残る。大震災以降、震災遺児には民間団体や企業が次々と支援制度を打ち出した。
 「親を失ったことは同じなのに、親の亡くし方でこんなに差が出るなんて…」。もともと遺児だった「被災遺児」は、支援制度の谷間に落ちてしまった。
 長女は来春から、首都圏の大学への進学が決まった。授業料は被災者援助で2年間は半額だが、3年生から全額の90万円がいる。生活費などの仕送りも必要だ。
 「お金、大丈夫?」「奨学金をもっと借りようか」。申し訳なさそうに切り出す長女の言葉に心が痛む。
 9月、マンションを売りに出した。「奨学金など娘の将来の負担をできるだけ少なくしたい。わが家を失うのはつらいけれど、手放す決心をしました」
 消費税の増税が控える。暮らしはますます苦しくなる。テレビに映る政治家たちが、遠い存在に見える。(門田一徳)


河北新報(2012年12月11日)

 被災後、支援の谷間に落ち込んでしまった「被災遺児」世帯の経済的に苦しい現状を描いた記事です。震災前から、経済的な安定を得るために夜遅くの勤務と帰宅後の家事・育児に追われ、体調を崩すまでにいたってしまうというエピソードが特に印象的です。福祉の不在が、こうした働き方に母子家庭を追い込んでいるということがよくわかります。また、子どもに高等教育を受けさせるにも奨学ローンを組まなければならなかったということは、母子世帯、ひいては社会全体の教育を支える福祉があまりに脆弱だということです。震災以前からの貧困が、震災後の支援の手厚い震災遺児世帯と「被災遺児」世帯との差という形で現れたと言えます。

 しかし一方で、いくつも支援制度が用意された震災遺児の世帯でも、経済的に苦しいという現状があります。

震災で母子家庭4割家計赤字 訴え切実 あしなが育英会調査

 東日本大震災で父親を失い、母子家庭になった世帯のうち約4割の家計が赤字であることが10日、あしなが育英会(東京)による衆院選(16日投開票)前の緊急アンケートで分かった。病気で仕事もできず、生活苦を訴える切実な記述もあった。
 11月の家計の質問では「赤字だった」が39.1%に上った。「赤字ではなかった」は47.3%だった。
 被災地の復興に関する意見・要望では「リウマチと目の病気で仕事もできない」「健康状態の悪い私に何かあったら子どもたちはどうなるのか」と不安を訴える声が寄せられた。「働かないといけないが、休日や夜間に子どもを預ける施設が少なすぎる」といった意見もあった。
 衆院選で関心のある項目(三つ選択)は「震災復興」が25.5%で最も高く「社会保障」(13.5%)「消費税」(11.8%)の順だった。
 教育費は24.5%が「不足」と回答。消費税増税は76.6%が「反対」、原発利用は79.3%が「反対」だった。
 小河光治奨学課長は「遺児の母親は、復興から取り残されているという気持ちや、見えない将来への不安を抱えている」と分析する。
 調査は11月末、震災で父親を失った母子世帯に往復はがきを郵送して実施し、184人が返答した。回答率は32.3%。

河北新報(2012年12月11日)


 決して、まだ人々の生活の復興は終わっていないことがよくわかる記事です。被災地は復興したのだから、これからは就労して支援から脱し、「自立」していかなければならないという論調もあるなかで、震災遺児世帯の声はやはり福祉の必要性を訴えています。復興を求める声でも、「病気で働けない」「働くにも子どもを預ける施設が少なすぎる」など就労につながらない要因に福祉の不在が現れています。単純に雇用を創出して、意欲を喚起さえすれば「自立」できるわけではないのです。

 これから支援の撤退や援助制度の期限切れにより、震災遺児の世帯に限らず被災者は理不尽な就労へと追い立てられることが予想されます。何もアクションがなければ、たとえ病気で働けなくても、生活が成り立たないのは「自己責任」とされてしまい、福祉の不十分さについては議論されないままになってしまうでしょう。仙台POSSEではこれからも、そこに確かにある福祉の不在を、就労支援などの取り組みを通じて問題化していきたいと思います。



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仙台POSSEでは、この度の東日本大震災における被災者支援・復興支援ボランティアを募集しています。ボランティアに参加したいという方は、下記までお問い合わせください。

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