内分泌代謝内科 備忘録

重症でない市中肺炎の抗菌薬治療は 3日で十分かもしれない

重症でない市中肺炎に対する 3日間のβ-ラクタム抗菌薬投与は 8日間投与に劣らない: プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験

Lancet 2021; 397: 1195-1203

 

外来および入院において下気道感染は最も頻度が高い抗菌薬が処方される感染症である。市中肺炎は 65歳以上で多く、高齢化とともに過去 10年間で世界的に増加している。

 

米国の成人市中肺炎についての診療ガイドラインでは、抗菌薬治療は 5日間以上継続し、臨床的に状態が安定していることを確認してから抗菌薬投与を終了することを勧めている (推奨の根拠は JAMA Intern Med 2016; 176: 1257)。一方、欧州のガイドラインでは 8日間の抗菌薬投与を勧めている。つまり、市中肺炎の最適な抗菌薬投与期間は定まっておらず、ほとんどの臨床医は市中肺炎に対して 7-10日間抗菌薬を投与している。

 

1940年代から 1970年代にかけて行われたいくつかの観察研究、および 2006年に行われた非重症の市中肺炎を対象にした二重盲検ランダム化比較試験 (BMJ 2006; 332: 1355)の結果からは、5日未満の抗菌薬投与でも十分そうである。しかし、推奨の根拠とするにはデータが不十分である。

 

抗菌薬投与期間が短縮できれば、抗菌薬使用を減らせるので耐性菌出現を防げるかもしれないし、抗菌薬に関連する有害事象や費用を減らせるかもしれない。

 

そこで、著者らは重症でない市中肺炎の患者を対象に β-ラクタム系抗菌薬を 3日間投与した場合と 8日間投与した場合で臨床経過を比較した。

 

対象は 18歳以上の一般病棟で治療している市中肺炎の入院患者で、β-ラクタム系抗菌薬投与 (アモキシシリンクラブラン酸内服やセフトリアキソン静脈注射など)を行い、72時間後の評価で臨床的に安定しているものとした。肺膿瘍、多量の胸水、重度の慢性呼吸器疾患、免疫不全患者、医療ケア関連肺炎、誤嚥性肺炎疑い、肺炎以外の細菌感染症、レジオネラなどの細胞内寄生菌感染症は除外した。

 

被験者は 1:1 の割合でプラセボまたは抗菌薬投与群に割り付けられた。抗菌薬投与群では、アモキシシリンクラブラン酸 125 mg 1日3回 5日間投与を行った。

 

主要評価項目は抗菌薬投与開始から 15日後の治癒率 (解熱、呼吸器症状の改善、追加の抗菌薬治療を行っていないことによって定義)とした。

 

プラセボ投与群は 157名、抗菌薬投与群は 153名で、年齢の中央値は 73.0歳、女性は 41%だった。15日後の治癒率はプラセボ群で 77%、抗菌薬群で 68%だった (群間差 9.42%, 95%信頼区間 -0.38~20.42%)。

 

消化器症状はプラセボ群の 11%、抗菌薬投与群の 19%で認めた。30日後の時点で、プラセボ群の 3名(黄色ブドウ球菌菌血症、心原性ショック、心不全)、抗菌薬群の 2名 (肺炎の再燃、肺水腫疑い)が死亡した。

 

経過が良好であれば 3日間の抗菌薬治療で十分そうだが、黄色ブドウ球菌の菌血症で 1人亡くなっているのが気になる。また、プラセボ群も抗菌薬群も 15日後の治癒率が 7-8割と低いのが気になる。さらに、肺炎の診断が正しいとは限らないので、抗菌薬投与を 3日間にすることをルーチンにするのは抵抗がある。現時点では米国感染症学会が推奨するように最低 5日間抗菌薬投与するのが無難かなと思う。

 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33773631/

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