「ああ、そうしてやってくれ。
……すまん。お前だってあいつと最後まで一緒に居たいんだろうけど」
「いいっていいって。
それより、日永君も上手くやってよ? そっちのほうが大事なんだから」
「……センにはちょっと、悪い気もするけどな」
自分で提案しといてなんだが、上手くいくか解らない割に酷い方法だと思う。
岩白には帰ってもらわなきゃならないし、センには………
そう考えたら自分にだけ都合のいい方法だな。
だったらそのことを後悔しないためにも、絶対成功させるっきゃないな。
「その代わり、上手くいったら目一杯甘えさせてあげてね。私の目は気にしなくていいから」
「無茶言うなよな」
「日永君がしなくたって、あいつが自分からするでしょうけどね」
「…………だろうな」
あまりにも容易にその光景が浮かんで、ついつい口が緩む。
お馴染みになったこんなやりとりももしかしたら最後になるかもしれない。でも、
「ふふ。本当、日永君たちと一緒に居ると楽しいわ」
俺もこいつも、不安よりも希望のほうが勝っていた。
打ち合わせが済むと、あとは皿の食材をさっさと平らげる。
「さてと。それじゃあ行きますか!」
「ああ」
二人分の皿を流しに放り込み、自分の部屋へ。今回ばかりは皿洗うのは後回しだ。
「あ、おかえりなさい。どうでした春菜さん? まともなお昼ご飯でしたか?」
部屋に戻るなりのその問いに、岩白は質問者の前に座り込む。
「最近の冷凍食品は侮れないわね。思ってたより美味しかったわよ」
「それは良かったです」
他愛無い会話といつもの笑顔で緊張感の欠片もない。
でも、岩白は言わなくてはならない。
「あのね、セン。私、どうしても帰らないといけなくなっちゃって……」
「え。そ、そうなんですか?」
「うん……ごめんなさい」
どうして帰るのかは、まだセンに教えるわけにはいかない。
上手くいくかどうか解らないからってのもあるし、もう一つの重要な意味もあるからな。
「そうですか……ちょっと残念ですけど、仕方ないですよね」
ちょっとどころじゃないのはそのうつむき加減を見れば解るが、
そうさせているのが俺である以上何も言えなかった。
そして数秒間を置いてセンが顔を上げる。
「…………あの、春菜さん。さような……」
それを言おうとするのにどれだけの勇気がいるのか見当もつかないが、
最後の一文字を言い終わる前に岩白がセンに抱きついた。
「馬鹿。ここに居なくたって携帯で話はできるんだから。
私、あんたにそんなこと言わせるために帰るんじゃないんだからね」
「……うぅ……でも……」
「泣かない泣かない。そんなのあんたには似合わないんだからさ」
それはセンをなだめる様な口調だった。
しかしセンの肩の上では岩白もまた、涙を流していた。優しい表情のままであったが。
そして俺が見ていることに気が付くと口の前で人差し指を立ててから涙を拭き、
「ねえ。日永君にもこんなふうに慰めてもらったりしたことある?」
「うっ……あ、ありますけど……?」
「私じゃだめなのかな~」
「そ、そんなこと、ないです。もうちょっと待ってください」
「あんたの泣いてる顔なんて見たくないから、泣きやむまでこのままね」
お互いの肩の上に顎を乗せたままでそれから一分ほど経っただろうか。
途中何度か岩白が眼鏡の下に指を潜り込ませていたが、
「春菜さん、もう大丈夫ですよ」
震えのない声を合図に岩白がセンの肩から離れる。
「うん、こっちのほうがいいわ。最後に見たのが泣き顔なんて嫌だからさ」
手が動かないせいでまだ残っている頬の涙を、岩白が指で取り除く。
「えへへ、そうですよね。ごめんなさい」
「まあ私が泣きそうだったってのもあるんだけどね」
泣きそうどころか泣いてたくせに。
「それにしても春菜さん、胸大きいですよね。さっきまで当たっちゃってて」
「なっ、何言い出すのよこんな時に……そうでもないと思うけど?」
胸元を見下ろす。「こんな時に」とか言っといて自分も話に乗ってるし。
「それで『そうでもない』だったらわたしなんてどうなっちゃうんですかぁ」
確かに。
「『そうでもない』じゃなくて『ない』かしら?」
……確かに。
「むぅ~……同い年なのにぃ……」
そういう問題じゃ……って言うかそもそもそんな話する場面じゃないような。いいけどさ。
……すまん。お前だってあいつと最後まで一緒に居たいんだろうけど」
「いいっていいって。
それより、日永君も上手くやってよ? そっちのほうが大事なんだから」
「……センにはちょっと、悪い気もするけどな」
自分で提案しといてなんだが、上手くいくか解らない割に酷い方法だと思う。
岩白には帰ってもらわなきゃならないし、センには………
そう考えたら自分にだけ都合のいい方法だな。
だったらそのことを後悔しないためにも、絶対成功させるっきゃないな。
「その代わり、上手くいったら目一杯甘えさせてあげてね。私の目は気にしなくていいから」
「無茶言うなよな」
「日永君がしなくたって、あいつが自分からするでしょうけどね」
「…………だろうな」
あまりにも容易にその光景が浮かんで、ついつい口が緩む。
お馴染みになったこんなやりとりももしかしたら最後になるかもしれない。でも、
「ふふ。本当、日永君たちと一緒に居ると楽しいわ」
俺もこいつも、不安よりも希望のほうが勝っていた。
打ち合わせが済むと、あとは皿の食材をさっさと平らげる。
「さてと。それじゃあ行きますか!」
「ああ」
二人分の皿を流しに放り込み、自分の部屋へ。今回ばかりは皿洗うのは後回しだ。
「あ、おかえりなさい。どうでした春菜さん? まともなお昼ご飯でしたか?」
部屋に戻るなりのその問いに、岩白は質問者の前に座り込む。
「最近の冷凍食品は侮れないわね。思ってたより美味しかったわよ」
「それは良かったです」
他愛無い会話といつもの笑顔で緊張感の欠片もない。
でも、岩白は言わなくてはならない。
「あのね、セン。私、どうしても帰らないといけなくなっちゃって……」
「え。そ、そうなんですか?」
「うん……ごめんなさい」
どうして帰るのかは、まだセンに教えるわけにはいかない。
上手くいくかどうか解らないからってのもあるし、もう一つの重要な意味もあるからな。
「そうですか……ちょっと残念ですけど、仕方ないですよね」
ちょっとどころじゃないのはそのうつむき加減を見れば解るが、
そうさせているのが俺である以上何も言えなかった。
そして数秒間を置いてセンが顔を上げる。
「…………あの、春菜さん。さような……」
それを言おうとするのにどれだけの勇気がいるのか見当もつかないが、
最後の一文字を言い終わる前に岩白がセンに抱きついた。
「馬鹿。ここに居なくたって携帯で話はできるんだから。
私、あんたにそんなこと言わせるために帰るんじゃないんだからね」
「……うぅ……でも……」
「泣かない泣かない。そんなのあんたには似合わないんだからさ」
それはセンをなだめる様な口調だった。
しかしセンの肩の上では岩白もまた、涙を流していた。優しい表情のままであったが。
そして俺が見ていることに気が付くと口の前で人差し指を立ててから涙を拭き、
「ねえ。日永君にもこんなふうに慰めてもらったりしたことある?」
「うっ……あ、ありますけど……?」
「私じゃだめなのかな~」
「そ、そんなこと、ないです。もうちょっと待ってください」
「あんたの泣いてる顔なんて見たくないから、泣きやむまでこのままね」
お互いの肩の上に顎を乗せたままでそれから一分ほど経っただろうか。
途中何度か岩白が眼鏡の下に指を潜り込ませていたが、
「春菜さん、もう大丈夫ですよ」
震えのない声を合図に岩白がセンの肩から離れる。
「うん、こっちのほうがいいわ。最後に見たのが泣き顔なんて嫌だからさ」
手が動かないせいでまだ残っている頬の涙を、岩白が指で取り除く。
「えへへ、そうですよね。ごめんなさい」
「まあ私が泣きそうだったってのもあるんだけどね」
泣きそうどころか泣いてたくせに。
「それにしても春菜さん、胸大きいですよね。さっきまで当たっちゃってて」
「なっ、何言い出すのよこんな時に……そうでもないと思うけど?」
胸元を見下ろす。「こんな時に」とか言っといて自分も話に乗ってるし。
「それで『そうでもない』だったらわたしなんてどうなっちゃうんですかぁ」
確かに。
「『そうでもない』じゃなくて『ない』かしら?」
……確かに。
「むぅ~……同い年なのにぃ……」
そういう問題じゃ……って言うかそもそもそんな話する場面じゃないような。いいけどさ。
ところで「ない」のはどうですか?
なんて質問も今更ですがね。
初めて出てきた時からそういう設定でしたし。
まあしかし文章の世界だとそういう表現は楽ですね。
体の特徴を書いておけば、
読み手側の方達が最適化してくれますから。
例えば「美人」だとするならわたしの中の美人像がどうあれ、
読んだ方達の中でそれぞれ最適な美人になりますし。
と言ってもそれにあぐらかいてちゃ駄目なんでしょうけどね。
精進せねば。