月の瓶詰~ブログ版~

こぼれゆく時の欠片を瓶詰に。

ちゃんと物語を終えるために―映画「室井慎次 敗れざる者」感想。

2024-10-20 16:13:40 | モノガタリ
ふと寂しくなるのは、自分自身ではなく、周りの人たちの年齢を感じたときだったりする。
旧友の結婚式で、親御さんが杖をつかれていたのを見たとき。
バリバリ働いていた職場の先輩が、いつしか定年を指折り数えるようになっていたとき。

映画「室井慎次 敗れざる者」。

あれだけ出世欲でギラギラしていた新城さんが、
終着地(どこで定年を迎えるか)について語っていたり。
かつて湾岸署地域課にいた森下さんの帽子の下が、白髪だったり。
時の流れに泣きました。取り戻しようがない日々…。


…で、肝心のストーリーはあまり頭に入らず(^^;


全体的なトーンは「容疑者 室井慎次」や「誰も守ってくれない」に近いかな。
監督は君塚さんでなく本広さんだから、緊張が緩和するシーンもありはするけれど。
それが上すべって見えるくらい、哀しさがあるというか。
「結局、何も変えられなかった」
その悔いが、見ているこちら側にあるからなのかもしれない。


腐っていた洋梨。


でも希望は描かれていて、タカや駆け出しの弁護士さんも、
戸惑いながらつまずきながら、明日を切り拓いていくのだろう。
それを見守るのが「大人」の役割ということかな。
物語の中心にいた登場人物たちは、舞台を降りて次の世代につないでいく。
かつての副総監や和久さんたちのように。

そうそう、日向真奈美の娘である杏、福本莉子さんの演技が素晴らしかったです。
あの匙加減…。放送中のドラマ「全領域異常解決室」でも素敵に怪しい!
楽しみな役者さんです。


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語られる真相は真実か―『終りなき夜に生れつく』を読んで

2024-09-08 15:48:45 | モノガタリ
前回の更新…こんなに前でしたっけ!? ということで。
何だかんだ、仕事に追いまくられる日々を送っております。
そのわりに、ついっ…じゃなかった、X方面には
ちょくちょく出没しておりますが(^^;

そうそう。

コロナ禍を経て、我が職場でもメールでなくチャットが
連絡の主流となったのですが、若手は顔文字を使わないんですよね。
絵文字はそれなりに入れるようなのですが。
でも「(^^;」はあくまで「(^^;」で、
絵文字で完全には代替できないんだよなーと、
ワタクシは気にせず使っております。
もう、ここまで行くと好みの領域。変なこだわり。

さてさて。

アガサ・クリスティー作『終りなき夜に生れつく』(ハヤカワ文庫)を
読みました。きっかけはhontoあたりのメルマガだったかな。
小中学生の頃はクリスティー作品をよく読んでいましたが、
手に取るのはかなり久々。

アガサ・クリスティーといえば、あの作品やこの作品の
あっと驚くトリックがミステリー界の金字塔なのはもちろんのこと、
やはり稀代のストーリーテラーなのだなあと。
その圧倒的力量に魅せられた一作でした。

終盤、それまで見えていた景色―少しばかりの違和感を含んでいた世界が
違う意味をもって立ち上がってくるのですが、それは必ずしも真実でなく。
その人物の本心は、案外文字通りだったのではないか。
そう気づいた瞬間に、大きな愛がそこにあったことを知ることになるのです。

あたたかくて、やさしくて、決して儚くはなかったはずのもの。
喪わなくて済むはずだったもの。
降りかかったのではなく、選択の末の結末。

(とはいえ、いずれは破綻していたような気もする訳ですが…)

切なくもうつくしい恋愛小説でした。

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『鎌倉殿と執権北条氏』、雑感。

2022-05-01 15:38:11 | モノガタリ
春。我が職場も新人を迎え、また新たな一年が始まった。
ここ数年はコンスタントに若手を採用しているから、
職場の平均年齢も随分若返った。

就職した時、私は十数年ぶりの新人だった。
だから、すぐ上の先輩であっても、年齢はそれだけ離れている。

時流れて。

この採用の空白が、時限爆弾のように効いてきている。
役職を務められる人がいないのだ。
片っ端から手当たり次第に昇任させているが、それでも足りない。
単純に、数が足りないから。適性の前に、ソモソモいないのだ。

部長は課長を兼ね、課長は課長補佐を兼ね、課長補佐は係長を兼ね…
それで何とか、組織としての体裁を保っている。
しかしながら、部長には部長の仕事があり、
現実的には課長の仕事まで取り組める訳ではない。
課長も然り。課長補佐も然り。
実際の仕事は、どんどん下流へと流れてゆく。

かくして。

ワタクシもとうとう、ヒラにして係長業務デビュー!(^^;

うーむ、こういう仕事、柄じゃないんだがなあ…。
とはいえ、降りかかる火の粉は払わねばならぬ。その一心で奔走する毎日。

ふと、考える。

大河ドラマに登場するような歴史上の人物は、どうだったんだろう。

柄じゃねえんだよなあと思っていたのか。
それとも、千載一遇のビッグチャンスとばかり、胸を躍らせていたのか。


大河ドラマ「鎌倉殿の13人」考証チームのひとり、坂井孝一先生の
『鎌倉殿と執権北条氏 義時はいかに朝廷を乗り越えたか』(NHK出版新書)を
読みました。

元々三部作扱いと知ってはいたものの、タイトルからして
これさえ読めば一番手っ取り早いのではないか…など
セコイことを考えたのは内緒です(^^;
しかしまあ、うまく重複を避けてありまして。
『承久の乱』と『源氏将軍断絶』も読まねばならぬか…。(※ポチっと注文)

個人的には、タイトルどおりの部分よりも伊東氏周辺が興味深かったです。
ただ、八重さんの件はどうなのかなあ…。
きっと坂井先生はいい人なんだろうな、とは思いましたが(^^;
だって、「江間再嫁」の意味をあのように読み解かれるのですから。
私は当然、監視だと思っていましたからね…(^^;;
それに、近くに異母姉がいる環境こそ、罰を身に染みて感じさせるにうってつけ…


(^^;;;;;


あ、大河は今夜の回もどす黒い展開ですね。鎌倉初期、そうでなくては!

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負けに不思議の負けなし―『日本軍兵士』を読んで

2021-10-11 17:50:41 | モノガタリ
山下曲はこれからも聴くし、いきものさんのファンも続けるし、
我らが帝王櫻井さんの結婚には正直安心したし(※待ってました派)、
相変わらずの模範解答にはさすがやねーと思ったし…
とあれこれ原稿を考えているうちに、『呪術廻戦』第17巻で思考が爆発四散しました(^^;
そんなこんなで二次小説方面は当分書けそうにもないので、
とりあえず随分前に読んだ新書本の感想から。

積読本のひとつ、
吉田裕 著『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)を読みました。
記録によれば、2年前に入手していたようです。
確か店頭でたまたま見かけて買ったはず…。
こういう出会いも、コロナ禍で随分少なくなってしまいました。
昨年は書店自体がしばらくお休みでしたし、そうこうしているうち
週末に出かける習慣自体がなくなって、もうネット書店でいいや…と。
でも、ネット書店で買う場合は決め打ちなんですよね。
偶然手に取るということは、ほぼない。

さて、この本。
帯には「2019新書大賞第1位」、
「2018年度アジア・太平洋賞特別賞」との記載がありますが、
購入した決め手はそれでなく。
歴史小説を読んでいると、しばしば問題になってくるのが兵站の話。
かの大戦の折、
あれだけ拡大した戦線において兵站をどう維持していたのか、
素朴な疑問として元々関心がありました。

で、兵站の維持ですが…。(遠い目)

もう数頁読んだ時点で、
敗色濃厚を通り越して負けるしかないことが分かってしまうのですよ。
本来であればとても合格できないような人々が、
さしたる訓練もなく武器も持たされず(!)戦地に送り込まれる。
揚力で威力が削がれてしまうにも関わらず、あえて用いられる航空特攻。
開発が追い付かず弾が戦車に通用しないため、陸上でも特攻。
食料に飯盒や水筒等の道具。衣類に背嚢。
通信機器。土木作業のための重機。医療。
何もかもが不足している。
分かってはいてもどうしようもないから、そのまま突き進むしかない…。

非常に読みやすい文章で、淡々と突きつけられる事実の数々。
そして何となく、この精神構造は各組織(特に危機管理の局面)で
今も脈々と受け継がれているような気がするのでした。


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読みやすさとは―『執権 北条氏と鎌倉幕府』を読んで

2021-05-16 17:25:22 | モノガタリ
いよいよ来年、大河ドラマに鎌倉北条一族が帰ってきます \(^^)/
…ということで、いろいろもろもろそろそろ思い出しておかねばまずいなと。

細川重男(著)『執権 北条氏と鎌倉幕府』(講談社学術文庫)を読みました。

細川先生のお名前は、ついったーの中世史クラスター界隈でもよく目にしておりまして。
今回の「鎌倉殿の13人」は、どうやら細川先生系の義時さん像になりそうという予感もあり。
まずはこの本だろう、と手に取った訳です。

北条義時、果たしてどういう人物か。

わたくし、鎌倉北条一族を推しておりますが、何を隠そう
その中でもダントツ不動の一位が北条義時ドノなのでございます。
すべての始まりは吉川英治さんの『新・平家物語』。
ああいう、冷ややかなまでの頭の良さ…いや、あの作品は清盛さんが最高なのですがね。
甘さを捨てきれないところが…

ええと、何の話でしたっけ(^^;

そうそう、それで順当に永井路子さんの作品群へと向かいまして、
鎌倉初期のあれこれ(※詳しくは来年の大河で是非!)が大好きになり。
時おりしも、大河ドラマ「北条時宗」の影響で各書店には関連書がずらり。
奥富敬之先生の『鎌倉北条一族』や
安田元久先生(編)の『鎌倉・室町人名事典 コンパクト版』等々、
懐かしの新人物往来社にはとりわけお世話になりました。

さて。
歴史関係の本といえば、どういう読者を想定しているかで
その内容はかなり異なってきます。前提とする知識のレベル、そして文体。
小説や、作家による歴史エッセイ。これは一般読者を想定しているので、当然易しい。
著者が研究者でも、大河ドラマにあわせて書店が並べているような本、これも易しい。

さあ、そこで今回の『執権 北条氏と鎌倉幕府』です。
原本は講談社選書メチエ。うーん、ちょっと読むのに骨が折れそうだなあ…と思っていました。

結果として。
確かに、少々読みにくい部分がありました。
でもそれは、内容が難しすぎたからでも、文体が硬かったからでもありません。
その逆です。…くだけすぎていて読みにくい(^^;

内容は確かです。
義時さんと時宗さんに絞って書いてありますが、
「はじめに」の言葉を借りれば、きちんと「基調低音」の響きが分かります。
執権・得宗というものを概観するにはお薦めの一冊です。
それだけに、何だかちょいちょいアレなのが若干気になるところ…(^^;;
いや、意外に義時さんを評価されているんだなとは思ったんですけどね。

あ、後半になるにつれ、普通の文体になっていくので読みやすくなります(^^;;;
内容は前半もまともなんですけどね…。そしてくだけていない部分の方が面白かったり…


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