台湾では、先住民族のことを「原住民族」といいます。
これは、「元から住んでいる人々」という意味で、以前使われていた「山地同胞」などと比べて、尊厳のある呼び方とされています。
台湾には現在認定されているだけでも原住民族が14民族おり、その特有の文化は台湾独特の存在として重視されています。
温泉の街として有名な台北市新北投には、原住民族の文化を紹介する博物館「凱達格蘭(ケタガラン)文化館」があります。
2002年に設立された新しい博物館で、無料で入場できます。
文化館前の歩道には、こんな素敵なモザイクが。
展示を案内してくれるスタッフの皆さんは、こんな制服を着ています。
パイワン族の陶器の壷と、二人で一緒に飲む杯の模様が縁取りにあしらわれています。可愛い!
ケタガラン文化館では、現在、原住民アートの歴史を紹介する「原創流(原住民の創作の潮流)」という特別展が開催されています。
原住民の芸術に対して、一般の人たちが持っている先入観を破り、「原住民アートって、なんだろう?」という問題を投げかける展覧会になっています。
まず最初に、原住民族の伝統的な生活の中で作られてきた、生活工芸品の展示があります。
これらはあくまで、生活上の必要のために生み出された実用品ですが、その技術や造型の中に、芸術性が発揮されています。
原住民族の生活が現代化されていく中で、その文化も廃れかけていましたが、1990年代ごろから、原住民の人たち自身の意識が高まり、同時に台湾のアイデンティティという意味でも原住民文化が注目されるようになりました。
原住民の伝統文化を復興させ、再現することが盛んに行われ、芸術においても伝統工芸を発展させたものが出てきました。
1991年から始まったこの時代を、この展覧会では「近代」と位置づけています。
上のレリーフは、アミ族のAmi-Afoさんの作品。
アミ族の精神や文化をモチーフにしています。
こちらはパイワン族の沈萬順さんの作品。
伝統的な技法を活かしながら、椅子という現代的、実用的なものにしています。
こちらは、ダウ族の黄清文(傑勒吉藍)さんの「最後の豊収」という油絵作品。
近代的な漁船に駆逐される形で廃れていく、蘭嶼の伝統的な漁船と老人をモチーフに、社会的なテーマを描いています。
この作家の方自身も、原住民運動に参加していた方だそうです。
このような、原住民の伝統工芸に現代性、実用性をプラスする、あるいは、社会的に原住民族の存在や問題をアピールするという原住民芸術の殻を打ち破るアートが、2005年以降現れています。
民族の主張よりも、自分自身の表現に重点を置いた作品です。
上の作品は、タイヤル族のAmai Xilanさんの作品「変化するタイヤル族」。
頬に描かれている刺青の模様がなければ、原住民を描いた作品だとはわからない、抽象的な作品になっています。
これは、タイヤル族の米路・哈勇さんの「耕耘」という作品。
タイヤル族の四季を通じた生活を表現しています。
色彩が豊かで、ちょっとピカソを思わせるような、伝統的な工芸とは一線を画した現代絵画です。
素朴な素材と造型のこの作品(作者不詳)は、原住民的な雰囲気は充分にありつつも、どの民族の何を取り入れているのかなどはわからない、抽象的、現代的な作品。
これは、上にも登場した、パイワン族の沈萬順さんの「誕生」という作品。
パイワン族の祖先の誕生神話を表現しています。
木彫の技術には伝統技法を感じさせ、題材も民族的なものですが、実用性を離れたアート作品としての純度が高まっています。
これは、原住民アートの要素を表しているそうです。
全ての色を生み出す3つの色に、原住民文化の重要なシンボル。
右がパイワン族のシンボル、百歩蛇(ひゃっぽだ)、中が織物の模様などに使われる菱形、左が蘭嶼島のダウ(ヤミ)族の船に描かれる「目」の模様です。
これが、ダウ族の船。右側に船の「目」が描かれています。
周りは、連続する菱形で縁取られています。
(ケタガラン文化館1階のロビーにあります)
ちなみに、この展覧会「原創流」のためにデザインされた模様も、さまざまな原住民のシンボルを取り入れています。
上の3つのほか、ルカイ族がシンボルとするユリの花、多くの民族が伝統的に大切にしてきた食物、粟の穂などが見えます。
これをデザインをした人は原住民ではないということですが、原住民の要素に溢れたこのデザインは、「原住民アート」と呼べるのではないか?
あるいは、原住民の作家が作った、原住民的要素がない作品は、果たして「原住民アート」なのかどうか。
そういった問題を、みなさんに考えていただきたい、というのが、この展覧会を企画した目的なんだそうです。
みなさんはどう考えられますか?
特別展は地下1階で行われており、2階と3階は常設展となっています。
常設展では、14民族および平埔族の生活文物や、映像での紹介が展示されています。
ちなみに、館名となっている「ケタガラン」というのは、台北盆地をはじめとする北台湾の平地に住んでいた平埔族の民族名です。
北投温泉に行くときには、このケタガラン文化館にも寄って、原住民について、そして原住民アートについて、ぜひ考えてみてください。(尾)
凱達格蘭(ケタガラン)文化館 http://www.ketagalan.taipei.gov.tw
台北新交通システムMRT新北投駅そば
9:00-17:00 月曜定休 入館無料
「原創流」凱達格蘭文化館典藏特展は、2010年5月14日から6月30日まで開催しています。
※2010年6月4日(金)の番組「文化の台湾」では、ケタガラン文化館の陀沅録(Lengec Ruvudun)さんに、「原創流」展についてお話をお聞きしています。
番組を聴くには、上のバナーをクリック→6月4日をクリック→「文化の台湾」横のアイコンをクリックしてください。