【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ3-396 「自転車」

2007-04-19 | 予備校ss

396 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/19(木) 03:47:05 ID:XRVRbRP5
自転車


 夏場の自転車というものはこれはコレで結構な全身運動である。
特に推定50kg前後の荷物を荷台に載せている場合には。
「なるほど、身体が鍛えられて結構なことじゃあないか、くつくつ」
 荷物が日向の猫のような音を立てて笑った。
「もちろん、キミが僕を乗せるのがイヤだというのなら、話は別だ。
そうなら、そのように告げてくれたまえ。キミとの会話の機会が減るのはまったく残念なことだが、
友人を過剰に苦しめてまで、自分の快楽を優先するほど、僕は歪んだ感性を持ち合わせては
いないつもりさ」
 なに別に、この程度どうってことはない。
「そうかい」
 背中ごしにも、皮肉を混ぜた微笑を浮かべているのが、目に浮かぶ。
 たしかに、そんな風に本気で言えるなら、もう少し、ましな人間になっているだろうさ。
だが、お前を乗せて走ることが自堕落な夏休み生活に於いて、いいアクセントになっている
のは否めない事実だ。
 この夏期講習だって、お前がこなけりゃ2~3回はサボったに違いないからな。
「確かに、サボタージュはいただけないな。キミのために決して安くはない講習の代金を
払っている親御さんに失礼というものだ。キミの勉強に僕が些少でも役に立っているの
だとしたら、嬉しい限りだ」
 佐々木はそう言って、咽奥を鳴らした。
 そのセリフにはリアクションを取らずに、気合いを入れて、ペダルを踏み込む。駅前から
塾まではなだらかではある物の坂道だ。ここで、立ち漕ぎせずに登り切れるかどうか、
それが俺がこの夏にかけた勝負のひとつだった。今日は、どうだ?

「キョン、今日もありがとう」
 そう言って、佐々木は荷台から降りた。俺はと言えば、ちょっと息が切れていた。まったく情けない。
機械のように自動的に、自転車を駐輪場に回して、カギをかける。学習塾の入り口に戻ると、佐々木
がまだ立っていた。
 どうした、誰か待ってるのか。
 佐々木は返事の代わりに、口をアヒルのように曲げて右手を俺の頬に当てた。

「キミのささやかな勝利に」

 佐々木の手に握られたスポーツドリンクの缶が俺の頬を冷やしていた。