今年中には行いたい事がある。それは、オーナーと話をする事だ。オーナーに時間外労働についてその真を問いたい。
去年から店のオーナーが変わり、色々な改革があった。その中で、オーナー自ら率先して時間外労働を強制するものがあった。それは今でも定期的に続けられ、誰も異を唱えることなく続いている。これは異常な事態ではないかと僕は考え、オーナーに直接話をする必要性を感じたのである。
だが、資本力でも知識でも人生経験でもオーナーに劣る僕には自信が無かった。それに子供のように庇護を求めるのも情けないと思った。そこで僕は時間外労働のあった証拠を集め、労働基準監督所の監督官を盾にすることを思いついた。順調に証拠は集まり、さてこれからはオーナーとどういった話をするべきかと考えるに至った。
別に食って掛かろうって訳じゃない。攻撃的に攻めようと言う気も無い。では何がしたいのか?真を問いたい。何故、過ちを犯すのか。迷いは無かったのか。実際僕たち労働者の事をどう思っているのか。一人の人間として質問をぶつけたい。オーナーのやり方は明らかに論理的矛盾がある。その事を知ってもらいたい。
何度も何度も考えた。しかしどうも説明がつかない。オーナーは企業の威を借りて堕落してしまったのではないか。そう思えて仕方ない。そうだとしても、質問をぶつけたら目が覚めるかも知れない。そしてもしかしたら僕の考えやアイデアが今後の経営に生き、正常化されていくかもしれない。そう考えると、僕は重大な責任を負っている気がしてならない。
僕は不安だ。漠然とした不安と、恐怖を感じる。所謂浮いてるってやつかもしれない。普通は僕のような行動は取らない。いつもそうだ、普通しない事を僕はする。僕はそれが出来るから出来るんだと考えるけれども、みんなはでしゃばっていると考えているかもしれない。それが怖い。この身をつつむ空気全体を支配したい欲望に駆られる。
今日、信長の野望天道というゲームをしていた。戦略ゲームで、戦国乱世の統一を目指すゲームだ。後半になると領土も広がり、国の運営がめんどうになってくる。その際、部下に国家運営の一部を委任するのだが、これがなかなか便利で、使い勝手が良い。僕は国の内政を全部部下に任せ、一人敵地に飛び込んで電撃戦を繰り広げていった。その時、ふと感じた。この身を包む、とらえどころの無い空気。刃物のように研ぎ澄まされ、触れれば血が流れるような狂気。その中で僕は台風の目のように、慎重かつ全力で一歩一歩を踏みしめているのだと感じた。気を抜けばこの身もろとも吹き飛ばされそうな中、浮きそうな足先のわずかな感覚を頼りに地面の上を辛うじて捕まえて歩んでいるような感覚。そんな感覚だった。
今回の事案にしても、僕一人が歩んでいるうちに思いもよらぬ強風に巻き取られ、その中心になってゆく可能性があるのではないか、そう直感する。数ある目に見えない労働者達の鬱積した不満がはるか頭上から雨を降らし、母なる大地を湿らせ、萌芽が開き、その芽がやがて大樹となり、風に大地をを震わせて行くような、凄まじい生の力に怯える。
何を言っているのだと思われるかも知れないが、僕は今を生きるとはそういう事だと思っている。僕たちの歴史を作った先輩、そしてまだ見ぬ名も無き無量大数の後輩たちに対して、僕は今この瞬間に歴史的責任を負っている。僕の一挙一動が未来を変え、破壊と創造を繰り返す。僕が邪に陥れば未来は暗く、僕が真実を見つめれば未来は明るい。他人から見れば僕の行いは小さく見えるかもしれないが、それは僕の行いが小さいのではなく、その人の器が小さいのだ。