糞をひねり出そうとした。暗い箱のような家のトイレで、交換されず放置された電球の下、あせりと共に・・・。
弟が暴れた。何かを一心不乱で追いかけ、ほうきを叩きまくる弟。鎧武者のように果敢で、映画の主人公のように冒険心を露にして。ぽとりぽとりと、虫が降ってくる。
誰しも止められぬ欲望、復讐。私が何をした?いや、沢山した。兄と弟、察しはつくだろう。私がトイレで便器に座り、最も無防備な姿をさらけ出す事にも、頭上の無数の何かにいたずら心でちょっかいを出すのも、是家族が所以。
何か、カブトムシのようなものだった。手のひらにおさまるくらいの甲殻類で、服にとびつくといくたはたいても落ちず、虫とは思えぬ力でしがみついてくる。それが足元から影のように現れ、足にまとわりつく。思い切り手で払う。弟も驚き、また自分のように全身の虫を払い落とそうとする。弟は足をすべらせ、転んだ。
首筋にぞわりと感覚があった。弟が熱心に頭上の蜘蛛の巣をはらうように何か、おそらく黒い何かだったと思われるが、それを刺激したので、どさっと降ってきた。弟も一瞬それに覆われ、ほとんど狂気に染まった。だが私は冷静にも、それをはっきりと見ずにすんだので、ようやく振り払うくらいの勇気は出た。
頭の上から降って来たそれは無数のてんとう虫であった。泥のようにまとわり付く黒い虫よりも可愛げに思えた。こんなものと払い落とし、倒れている弟に復讐のつもりで払いつけていたが、だんだん首が重くなってくる。頭を大きな手でわしずかみにされたような、奇妙な感覚。ぐらりと揺れた。
一匹残らず振り払いたい。
櫛が私の髪を撫でた。黒い塊から足が、腹が、胸が現れ、白いおでこが見えた。私と言う女であった。無音の風に吹き飛ばされるように虫が消滅していく。黒髪の生え際に櫛が一本入り、そそと腰まである髪の先を跳ねた。
最後の一匹が、舞った。
弟が暴れた。何かを一心不乱で追いかけ、ほうきを叩きまくる弟。鎧武者のように果敢で、映画の主人公のように冒険心を露にして。ぽとりぽとりと、虫が降ってくる。
誰しも止められぬ欲望、復讐。私が何をした?いや、沢山した。兄と弟、察しはつくだろう。私がトイレで便器に座り、最も無防備な姿をさらけ出す事にも、頭上の無数の何かにいたずら心でちょっかいを出すのも、是家族が所以。
何か、カブトムシのようなものだった。手のひらにおさまるくらいの甲殻類で、服にとびつくといくたはたいても落ちず、虫とは思えぬ力でしがみついてくる。それが足元から影のように現れ、足にまとわりつく。思い切り手で払う。弟も驚き、また自分のように全身の虫を払い落とそうとする。弟は足をすべらせ、転んだ。
首筋にぞわりと感覚があった。弟が熱心に頭上の蜘蛛の巣をはらうように何か、おそらく黒い何かだったと思われるが、それを刺激したので、どさっと降ってきた。弟も一瞬それに覆われ、ほとんど狂気に染まった。だが私は冷静にも、それをはっきりと見ずにすんだので、ようやく振り払うくらいの勇気は出た。
頭の上から降って来たそれは無数のてんとう虫であった。泥のようにまとわり付く黒い虫よりも可愛げに思えた。こんなものと払い落とし、倒れている弟に復讐のつもりで払いつけていたが、だんだん首が重くなってくる。頭を大きな手でわしずかみにされたような、奇妙な感覚。ぐらりと揺れた。
一匹残らず振り払いたい。
櫛が私の髪を撫でた。黒い塊から足が、腹が、胸が現れ、白いおでこが見えた。私と言う女であった。無音の風に吹き飛ばされるように虫が消滅していく。黒髪の生え際に櫛が一本入り、そそと腰まである髪の先を跳ねた。
最後の一匹が、舞った。