【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ9-512 自習室の彼女

2007-06-18 | その他中学時代ss

512 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/26(土) 02:33:28 ID:JTXXjDxr
――偶然だった。
その時たまたま通りかかっただけの、たまたま覗き込んだだけの自習室だった。
机に伏して眠っている彼女が、ただ独りそこに居た。

同じ教室の中の女子連中の中で、彼女は際立って輝いていた。
同室男子の受講生で彼女の事を誰もが狙っていた。何も容姿がずば抜けているってだけじゃない。
講師からの質問にもエレガントと言える受け答えをし、模試の成績はいつも上位。
知識をてらう様な持って回った喋り方も彼女の学才の深さを感じさせて魅力的だ。
そして――目映いばかりの彼女の笑顔。きっとアイツにしか見せない、極上のスマイル。
あの笑顔を向けられたら、僕はどうなってしまうのだろう。
死んでもいいとさえ思ってしまうかもしれない。
しかし、そんな事は僕が模試の成績で彼女の上位に付ける事くらい、有り得ないのだ。
アイツが一緒に居る限りは。

――今、アイツは居ない。アイツ以外の誰かも居ない。
居るのは彼女と僕だけだ。
彼女はどうやら本格的に寝入っているようだった。可愛らしい寝息が僕の耳にも伝わる。
今なら、彼女の傍に寄っても――いや、そんな事。卑怯だ。考えるまでも無い。
でも――今しか。きっとこの機会しか――
気が付けば彼女の寝顔が目の前にあった。何か寝言を呟いていたが、よく聞き取れなかった。
ああ――なんて可愛いんだろう。
きっと今なら誰も気付かない。彼女自身も――

「よ」
突然肩を叩かれて、心臓が胸を突き破って飛び出すのではないかと言うくらいに驚いた。
息ができない。呼吸ってのは一体どうやればいいんだったっけ――
振り返った先に、困ったように頭を掻いているアイツが居た。
彼女に『キョン』と呼ばれてるアイツが。
なんて事だ、よりにもよって――
「――悪いな、寝かしといてやってくれよ。いつも遅くまで根詰めてるみたいだからさ」
「――え? あ、ああ……」
アイツを睨み付けようと顔面の筋肉が動くか動かないかのところでそんな風に言われた。
――怒らないのかよ?
毒気を抜かれるとは正にこの事だ。途端に自分の卑劣な行為を自覚し、嫌悪感に駆られる。
「……悪かった。じゃあな」
「おう」
敵う筈も無い――どうしたらあんなに優しい目をして彼女を見つめられるんだろう?


「ん……キョン?」
目覚めたばかりの眼を擦りながら佐々木が起き上がる。
やれやれ、寝ぼすけ姫様の御起床か。
「悪かったな、講師の野郎が中々離してくれなくてさ。すっかり遅くなっちまった」
「キミの性格の問題だろう、因果応報だよ。磨けば光る原石が掌中にありながらも、
 その原石自体は磨かれる気も光る気も無いのだからね。講師殿方のやるせない気持ちも
 僕にも判らないでもない」
ほっとけよ、身分不相応な事はしない主義なのさ、俺は。
「――そう言やさ。眠り姫の童話ってあるじゃねえか」
「スリーピングビューティとか白雪姫の事かい?」
うむ、まあその辺だ。
「あの姫さんって、きっと口が臭かったから長い事誰からもキスされなかったんだぜ。
 きっとそうに違いねえよ」
――この直後に無言の佐々木に張り飛ばされる事を、俺は身をもって知る事となる。

---

>>472を見て発作的に思いついた。通りすがりがちょっと病んでる感だけど中坊と言う事で御容赦
と言うか>>472GJだよ>>472。駄文で申し訳ない

佐々木スレ9-471~ 小ネタ×11

2007-06-18 | その他

471 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/25(金) 22:18:47 ID:V1jE9XxM
「キョン、待ってくれ!キミに伝えられなかった唯一のこと、
 、、僕はキミが好きなんだ!!」
 
「佐々木・・・ハルヒに言わされたのか?」




690 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/27(日) 15:15:49 ID:htMyQZzz
佐々木「橘さんがみんなで買い物に行こうと言うんだ。男手が欲しくてね、付き合ってはくれまいだろうか?」
藤原「断る。なんで僕が」
佐々木「お願い、この通りだ」
藤原「くどいぞ、僕はあんたたちのおちゃらけに付き合ってるほど暇じゃないんだ」
佐々木「お願いだよマスター…」
藤原「うっ…」

橘「佐々木さんいったいどんな方法を使ったのですか?」
佐々木「ヒミツだよ、それよりお昼にしようか。今日は藤原くんが奢ってくれるみたいだし」


691 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/27(日) 15:29:10 ID:oFwsuF6K
パンジーがパシリ役なのかw




748 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 00:30:08 ID:r6IpZJwG
橘「佐々木さん!駅前に美味しそうなお店を見つけたの。お昼はそこにしません?」
佐々木「ああ、橘さんの見つけるお店はいい店ばかりだからね」

キョン「最近橘は佐々木を神様だとか言わなくなったな」
古泉「ただ彼女は友達が欲しかったのでしょう」

みたいな展開にならないかな
佐々木ハルヒの血みどろの戦いなんて見たくないよね
このままずっと驚愕が延期になって毎日あれやこれやみんなと考えてたいなぁ


749 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 00:36:46 ID:NPU6qcNT
>>748
佐々木シンドロームだな

まあ俺もだが…


750 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 00:38:14 ID:r6IpZJwG
正式な病気だったとはwww




795 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 18:12:19 ID:r6IpZJwG
佐々木「橘さん、藤原くんをBL萌えの一貫としてキョンと絡ませてみたいのだがどう思うかな?」
橘「あ、いいですねそれ!」
佐々木「と言うことだ、さぁ藤原くん!観念してバニー姿になりたまえっ!!」
藤原「パ、パンツだけはやめてくれ!」


796 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 18:14:12 ID:qQ4QICya
 いや、ここは科学部だろ白衣とメガネONの褐藻類コンブ目コンブ属を含めた近縁の海ERROR:本文が長すぎます


798 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 18:22:04 ID:r6IpZJwG
陰謀でさらわれる藤原
パンジー「た、助けてくれーっ!」

キョン「ふ、ふじわらーーっ!まいいや」




812 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 20:57:25 ID:Arhe42pP
思ったんだけどもし最初から佐々木団のメンバーで話を進めたら雪山のときどうなるんだ?


813 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 20:59:30 ID:BjS1BlUe
>>812
橘がオイラーの多面体定理?だったかを知ってるか否かで話が終わるって例を前に原作スレかどこかで見たw


814 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 21:08:25 ID:i/JPu4yN
>>812
キョンと橘が首をひねってるところへ、後から来た佐々木が答えを出すんだろ。
「例えば、先ほどの僕たちにこれを適用するとこのようになる」とか言って。

佐々木かわいいよ佐々木




870 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 00:07:25 ID:vmGFSruL
「ぬぅ…これが世に聞く『降帝娑鎖鬼(ぷりてぃささき)』…」
「何っ!? 知っているのか雷○!?」
「うむ。時は戦国、三国が大陸の覇権を握ろうと戦に明け暮れていた時代…、
 その知略と人脈から各国の頭からも恐れられたという女傑よ。
 人語を解する三毛猫を使い魔とし、
 全身が黒曜の様な妖術の使い手、幻術を扱う快活な軍師、
 未来を見通す占い師と共に、大陸全土を駆け巡ったという伝説が残っている。
 一説によると、山の上の隠者に心を奪われ、歴史の闇に消え去ったと聞いていたが…」

そんなプリテイササッキー日曜八時半から絶賛放映中GJ!!




888 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 03:21:38 ID:nmoCeBkG
フラグを100回折ると丁寧語になります。
「初めてですよわたしをここまでコケにしてくれたオバカさんは」


889 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 03:33:33 ID:7agCJimB
>>888
「処女とは女性の強み。そして佐々木さんはまだ前後二つの処女を持っている。
 あなたならこの意味……解りますよね?」
「いや、ちょ、た、橘さん!? 前後ってあなた一体何の話をしてるの!?」


890 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 03:41:53 ID:BhhJlcrS
佐々木「私の戦闘力は53万です」


891 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 03:57:47 ID:wPK8iTvp
えーと、こう言えばいのか?

キョン「●のことかー!」


892 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 04:05:27 ID:BPsIluKQ
「折られてしまったフラグたちのこと、時々でいいから、思い出してください……」




893 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 04:11:10 ID:nmoCeBkG
超短いSSを思いついた。



「キョン、ちょっと耳を貸したまえ」
「なんだよ」

ちゅっ

「……は!?」
「あ、すまない間違えた。実は……」

その後なにを言われたのか、もちろん覚えていない。




842 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 23:28:53 ID:dzK+2wSY
ふと思ったんだが、佐々木はハルヒと対極の存在
なんだから、ひょっとして歌がジャ○アン並みに
下手なのかも。


846 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/28(月) 23:33:28 ID:aCZraACM
>>842
そんなとこまで対極じゃないだろw
歌は上手いと思うよ
でも音痴でもかわいいな


896 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 08:14:53 ID:vvSYhOji
>>846
以前、SOS団に対抗して佐々木団がバンドを結成し練習もそこそこに北高文化祭に乗り込むのだがこれまで勉学一筋だった佐々木が実は超絶音痴でキレた九曜がマイクを奪い超デス声低周波を発して北高校舎ごと地に沈めるという怪電波を受信したが未だに何も書けない。


897 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 10:28:06 ID:7agCJimB
「────デスメタル……死金属────卑金属・貴金属?」
「違うよ九曜さん。まあ歌詞とかは確かに死ぬとか多いけどね」
「そう────」


「────コンコン……コンコン──釘を……さす────」
「ごめん。オリジナルより怖いわ、それ」




922 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 19:30:50 ID:KBCTjjDf
佐々木「キョン、僕はしょせん産む機械だからね」
キョン「・・・いきなりどうしたんだ」
佐々木「ただ、原材料の供給が無いとただの箱にすぎないんだ、くっくっ」
キョン「お前は何を言ってるんだ、俺はいわゆるフェミニストではないが、女性を卑下したような表現はどうかと思うぞ?」
佐々木「・・・・・(まあ、今のは僕が悪いな)」



927 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/29(火) 20:22:58 ID:V8mYYjIz
●&○ >佐々木さんは彼に恋愛感情なんて抱いていませんよ?彼女は同性愛者ですからね…
● >佐々木さんは、彼が美少年と裸で抱き合うような漫画を隠し持っているようですね。なかなか素晴らしい趣味をしていると
    しか言いようがありません。
○ >違いますよー。佐々木さんは「京子ちゃん、愛しているよ」「あ~ん、私もですよ。お姉さま~?」な方なんですよ。
● >なるほど、つまりこの件に関しては私は貴方と共闘するべきだということですね、分かりました。
●&○ >ふんもっふ!!

佐々木スレ9-418 「流星に何を願う」 (3)

2007-06-18 | その他佐々木×キョン

418 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:23:30 ID:EXhSwFIf
投下します。キョン子×佐々男モノ。途中微エロあり注意。
続き物なので先に前編を読んでください。


419 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:24:32 ID:EXhSwFIf


        5


 お盆は毎年、家族総出でお祖父ちゃんの家に帰省するのが慣わしだった。
 帰省とは言っても、俺が生まれたのは両親が今の家に引っ越してからのことだから、正
確に言えば間違ってる。
 お祖父ちゃんの田舎は山奥にあった。
 今年は佐々木のおかげで宿題もさっさと終わらしちまったし、さすがの母さんもわざわ
ざ田舎に来てまで受験勉強に精を出せとは言い出さなかった。それどころか『あまり根を
詰め過ぎても良くないから、お盆の間くらいはゆっくり羽根を伸ばしなさい』なんて言い
出すもんだから一体どういう風の吹き回しだろうと思っていたんだけど、母さんからして
みたらどういう風の吹き回しだか知れなかったのは七月中に宿題を終わらせるなんて前代
未聞の偉業を成し遂げた俺の方に違いない。
 そんなわけで、お祖父ちゃんち滞在中は晴れて勉強から解放されることになった。
 でもなあ、このド田舎ときたら、ろくなレジャー施設やショッピングモールも無いんだ。
中学三年生女子が暇を潰すにはいささか退屈過ぎる。俺は勉強なんか大っ嫌いだけど、こ
の退屈を紛らわすことができるものならそれすらも恋しいと思った。
 近くには川が流れていて、確かに小さい頃はそこで遊んだこともあったけど、さすがに
この歳になって川原で水遊びは無いぜ。あーあ、せめてお祖父ちゃんちが山じゃなく海の
近くだったならまだ良かったのに。
 なんてことを、小さめの岩に腰掛けて、賽の河原でもないのに小石を積み上げつつ、地
元の子供に混じって遊ぶ弟とそれを見守る母さんを眺めながら考えていた。
 何とはなしに立ち上がって歩き出す。何処へ行くわけじゃない。ただ、座っていても暇
だったんだ。歩いて暇が解消されるかと言えば、そうも思えなかったけど。
 上流の方で、釣り糸を垂らしてる人を見つけた。
 釣りイコール年寄りの趣味っていう先入観から、釣り人はてっきり地元のおじさんだと
思って近付いたら違った。
 釣り人はまだ青年だった。ひょろりと痩せて背が高い。高校生?
「こんにちは」
 おずおずと話しかける俺にじろりと一瞥をくれると、男は無愛想な声で返事をした。
「こんにちは」
「何してるんですか?」
「見りゃわかるだろ。釣りだよ」
「釣れる?」
「全然」
「何を狙ってるの?」
「別に。何か釣れりゃいい」
 男はあからさまに面倒臭そうにしながら、それでも返事はしてくれた。
「お前、何処から来た?」
 初めて男のほうから質問した。俺は自分の住む県と市の名前を教えた。
「都会か」
「う~ん、都会と言われればそんな気もするし、でもそれほどでもないような……まあ、
ここよりかは都会ってくらいかな」
「そう」
 自分から訊いたくせに、男の返事は素っ気無かった。


420 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:25:30 ID:EXhSwFIf
「あなた、名前はなんていうの?」
「ジョン・スミス」
「……外人? ハーフ?」
 初めて男の表情が変化を見せた。必死に笑いを堪え続けた後、とうとう堪えきれなくな
って吹き出して大笑いした。
「あっはっは! まさか真顔でそんなことを訊き返されるとは思わなかったよ。俺が外人
に見えるか?」
 男は息絶え絶えになりながら、なんとか呼吸を整えなおして言った。
「お前の名前は?」
「君はジョンだよね?」
「え? ああ」
「じゃあ、ケイトだと思って」
 男はまた笑い出した。俺も一緒になって笑った。
 その時、母さんが俺を探している声が聞こえた。
「ごめん、行かなきゃ」
「ああ。じゃあな、ケイト」
 男は出会った時とは180度違う笑顔で、西洋風の『バイバイ』の仕草をして見せた。
「クスッ、バイバイ、ジョン」
 俺も同じ仕草で返した。

 お盆だと言うことで、夜はお祖父ちゃんの兄弟やら父さんの兄弟やら、要するに親戚一
同が集まって賑やかな宴会になった。
 だけど、年寄りの寄り合い話に俺の入り込む余地は無い。話の矛先が俺に向きながら、
それでも俺は黙って箸を口に運ぶ以外無かった。
「もう中学三年生になったかい。それじゃあ高校受験で大変だな」
「そうなんですよ。この子ったら勉強嫌いだからどうなることかと思ってたんですけど、
でも最近は真面目にやってるから安心したわ。なんでも塾で仲の良い男の子が出来たらし
くて、一緒によく勉強してるみたい」
「へえ、男が! いやいや、もうそんな年頃かね。わしが肩車してやったのもついこの間
だと思ったけんど。それじゃああれだな、しっかり勉強して彼氏と一緒の高校行けるよう
に頑張らねえとな」
 全く何を言ってるのかわからない。なんで俺が佐々木と進路を同じくしなきゃいけない
んだ? 佐々木とはそんなんじゃないんだ。そんなんじゃないし、もし仮に本当にそんな
んだとしたら、この場でそんなことを平然と暴露してのける母さんの神経を疑う。
「おい、うまくねえか?」
 一瞬何のことを言ってるのかわからかった。料理のことを指してるのだと気付くのにし
ばらくかかった。
「あー、いや、おいしい……です」
「そうかい、んなら良かった。育ち盛りじゃ、勉強だってなんだって食って力つけんとな。
本当だったら鹿でも捕ってきて食わしちゃろうと思ってたんだけどよ、最近じゃあ、鹿も
減っちまって、ようけ捕れん。ところで、お前さんよ、退屈しとりゃあせんか。なにせこ
こいらはなーんにもねえからよ。この辺の子達は、バス乗って街の方まで遊びに行ってる
ようだが」
 ただでさえ聞き取りにくい方言なのに、酒でろれつが回らなくなっているもんだから何
を言ってるのか半分くらいしか聞き取れなかった。いや、一生懸命聞くことを耳が放棄し
たと言うべきかも知れない。何しろ心ここにあらずだったのだ。
 俺の代わりに母さんが返事をした。
「まあでもせっかくこっちに来たんですからね。ここは空気も良いし、周りも静かだし。
ねえ?」


421 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:26:42 ID:EXhSwFIf
「うん」
 完全に空返事だった。
 俺はこんなにも退屈しているというのに、なんでこの年寄りどもはこうも楽しげにして
いられるんだろう? 全く不愉快だ。気に食わない。
(馬鹿だ。なんて子供じみたことを考えるんだ?)
 頭の中で別の声が聞こえた。うるさい、そんなの、自分でわかってる。
「そういえば――」叔父さんが話し始めた。
「明日は役場で盆踊りがあったな。都会のお嬢さんは他にもっと面白いことがいっぱいあ
るだろうから退屈かも知れないけど、行ってみるといいよ。地元の子とか、お盆でこっち
に戻ってきてる子とか、同年代の子もいっぱい居ると思うから」
 全く興味なんて無かった。でも行かないわけにいかないだろう。だって他にすることな
んて何も無かったんだから。
 つくづく失敗したと思った。勉強道具を持って来るべきだった。
 でも、わからない時に咄嗟に訊ける人間が傍に居なければ、はかどるわけはないぜと思
い直した。

 二段に組まれた櫓から、四方に提灯の群れが伸びる。大音量でかかる演歌、それに負け
ないほどの喧騒。過疎の進んだ田舎にしては随分と人でごった返していた。なるほど、お
盆で帰省している人が多いというのは間違いではないようだ。
 弟は凄まじい力で母さんの腕を引っ張り、かき氷やら綿飴やらを次々と所望して、その
まま人込みの中へと消えてしまった。
 付いていくことはできた。でも俺はわざと歩調を遅くして、母さんと弟の背中が見えな
くなるのを見送っていた。
 なんでだろう。母さんが振り返って「早く付いてきなさい」とでも言うのを期待してた
のだろうか? 金魚の糞みたいに母さんの後を付いていく年齢は、もうとっくに卒業した
というのに。
 夜店で買った、少ない割に値段の高い、さしてうまくもまずくもない焼きそばをたいら
げて、歯に付いたソースやら青海苔やらを舌でなぞり取りながら歩いてると、人込みの中
から現れた三人組の男に声を掛けられた。
「へえ、可愛いじゃん。ヘイ、彼女、一人?」
 第一印象で思うに、見るからに頭の悪い三人組だった。おそらく同い年に違いない。三
人のうち二人は俺とほとんど同じ身長で、一人は俺よりも背が低かった。
「君、地元の子じゃないよね? 俺ら地元なんだけどさ」
 訊いてねえよ。
「夏休みでこっち来てる系? 家どこ? 歳いくつ? 地元に彼氏居る系?」
 せめて質問はひとつずつにしてくれないか。だいたいなんだ、系、系って。これがこの
地方の今どきの方言なのか? 耳から入ってくるだけで生理的に拒否反応を起こす声。
 この手合いは無言で立ち去るのが正しい対処法なのだろう。けどこの時の俺は虫の居所
が悪かった。
「失せな」
 めいっぱいドスをきかせたつもりだった。しかし所詮女の声帯、狙ったとおりの声色が
出たかは怪しかった。
「お呼びじゃねえんだよ」
「うほう、怖いねえ。まあまあそう言わずにさあ。どうせ一人で暇してる系でしょ?」
 男は断られ慣れしてるようだった。男にしてみれば、無視されずに何かしらの返事が返
ってきただけで万々歳なのだ。
 下品で悪辣な笑い顔をしながら近付いてくる男の顔面を、俺は拳で思いっきり殴った。
 しかし少々力が足りなかったようだ。殴り抜けた腕をそのまま相手に掴まれてしまった。
「てめえ! 何してくれてんだよ! お高くとまってんじゃねえぞブスが!」


422 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:27:41 ID:EXhSwFIf
「触んなよ! 離せ!」
 その時、俺の腕を掴む男の腕を、第三の腕が掴んだ。
 もう一人の男はナンパ男の腕を凄まじい握力で捻りあげたらしく、ナンパ男はたちまち
苦悶に顔を歪ませた。俺の腕が解放される。
「お前ら、俺の連れに何してくれちゃってるわけ?」
 もう一人の男の顔を見る。それは、あのジョン・スミスだった。
 ジョンは俺の腕が自由になってるのを確認すると、ナンパ男の腕を離してポケットに両
手を突っ込み余裕の態度を見せた。
「ああ?」「てめえ誰だよ」「ぶっ飛ばすぞこら!」
 三人組は口々に奇声を張り上げた。とりわけ腕を捻られた男は怒っている。
「だからこの子の連れだよ。悪かったな。他を当たりな」
「スカシてんじゃねえよ! かかって来いや!」
 ジョンは挑発には乗らなかった。やがて観衆の目が集まり始めると、三人組は悪態をつ
きながら人込みの中へ消えていった。
 三人組の姿が見えなくなると、ジョンは会場の出口に向かって歩き出した。
「何処へ行くの?」
「つまらない奴のせいで、気分が下がっちまったからな」
 俺は黙ってジョンの後に付いていった。ジョンは付いてくるなとは言わなかった。
 やがて辿り着いた場所、そこは、位置は違うけれど、あの時の川原だった。ジョンは岩
に腰を下ろし、俺の方は振り向かずに黒い川を見つめていた。
 俺はその時になって、ようやくお礼を言うことが出来た。
「ありがとう」
「あ? ああ……」
 再び長い沈黙。
 人でごった返していた盆踊り会場と違い、この川原は涼しかった。
 周囲に明かりが無いおかげだろう。頭上には天の川がはっきりと見えた。
 俺は足元の石を拾って水辺に立ち、アンダースローで放り投げた。水の音が四回した。
「へえ、うまいじゃん」
 俺はジョンの方を向いて得意気な顔を作って見せたけど、この暗闇の中では相手の表情
などわからない。
 ジョンも立ち上がり、足元の石を拾って川に向けて投げた。水の音が一回、二回、三回、
四回――やがて数えられないような細かい連続音になって、突然乾いた音に変化した。対
岸に到達したのだ。
「凄いね」
 ジョンの真っ黒な顔は、満天の星と月明かりの下で、確かに笑ったように見えた。
「ケイトは――」
「何?」
 一瞬何のことだかわからなかった。この男の前では、自分はケイトであることを失念し
ていたのだ。
「ケイトは毎年こっちに来てるのか?」
「うん」
「そうか。今まで会わなかったな」
 ジョンの声は、どことなく寂しそうだった。
「俺さ、今年大学受験なんだ。県外の大学へ行くつもりだから、受かったら家を出る」
「そうなんだ」
 俺は、ジョンが何を言わんとしているのか、わかったような気がした。
「受験生仲間だね。俺は高校受験だけど」
「そうか、頑張れよ」
「うん、ジョンもね」


423 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:28:46 ID:EXhSwFIf
 そのまましばらく、俺達は二人で川を眺めていた。
「じゃあ、そろそろ帰るね」
「ああ」
「ありがとう、助けてくれて。じゃあね」
「嫌いにならないでくれよ」
「え?」
 突然のジョンの言葉だった。
「あんな奴も中には居るけどさ、あれはあいつらが悪いんであって、田舎が悪いんじゃな
い。だから、ここを嫌いにならないでくれよ」
「わかってるよ、大丈夫。それはジョンが証明してくれた」
「じゃあな、ケイト」
 ジョンは西洋風の『バイバイ』をした。暗闇の中で、確かにそれは見えた。
「うん。バイバイ、ジョン」

 家に戻ると、男衆が連夜の酒を飲み交わしていた。
 俺の存在に気付いたのは、廊下が見える位置に座っていたお祖父ちゃんだった。
「おう、おかえり。早かったな。お母さんたちはどうした?」
 俺は答えなかった。
 叔父さんが振り向きながら言った。
「やっぱり面白くなかったかい? 悪いことしちゃったな」
「ううん。叔父さんのせいじゃない」
 俺は寝室に戻って、畳の上に身を投げ出した。
 初めてだ、こんなことを思うのは。
 夏休みなんて、早く終わってしまえば良いと。



                             「流星に何を願う」(4)に続く

佐々木スレ9-418 「流星に何を願う」 (4)

2007-06-18 | その他佐々木×キョン


424 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:29:43 ID:EXhSwFIf


        6


 焼け付くような日差しはいまだ衰えを見せず、それでも吹く風には段々と冷たい空気が
混じり始め、そろそろ秋の訪れを感じ始める季節のこと。
 五限の数学は担当教師が不在なので自習になった。
 自習とは言っても、一応課題は出されてるものの大半の生徒の認識としては延長された
昼休み以外の何物でもなく、惰眠を貪る者、席を移動して談笑する者など様々だ。
 俺は課題として出された教科書の問題の教えを乞うために佐々木の机に椅子を横付けし
ていて、佐々木が何の苦も無くあっさりと全問を解いてしまうと、その後はとりとめも無
い雑談をしていたのが、どういう話の流れだかこうなった。
「僕が思うに、恋愛感情などというものは精神病の一種なのだと思うな」
 佐々木は言い放った。
「恋の病、なんていう言葉だって昔からあるのだよ。恋をしている人間の精神状態は明ら
かに平常ではない。僕自身には経験が無いから確かなことは言えないが、恋をしている人
間は意中の相手のことを想うあまり集中力が欠如したり、食欲不振に陥ったりする。そし
て、もしその恋が成就せずに終わった場合、鬱状態になったり、ヒステリーを起こしたり、
特に重度の時は自殺を図ったりすることもあるそうじゃないか。どう贔屓目に見ても、そ
のような精神状態が健常であるとは言いがたいね」
「そんな馬鹿なことあるもんか。だって、世間の大半の人間は恋愛をして、結婚して子供
を生むんだぜ。俺の両親やお前の両親だってそうさ。その人達みんなが精神病にかかって
るって、お前はそう言うつもりか?」
「まさしくそう言うつもりだよ。世の中で恋愛感情ほど蔓延した精神疾患は無いね」
「わからないな。恋をするっていうのは病気じゃない。機能さ。人間は――人間だけじゃ
ない。ほとんどの生き物には雄と雌があって、結婚して子孫を残すじゃないか。子孫がで
きなかったらすぐに滅んじゃうだろ」
「君は、恋愛感情が無ければ結婚はできないと思っている?」
「はあ? だって結婚て、恋愛をしてするもんだろ。人間世界には政略結婚なんてのもあ
るけど、それは例外中の例外だ」
「恋愛感情などというものは人間にだけ備わっているものだよ。動物達はもっと単純なも
のに従っているに過ぎない」
「もっと単純なもの?」
「本能さ」
「本能?」
「つまり、雄はより多くの雌の体内に自分の遺伝子を残そうとする、雌はより優秀な雄の
遺伝子を受けようとする、その本能だよ。動物は人間のように不必要に入り組んだ恋愛観
など持ち合わせてはいない。動物の目的は、とにかく自分の気に入る相手を見付け、互い
が合意すればその場でセックスし、遺伝子を渡す――あるいは受け取ることだ」
 俺は身じろぎした。佐々木が――この背が低く童顔で色白で、やもすれば少女のように
見えるこの少年が、その高く澄んだ声色で、この教室という空間で、何のためらいも無く、
そう、それはまるで数式を読み上げるような淡々とした口調で、『セックス』などという
単語を口にしてみせたからだ。
 さらに言うなら、女子――つまり俺――の目の前でだ。
 そんな俺の動揺を知ってか知らずか、佐々木はなおも続けた。
「確かに君が言ったように、子孫を残さなければ種は滅んでしまうね。三大欲求というも
のがある。これは、それをしなければ滅んでしまう、だからしなければならないという基
本的な三つの欲求のことだ。その内容とはは食欲、睡眠欲、そして性欲の三つ。食べ物を


425 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:31:01 ID:EXhSwFIf
食べなければ当然餓死してしまうね。睡眠を取らなければ、脳が異常をきたし精神が崩壊
する。同じことさ。理想の異性とセックスしたいと願うことは生物としての正常な生理反
応だが、しかし、それは恋愛感情とは別のものだ」
 またしても放たれた刺激の強い単語に、前後の文の内容を忘れてしまうそうになりなが
ら、なんとか質問を挟むことに成功した。
「別ってことはないだろ?」
「いいや、別だよ。人間には、多くの動物にあるような特定の繁殖期が無い。逆に言えば、
年中発情しているとも言える。それは恋愛をしているしていないとは全く関わらずね。人
間は常にセックスするパートナーを探し求めている。恋愛が発展して、セックスに至るの
ではないんだよ」
 全くこの男の話すことは心臓に悪い。周りのクラスメイトがこの会話に聞き耳を立てて
いるかも知れないとは考えないのか? 頼むから、その甘い綺麗な声でセックスセックス
と連呼しないでくれ。
「でも、結婚するってことは一生一緒に居るってことだろ? 遺伝子的に優秀だってだけ
じゃ、パートナー選びの条件としては不足じゃないのか」
「君には弟さんが居るね」
「何の話?」
「弟さんは男性、そして君は女性だが、弟さんを異性として意識したことは?」
「まさか。あるわけないだろ。いきなり何を言い出すんだ?」
「でも弟さんのことは大事に思っている」
「そりゃ、まあ。家族なんだし」
「だろう? つまりそういうことさ。家族として大切に思うことと、性の対象として意識
することは全く別の、切り離された現象なんだ」
 なんだかうまくはぐらかされただけのような気がするけど、俺はそれ以上追及すること
はやめておいた。これ以上話しても俺が佐々木を納得させることも、佐々木が俺の納得の
いく答えを出すことも無いように思えたから、この会話はもう切り上げることにした。
 時計を見ると、針は授業が終わるまさにその時刻を指していた。チャイムが鳴るまであ
と数秒といったところだろう。
 最後に俺は、ひとつだけ佐々木に質問を投げかけた。
「佐々木も、その……せっ……性欲、あるの?」
 佐々木はやけに大人びた笑顔でこう答えた。
「さあ、どうだろうね。どうやら僕は平均よりも二次性徴が遅れているようだし――」
 少し間を置いてからこう付け加えた。
「今のところは、まだ」
 チャイムが鳴った。

 その日の夜、俺はベッドの上で考えていた。
 佐々木の言ったこと――恋愛感情は精神病の一種だというのは、俺にはなかなか承認で
きないことだった。とは言え、博学で聡明な佐々木にああもきっぱり言われると、それが
正しいことのように思えてしまう。
 いや、正しいか正しくないかはこの際問題じゃない。佐々木がそういうふうな考えを持
っていること、そして、その考えをどうにも曲げるつもりはないだろうこと、そっちのほ
うが問題だと俺は思った。
『セックス』
 何の前触れも無く、唐突に、頭の中に佐々木の声が響いた。
 セックスか。俺だって思春期を迎えた女だ。そういうことに全く興味が無いかって言え
ば嘘になる。それでも俺が今に至るまでバージンなのは、俺にとって“それ”は、奇妙で、
滑稽で、不可解で、自分とは無縁のもの、何処か遠く掛け離れた別世界にあるもののよう
に思えたからだ。


426 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:32:02 ID:EXhSwFIf
 ところがクラスメイトのうち何人かは、この夏に既に初体験を済ませてしまったらしい。
 ある者はずっと付き合ってきた彼氏と念願叶って、ある者は旅行先でたまたま知り合っ
た行きずりの男に処女を捧げてしまったと言っていた。
 恋愛感情を精神病だと豪語する佐々木にとっては、前者よりも後者のほうが正しいセッ
クスの在り方なんだろうか。
 いや、それも違うと思う。佐々木が言うには『生き物は優秀な遺伝子を求めてセックス
する』んだから、興味本位や肉体的快楽に溺れるセックスは本来の正しいセックスの姿と
は言えないだろう。
『セックス』
 再び頭の中で佐々木の声が聞こえた。
 とにかく、俺がうかうかしてる間に友人たちは先んじて大人の階段を昇ってしまったわ
けだけど、考えてみれば俺にだってこの夏、やる機会はいくらでもあった。
 佐々木とは勉強会で何度も二人きりの時間を過ごしてきた。特に、佐々木が突然俺の家
を訪ねてきたあの日、下着にTシャツなんて格好で出迎えた俺を見て、佐々木が少しでも
俺のことを女と感じたなら――。二人きりの部屋、二人の汗の匂いが充満する部屋で、熱
に浮かされた頭のせいにして、汗まみれの体を重ね合わせることができただろうか。
 あるいは、お祖父ちゃんの田舎で出会った、あの年上のジョン・スミスと? 最後の時
間を過ごしたあの川原、あそこなら真っ暗なうえに人通りも無かった。彼に恋人が居たの
かは聞かなかったけど、もし経験があったなら、初めての俺をリードしてくれただろう。
そうして、もう二度と会うことはない青年とのひと夏の思い出とともに、処女を捨て去っ
てしまうことができただろうか?
 いや、できなかった。
 その当時も、それに夏が終わってから今までも、そんなことは考えも、いや思いつきも
しなかった。やらなかったんじゃない。最初から頭に無かったんだ。
 じゃあどうして俺は今になってこんなことを考えてるんだ?
 決まってる。佐々木のせいだ。
『セックス』
 佐々木の薄い唇に覆われた小さな口から放たれた、顔に似つかわしくない――いや、似
つかわしくないどころの話じゃない。全く異質だと言っていいほどの、淫靡な言葉。
『セックス』
 もちろん今、佐々木がここに居るわけはない。でもその声は、驚くべき実感を伴って俺
の耳に響いてきた。
『セックス』
 俺の中の佐々木が何度も耳元で囁く。耳に吹きかけられる吐息さえも感じられるような
強烈なリアリティ。
『セックス』『セックス』『セックス』
 声は止まらない。佐々木が一度繰り返すたびに、他の思考が頭から追い出される。『セ
ックス』という単語が脳を支配する。
 気付くと俺は下着の中に手を差し込んでいた。
 最初の吐息は、憂いの溜息に近かった。それが段々と、獣のような荒々しい息遣いに変
化していく。秘部に湿り気を感じると、それはすぐに湿りから濡れになって、やがて雫と
なって滴り落ちた。時折、喘ぎ声が漏れそうになるのを歯を食いしばって必死に耐えなが
ら、俺は行為を続けた。
 想っていたのは誰のこと?
 佐々木? それともジョン?
 ううん、きっと、どちらでもない。
 それは『セックス』という言葉そのもの。ただの片仮名四文字の羅列でしかないもの。
アルファベットで書けば『SEX』と三文字。その記号が持つ意味、記号が指し示す行為
が持つ妖しい魔力そのものに。


427 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 14:33:03 ID:EXhSwFIf
 ただ『セックス』その言葉だけを頭の中に思い浮かべて。その言葉だけで頭の中を全て
満たして――。
 自慰、オナニー、マスターベーション、呼び方は何でもいい。
 俺はこの日、生まれて初めてそれをした。


431 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 15:01:16 ID:EXhSwFIf


        7


 この日の帰りのホームルームで、あまりよろしくないものが配られた。
 わざわざもったいぶって言うものでもないので言うと、進路希望用紙って奴だ。
 否が応にも自分が受験生であることを再認識させられる。わかってはいたけど、こうし
て目の前に突きつけられると、残された時間が刻一刻と迫っていることを実感せずにはい
られなかった。

 塾が終わった帰り道。自転車の荷台に乗って俺にしがみついている佐々木が話しかけて
きた。
「キョン、志望校はもう決まったかい?」
「んー、決定したわけじゃないけど、うちは余裕が無いから金のかかる私立は最初から除
外だし、通える範囲で履歴書に書いて恥ずかしくない学校っつったら、北高になるかな」
「北高か。いや、学校説明会には行ったけど、あの学校も凄い立地だね。とてもじゃない
けど僕にはあの通学路を三年間通う自信は無いな」
「へん、よく言うよ。佐々木の成績じゃあ、はなっから北高なんか考えてないくせに」
「キョンだって狙おうと思えばもっと上を狙えるはずだよ。確かに現時点での学力では北
高が適正かも知れないが、君の偏差値はいまだに向上し続けているんだから」
「本当に佐々木様さまだね。でもいいんだ、俺は。無理して高いとこ狙って滑りでもした
ら本末転倒だよ」
「君の良くない傾向だな。もっと志は高く持ったほうが良い。ボーイズ・ビー・アンビシ
ャスだよ」
「俺はボーイじゃないよ」
「おや、これは失礼」
 佐々木はくっくっ、と喉を鳴らした。
「佐々木はもう決めたの?」
「僕は市外の私立に行こうと思ってる。選択科目が多くてね、カリキュラムの自由度が高
いんだ」
「そうなんだ」
 素っ気無い返事になってしまったと思って、もう一言付け足した。
「受かると良いね」

 家の前に着き、佐々木は荷台から降りると、いつも通りにこう言った。
「ありがとう、キョン。それじゃあ、また明日」
「うん、おやすみ」
 春からずっと何十回と繰り返されたやりとり。日常的な光景。
 佐々木の姿が玄関の中へ消えた後、ふと俺は頭上を仰ぎ見た。
 急に、夏に見たあの満天の星空を思い出して、あれと較べて随分と星が少ないことに、
今さらながら気付いた。
 家に向けて自転車を扱ぎ出した。佐々木が降りた後の自転車のペダルは軽い。
 なんでだろう、今日に限って、それが無性に寂しかったんだ。


(――続く――)


432 :流星に何を願う:2007/05/25(金) 15:02:15 ID:EXhSwFIf
やっと書けた……。
最後の最後で引っかかったんでしまりが悪いな。orz