作家の眉村卓さんが11月3日,85歳で死去した。本紙朝刊1面の読者投稿「朝晴れエッセー」の選考委員を務める作家の玉岡かおるさんが、追悼文を寄せた。
追悼 眉村卓さん -作家 玉岡かおる
出典:産経新聞 2019-11-14 17面
選考会では、生意気にも私は何度も先生と意見が衝突、この場に書き尽くせないバトルを交わした。そのたび寛容に笑っていらした先生。あの思い出を糧とするのは今後の私の宿題かもしれない。何より今は心から、ご冥福をお祈りするばかりである。
小説を書くこと、それが生きる根源であり、生きる限りは書き続ける。さらりとそうおっしゃり、まだ次の小説の構想がありますからね、と微笑(ほほえ)んでおられたから、今日もどこかで、取材用のメモ帳に小さな文字を書き込んでおられるような気がしてならない
妻に捧げた1778話 (新潮新書) | |
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新潮社発行 眉村卓著 |
眉村さんは数年前からがんを患い,先月8日から体調を崩し入院していた。亡くなる直前までベッドの上で執筆活動を続けていたという。常々眉村さんは「年月と体験を重ねれば考え方も変わる。その時々にもか書けない作品がある」とも話っていた。正直いって眉村さんの愛妻ぶりとは正反対の我が身ではあるが,自分の活動分野では,"生涯現役”を貫くつもりである。
家庭を省みない身勝手な我が身の不遜を恥じて,『妻に捧げた1778話』を読み返し,その一節を以下に綴る。
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余命は一年、そう宣告された妻のために、小説家である夫は、とても不可能と思われる約束をする。しかし、夫はその言葉通り、毎日一第のお話を書き続けた。五年間頑張った妻が亡くなった日、最後の原稿の最後の行に夫は書いた ー 「また一緒に暮らしましょう」。妻のために書かれた一七七八篇から選んだ十九篇に、闘病生活と四十年以上にわたる結婚生活を振り返るエッセイを合わせた、ちょっと風変わりな愛妻物語。
1778「最終回」 194ページ~197ページ
とうとう最終回になってしまいました。
きっと、迷惑していたことでしょう。
きょうは、今のあなたなら読める書き方をします。
いかがでしたか?
長い間、ありがとうございました。
また一緒に暮らしましょう。
(一四・五・二八)
あとがきより 203ページ~204ページ
そして……私は思うのである。人と人がお互いに信じ合い、共に生きてゆくためには、何も相手の心の隅から隅まで知る必要はないのだ。生きる根幹、めざす方向が同じでありさえすれば、それでいいのである。私たちはそうだったのだ。それでいいのではないか。
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