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愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 124 旅-5、 唐/李白 廬山の瀑布(バクフ)を望む

2019-11-17 17:26:11 | 漢詩を読む
この一対の句:
飛流(ヒリュウ)直下三千尺、
疑うらくは 是れ銀河の九天より落つるかと。

長江の下流南岸域にある名山、廬山に掛かる滝の情景である。“三千尺”、“銀河が九天から落ちた…”など、いかにも李白らしい誇張表現ではある。しかしそれに相応しい天下一の名山・名所と言えるでしょう。

廬山は、文人・墨客の鑑賞の対象としてばかりでなく、いろいろな側面から人々の関心を引いています。ここでは漢詩を通して、廬山の姿を覗いていきます。まず、李白の「望廬山瀑布二首 其二」(下記参照)を読みます。

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<漢詩原文および読み下し文>
望廬山瀑布二首 其二 廬山の瀑布(バクフ)を望む二首 其の二
 
日照香炉生紫煙, 日は香炉(コウロ)を照らして紫烟(シエン)を生ず,
遙看瀑布挂長川。 遙かに看(ミ)る瀑布(バクフ)の長川(チョウセン)を挂(カ)くるを。
飛流直下三千尺, 飛流(ヒリュウ)直下三千尺,
疑是銀河落九天。 疑うらくは 是れ銀河の九天より落つるかと。
 註]
香炉:香を焚くための器。ここでは形が香炉に似た廬山の一つの峰、香炉峰。
紫煙:山気が日光に映じて紫色にかすんでいること。
三千尺:長い・高いことのたとえ。  九天:天の最も高い所。

<現代語訳>
廬山の香炉峰は太陽に照らされて、紫色の煙をくゆらしており、
遥か彼方には滝が長い川が掛かったように流れ落ちている。
滝は飛ぶように勢いよくまっすぐに三千尺も落ちており、
あたかも天の川が天空から落ちて来たのかと思われるほどである。
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廬山に文人・墨客が訪れる契機を作ったのは司馬遷であった。司馬遷は、前漢・武帝(在位BC156~BC87)の治世の頃、20歳のとき旅に出て、2年ほど放浪の旅を続けた。その折、廬山に登っており(BC126)、その模様を、後に彼の著書『史記』に記してある と。

以後、多くの詩人が廬山を訪ね、4,000首を越す廬山にまつわる山水の詩詞が詠まれている と。またその山容に魅せられた画家が筆を振るい、画の名作も生まれた。廬山は中国の山水詩、山水画の発祥の地とされている。

李白は、廬山を5度訪ねていて、 14首の詩を残している と。2年ほど宮廷詩人として玄宗皇帝に仕えていたが、讒言に遭い宮廷を追われます。以後10余年放浪の後、廬山の麓にしばらく隠棲していた。上記の詩は、その折の作とされています。

廬山は、ヒマラヤ造山運動で断層活動により隆起してできた地形で、さらに氷河期を経て、断裂構造から幾多の峰々を形成してきた。奇峰峻嶺が多く、秀麗なことから「匡廬(キョウロ)奇秀甲天下(匡廬の奇秀は天下一だ)」と称えられている。“匡廬”は廬山の別名である。

その山容・地形や地理的条件などから、中国の長い歴史を通じて関心の的であり続けてきた。文人・墨客の鑑賞の対象であり、諸宗教の聖地であり、政治・経済の活動の場であり、避暑地であり、また観光地なのである。

廬山およびその周囲を詩の視点から点描してみます。廬山は、江西省の長江下流南岸に位置する。長江からも見える高山で、最高峰の漢陽峰は海抜1,474m。詩の世界で関心が高いのは、香炉峰である。また廬山の北、長江に近く、陶淵明の故郷九江(市)があります。

廬山の南、南昌に近く、滕王閣がある。唐の高祖(李淵)の子で、滕王に封じられた李元嬰(ゲンエイ)が、洪州(南昌市)都督のときに築いた楼閣である。黄鶴楼(コウカクロウ)、岳陽楼(ガクヨウロウ)とともに江南三大楼閣の一つであり、初唐の詩人王勃(オウボツ)の詩で知られる。

西山麓には、西林寺や東林寺があり、詩によく現れます。いずれも中国における浄土仏教の祖とされている慧遠(エオン)と関連のある古刹です。西林寺に関連した詩については、先に触れたことがあります[閑話休題1(2015.4.12),2(同14),3(同17)]。

一部、口語訳を再録すると、廬山の真の姿とは?

蘇軾(東坡)「題西林壁」(西林の壁に題す)

横から見れば連なる嶺、側で見れば切り立つ峰、
見る位置の遠近高低によってそれぞれ違った姿となる。
廬山の真の姿がわからないのは、
自分がこの山の中にいるからなのだ。

以後、廬山に関わる詩を何首か読んでいきます。
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