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『いわさきちひろ ~27歳の旅立ち~』 (2012) / 日本

2012-07-14 | 邦画(あ行)


監督: 海南友子
エグゼクティブプロデューサー: 山田洋次
出演: 黒柳徹子 、高畑勲 、中原ひとみ 、檀れい 、松本善明 、松本猛
ナレーション: 加賀美幸子

観賞劇場: ヒューマントラストシネマ有楽町
公式サイトはこちら。


いわさきちひろさんは大好きな絵本作家ですが、物心ついて彼女の作品を手にした時はもう既に彼女はこの世の人ではなく。
子ども心に、この素晴らしい絵の作者は一体どんな人だろうという想いもありましたが、それから絵本はしばらく私の興味から外れ、時々ふと思い出すだけの存在になっていました。
そこに本作公開を目にし、昔心を震わせた記憶が甦って来ました。
あの時は子どもの心でしか、絵でしかわからなかったいわさきさん、果たして今見つめてみたらどうなるのでしょうか。


いわさきちひろ wiki



その作風からは想像できないほどの虚無感を抱えて生きた少女時代、そして最初の結婚。 27歳で全てを捨てて絵に命を懸けた彼女の絶望と不安が入り混じる当時の自画像。 そこには全てを失ってこれからの展望が全く開けない姿と同時に、これ以上失うものは何もないという、ある意味開き直った心境も伺える。
何もない中から少しずつ、1つずつ作り上げていく。 そこに後のパートナーとなる松本善明との出会いがあり、彼と支え合うことによってちひろ自身も成長し、絵本作家として羽ばたいていく。


戦前戦後、物がなく、また家族もバラバラであり女性の生き方自体も多様性が認められなかった時代に、ちひろの生き方はある意味「あり得ない」ことの連続だった。 家を捨てること、女性が自立すること、絵本作家になること、年下の夫を持つこと、どれもがその当時の女性にとっては選択してはいけないことばかりだったに違いない。 周囲に説得されて泣く泣く自分の夢をあきらめた女性たちも多かったことだろう。 
しかしちひろはそうはしなかった。 何故なら彼女には最初の結婚という、人生から消し去りたいくらい悲痛な体験があったから。 全く意に沿わぬ、そして受け入れ難い体験。 誰とも、何も共有できない生活は彼女にとっては手足をもがれたに等しい苦痛だった。 その轍は踏まぬ、その彼女の決意がその後の人生を決めた。


作風についても、妥協することをよしとしなかった。 どんなに生活が困窮しようが、最終的には自分の世界を追求したちひろ。 それは家族の支えなくしては出来ない作業だったに違いない。
息子の猛を授かったことは同時に、彼女の絵に多大な影響を与え、また発展をもたらした。 母となった喜びは絵の隅々にまで溢れ、躍動感が出てきた。 我が子を見つめるまなざしの優しさや、慈愛というものはそのまま彼女の絵から滲み出る安らぎになり、多くの読者を獲得した。 
そして見逃してはいけないのは、絵本作家の権利における彼女の功績である。 「原画は原作者に原本のまま返還される」という当たり前のことが確立されていなかった時代にこの主張を打ち出したのは、ひとえに絵に対しての愛情ゆえのこと。 愛する絵を読者に届けた後までも大切にしたい、そして作者もきちんと尊重されるべきという考えは、今に至る土台ともなっている。 この功績を映画できちんと描いたことは素晴らしい。


『ビューティフル アイランズ』でドキュメンタリー映画の監督として名を挙げた海南監督。 本作ではちひろが訴えたかったこと、遺したこと、生涯をきちっと追いかけ、彼女を知る上で重要な手引きとして完成させている。 たくさんの関係者と資料を統合する作業は大変だったと思うが、章建て形式であっても内面の葛藤にまで踏み込むことができている。


辛い体験があるから出来ることがある。
夢を捨てずに叶ったのも自分が周りを支え、また支えられたから。
いわさきちひろさん、伝えたいことをひたすらに追いかけた生涯は、その花のような作風からは想像だにしない壮絶さを持った、力強いものだった。


★★★☆ 3.5/5点





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