月の瓶詰~ブログ版~

こぼれゆく時の欠片を瓶詰に。

愛読書をめぐって。

2011-01-25 16:16:21 | モノガタリ
採用面接を行う際、愛読書についての質問は
その人の思想に踏み込む危険があるから要注意だという。
そんなものか、と思っていたけれど。


今は昔、まだ就職したての頃。
「おっとりしているね」とよく言われた。
単純に大人しくしていただけなのだが、
久々の新卒採用だったから、それが新鮮に映ったのだろう。
いつの間にか、深窓の令嬢らしいという噂が立っていたり。
(皆、目が節穴…。)

それが、しばらく経つうちに
「いやいや。彼女はこう見えて、いろいろ隠し持ってるから」
と言われるようになった。


というのも。
ある時、同じ方面から通っている人と、本の話になった。

「いつも本を読んでるよね。何の本?」

公共交通機関で通学するようになった頃から、
ちょっとした空き時間に文庫本を読むのが習慣になっている。
バス停で、駅で、車内で。隙あらば本を開く。
それを目撃されたらしい。

「最近は歴史小説ですね」
「歴史ものというと、司馬遼太郎?」
「いえ、司馬さんは肌に合わないので、北方謙三さんとか」

…(- -;

どう考えても。
「わたし、森の奥でお花や小鳥さん達と歌うのが好きなんです♪
 ル~ルル~♪ラララ~♪♪」
ってなお嬢さんだったら、北方センセとは答えないわな。

大河ドラマ=「太平記」の私にとって、
綺羅星のごとき北方作品群は欠くべからざる存在。
特に『悪党の裔』!
天下を取るのではなく、天下を決したい。フフ。
(あ、もちろん南北朝だけでなく『草莽枯れ行く』等々もステキ。)


あまり化けの皮がはがれるのもまずいので、
それからは答えを少々調整することにした。


ある時の飲み会にて。

「読書が好きなんですねえ。私も図書館に行ったりするんですけど、
 お勧めの作家ってあります?」
「浅田次郎さん、いいですよ」

嘘ではない。
長編短編問わず、歴史もの、ピカレスク…、とにかくいい。
そして、本のジャングルと化した私の部屋でも、
浅田センセのサイン本だけはきちんと飾ってある。

「へー。人気ありますよね。『鉄道員』とか?
 読んだことないんですけど、何が一番いいですか?」

「日…」

待てよ。
『日輪の遺産』って、答えていい部類の作品かな。
とても好きなんだけど…、
何かこう、あやういものをはらんでいる気がする。

「ほへ…。とらた…」

『歩兵の本領』も『殺られてたまるか!』も、余計マズイ!
好きだけど。面白いけど!

「…『天切り松』、ですね」

よしっっ、大正解!!

しかし落ち着いて考えてみれば。
『地下鉄に乗って』とか『蒼穹の昴』とか…
たくさん、好きな作品があった訳で。
人間、落ち着きを失ったらいけない。


今年。
映画「日輪の遺産」がついに公開される。
難しい作品だ、と制作に携わった方々が仰せなので、
原作の志から大きく外れることはないかな。
とはいえ、期待半分、不安半分。
堂々と
「映画にもなった『日輪の遺産』が好き」
と言える日が来ることを祈りつつ。


コメント
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