危険を呼び込んだ安倍政権の安全保障姿勢 (再掲)
世界各地でイスラム過激派によるテロが横行し、東アジアでは北朝鮮による核、ミサイル開発が進み、南沙島の施設構築など中国の海洋進出が進んでいる中、安倍政権は新たな安保法制の下で米国との同盟関係を拡大強化し、安全保障面での積極的な姿勢を鮮明にしている。
このような世界や地域情勢の不安定な状況については多くの日本国民も認識しており、現政権の姿勢を好ましく受け止める向きもある。
しかし安全保障面での強硬姿勢を世界に発信すればするほど、これら諸国やグループは反発し、敵対姿勢をより鮮明にし、逆に日本に対する危険が増大する恐れも指摘されているところ、最近北朝鮮やロシアから次のような反応が示されており、歴史や情勢を見極めた熟慮ある対応が必要になっている。
1、北朝鮮による日本全域の標的化
北朝鮮が核とミサイル開発に邁進し、国連を含む国際社会からの批判が高まる中、安倍政権は、本年北朝鮮のミサイル発射が行われるたびに‘容認できない。現在は対話の時期ではなく、圧力を掛けるべき’との姿勢を声高に表明している。
5月26、27日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-7)において北朝鮮問題が取り上げられ、同首相より同様の発言がなされたことが報道された。これを受けて、5月29日、北朝鮮外務省は声明を発し、安倍首相がサミットにおいて、‘北朝鮮に対話ではなく、圧力を掛ける時だ’として、‘安保理制裁決議の厳格な実施と新たな決議の採択を唱えた’旨非難し、また日本の官房長官他の関係閣僚が‘個別の制裁’を画策しているとした。
そして同声明の結びにおいて、‘日本の米軍基地のみが北朝鮮戦略部隊の標的であるが、もし日本が現実を正しく理解せず、米国に追従して北朝鮮に敵対するのであれば、標的は変更されるだろう’と警告した。この声明において、北朝鮮は、‘同国の核戦力の推進は、米国の核戦争に向けてエスカレートしている動きに終止符を打つための自衛の権利の行使である’とし、核開発の目的は米国への対抗のためであることを明確にする一方、‘日本は、この北朝鮮の自衛行為に脅威や挑発とのレッテルを貼っている’として非難している。
北朝鮮の核、ミサイル開発は、歴史的に朝鮮戦争が休戦(1953年7月)となり、休戦協定の下で米・韓両国と北朝鮮の対峙関係の中で行われているもので、日本が第一義的な標的ではないし、ましてや朝鮮戦争の当事国でもない。北朝鮮側もその点は理解して対応していることは十分留意する必要があろう。
このような中で、日本は日本海に展開された米国の原子力空母2隻(カール・ビンソン及びロナルド・レーガン)と日本の海上自衛隊の護衛艦、航空自衛隊の戦闘機による日米共同訓練が6月1日、日本海の北陸沖で実施された。
保守系紙は、防衛省の発表に基づき、これを‘北朝鮮の挑発行為をけん制’との見出しで、写真入りで報じ、TVニュースでも画像と共に報じた。
北朝鮮の核、ミサイル開発は、日本としても見逃すことが出来ない。空と海を中心とした防衛策の強化が必要だ。他方、‘北朝鮮の挑発行為をけん制’というのは良いが、北朝鮮にとっては、北朝鮮の面前の日本海で米空母が日本と共同訓練すれば、それは‘米・日による北への挑発行動’と受け止められ、日本にもその敵意が向けられる恐れがある。ましてや、朝鮮戦争後、米・韓両国は北朝鮮と‘休戦’しているだけで軍事対立は終結していない。米国が北の核、ミサイルの開発、実用化に直面し、日本海に空母を派遣することは米国の判断であろうが、そのような歴史的、軍事的な状況を十分に認識せず、北朝鮮の面前の日本海で日本が米国の空母と共同訓練することは、災いや危険を日本に引き込む結果となる恐れがあり、見識が欠け、熟慮に欠ける行動と言えないだろうか。日米の共同訓練が必要であれば、太平洋等で行えば良く、敢えて北からの災いや危険を呼び込み、日本国民を危険に晒す必要はないであろう。朝鮮戦争再燃の場合には、日本は自国の防衛は別として、後方支援を中心に行うことが望ましい。
もっとも軍事・安保専門家や新保守グループが、脅威や危機を煽って日本の軍事強国化を図ることも考えられるが、それは日本にとって決して安全を確保する道ではないと言えないだろうか。
2、北方領土返還は前のめりの日米同盟強化で遠のく
6月1日、ロシアのプーチン大統領は、サンクトペテルブルク市で、各国の通信社代表等と会見した際、北方領土問題について、‘これら諸島が日本の主権下になれば、米軍が展開される可能性がある。ロシアにとっては容認出来ない’と述べ、安全保障上の懸念を表明した。
同大統領は、また、ロシアが北方領土において軍備を増強していることへの質問に答え、米軍が韓国に配備したミサイル防衛システム(THAAD)など、‘同地域で起きていること’への対応とした上で、‘ロシアにとって脅威を抑えるにはこれら諸島は最適の場所’と述べたと伝えられている。
ロシアが、ウラジオストックに繋がる日本海で先に実施された米国原子力空母と日本の海自、空自との共同訓練をどのように見ていたかは想像に難くない。日米関係を強化、拡大して行くことは良いが、沖縄普天間基地の辺野古への移設が実体的に米海兵隊基地を強化、拡大する形で進められていることや軍事・防衛分野での一連の日米連携の強化を強調すればするほど、北方領土の返還は遠のくことが懸念される。
3、イスラム過激派、イスラム国の‘聖戦’のターゲットとされた日本
安倍政権は、日米同盟の強化を図りながら、国際テロ問題を含め国際場裏での連携を保ちつつ‘積極的平和主義’を推進するとの姿勢を表明している。
その流れの中で、安倍首相は、2015年1月、エジプト等の中東諸国を訪問中であったが、最初の訪問国エジプトにおいて演説し、「人道支援、インフラ整備など非軍事の分野での支援」を新たに実施することを表明すると共に、イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、IS(イスラム国)がもたらす脅威を少しでも食い止めるためとしつつ、「人材開発、インフラ整備を含め、ISと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援」することを約束した。
その2日後に、「イスラム国」側から首相に宛てた2人の日本人人質に対する身代金要求と殺害予告が行われ、その後2人の日本人は殺害された。
日本が、国際テロとの戦いに各国と協力することは当然であろう。しかし“イスラム国”に対し、米、英両国を始めジョルダンなど50カ国近くの有志連合が“イスラム国”掃討のために連日のように空爆している最中に、日本が米国との同盟関係を強化し、集団的自衛権行使の実現を推進する中で、中東での反“イスラム国”諸国を支援することを表明すればどのような結果を招くかを十分認識すべきであろう。
中東の情勢は、歴史的にキリスト教、ユダヤ教、イスラム教という3つの宗教と部族集団が絡み、そしてフランス、イギリスの植民地支配を経て今日に至っており、複雑な歴史的背景がある。古くはキリスト教諸国による十字軍とこれに対抗するイスラム教徒による聖戦(ジハード)が対立し、戦後には長期化するイスラエル、パレスチナ間の中東紛争を抱えており、これがイスラム過激派アルカイーダのテロ活動の遠因となっている。日本は、歴史的に中近東においてキリスト教とイスラム教との対立に巻き込まれたこともなく、戦火を交えたこともない。そのような歴史的な関係をも踏まえこの地域との関係を考えるべきであろう。
現在、自民、公明連立政権が進めている安全保障政策は、日本の安全と平和のためと声高に言われているが、一定の効果はあるものの一面的であり、逆に危険を呼び込み、国民の危険を増大させる結果となっているので、歴史的な地域情勢などを総合的に考慮した姿勢が望まれる。日米関係の強化、拡大は今後とも日本外交の軸となろうが、軍事同盟化の強化、拡大を図るのであれば、核兵器大国米国の世界戦略と連携することより、危険も増大することを国民に十分説明の上進めることが望まれる。核兵器禁止条約に向けた国連決議において、日本が棄権するなら兎も角、米国の核抑止に依存しているため‘反対’票を投じたことも疑問とする向きもある。(2017.6.10.)(All Rights Reserved.)
世界各地でイスラム過激派によるテロが横行し、東アジアでは北朝鮮による核、ミサイル開発が進み、南沙島の施設構築など中国の海洋進出が進んでいる中、安倍政権は新たな安保法制の下で米国との同盟関係を拡大強化し、安全保障面での積極的な姿勢を鮮明にしている。
このような世界や地域情勢の不安定な状況については多くの日本国民も認識しており、現政権の姿勢を好ましく受け止める向きもある。
しかし安全保障面での強硬姿勢を世界に発信すればするほど、これら諸国やグループは反発し、敵対姿勢をより鮮明にし、逆に日本に対する危険が増大する恐れも指摘されているところ、最近北朝鮮やロシアから次のような反応が示されており、歴史や情勢を見極めた熟慮ある対応が必要になっている。
1、北朝鮮による日本全域の標的化
北朝鮮が核とミサイル開発に邁進し、国連を含む国際社会からの批判が高まる中、安倍政権は、本年北朝鮮のミサイル発射が行われるたびに‘容認できない。現在は対話の時期ではなく、圧力を掛けるべき’との姿勢を声高に表明している。
5月26、27日にイタリアで開催された主要先進国首脳会議(G-7)において北朝鮮問題が取り上げられ、同首相より同様の発言がなされたことが報道された。これを受けて、5月29日、北朝鮮外務省は声明を発し、安倍首相がサミットにおいて、‘北朝鮮に対話ではなく、圧力を掛ける時だ’として、‘安保理制裁決議の厳格な実施と新たな決議の採択を唱えた’旨非難し、また日本の官房長官他の関係閣僚が‘個別の制裁’を画策しているとした。
そして同声明の結びにおいて、‘日本の米軍基地のみが北朝鮮戦略部隊の標的であるが、もし日本が現実を正しく理解せず、米国に追従して北朝鮮に敵対するのであれば、標的は変更されるだろう’と警告した。この声明において、北朝鮮は、‘同国の核戦力の推進は、米国の核戦争に向けてエスカレートしている動きに終止符を打つための自衛の権利の行使である’とし、核開発の目的は米国への対抗のためであることを明確にする一方、‘日本は、この北朝鮮の自衛行為に脅威や挑発とのレッテルを貼っている’として非難している。
北朝鮮の核、ミサイル開発は、歴史的に朝鮮戦争が休戦(1953年7月)となり、休戦協定の下で米・韓両国と北朝鮮の対峙関係の中で行われているもので、日本が第一義的な標的ではないし、ましてや朝鮮戦争の当事国でもない。北朝鮮側もその点は理解して対応していることは十分留意する必要があろう。
このような中で、日本は日本海に展開された米国の原子力空母2隻(カール・ビンソン及びロナルド・レーガン)と日本の海上自衛隊の護衛艦、航空自衛隊の戦闘機による日米共同訓練が6月1日、日本海の北陸沖で実施された。
保守系紙は、防衛省の発表に基づき、これを‘北朝鮮の挑発行為をけん制’との見出しで、写真入りで報じ、TVニュースでも画像と共に報じた。
北朝鮮の核、ミサイル開発は、日本としても見逃すことが出来ない。空と海を中心とした防衛策の強化が必要だ。他方、‘北朝鮮の挑発行為をけん制’というのは良いが、北朝鮮にとっては、北朝鮮の面前の日本海で米空母が日本と共同訓練すれば、それは‘米・日による北への挑発行動’と受け止められ、日本にもその敵意が向けられる恐れがある。ましてや、朝鮮戦争後、米・韓両国は北朝鮮と‘休戦’しているだけで軍事対立は終結していない。米国が北の核、ミサイルの開発、実用化に直面し、日本海に空母を派遣することは米国の判断であろうが、そのような歴史的、軍事的な状況を十分に認識せず、北朝鮮の面前の日本海で日本が米国の空母と共同訓練することは、災いや危険を日本に引き込む結果となる恐れがあり、見識が欠け、熟慮に欠ける行動と言えないだろうか。日米の共同訓練が必要であれば、太平洋等で行えば良く、敢えて北からの災いや危険を呼び込み、日本国民を危険に晒す必要はないであろう。朝鮮戦争再燃の場合には、日本は自国の防衛は別として、後方支援を中心に行うことが望ましい。
もっとも軍事・安保専門家や新保守グループが、脅威や危機を煽って日本の軍事強国化を図ることも考えられるが、それは日本にとって決して安全を確保する道ではないと言えないだろうか。
2、北方領土返還は前のめりの日米同盟強化で遠のく
6月1日、ロシアのプーチン大統領は、サンクトペテルブルク市で、各国の通信社代表等と会見した際、北方領土問題について、‘これら諸島が日本の主権下になれば、米軍が展開される可能性がある。ロシアにとっては容認出来ない’と述べ、安全保障上の懸念を表明した。
同大統領は、また、ロシアが北方領土において軍備を増強していることへの質問に答え、米軍が韓国に配備したミサイル防衛システム(THAAD)など、‘同地域で起きていること’への対応とした上で、‘ロシアにとって脅威を抑えるにはこれら諸島は最適の場所’と述べたと伝えられている。
ロシアが、ウラジオストックに繋がる日本海で先に実施された米国原子力空母と日本の海自、空自との共同訓練をどのように見ていたかは想像に難くない。日米関係を強化、拡大して行くことは良いが、沖縄普天間基地の辺野古への移設が実体的に米海兵隊基地を強化、拡大する形で進められていることや軍事・防衛分野での一連の日米連携の強化を強調すればするほど、北方領土の返還は遠のくことが懸念される。
3、イスラム過激派、イスラム国の‘聖戦’のターゲットとされた日本
安倍政権は、日米同盟の強化を図りながら、国際テロ問題を含め国際場裏での連携を保ちつつ‘積極的平和主義’を推進するとの姿勢を表明している。
その流れの中で、安倍首相は、2015年1月、エジプト等の中東諸国を訪問中であったが、最初の訪問国エジプトにおいて演説し、「人道支援、インフラ整備など非軍事の分野での支援」を新たに実施することを表明すると共に、イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、IS(イスラム国)がもたらす脅威を少しでも食い止めるためとしつつ、「人材開発、インフラ整備を含め、ISと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援」することを約束した。
その2日後に、「イスラム国」側から首相に宛てた2人の日本人人質に対する身代金要求と殺害予告が行われ、その後2人の日本人は殺害された。
日本が、国際テロとの戦いに各国と協力することは当然であろう。しかし“イスラム国”に対し、米、英両国を始めジョルダンなど50カ国近くの有志連合が“イスラム国”掃討のために連日のように空爆している最中に、日本が米国との同盟関係を強化し、集団的自衛権行使の実現を推進する中で、中東での反“イスラム国”諸国を支援することを表明すればどのような結果を招くかを十分認識すべきであろう。
中東の情勢は、歴史的にキリスト教、ユダヤ教、イスラム教という3つの宗教と部族集団が絡み、そしてフランス、イギリスの植民地支配を経て今日に至っており、複雑な歴史的背景がある。古くはキリスト教諸国による十字軍とこれに対抗するイスラム教徒による聖戦(ジハード)が対立し、戦後には長期化するイスラエル、パレスチナ間の中東紛争を抱えており、これがイスラム過激派アルカイーダのテロ活動の遠因となっている。日本は、歴史的に中近東においてキリスト教とイスラム教との対立に巻き込まれたこともなく、戦火を交えたこともない。そのような歴史的な関係をも踏まえこの地域との関係を考えるべきであろう。
現在、自民、公明連立政権が進めている安全保障政策は、日本の安全と平和のためと声高に言われているが、一定の効果はあるものの一面的であり、逆に危険を呼び込み、国民の危険を増大させる結果となっているので、歴史的な地域情勢などを総合的に考慮した姿勢が望まれる。日米関係の強化、拡大は今後とも日本外交の軸となろうが、軍事同盟化の強化、拡大を図るのであれば、核兵器大国米国の世界戦略と連携することより、危険も増大することを国民に十分説明の上進めることが望まれる。核兵器禁止条約に向けた国連決議において、日本が棄権するなら兎も角、米国の核抑止に依存しているため‘反対’票を投じたことも疑問とする向きもある。(2017.6.10.)(All Rights Reserved.)