「……えーと、とりあえずもう大丈夫なんだな? じゃあ俺出るから服着てくれ……」
「はい……」
そして廊下に出る。しかしせっかく目の前にあいつが居なくなったと言うのに、
代わりにと言わんばかりにさっきの光景が勝手に頭の中で再生される。
「うっわ……」
見られた側ではなく見た側だってのに、
猛烈に恥ずかしくなって廊下に出てすぐのところでしゃがみこんで頭を抱える。
……そりゃあ俺だって年頃の男子ですから見たことぐらいありますよ? そういうものは。
でもそれは紙やらなんやらの媒体を通してのものであって、
現実の、しかも自分が好きなやつのそれだなんて……
あれ? でもそれってよく考えたら一番まともじゃないか? だって彼女だし……
ああでもなんだこの恥ずかしさは! まともだからこそむしろ恥ずかしいのか!?
それとも俺がおかしいだけか!? 普通はどう感じるもんなんだこういう時!?
と誰が答えるわけでもない問いをぐるぐると繰り返していると、
「……何してるんですか? 明さん」
真後ろのドアが開く音と頭上からの声。
「へ? あ、いやいやなんでもない」
振り向きつつ立ち上がり、平静を装った。
この状況で頭抱えてるってどう考えてもやらしいこと想像してると思われそうだからな。
……実際そうなんだけど。でもセンはそんな俺を冷やかすでもなく、
「ごめんなさい。心配して来てくれたのに、
水かけた上に気を失って余計手間取らせちゃって……」
まだかすかに赤みが残る体を曲げて、暴れたことと気絶したことを詫びるのだった。
「いやまあ、あの状況じゃ仕方ないだろ。堂々とされても俺が困るしな」
「ど、堂々なんてできるわけないでしょう!?」
といつもの調子に戻ったところで、
「まあ、無事でよかったよ。寝たまま湯に顔突っ込んでたら溺れてたかもしれないし」
「そうですよね。本当にありがとうございました」
そうそう。お前は『ごめんなさい』より『ありがとうございました』のほうが似合ってるよ。
「しかし自転車降りた時といい風呂で寝たことといい、
やっぱお前疲れてるんじゃないのか?
だとしたらもう布団で寝とけよ。電気消しても構わんから」
「うーん……自分ではそんな感じはないんですけど……
そうですね、大人しく寝ておきます。明日も早いですし」
そう言って頷いた後、
「それではごゆっくり」
と言い残して忘れ物のエプロン片手に台所へ向かう。
それを見届けて俺も風呂に入ろうと脱衣所のドアに手を掛けた時、
「あそうだ。明さん、ちょっとお願いがあるんですけど」
「なんだ?」
再度センに声をかけられた。
「一度ベッドで寝てみたいんですけど……寝る場所交替してもらっていいですか?」
「ん? 別にいいけど」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
いいけども。
「布団はどうする? お前が使ってるやつのほうが上等だろうし、入れ替えるか?」
俺のベッドは組み立て式で布団部分とは別々になっている。
なので俺の布団より上等であろうお客様用の布団に入れ替えるのも簡単だ。
まあ布団の下に安っぽいマットが引いてあるだけなので大して寝心地も変わらんと思うが。
「私が使ってるお布団のほうが上等なんですか? だったら今のままでいいですよ。
ベッド借りた上にお布団まで良いほう使わせてもらうのは申し訳ないですしね」
「いや、そんなに拘るもんでもないと思うけど……そこまで違いもないだろうし」
「違いがないならいいじゃないですか。わざわざ変える必要もないってことでしょ?」
どっちにしても変えないと言い張るので、
「まあ好きにしたらいいよ。俺はどっちでもいいから」
折れることにした。言い負かされたとも言うかな? この場合は。
「ありがとうございます!」
センが上機嫌そうに台所へ消えたのを確認して、今度こそ風呂へ。
「ふぅ…………ん?」
湯船に浸かると、湯の中の何かが視界の隅を通り過ぎた。探してみると……
「ありゃ、暴れた時に取れたんだな」
センが指につけていたばんそうこうだった。
そりゃああんな勢いで水ぶちまけてりゃなあ……って、思い出すなよ馬鹿か俺!
「さっさと上がろう……」
風呂がこんなに居辛いと思ったのは初めてだ。通常、風呂は好きなんだがな。
いつもより早く風呂を済ませて部屋に戻ると、部屋の電気は点いたままだった。
「すぅ……すぅ……」
ベッドには早くも眠りについたセンと、その枕元には今日獲得した人形が並ぶ。
よくもまあこんな明るい所で眠れるもんだ。……やっぱ疲れてたんだろうな。
「はい……」
そして廊下に出る。しかしせっかく目の前にあいつが居なくなったと言うのに、
代わりにと言わんばかりにさっきの光景が勝手に頭の中で再生される。
「うっわ……」
見られた側ではなく見た側だってのに、
猛烈に恥ずかしくなって廊下に出てすぐのところでしゃがみこんで頭を抱える。
……そりゃあ俺だって年頃の男子ですから見たことぐらいありますよ? そういうものは。
でもそれは紙やらなんやらの媒体を通してのものであって、
現実の、しかも自分が好きなやつのそれだなんて……
あれ? でもそれってよく考えたら一番まともじゃないか? だって彼女だし……
ああでもなんだこの恥ずかしさは! まともだからこそむしろ恥ずかしいのか!?
それとも俺がおかしいだけか!? 普通はどう感じるもんなんだこういう時!?
と誰が答えるわけでもない問いをぐるぐると繰り返していると、
「……何してるんですか? 明さん」
真後ろのドアが開く音と頭上からの声。
「へ? あ、いやいやなんでもない」
振り向きつつ立ち上がり、平静を装った。
この状況で頭抱えてるってどう考えてもやらしいこと想像してると思われそうだからな。
……実際そうなんだけど。でもセンはそんな俺を冷やかすでもなく、
「ごめんなさい。心配して来てくれたのに、
水かけた上に気を失って余計手間取らせちゃって……」
まだかすかに赤みが残る体を曲げて、暴れたことと気絶したことを詫びるのだった。
「いやまあ、あの状況じゃ仕方ないだろ。堂々とされても俺が困るしな」
「ど、堂々なんてできるわけないでしょう!?」
といつもの調子に戻ったところで、
「まあ、無事でよかったよ。寝たまま湯に顔突っ込んでたら溺れてたかもしれないし」
「そうですよね。本当にありがとうございました」
そうそう。お前は『ごめんなさい』より『ありがとうございました』のほうが似合ってるよ。
「しかし自転車降りた時といい風呂で寝たことといい、
やっぱお前疲れてるんじゃないのか?
だとしたらもう布団で寝とけよ。電気消しても構わんから」
「うーん……自分ではそんな感じはないんですけど……
そうですね、大人しく寝ておきます。明日も早いですし」
そう言って頷いた後、
「それではごゆっくり」
と言い残して忘れ物のエプロン片手に台所へ向かう。
それを見届けて俺も風呂に入ろうと脱衣所のドアに手を掛けた時、
「あそうだ。明さん、ちょっとお願いがあるんですけど」
「なんだ?」
再度センに声をかけられた。
「一度ベッドで寝てみたいんですけど……寝る場所交替してもらっていいですか?」
「ん? 別にいいけど」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
いいけども。
「布団はどうする? お前が使ってるやつのほうが上等だろうし、入れ替えるか?」
俺のベッドは組み立て式で布団部分とは別々になっている。
なので俺の布団より上等であろうお客様用の布団に入れ替えるのも簡単だ。
まあ布団の下に安っぽいマットが引いてあるだけなので大して寝心地も変わらんと思うが。
「私が使ってるお布団のほうが上等なんですか? だったら今のままでいいですよ。
ベッド借りた上にお布団まで良いほう使わせてもらうのは申し訳ないですしね」
「いや、そんなに拘るもんでもないと思うけど……そこまで違いもないだろうし」
「違いがないならいいじゃないですか。わざわざ変える必要もないってことでしょ?」
どっちにしても変えないと言い張るので、
「まあ好きにしたらいいよ。俺はどっちでもいいから」
折れることにした。言い負かされたとも言うかな? この場合は。
「ありがとうございます!」
センが上機嫌そうに台所へ消えたのを確認して、今度こそ風呂へ。
「ふぅ…………ん?」
湯船に浸かると、湯の中の何かが視界の隅を通り過ぎた。探してみると……
「ありゃ、暴れた時に取れたんだな」
センが指につけていたばんそうこうだった。
そりゃああんな勢いで水ぶちまけてりゃなあ……って、思い出すなよ馬鹿か俺!
「さっさと上がろう……」
風呂がこんなに居辛いと思ったのは初めてだ。通常、風呂は好きなんだがな。
いつもより早く風呂を済ませて部屋に戻ると、部屋の電気は点いたままだった。
「すぅ……すぅ……」
ベッドには早くも眠りについたセンと、その枕元には今日獲得した人形が並ぶ。
よくもまあこんな明るい所で眠れるもんだ。……やっぱ疲れてたんだろうな。
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