Minor Swing @Room

ジョニー・デップ他日常あれこれ

『アドルフ』(コンスタン)

2010年02月26日 00時40分01秒 | 
(文庫うらがきより)
若くして倦怠に悩みながら田舎町に住むアドルフは、愛されたい、女を征服したいとの動機から、貴族の情婦エレノールに恋心を抱く。しかし望みを果たしてみると、耐えがたい重荷を感じて彼女と手を切ろうとあせる…。

以前感想を書いた『肉体の悪魔』と並び称されるコンスタン作『アドルフ』。
フランス恋愛心理小説の古典であります。

うら若き乙女のころ、たぶん『肉体の悪魔』と同時期に読んだと思われます。
『あっちも怖いけど、こっちも負けず劣らず怖い』と感じた記憶があります。

この度再読してみました。
その感想は・・・。
『全くオトコってやつは…。でも私がオトコだったら身につまされるに違いない』

これでもかこれでもかと畳み掛ける、利己的な男性心理のオンパレードです。
その胸の内側にある背筋も凍る残酷な想いが、
手に取るように分かっちゃうのが怖いところです。

(本文より)
胸は恋を欲し、虚栄心は成功を要求していた時に、突然目の前に現れたエレノールを見て、
この人ならばと思った。


このようにして始まったアドルフとエレノールの恋。
初めは軽いアプローチでした。
ところが狩りに熱中する男の本能が目覚めたのか、
次第に熱烈な恋の炎に身を焼き、恋に囚われたアドルフ。

一方、初めは拒みつつも、数々の甘い言葉と情熱に撃沈されたエレノールは、
恋する女街道まっしぐらに突き進むことになります。

そしてひととき、完璧な愛の幸福の中に浸る二人。

しかし・・・。
人の夢と書いて儚いと読む。
めくるめく甘美な恋が存在する時間はあまりにも短いのです。

(本文より)
恋の結ばれた当初から、この恋の永遠であるべきことを、
信ずることができないような男にはわざわいあれ!
今得たばかりの愛人の腕に抱かれながら、すでに不吉な予感を持ち、
いつかはこの腕から逃れることもあろうかと見越すような輩にはわざわいあれ!


恋が満たされたとたんに束縛を感じ、瞬間冷却するアドルフ。
一方、彼の心を繋ぎ止めたくて必死にすがるエレノール。
こうなってくると、結果は神様じゃなくても分かり切ってます。
こうして愛の泥沼劇場の幕は切って落とされたのでした。

(本文より)
愛していて愛されないのは恐ろしい不幸である。
だが、もはや愛していない時に情熱的に愛されるのは更に大きな不幸である。


なんて的確な格言でしょうか。
『アドルフ』にはこんな唸るような名文がそこかしこに散りばめられています。

どんな感じで物語が進行するかと言いますと、
アドルフ冷める→エレノール悲しむ→アドルフなだめる→そしてまた避ける→
エレノール泣く→アドルフ言い訳をする→エレノール責める→アドルフ謝る→
そして逃げる→エレノール激怒→アドルフ謝罪→やっぱり逃げる・・・(エンドレス)
優柔不断オトコここに極まれり、です。

小さな諍いだったものが何度も繰り返すうちに激しさを増し、
やがて全てを破壊するとてつもない嵐となって、二人の心を引き裂いて行くのです。
苦しむアドルフ。悲しみに沈むエレノール。
もはや愛とは呼べない傷付け合う関係から、どうしても逃れられない二人の悲劇。

かつては美しかった愛が、
見るも無残な屍となって朽ち果てて行くその破壊力の凄まじさ。
そこがこの小説の醍醐味かと思います。

ラストを書いても特に問題はないと思いますので書かせて頂きますが、
アドルフの本音を知って、エレノールはショックのあまり倒れてしまいます。
やがてそれは死に至るのですが、エレノール亡き後のアドルフの言葉。

『私は胸が張り裂けるような苦しみと、呼んでも帰らぬ永別の恐ろしさをひしひしと感じたのである。(中略)
かつてあんなにも未練のあったあの自由が、今はどんなにか重苦しいことだろう!
かつてしばしば私を激昂させた束縛のないことが、どんなに物足りなく思われることだろう!』

…なんて勝手な。
それはきっと死んだからこそ湧き上がる想い。
『うそだよ』なんて起き上ったらアドルフは何と言うでしょうか?
『死んで下さい』に3000点。

愛は、生かす力と破壊する力を同時に秘めた魔物。
天使の顔と悪魔の顔のリバーシブル。
使用上の注意をよく読んで、用量を守って服用するようにしましょう。

『言葉を信じちゃいけない。男は行動が全て』…私の座右の銘です。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
めちゃくちゃおもしろかった (るみりん)
2010-03-21 07:48:57
Reiさんのお日記を読んだだけで
アドルフとエレノールの恋の行方が
分かりました!!
こういった文体のお話しは苦手なんで
この日記を読ませて頂き、読了したことに
するでがす。だめ?
この二人のような愛し、愛され、逃げ、傷つけ…
なんて恋愛の経験はございませんが
男はズルイことを平気でする、ってことは
知ってるデス~
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るみりんさん (Rei)
2010-03-24 20:49:29
るみりんさん、こんばんは
遅くなってすみませんでした

面白かったって言って頂けて嬉しいです

>この日記を読ませて頂き、読了したことに
ふふふ。。OKだと思います(笑)
とても薄っぺらな文庫ですが中身は濃厚ですよ~!

>この二人のような愛し、愛され、逃げ、傷つけ…
はい。これぞ修羅場(爆)
アドルフの本心を知るとお経を唱えたくなります。

>男はズルイことを平気でする、ってことは
>知ってるデス~
あははは~ご存じですか!(笑)
ズルイことをしながらけっこうビビりだったりね。
アドルフくんがまさにそれです。
そんな男を愛してしまったエレノールの自己責任、
と言ってしまうにはあまりに可哀想なんですよね。
ガンガン言い寄ってきてこれだもの(笑)
でもオトコの共通事項かもしれませんね。
しかも万国共通の。
お互いくれぐれも気をつけましょうね!!(笑)


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