
松島T氏が、「娘です」と申されて、妙齢の♀をROYCEに、
連続2人も連れてきたとき、話を聞いた『田尻のタンノイ氏』は、
しきりに首をひねった。
「彼とは長いつきあいですが、一度も見たことがない」
謎の話はすぐに忘れて、愛用のテナー・サクスの話になった。
「いっちょう、やってみて」
お願いすると、車からズルズルとケースを引いてきて、ブロローッと
はじまったサウンドはPEPPERかロリンズか、ライブをこなす人だけある。
ジャズメン愛用のスピーカーが『タンノイ・ヨーク』と、このうえない見識を感じる。
「トーレンスの回転ベルト、余っているのありませんか?」
電話があったのでわけをたずねると、音が揺れてそろそろ限界だと申された。
―― 綿棒5本と、近所の整備工場でバルボルをサカズキ一杯分、手に入れるように言った。
ジュースのストローでバルボルをターンテーブルを抜いた穴に数滴たらす。
次に綿棒でお掃除。
滓が残らないように繰り返し、仕上げはスピンドルを戻したとき、
ギリギリたっぷりのバルボルを垂らしておく。
理想は、粘性の違うバルボルを調合するのだが、電話を切るとまもなく反応があった。
「すばらしい音です!」
やっぱり、ベルトのせいではなかった。
田尻タンノイ氏のお話によると、
「ここは都会じゃないからね、そのボーボーいう音、近所にさわりがあってはね」
先年なくされた御母堂のお言葉であった由、楽器もオーディオも、
弁慶の泣き所は大音量なのか。
2006.5/7