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アンリ・バルダ ピアノリサイタル

2021年07月17日 |  pocknのコンサート感想録2021
7月15日(木)Pf:アンリ・バルダ
紀尾井ホール


【曲目】
1.モーツァルト/ロンド イ短調 K.511
2.モーツァルト/ピアノソナタ第8番 イ短調 K.310
3.ベルク/ピアノ・ソナタ Op.1
4.ドビュッシー/「版画」
5.ラヴェル/「クープランの墓」
【アンコール】
♪ ショパン/即興曲第1番 変イ長調 Op.29 & ワルツ第12番ヘ短調op.70-2

アンリ・バルダがどんなピアニストか知らなかったが、リサイタルのチラシに掲載されていたバルダの穏やかに年輪を刻んだ風貌から、じんわり感動が伝わる演奏を期待してチケットを購入した。

ステージに登場したバルダは、チラシのイメージよりラテン的な雰囲気をふりまいていた。椅子に座るや、いきなり弾き始めたモーツァルトのロンドは、これまで聴いたどの演奏よりもあっけらかんとして明るい。音はキーンと響き、どんなフレーズも勇ましいほど能動的に弾かれる。この音楽に欠かせないはずの陰影とか、メランコリックな空気はすべて吹き飛ばされた。続けて演奏したイ短調のソナタも同じ。優美さに憂いを秘めたイメージの第2楽章もスタスタと歩み、ワクワク感さえ伝わってくる。この楽章に限らず、というか他の楽章では更に、勇み足と思えるほど前のめりの印象で、なんだかせわしない。

ソナタのあと、ステージの袖に退場したバルダがなかなか出てこない。ホールのスタッフが「演奏者の要望でピアノを交換するため、しばらくお待ちください」のアナウンス。一瞬客席がざわついた。開演ぎりぎりまで調律が入っていたピアノ、バルダはお気に召さなかったようだ。

新たに持ち込まれたピアノ(こちらもスタインウエイ)で弾いたベルクのソナタ、陰鬱な表情や退廃的な匂いを孕む音楽のはずだが、音はひたすら良く鳴り、真っ直ぐ一辺倒の演奏。そしてまたもちょっとしたハプニング。インターバルを取らずに次のフォーレを弾き始めたと思ったら、演奏を中断して、首をひねって一息ついてから弾き直した。適当にごまかされるより、やり直した方がいいにはいいが、思索しつつひたひたと歩むフォーレ最晩年の曲も、やはり同じ調子でスタスタと進んで行った。

バルダのピアノの音は、澄んでいてどの音も芯まで響く。眩しいぐらいの陽光が感じられるのは素敵なのだが、表現されるのはそんな明るい光に照らされた「日向」の世界ばかりで影がない。モーツァルトもベルクもフォーレも、それだけでは表現しきれないと思うのだが。

後半のドビュッシーとラヴェルもやはり同じ調子ではあったが、最後のラヴェルの「クープランの墓」は、バルダのこうしたアプローチが最もフィットしていたようには思う。ギターをつま弾くような独特な節回しも、民族的な匂いを持つこの曲に相応しかった。ファリャとか弾くと、更にいい演奏になるのではないだろうか。

実際には何も知らずに初めて聴いたピアニストだから、イメージとかけ離れていても仕方ない。80歳という年齢、あの「演奏中断」はあったにせよ、テクニックは冴え、衰えの影も感じないバリバリのピアニスト。最後の方では「心の歌」も顔を覗かせた。本当はもっと様々な顔を持ったピアニストなのかも知れないが、今夜はそれに十分気づけなかった。

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