牧場の日記~競走馬生産者の日々~

競走馬の生産牧場の現状と考察

子育てのできない馬

2020年09月05日 | 

去年の11月に来た転入馬。

予定日は3月1日。初子を産んでから3年空胎だったそうだ。

2月になってもおっぱいが膨らんでこない。もしかしたらまた流産してるのか?、と思うくらいぺっちゃんこ。

おなかもぜんぜんおおきくない。

直検でもしようかと思ったが、手入れをしていた時に、おなかの赤ちゃんがお母さんのおなかをけるのを見て、

ああ、居たんだ、疑って悪かったな、と思った。

予定日も過ぎ、まだ、おっぱいも全然大きくならないので、ちょっと刺激をしてみようかと、

乳首をさわる練習をした。

ちゃんと仔馬に飲ませる馬かどうかも、見たかったので。

馬の体をブラッシングしながら、少しづつ乳首の近くに手を持って行ってそろそろと触ろうとしたら、

恐ろしいような蹴りが飛んできた。

まあ、初めて触るときは、ままあることなので、じっくり時間をかけて、そろりそろりと触ろうと試みたが、

危なくて触れない。

鼻をとってみたがだめ。

あんまりおっぱいにこだわって、いやな印象を残しても後々困るので、触ってみることはやめた。

ブラッシングをして、馬とのいいコミュニケーションを作っていくことを心掛けた。

予定日から24日遅れて出産した。結局最後までおっぱいを触ることができなかった。

仔馬にちゃんと飲ませるか不安だった。

仔馬が立ち上がり、親のおっぱいを探してまたぐらを探るとものすごい蹴りが飛んだ。

幸いにも仔馬には当たらなかった。

もう一度仔馬がお乳を飲もうとまさぐると、また蹴りが。仔馬には当たっていない。

何度か挑戦して、結構すぐに仔馬はおっぱいを飲めるようになった。

しかし、あまりおっぱいがちゃんと張っていないので、あまり出ていないようだった。

仔馬は親馬が嫌がって蹴ったり逃げたりしても、ひるまずおっぱいに食らいついていた。

仔馬の逞しい生命力に感心した。

しかし、親馬はどうしたらいいのかわからず、パニックになっていた。

おっぱいを飲ませるけど、我慢したくない。

人に仔馬を取られたくない。不安で不安でたまらない。といった感じだった。

3日ほどたって、やっとおっぱいも張ってきて、たくさん出るようになったようで、やっと子育ても順調になってきた。

パドックに放牧してすぐ、母馬がなにかの音に驚いてしりっぱねをした。

運悪く仔馬にその蹴りが当たってしまった。

頭に当たったらしく、一命はとりとめたが脳に障害が残っているようだった。

親馬はまたパニックを起こし、人を攻撃するようになった。

仔馬に治療をしようとすると、かんだり蹴ったりものすごい形相で襲ってくる。

仔馬は自力でおっぱいも飲めないし、夢遊病者のように、ずっと馬房の中をぐるぐるとまわっていた。

ミルクを飲ませても親が攻撃してくるし、仔馬も口をもぐもぐするがごくごくとはできなかった。

3日ほど様子を見たが回復の見込みがないのであきらめた。

剖検の結果、頭蓋骨硬膜外出血、脊椎内出血であった。

もしかしたらいけるかも、という、希望は希望でしかなかった。

 

 

 

 


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