「仙娥」というのは中国の仙女、とくに月に昇った伝説が古くから語り継がれている(紀元前の書物にもその名が見える)美女嫦娥(じょうが)のことを指す。
伝説の美女の名を持つ滝なのだ。
嫦娥の伝説は、古くから語り継がれてきただけあって、いろいろな他の伝説と結びつきアレンジを加えられてきたようである。月に昇った経緯についても様々な物語がある。
嫦娥は実は悪妻で、夫が手に入れた不老不死の仙人になれる薬を盗み出して独り占めにし、夫を見捨てて月に昇っていってしまった、今ではヒキガエルに姿を変えている、などという非道い話もあれば、また別の話では、嫦娥は夫の留守中に仙薬を奪われそうになり、奪われるくらいならと仕方なく自分で飲んでしまったがゆえに、とうとう一人で月の精にならざるをえなくなった。今では夫と離ればなれになり月で寂しがっている、といったけなげな話もある。
さて悪女の嫦娥と善女の嫦娥、どちらがより一般的なイメージなのだろうと愚考してみたが、嫦娥の名前は中国の月探査衛星「嫦娥1号」にも採用されたことから察するに、どうやら現代の中国人は嫦娥をおおむね好感を持って捉えているようで、つまるところ嫦娥悪女説よりは嫦娥善女説のほうが一般に知れ渡っているのではないかと想像される。
ところで私が読んだことがある嫦娥の昔話には仙薬は出てこない。
代わりに嫦娥が飲むのは月の光である。
すなわち、「あるとき后羿(こうげい)という弓の名人が別の男と弓の腕前比べをした。后羿はきれいな瓶を用意し、月を狙って弓を射た。すると射落とされた月の光が見事その瓶の中に入ったもので、相手の男もすっかり感服してしまった。
月の光は卵の黄身のようで不思議な香りがした。
后羿はその瓶を妻の嫦娥に渡し、盗み見たり盗み食いをしたりしないよう言いつけて外出した。
好奇心をくすぐられた嫦娥が、どうにも我慢できなくなって瓶の中身をのぞいたところ、不思議な匂いが鼻をつく。ひとさじだけとすくって食べてみたら、ついついもうひとさじと止めることが出来なくなり、しまいにはすっかり平らげてしまった。
家に帰ってきた后羿は嫦娥が月の光を食べてしまったことに気がついた。后羿は激怒して刀を抜いて嫦娥に斬りかかる。嫦娥は家の外に逃げ出した。后羿も追いかけて外へ出たが、月の光を食べた嫦娥はまるで羽が生えたかのように宙に浮かび上がって、そのまま月の宮殿へと飛んで行ってしまいましたとさ。」
名人の后羿さんが弓を持って追いかけてこなくてよかったなというお話でした。
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