読書・映画日記

 読んだ、観た情報をもう一度思い返して感想を書くことによって理解を深めるために始めました。

自作小説(未完)

2010年07月13日 | 自作小説
 白い壁に囲まれた薄暗い部屋でドレスを着た女が椅子に座っている。男は顔の無い女の肩に手を置いた。そっと撫でながら腰を落とし、女のまたぐらへ頭をうずめた。ドレスから伝わる体温に包まれるような感覚に男は堕ちてゆく。男をもっとも安心させ、男を唯一救うのはこの女のまたぐらであった。
 男はずっと南極の研究室で生活していた。男は日夜研究に没頭し、眠りにつく時、女を抱きしめた。南極に住む以前は有名な大学の研究室で生活していたが、社会の制約に耐え切れなくなり、男は一人南極で生活を始めた。男を縛るものはいろいろあった。それは生死の倫理観であったり、法律であったりした。
 女には首から上が無かった。正確には、首から上はわずかな脳を残して男に切り取られているのである。切り口には生命維持に必要な装置が埋めこまれており、そこから栄養を摂取している。女の生理現象の全ては男が管理していた。女に名前はなく、男は呼ぶ事も必要としていなかった。
 しばらくした後、男は女のまたぐらから離れた。木製の扉を閉めるときふと女を振り返った。女は椅子に座って壁に体を向けていた。両手をひざに添えて背筋を伸ばしている。男は部屋の電気を消した。扉を閉めた。研究所の暗い廊下を歩いた。
 外からごうごうと吹雪の音が聞こえてくる。研究所各所の外へ通じるドアの鍵をチェックしていく。一つ一つを「よし」と確認し、研究室の前に立った。冷たい緑色のドアは重く、分厚い。ゆっくりと明けて体を滑り込ませるように入り、すぐにドアの鍵を締めた。カキンと音がドアの内側で響き、手に伝わった。部屋の電気をつけた。
 弓を弾くような音と共に部屋が照らされ、研究室が露になった。部屋の中心では腕と足の無い裸の男が椅子に固定されていた。男の頭には機械が装着され、顔全体をすっぽりと覆っている。頭頂部からはガラスケースを通して男の脳が露になっており、無数の電極が差し込まれていた。