周平の『コトノハノハコ』

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『夢馬鹿』~第9話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2021年12月17日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第1弾『夢馬鹿』の第9話です!

さて、今回の材料は…

「細々」…小さじ2杯
「肴(さかな)」…小さじ3杯
「逆襲」…小さじ2杯(おいおい、大丈夫か?w)
「蔵書」…大さじ4杯
「毛細血管」…大さじ5杯(医者と吉本新喜劇の吉田 裕さん以外が使う事ある?)

これが2021年最後の更新! 2022年の自分に易しいバトンを渡したい第9話スタート!!

『夢馬鹿』~第9話~

その週の土曜日の夜遅く、子供たちが寝た後に雪男は約束通り我が家にやってきた。

「なぁ、本当に大丈夫なのか? うちの家内は一筋縄ではいかないぞ?」

「まぁ、任せとけって! ここからお前の"逆襲"開始だ!」

雪男は強気だが、私は不安で仕方ない。
だが、きっとこれが私にとってラストチャンスである事も確かだ。

「ごめんなさい、大したものも用意できなくて…」
妻が雪男に酒と”肴”を出しながら言った。

「いえいえ、こちらこそこんな遅い時間にお邪魔してすみません。」

私は2人のそのやりとりをただ黙って見ていた。

「お前、本当に家では肩身狭そうだな?」
妻がキッチンに戻った隙に、雪男が私に小声で言ってきた。

「家だけじゃなく会社でもそうだよ。お前と違ってどこでも"細々"と生きてるんだよ…。 まるで"毛細血管"ぐらいにな…。」
私はぼやくように返した。

「今日は私に何か話したい事があるとか…。」
キッチンから戻ってきた妻が切り出した。

「はい。実は…、」

雪男は私から相談されている事、そしてその夢を2人で力を合わせて叶えていきたい事を長々と語った。
さらに「三十路を越えてからはじめる起業」というタイトルの"蔵書"も自宅から持ってきていたらしく、妻の目の前に出し、説得力を増そうとした。

「そうですか…。」
妻はしばらく黙ってしまった。

「お子さんが2人もいますから、奥さんが不安に思うのも当然です。必ず成功するなんて保証はどこにも無いわけですから。」
雪男が耐え切れない沈黙を破ってくれた。

「えぇ…。」
妻はまた黙り込んでしまった。

相手が私1人だったら一蹴して終わりだろうが、相手が雪男でそれなりの説得力もあるからこその反応なのだろう。

どっちだ? これはどっちだ?
もしかしたら了承してくれるのか?
奇跡が起きるのか?

私と妻と雪男の3人だけの23時のリビング。
「家内安全」のシールの真上に掛けられている時計は、まるで電池が切れているかのように先ほどから全く動いていないような気さえした。
もしかしたら第1話のラストからずっと電池が切れたままなのではないだろうか。

《第10話へ続く》


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