あの大学時代の、馬鹿なオレ。その8 【 ずれ 】

2023-08-15 02:32:33 | 馬鹿なオレ

新入生として、

キャンパスを初々しく

歩いていたとき

 

田舎から、上京したばかりの、オレには、

あか抜けて大人にみえた、先輩貴族からの声かけで、

魔法のテントに、いざなわれた。

オレは、騙された。

ハイキングに、毛が生えたようなものだと思っていた。

憶えていますか、

ドラマ『ふぞろいの林檎たち』 で、

ワンゲル同好会を立ち上げた男子たちは、

彼女たちと出会ったんです。

そんな、記憶もあったんでしょう。

受験勉強から、解放されて、

自然に、ふれてみるのも、いいものかなぁとも、

思ったんでしょう。

当時、BE−PAL(ビーパル)って、

アウトドア雑誌を、立ち読みしたり、

椎名誠や、野田知佑の、

本を、読んだりしていた、ことも、あったんでしょう。

その時は、わさび色のテントは、隠されており、

軽量でキレイなそしてカラフルな

魔法のテントでの勧誘だったんです。

 

渡り鳥でなく、

鷺( 詐欺 さぎ )だった。

 

入部して、現実を目の当たりにして、数人が辞めた。

初めての合宿で、体を壊したものもいた。

オレは、最初の合宿で、

新しい山靴「 ざんぐつ 」が、足に合わず、

かかとの手前の両足、左右の内と外の両側に、

五百円玉の大きさの、皮がむけて、

紅い血が覗く靴ずれを

同じような大きさに、四つの靴ずれを作った。

おまけに、背中の腰骨の上に、

五百円玉の大きさのザックずれを、

上下に、二つ、作った。

つまり、靴ずれが、四つに、

ザックずれが、二つ、

あわせて、大きさで五百円玉、六つ分、

つまりが、五百円×六ヶ所=三千円分のずれを作った。

三千円分の、ずれは、

結果的には、治療費の方が大きく、

三千円より高くついた。

 

すでに、何を言っているのか?

頭の中から、ずれ、始めている。

 

2週間程、足を引きずって、歩いた。

眠るのも、背中がつかぬよう、横を向いて、眠った。


辞めると告白した新人部員への、

執拗な引き留めを、目の当たりにしていたので、

オレは、伝統から足を洗うのが、

とても面倒に思えていた。

ツライ合宿より、辞めると宣告する方が、

随分と面倒に、思えていたのだ。

馬鹿の、とうとう、取り返しのつかない、

末期症状への兆候は、

もうすでに、この時から、

ずれずれとしてたのだ。

 

それでも、

2年生の秋の正部員合宿を終えて、

晴れて、正部員の肩書きと、平民の地位とを手に入れ、

伝統からの訣別を、決めた。

 

2年生になってみて、1年坊主より荷物が軽量化され、

こんなに、ザックが、軽いのかと思ったし、

ピークで、景色を見ながらタバコを吸う余裕も、

地図を見る余裕も、出来てきていたんだが、

 

別に、登山とか、重い荷物とか、

不合理な学生の遊戯とか、

このワンゲルというものの伝統を、

オレが、守り継ぐ気は、もう、なかった。

 

もともと、ドイツからの輸入品を、

日本独自の亜流に、変えてしまって、

それを、伝統って、言っても、

もう一度、明るいところで、

照らし見直したらって、感じだ。

 

同じパーティの同期の奴は、

オレ同様に、勧誘で騙され、

山も、このワンゲルも、好きになれないと言って、

早くオレと一緒に退部しようと言っていたんだが、

いざ、平民と言う正部員になってみると、

体育会のブランドを、就職に有利だと、見通してか、

長い歴史の先輩とのコネクションを期待してなのか、

山が好き、ワンゲルが好きというより、

打算で続けようとしている同期たちと同様に、

ワンゲルを続けることを選択していた。

 

もちろん、登山が好き、ワンゲルが好き、という

純粋派も当然いた。

 

しかし、オレには、どちらにしても、

部員でいる事が、どうでもよく思えたし、

彼らのように、到底、その打算に、

なにかを、これ以上、賭けようとする天秤も

持ち合わせていなかった。

 

つまりは、不甲斐ない、性根のない、

世間からも、同期からも、打算も、算盤も、純粋も、

ずれた、馬鹿なオレ、だった。

 

結果、退部をそそのかした同期の奴は、

4年で、主将の座を掴み、超有名企業に、就職した。

 

別に、妬んではいないが、これもひとつの道である。

 

嘘だ、世渡り上手だなぁと、ある意味、大人だなぁと、

オレには無いものを持つ才に、

ちょと遅れを感じてはいたのは事実だが、

その才に着いて行けるほど成熟はしていなかった。

むしろ、その社会へと出る準備の束縛から

まだ逃げたかった。

 

 

退部を告げた、オレに、

当時のパーティのリーダー、

大神様から、戴いた御宣託は、

平民にも、わかる言葉で、意外に、俗っぽかった。

 

辞めるに当たって、

同期の仲間との関わりを、

どうする、どう考えるのかってこと、と、

 

辞める理由として、

これから、どうするのかって、ことだった。

 

オレがだした、大神様への答えは、

 

ひとつめは、

ワンゲルを辞めても、

付き合う奴は、付き合うでしょうし、

そうでなければ、それまで、です。って答え。

 

ふたつめは、

カヌーをやりたいから。と、いう答えを出した。

なぜか、当時、一部で、流行っていたからか、

カヌーイスト野田知佑の影響か?、

つい、口から、デマをふかした。

 

そんなオレを、オレは、自嘲的に、笑い、

オレの方が、俗ぽっさに、遥かに、近かった、ことを、

オレに、懺悔した。

同期に、聞かれても、同じ答えをした。

誰も、それ以上のことは、言ってこなかった。

退部をそそのかした同期の奴は、

オレには、近づいて来なかった。

 

あれほど、新入部員への引き止めが、

執拗に繰り返しなされたのに、

さらっと縁が切れたのに、オレは、拍子抜けをした。

実は、ちょっぴり、さびしかった。

 

何をいまさら、馬鹿な、ずれたことを、

オレは、言っているんだ。

 

そんなことを、面倒だと、嫌で、避けて、我慢して、

計算づくで、面倒のない状況設定にまで、

持って行ったのは、オレじゃなかったのか。

 

ヒトって、なんて、

我儘で、身勝手で、実に、愚かな、存在であることか。

 

ひとつ、驚かされたのは、

同期の女子部員が、オレを好きだッ、ていうことを、

同期の男子部員づてに、聞かされたことだ。

 

男子と、女子は、もちろん、別々のパーティだ。

 

残念ながら、同じワンゲルということ以外に、

彼女のことを何も知らないオレには、

彼女への興味はなにも湧かなかった。

 

彼女からの、直接のメッセージも、何もなかったので,

同期の男子部員の、辞めるオレへの、

からかいなのか、冗談だったのか、と思って、

そのことを、片付けた。

 

オレが、退部して、

彼女も、程なくして退部した、と、風の噂で耳にした。

彼女とは、何もなく、それっきり、だった。

 

 

そして、

この道のりは、つづく、

 

 

初出 17/09/09 06:01 再掲載 一部改訂