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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

青木尚佳ヴァイオリン・リサイタル

2017年10月06日 | pocknのコンサート感想録2017
10月4日(水)Vn:青木尚佳/Pf:中島由紀 
~第129回 スーパー・リクライニング・コンサート~
ハクジュホール


【曲目】
1.モーツァルト/セレナーデ 第7番ニ長調 K.250 「ハフナー」~第4楽章 ロンド
2.クライスラー/美しきロスマリン、愛の悲しみ、愛の喜び
3.R.シュトラウス/ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18
4.R.シュトラウス/ブシホダ編/歌劇「ばらの騎士」~ 「ワルツ」
【アンコール】
1.クライスラー/ウィーン風小行進曲
2.クライスラー/プレリュードとアレグロ

ロンドンを拠点に活躍の場を広げている青木尚佳さんは、彼女が10代の頃から僕が惚れ込んでいるヴァイオリニスト。今夜の会場の白寿ホール(HAKUJUHALL)は気になるコンサートをやることも多いが、意識的に避けていた。というのも、このホールの売りはリクライニングシートで「眠れるホール」がキャッチコピー。演奏会の前の日は飲み会など入れず、夜更かししないよう気をつけ、開演前にはコーヒーを飲み、コンサート中はフリスクを口に放り込み、せっかくお金と時間をかけて出掛けるコンサートで眠くならないように万全を期して臨む僕にとって、このホールのコンセプトは相容れない。

けれど尚佳さんのリサイタルということなら話は別だ。初めて訪れた白寿ホールはおしゃれで穏やかな静けさが漂う。客席はリクライニング状態の座席が空間に余裕をもたらす。調節してシートを起こすこともできたが、郷に入れば郷に従えで、角度は控えめにリクライニングで聴くことにした。小品を中心にして、そこにシュトラウスの重量級ソナタが入り、アンコールの2曲も含めれば、ソナタがちょうどプログラムの中央に置かれる構図。

最初の曲は、モーツァルトが貴族のサロン用に書いた、リクライニングで聴くに相応しい音楽。小綺麗に着こなした淑女たちがパーティーで上品に会話を楽しんでいる光景が目に浮かぶような演奏。ラフになりすぎず、キチッとした中にキラリとセンスが光る。何度かあらわれるカデンツァでは、そこからフワッと伸びをして、ちょっぴり夢見心地な気分になる。そんなときのヴァイオリンの伸びやかさ、音の美しさがまた格別だった。

続いてクライスラーの有名な3曲。ウィーンのホイリゲ(居酒屋)でほろ酔い気分の客に受けるような演奏もありかも知れないが、青木さんは、モーツァルトよりもリラックスして親密な空気を漂わせ、パーティー用から普段着に着替えてはいるけれど、着こなしのセンスは抜群で、どの曲も気高さを感じさせる演奏。3曲それぞれ固有のキャラクターをうまく捉え、空気感(匂いや温度や湿度)を自然に表現して行く。中島さんのピアノは柔らかな弾力性があって軽やか、ちょっとした目配せが拍のタイミングから伝わってきて、ヴァイオリンと楽し気にダンスをしているようだった。

そしてシュトラウスのソナタ。先週デュメイのリサイタルで受けた感銘に新たな感銘が加わった。全体から感じられるのはやはり前半と同様の瑞々しい気高さだ。若くて颯爽とした騎士が見事な身のこなしで馬を操ったり、女性をエスコートしたりする姿、それを見つめる淑女の気高くも憧れに溢れた眼差しが伝わってくる。これはシュトラウスの若書きの作品だが、円熟期の傑作「薔薇の騎士」の世界が、既にこの作品に溢れていることがリアルに伝わって来た。それに音楽の「立ち姿」の美しいこと。中島さんのピアノと二人、スポットを浴びてダンスを踊っているよう。そこには若々しく伸びやかな力がみなぎり、均整の取れた美しさがある。尚佳さんの表情、演奏する姿は自信に溢れて頼もしく、それがそのまま演奏に表れていた。

この後の「薔薇の騎士」、そして2曲のアンコールも含め、最高のフルコースを味わったような満足感。結局、スーパーリクライニングコンサートで眠りに誘われるどころか、覚醒しまくりだった。

青木尚佳/ブルッフ:スコットランド幻想曲ほか 2015.12.25 大和田 さくらホール

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