Minor Swing @Room

ジョニー・デップ他日常あれこれ

『雪の狼』(グレン・ミード)

2009年09月10日 23時07分23秒 | 
 

Amazonより
40数年の歳月を経て今なお機密扱いされる合衆国の極秘作戦「スノウ・ウルフ」とは?冷戦のさなかの1953年、酷寒のソヴィエトにおいて、孤高の暗殺者スランスキー、薄幸の美女アンナ、CIA局員マッシーたちが、命を賭けて達成しようとしたものは何か。

今まで少々読んできた要人暗殺モノとは趣の異なる作風という印象です。
というのも、最終目的より登場人物の人生に重点が置かれているせいでしょうか。

実は“スターリン”にちょっと引いてしまったのが本音。
歴史が面白かったのは世界四大文明までなので(笑)その後の歴史は苦手なのです。
入り組んだ歴史うんぬんだったらヤダな~と敬遠していましたが、
全ては杞憂に終わりました。

感想:Aランク★★★★★五つ星贈呈。

スパイ・スリラーとしてストーリー的にワクワクドキドキ。
そこに深い人間ドラマの哀切極まりない余韻が尾を引いて、
これは私の中でトップクラスの位置付けとなりました。

平和な日本の温かい日差しの中、寝ころんでページをめくる幸せを感謝したくなるほど、
本の中の世界はあまりにも真逆でした。

骨まで凍えそうなシベリアの大地、
国民を恐怖に陥れる独裁者、
無実の罪を着せられ銃殺される人々、
両親を奪われる子供たち、
寒さと飢えと暴力と拷問と、あらゆる悪に翻弄されるソビエト国民。

スターリンの狂人ぶりはヒトラーといい勝負だったのですね。
そして相互監視や密告に某国を忍び…。
独裁者による国民の犠牲は計り知れない悲劇を生むと痛感させられます。

さて、そんな世界に身を置く訳アリの二人、
暗殺者アレックス・スランスキーと、ソビエトを脱走した美女アンナ。
この二人が恋に落ちるのは明々白々。
というか、このパターンはほんっっとに多いですね。
そういうのを好んで読んでいるというのが実情でしょうが、
この本は恋がそれほどメインでもないというところが気に入ってます。

その二人に関わる重要人物は、
暗殺者スランスキーをソビエトに潜入させたCIAのジェイク・マッシー。
彼らを追うKGBのユーリイ・ルーキン少佐。

テンポよく話は進み、スターリン暗殺の時まで着々と歩みを進めていく訳ですが、
どのような過程を辿るかという読みどころの上に、
登場人物たちの凄まじくも哀しい過去が被さり、
CIA側の思惑、それから敵対するKGBの驚きの陰謀が明らかとなる頃には、
読みながら胸が詰まり、この手の本では極めて稀な“涙ぐむ”という事態に陥りました。

“愛”という言葉が陳腐な響きに聞こえるかもしれませんが、
無味乾燥になりがちな政治色の濃い物語なのに、
凄まじく哀しいストーリーが普遍的な愛を浮き彫りにしています。

それぞれの運命から聞こえる哀哭の声が、
凍てつくシベリアの大地を渡ってページの間からこぼれて来るような余韻。
灰色の空を舞う雪のように絶え間なく降り積もる哀しみが、
本を閉じた後いつまでも続いているような…。

明かされる衝撃の事実は“まさか!?”度120%。
そういうオチどころに弱いです。

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1 コメント

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はじめまして (タナケイ)
2014-12-09 19:41:33
困りますね。こんなレビュー書かれては。残業続きですが、読まないと気か済まなくなるじゃないですか。ジュンク堂にも置いてなくて注文しました。他の本押しのけて読み始めたところです。いい本といいレビューに出会えて感謝してます。
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