あめ~ば気まぐれ狂和国(Caprice Republicrazy of Amoeba)~Livin'LaVidaLoca

勤め人目夜勤科の生物・あめ~ばの目に見え心に思う事を微妙なやる気と常敬混交文で綴る雑記。
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零和不完全な僕ら

2014-10-14 10:45:00 | 日替わりchris亭・仮設店舗
現在、囲碁は三大タイトル戦の一つ「名人戦」が開催中で、4局終わって2勝2敗と白熱の展開。将棋も最高格のタイトル戦の一つ「竜王戦」の第1局が明後日に控えています。私は将棋は指せず観戦するだけのいわゆる「観る将」、囲碁についてはさっぱりですが、こんな本を読んでみました。歴史書籍レビュー、第百三回です。


増川宏一『遊芸師の誕生 碁打ち・将棋指しの中世史』(平凡社)

囲碁と将棋はどちらも日本において古くから人気のあるボードゲーム。「棋士」や「棋道」という言葉はどちらのゲームにも使うことができる、という点からもわかるように、昔からセットのように扱われてきました。
この2つが日本のボードゲームの中で特別なものである理由の一つとして、囲碁棋士・将棋棋士を徳川幕府が引き立て、俸禄を支給していたという事実があります。この本は、いかにして囲碁将棋が日本に広まり、ついには幕府が職業棋士を公認するに至ったのか、その過程をまとめた本です。

囲碁が日本に伝来したのは奈良時代前後、将棋の伝来についてはあまりはっきりしていないもののおそらく同じ頃ですが、漢字が読めないと遊べないためにやや普及が遅れた面はあるようです。どちらにせよ、中世になると公家や僧を中心に愛好者も増えて、盛んに遊ばれるようになっていました。
一方で、囲碁将棋は明確に勝負のつく遊びであったことから、賭けの対象にもなりました。むしろ、賭けになるので広まったと言えるくらいです。

この本ではそんな中世における囲碁将棋普及の実像が、様々な日記などの記述から読み解かれていきます。ある時は賭博の遊興、ある時は公家の収入源、ある時は密談の口実。世情の移り変わりとともに囲碁将棋の立ち位置も変化していく様は、さながら将棋の駒の取り合いのようで、思った以上にシステマティック。戦法などには一切触れないので、ルールを知らない囲碁の方もさほど苦なく読むことができました。

最後には「今後の課題」として、近世における話題とともに、これまでの囲碁将棋史観がいかに偏ったものであったかが力説されており、説得力のある内容となっています。ただし、この本自体が27年前と古いものであり、この本による問題提起がその後どのように結実したのかしなかったのか、新しい研究を見てみたいというのが正直な読後感でした。