【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

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佐々木スレ3-826 「喫茶店」

2007-04-23 | 予備校ss

826 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/04/23(月) 02:38:29 ID:YOqyZvJN

「喫茶店」

「そうだな、たまには僕に付き合いたまえよ」
 そう言って、俺が佐々木に連れられていったのは、洒落た雰囲気の喫茶店だった。
もとより、時間つぶしに喫茶店に入るという概念を持っていなかった俺にとって、
そこは異空間であり、多少居心地の悪い場所だった。
 まぁ慣れればどうということもないのだが。
「しかし、こういう時間はなんとも手持ちぶさたなものだね」
 慣れた調子で、ブレンドのカップを傾けながら、佐々木はそうつぶやいた。
 同意を込めて頷く。
 半ドンに終わった土曜日、いつもであれば帰宅して身支度して十分に間に合う塾の
始業時間であったが、今日はなにやら特別授業とやらで、いつもより早くなっていた。
 よって、俺たちは帰宅せずに、一緒に昼食を取ってから、塾に向かうという予定を
組んだのだった。昼食を取る場所について、特になんの当てもなかった俺は、佐々木に
誘われるままに駅近くの喫茶店に入ったというわけだ。
「なぁ、キョン。キミに夢はあるか」
 唐突に佐々木はそんなことを聞いてきた。こんな質問をする佐々木の意図を汲んで
みようかと、数瞬考えてみたが、こいつの思考を俺がトレースすることなど不可能であ
ると、俺の思考中枢は答えた。
 アイスコーヒーに入っていた氷をかみ砕きながら、ないと答える。
「寂しいことを言うね、キョン。キミもまた高校、大学をモラトリアムとして過ごしたいということかな」
 そうか? たった14で、将来の進路や計画までかっちりとしている方がおかしいだろ。
そして、プロ野球選手とかJリーガーなどと可愛く答えるにはお互い年を食いすぎた。
「違いない。まぁ、僕にだってはっきりとした将来のヴィジョンなんかない、確かにね。
僕らは高校の三年間で、それを見つけられるだろうか」
 佐々木の告白を前に、俺は将来に対する漠然とした不安をこいつも感じるのだな、
そんな風なことを考えていた。言い方が難しいが、佐々木は一種の超人だった。クラス内のあらゆる
関係の中に、佐々木は所属していなかった。だが、孤立していたり、いじめられているわけではない。
そういう世俗的なものは佐々木には関係なかったのだ。あらゆる科目で平均以上の結果を出し、
かつトップに立つこともなく、他人に分かる程度には努力もしていた。整った顔立ちと綺麗な体つきを
しているが、その一種奇矯な振る舞いによって男子生徒からは恋愛や性愛の対象とは捉えられてい
なかった。
「や、すまない。キミは予言者や占い師ではないのだから、そんなことを聞いても意味はなかったな」
 俺の沈黙を否定と捉えたのだろう。佐々木はそういって、俺の返答を打ち切った。
 慌てて、そんなのは自分次第だ、そんなどうとでも取れるような返答をした覚えがある。
「自分次第か……僕にとってもっとも難しい答えだな、それは」
 またしても意味深な返答だ。
 佐々木との会話はしばしば、このような禅問答もどきと化す。こいつとの会話には当たり障りのない
日常会話というものがない。俺は佐々木のそんなところも気に入っていた。
 佐々木がそんな俺を見上げ、片眉を上げてたしなめた。
「キョン、僕は真面目に言っているんだよ、そういう態度はよくないぞ」
 悪い悪い、でも、なんだ、お前みたいに個性的なヤツなら、ちゃんと見つけられるさ。
「個性的? 僕がかい? くつくつ、それは買いかぶりというものだ、キョン」
 佐々木はそういって咽奥から生まれる奇妙な笑い声を上げた。
 お前は何を個性だと思うんだ? お前がユニークでなかったら、俺なんかどうなってしまうんだ。
自慢じゃないが、俺は自分が平凡な存在であることには自信があるぞ。


827 :喫茶店2/2:2007/04/23(月) 02:41:38 ID:YOqyZvJN
「キミが見ている僕なんて作られたペルソナに他ならない。この“僕”はキミとふれあうために
生まれた存在だ」
 このように、佐々木との暇つぶしの会話は訳の分からない展開を見せる。
今日は何の話をしてくれるんだ? ん? それはともかく、ペルソナって何だ? あれか、
スタンドみたいなヤツか?
「いいやそんなマンガ的超能力的ゲーム的なものじゃあない。心理学の用語だったと思うよ。
ペルソナとは、仮面という意味さ、人間は関係性に合わせて仮面を被ってコミュニケーション
をする。ほら、他人と家族の前では多少なりとも振る舞いが違う人間を見たことがあるだろう? 
内弁慶とかそういうヤツさ」
 軽く頷く。
「成長して他者との関係が複雑化すればするほど、ペルソナの数は増える。たとえば、学校
での僕らを考えてみよう。男子に対するペルソナ、女子に対するペルソナ、級友に対するペル
ソナ、親しい友人に対するペルソナ、他のクラスの人間に対するペルソナ、教師に対するペル
ソナ、部活動をやっているものなら後輩に対するペルソナなんてのも生まれるだろうな」
 関係の数=ペルソナの数ということだな。
 それじゃあ、お前はこれまで俺に本心を見せたことなどない、と?
「くつくつ、そういう意味じゃあない。嘘をついているわけじゃあないのだ。キミだって、妹さん
には話せないこと、見せたくない物があるだろう。それは嘘なのかな?」
 すべては関係性の中に生まれた演じ分けということか。
「そうだよ。僕らは望むと望まざるとに関わらず、仮面を被り続けているのだ」
 ふうむ、まったく人間同士の関係というのはかくも難しいものなのだ、といいたいわけだな。
 俺の感想に対して、佐々木は静かに頷き返すと、
「それは僕にとってもっとも重大な悩みであり続けているよ」
 俺から視線を外して、そうつぶやいた。なんだ、深刻な悩みでもあるのだろうか。
 まぁ、その気持ちはわからんでもない。
「だろうね、同じ年で、同じようなストレスに日々晒され続けている僕らはその気分を共有
できるはずさ。ところで、話は唐突にかわるのだけれど、キミは大学に進学するつもりかい」
 とりあえずは、そのつもりだ、そう返答する。本音を言うと大学のことなぞ考えてはいなかったが、
高卒で就職しようとも考えてもいるわけではなかった。
「そうか、なら僕と同じだね。ねぇ、キョン。高校を卒業して大学が近いようなら、ルームシェアをしないか?」
 佐々木は視線を外しながら、そんなことを言った。 は?
「なに、キミが東京、あるいは京都か大阪の大学に入学すると仮定しての話さ」
 まぁ行くならその辺りの大学だろうなぁ。
「僕もそんな風に漠然と進路を捉えている。おそらく、ひとり暮らしをすることになるだろう。
それに憧れがないでもないしね」
 ところで、どうして俺は同棲を申し込まれているんだ?
「ひとりよりふたりの方がよい部屋を探せるじゃないか。それから、僕が申し込んだのはルームシェア
なのであって、恋愛関係にある男女が一緒に暮らすのとは違うよ」
 そういうもんなのか?
「そういうもんなのさ。まぁ、キミがそっちの方がよいというのなら、キミとの関係を僕は一から考え直
さなければならない訳なのだが」
 ふぅむ、腕を組んでしばし思案する。悪くはない。素直にそう思えたので、そう答える。
「そう言って貰えると嬉しいよ。勉学を続ける励みになるというものだ」
 なんでだ? ルームシェアすることと勉強の励みになることの関連性が俺には見えないぞ。
「そりゃ、学力が高ければ、進学を希望できる大学が増えるじゃないか、キミ、あるいは僕が
どこにある大学を志望するかは今の段階では未知数だからね」
 そういうもんか。納得はできなかったが、佐々木との会話が意味不明で終わるのはそれなりに
多かったので、まったく気には止めなかった。
「ん、もうほどよい時間だね、塾へ向かおうじゃないか」
 立ち上がり、伝票に手を伸ばす。さっと、それは佐々木によって遮られる。
「ここは僕がおごるよ、身支度を調えてくるから、キミは先に向かってくれたまえ」
 おごってくれるというなら、否やはない。俺は鞄を手に喫茶店を出た。出がけに手洗いの
方面から嬌声が聞こえたような気もするが、それもまた、どうでもいいことだ。
 喫茶店の外は2月の寒風、俺はアイスコーヒーを頼んだことを少々後悔していた。


1 コメント

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こんにちは (ともべえママ)
2007-04-23 08:39:08
はじめまして^^

突然のコメント失礼いたします。

私の子育てサイトで、
こちらの記事を紹介させていただきましたので
ご連絡させていただきました。

該当記事は
http://satobeejp2000.blog101.fc2.com/blog-entry-55.html

これからもよろしくお願いいたします^^
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