モンゴルで気力・体力共に使い果たした俺はカオレムに向かった。アジア最強のゲームフィッシュ「シャドー」と闘うことで「失われた釣欲」を取り戻すためだ! 今回は「ャCント選択」による釣りとは全く違う「稚魚ボール狙い」。呼吸のため水面に浮いてくる稚魚の群れにルアーを投げ込み、親魚を怒らせてバイトに持ちこむタイ特有の釣り方。この釣法で釣れるシャドーは大型でボディカラーが非常に綺麗(明確な白黒模様に、背中がエメラルドグリーン)、一度は釣ってみたかったのだ!
到着したその夜、「ミソンパンラフトハウス」でK君と合流。そこで早速驚くべき話を聞かされた! 「7kgをばらしちゃった…」、思いっきり悔しそうな顔をするT君。詳しく聞くと、マリアのミノーに食いついたそのママシャドーは信じられないほど暴れ、クラッチを切りながら応戦。なんとか寄せたそいつの頭はまるでフットボールの様、ネットに入りきらずに逃げていったそうだ。おまけにこの日、ミソンパンにはタイ人釣り客によって釣られた83.5cm(目測5.5kg)のシャドーがキープされていた。「これは凄いことになってるぞぉ~!」、タイに来てからのダラダラ気分は吹っ飛び、深夜まで翌日の準備が続いた。
そして向かえた初日、ボートマンはタイ国最強のガイドとしてその名を轟かす「ワンチャイ」。恐るべき眼力で早朝から次々と稚魚ボールを発見していった(風で湖面が波立っていようが、ボートが走っていようが、約50m先のボールを発見する能力は脅威)。しかし、である。この日18個の稚魚ボールをみつけてもらいながら二人ともボウズ…。ルアーに反応があったのは2ボールのみ、それもショボい単発アタックばかり。「話が違うじゃん!」、あまりの活性の低さに「稚魚ボール狙い」に疑心暗鬼になる俺、「ホントにママって釣れるの~?」
二日目、「これは簡単じゃないぞ!」と少々厳しい顔つきで出撃。この日は朝から相当暑い。おまけに連日の出撃で疲れきっていたのかワンチャイの「ボール発見力」が低下、夕方まで6ボールあたり3回のみと惨敗ムード。あまりの「渋さ」と「暑さ」に耐えられなくなった俺はビールをあおり、「酔拳釣法」に切替えた。「飲まなきゃやってらんないよ~」という訳…。そして、夕暮れ間際に見つけた水草の中の稚魚ボール。半分諦め加減でキャストするがバックラッシュ…。すかさずK君がキャストしたのは「Tサーフ」、するとイキナリ追って来て「ドォ~ン」、70cmの良型ママが釣れちゃった。やっと出会えた「高活性ボール」、よりによってバックラッシュとは…。これが若者と老いた者の勢いの差か?「このままじゃK君の引きたて役じゃん…」
三日目、午前中はOさんと共に出撃。前日からカオレム入りしていたOさんだったが、この日バンコクで仕事が入ったとのこと。11時には帰港しなくてはならず、チャンスは限りなく少ない。しかし、疲労がピークに達したのかワンチャイはまるでやる気なし。朝一でいきなりドンワイ、続いてルンティー川、漁師の網がいたるところにある激シブエリアを流してゆく。そして、1つのボールも発見せずに午前の部終了…。
ワンチャイの疲労度を考慮し、休憩をたっぷりとって午後はゆっくり出撃。相変わらず暑さ、2日半にわたるボウズ、この時俺もまるでやる気なし…。 この日ママが釣れなかったら、翌日から一人で「ャCント選択」の釣りに切替えようと思っていた。しかし、開始からリッチア地区を流すこと2時間、発見したのはラッキーなことに「高活性ボール」。2投目のキャストが呼吸のタイミングにばっちり合て「ドォ~ン」とママが飛び出した! これまでの鬱憤を晴らすかのようにガンガン巻いて40秒ぐらいでランディング。初めて釣ったママシャドーは74.5cmのグットサイズ、背中のエメラルドグリーンが眩しかった。その後、ハチに襲撃に遭うというアクシデントがあったけど、2匹目(62cm)を追加。この日は美味しい酒が飲めたよ! 「釣れて良かった。心の底からそう思えたよ…」。

四日目、初日のように「気合入りまくり」の出撃! 前日念願のママを釣ったことで、「確信」をもってキャストとリーリングを繰り返すことができた。この日は朝早くから「高活性ボール」を発見。俺の投げた「ゲン+ぺラ」にママが追って来るが、ルアーがK君のラインに絡まりママはボート際でUターン、貴重な一匹を逃す。しかし、その後に発見した2ボールを執拗に攻撃し56cmと62cmをGET。どちらも20分近い攻撃だったため、親魚の怒りも凄まじく、もの凄い突き上げバイトであった。

「稚魚の出現を待ちじっと水面を見つめ続ける。そして浮上と同じに一斉にキャスト。ボール上をズババババァー、ルアーを超高速で通すだけ」の釣り。釣り始めた当初、正直これが「釣り」であるかどうかさえ俺には分からなかった。しかし、この方法でママが釣れることが分った時、その緊張感が堪らなく楽しいものに思えた。この釣り方では「稚魚の浮上場所を読む能力」「浮上に合わせ即座にキャストする反射神経、そしてキャスト性能」が究極に問われる。これは「釣り」なのか?「ゲーム」なのか?、はたまた「狩り」なのか? そんなことはどうでもよい! そして雷魚マンのモラルなんかもどうでもよい! 「稚魚ボール狙い」はもの凄く熱いぞ!
そして向かえた最終日、俺・K君共に狙うは80cmオーバーのみ! この旅を締め括る「最後の1匹」が欲しかった。しかし、俺達は苦戦を強いられていた。朝一、本湖筋のワンドで見つた「高活性ボール」でK君が60cmをGETするが、その後はさっぱり。灼熱の太陽・テンションの高さに反比例するママの活性の低さ、稚魚採取に熱中する漁師もチラホラ。この日最後に見つけたボールでは二人で50投近いキャストを繰り返すが湖面は沈黙…。「ワンチャイの辿った経路」を「俺の作った地図」と照らし合わせてみると、五日間でリッチア・本湖筋・カオレムのほぼ全域を周る釣行だった。今回はこれが限界かな…。この釣りは「広大なフィールドでボールを発見する能力」と「ボールの移動経路を予測してボートを動かす能力」、それがないと成り立たない釣りだったと思う。ワンチャイがいなかったら俺は何もできなかったに違いない。「ワンチャイ、お疲れ様でした! そしてコップンカッ!」。
カオレムの5日間が終わった。ふと空を見上げると、ビルマに沈む夕日はとても綺麗だった。「稚魚を保護するママを狙った釣り」、日本の雷魚マンには到底受け入れられない釣り方かもしれない。しかし、こんなに美しい光景に最後まで気づかないほど熱い闘いだったのは確か、またいつの日にか再び戻ってくるよ!