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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

藝祭2011 2日目 9月3日(土)

2011年09月03日 | pocknのコンサート感想録2011
9月3日(土)

E年オペラ:モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」(全2幕 原語上演)
~奏楽堂~

藝祭の目玉公演のひとつ、E年オペラ公演。演目は、これまでにもE年オペラ公演で何度も取り上げられた「コジ」だが、今回の「コジ」はそのなかでも総じてハイレベルの公演だった。

モーツァルトのオペラのなかでも、とりわけストーリーや、登場人物の気分がめまぐるしく変わっていくこの作品では、その場面場面の状況や、登場人物の思いが、お客にリアルに伝わり、場面に入っていけるかが大切。キャストは例によって1幕と2幕で総入れ替えだったが、そうした意味において、どの歌い手たちも、人物の心理描写や状況を活き活きと伝え、ワクワク&ハラハラ感を味わうことができた。

アンサンブルとしてのやり取りも多いこのオペラでは、当然ひとりでは実現できないことも多いことを考えると、これが実現できたのは大したもの。歌い手の学生達は相当に練習を積み、合わせも重ねてきたことだろう。もちろん成長途上にあるので、高音が辛い場面や、表現がちょっとストレート過ぎて、心の奥に秘められた思いをチラ見せするような微妙なニュアンスが欲しいと感じることなどはあったが、誰もがキャラクターの人物像と真剣に向き合い、いかにそれを出すかをきちんと理解し、自分なりに、確信を持って聴かせていることが伝わってきた。

そんなハイレベルの歌い手たちの中でも一際光っていたと感じたのは、1幕でフィオルディリージを歌った田村幸代さん。艶やかで気品のあるとびきり美しい声は、コントロールが行き届き、滑らかな歌い回しで、聴く者の心をくすぐってくる。高音域での淀みのない、澄んだ声も本当にきれい。フィオルディリージの心の陰影を細やかに表現し、誓いを生き生きと歌い聴かせたアリア「風や嵐にもめげず」には心底惚れ惚れした。
もう一人、2幕でデスピーナを歌った杉原藍さんも舞台でとても映えていた。小間使いと言えども恋や女の生き方を説く聡明さがキラリと光り、心にスーッと入ってくる。繊細で磨きのかかった美声で安定感も抜群だった。

この公演がハイレベルだったのは、才能ある歌手たちの健闘とともに、オーケストラの活躍も見逃せない。序曲の出だしのトゥッティの、鮮やかな響きの第一声から「おっ!」と嬉しくなる音を鳴らしたが、この期待感が聴き進むごとに嬉しい確信へと繋がった。水を得た魚のような新鮮な躍動感、ワクワクする活きのいいリズム感、瑞々しく歌心に溢れたヴァイオリンのメロディ、とても大切に歌う木管アンサンブル、気持ちのいい衝撃を与えてくれるトランペット… 歌に合わせるのも巧く、歌手達とのコラボレーションも見事。レシタチーボの弦の豊かな表情にも耳が引き寄せられた。プレイヤーのレベルの高さを見せつけたと同時に、これは指揮の川崎嘉昭さんの力も大きいはず。指揮する姿はよく見えなかったが、小気味よい息遣いが伝わってきた。川崎さんは芸大の声楽科を卒業後に指揮科へ入るという経歴。この経験が、オペラ指揮者に欠かせないドラマ性や全体の息遣いに非凡な腕前を発揮したのではないだろうか。

他愛ないストーリーだが、なぜか人の心を引き付け、夢中にさせ、最後の謎明かしの場面から和解へ至る場面ではじーんとした気持ちを味わわせてくれるのは、モーツァルトの卓越した作曲での人物描写と、その人物に注がれた愛の証。それを現実の音で伝えてくれた立派な公演だった。

あと、毎年読み応えたっぷりの充実した内容のプログラムが配られるのだが、今回はかなり薄かったのがちょっと残念だった…
作品発表会 作曲科有志
~第6ホール~

Pasinee Sakulsurarat/FEAR
青島佳祐/Réve pour clarinette et piano
逢坂裕/ソプラノサクソフォーンとピアノのためのスケルツェット「ウォルトンへのオマージュ」
天野由梨/3つの小品 ―独奏ピアノのために―
上田彩乃/白い窓
久保哲朗/Vier Stücke für Oboe und Klavier

(以上を聴いて、次の会場へ。。。)

作曲科1年中心の作品発表。曲はどれも小編成の小品。次の「やの家」に行く都合で、12曲のうち前半の6曲しか聴けなかったので、これらに限定した感想。

作曲科の学生は、藝大で作曲の腕を研くのが一番の目的だと思うが、入学半年に満たないこの時期でも、当然のことながらみんな相当な作曲技術は既に身につけている。多彩な音のパレットをうまく使い、とてもセンスのいい、耳に心地よい音楽や、心が踊るような音楽など、様々なタイプの曲を聴かせた。演奏も上手なので、なおさら曲の良さが引き立つ。何かのドラマの主題曲のような癒し系や元気系の感触の曲が並んだ。

ただ、僕が芸大の学生の作品から期待していたのはもっと意外性のある刺激。こういう「聴きやすい」音楽ではない。作曲の腕を磨き、万人に親しまれる売れる曲を上手く仕上げる訓練をすることも大切だろうが、殆どの聴衆が「なにこれ?」というなか、一人でも「スゲー」とか「おもしれー」と言うかも知れない音楽の創作に挑戦してもらいたい。音コンなどに出品するときは、恐らく今回とは全然違ったアプローチで取り組むのかも知れないが、作曲科の学生でも決してそうしょっちゅうはないであろう貴重な発表の場を、挑戦の場として使ってもらいたい

…と注文をつけたが、聴いた6曲のなかで印象に残り、「また聴いてみたい」と思った作品を2つ。
上田彩乃さんのピアノ作品「白い窓」の1曲目:真っ白なキャンバスに淡い色合いでサッと描かれた素描が、キャンバスを離れて飛びたち、空気の粒子と自由に戯れているような新鮮さがよかった。
久保哲朗さんのオーボエとビアノのための4つの小品:堅実ななかに、自由な発想やセンスの煌めき、高いテンションが感じられた。
「やの屋」~矢野顕子と芸大生によるコラボ 第1日
~体育館地下1階特設会場~

1.つながる愛
2.Re‘Piano
3.空の向こうに
4.Voice Candle
5.明日


E年オペラが終わったら、午後の整理券配布開始から30分も経っていた。お目当ての芸大バロックの整理券は終了… っつーか、残っているのは、作曲科1年の作品発表と「やの家」だけ。作品発表の方はもともと聴くつもりだった。もうひとつは「やの家」…え?、矢野顕子がでるやつ? 明日は絶対行くつもりだったが今日もやるの?ということで棚からボタモチのように、「やの家」の1日目を「体験」できることになった。場所は体育館地下1階特設会場で、藝祭パンフの演奏スケジュール表になかったので気づかなかった。

会場は空調もなく、熱気ムンムンでライブハウス感覚。作品発表をギリギリまで聴いていたので出遅れたのが幸いして、椅子席がなくなった代わりに最前列の直座りのスペースに案内された。あっこさんをこんな間近で見れるなんて!「やの家」って名前も妙だし「芸大生と矢野顕子のコラボ」っていったいどんなことが始まるのか想像がつかない。「絶対に来て良かった、って思える公演にします!」という主催学生の挨拶に、よくわからないが期待!

蒸し暑くキタナイ(失礼…)会場に、あっこさんがいつものライブの調子でフツーに登場。こんな近くであっこさんを見たらさぞ感動するかと思ったが、あんまりフツーに登場したので日常のひとコマのような感覚になってしまった。しかし、そこで繰り広げられた学生との一期一会のコラボは、あっこさんだからこそできる、超現実の音世界。あっこさんの音楽の奥深さに浸かり、芸大生の豊かな才能と若さが花開き、両者で作り上げられる不思議で魅力ある音楽の世界を堪能した。客席もこのパフォーマンスに加わり、通常の矢野顕子ライブでは体験できない聴衆参加型イベントを楽しんだ。

プログラムは、事前に矢野顕子から与えられた「希望」をテーマに、様々なコラボが繰り広げられるという趣旨に沿って5つから構成されていた。最初は「つながる愛」と題された、学生(高井史子さん)の制作した、シルエット状の樹木を描いた3つの大きな絵から得たインスピレーションをもとに、あっこさんがビアノで即興演奏。「目から入ったメッセージが脳で処理されて、指先に伝わった」という演奏は、3枚の絵が静かに交感しているような優しさが伝わってきた。

続いては邦楽器の入った学生のバンド(尺八:黒田慧さん他)とのセッション。これもあっこさんにとってはお手の物で、芸大生のお手並み拝見という感じだったが、普段は和服姿でお行儀よく演奏している邦楽科の学生が、ライブのセッションになれば思いきり弾け、特異な音色と発音をもつ尺八の特質を活かした演奏でセッションをフィーチャー、他のプレイヤーも全く億することなくノリノリで、あっこさんはピアノにボーカルも加え、「やの家」ライブは熱を帯びてきた。

3つめの企画は、譲り受けた廃棄直前のビアノに、作曲科の榎政則さんが精巧な仕掛けを施し、美校生が「胎内」をイメージしたという大胆な装飾を行い、これをあっこさんが演奏するというもの。この仕掛けピアノは各キーが電気的な処理で思いもよらぬ音を発する、現代版プリペイドビアノといったところ。あっこさんはこの精巧な「おもちゃ」を気に入った様子で、思いのままに珍しい音を楽しんでいた。ピアノの音源を制作した榎さんも普通のビアノで演奏に加わっている光景を見ていたら、坂本龍一(!)とやればどんなことになるかと想像が膨らんだ。

4番目の企画からは聴衆参加のコラボ。真っ暗になった会場であっこさんが語る物語を聞き、お客は入口で配られたLEDライトで思い思いにその物語のイメージを表現、正面のモニターには色とりどりの光が明滅し、揺れ動く。この画像を先端芸術表現科の田中翼さん作成の機械が感知し、あっこさんの声が電気的に処理され会場を飛び交い、幻想的な世界を現出させた。あっこさんの「イヤでもなんでも隣のひとと手を繋いでくださーい」という呼び掛けで、会場はひとつになった。この感覚は実際にこの場に居合わせないとわからない不思議な体験!

今夜の企画の最後は、学生(小田朋美さん、中村裕美さん)が作曲した「明日」という歌を、コーラスとバンドのバックであっこさんが歌い、コーラスには聴衆も参加。とてもファンタジー溢れる素敵な曲で、矢野顕子の持ち歌のように聴こえたのは、「矢野さんをイメージして作った」ためか、それともあっこさんが歌っているためか… いずれにしてもあっこさんが歌でフィーチャーすると、コーラスやバンドがアクティブに触発されたようにテンションを高め、会場からのコーラスも加わり、この暑苦しい会場が無限の広がりを持つ楽園のように感じられてしまうから不思議。

こうして「やの家」の1日目はあっこさん、芸大生、そして聴衆によって成功裡でお開きとなった。これは2日目がますます楽しみ。整理券、絶対にゲットするぞ!

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