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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

藝祭2011 3日目 9月4日(日)

2011年09月04日 | pocknのコンサート感想録2011
9月4日(日)

10人の芸大生による室内楽コンサートvol.2 ~Tammy’s QuintetとStrings~ 第1部
~第1ホール~

イベール/3つの小品
ミヨー/ルネ王の暖炉
モーツァルト/セレナーデ第11番 変ホ長調~第1、2、5楽章


初日に続き木管5人による演奏は、とても表現力に秀でた完成度の高いアンサンブルを聴かせた。イベールとミヨーというフランスものでは、陰影に富んだ音の表情をニュアンス豊かに描き、奥行きを作り出していた。それぞれのプレイヤーは丁寧に、かつ自然な表情で活き活きと、或いはたっぷりと自分のパートを歌い、お互いの「声」を合わせて、柔らかなで上品な響きを生み出していた。細やかなニュアンスまでとてもきれいに表現されていて、デリケートで香り高く、曲の持ち味が最高の姿で表れていたと言っていい。

モーツァルトも良かった。それぞれのパートが活き活きと瑞々しく、楽しげに歌い、それらが優しく調和して、ワクワクした幸せな気分を伝えてくれた。8人編成の原曲の楽隊的な賑やかさに比べ、5人のアンサンブルは風通しのいい軽やかな気分を運んできた。

第1部はここまでということで、弦楽器も交えたモーツァルトのオーボエカルテットや、シューベルトの八重奏曲など、プログラムに載っていた曲は第2部での演奏となる。これを聴くには別の整理券が必要ということ。元々11時からは雅楽を聴く予定だったが、こういう素晴らしい演奏を聴き、第2部の曲目を見ると、すごく聴きたくなってしまった!それほどに素敵で上手な5人の演奏だった。まとめてお名前を…
Fl:尾形誠さん/Ob:金子亜未さん/Cl:前田優紀さん/Hrn:根本めぐみさん/Fg:長哲也さん
雅楽専攻自主演奏会 雅楽専攻 with 東儀秀樹
~第6ホール~

舞楽「五常楽急」
JUPITER
三ツ星
Boy’s Heart
管絃「越天楽」

東儀秀樹が出演するというので聴いたこの演奏会、初めて生で聴いた東儀秀樹の篳篥からは、想像以上に夢幻の響きを感じた。この篳篥の音が、西洋音楽の楽器にはない音の微妙な揺らぎを持ってたゆたうと、独特な音色(ねいろ)が更に幽玄の世界へと誘う。そこに、笙と龍笛の音(ね)が唱和すれば、そこはもう桃源郷。

“JUPITER”などの耳慣れた心地良いメロディーが、本来のメロディーの持ち味を更に増して、優美な光を帯び、聴く者の心をとろけさせる。そもそも、こうした洋楽に雅楽の響きを持ち込んだのは、東儀さんのアイディアだったのだろうか。アルファー波をたくさん誘発しそうなこの音世界は、多くの人々を惹きつけるわけだ。

東儀さんの演奏の前に披露された、装束を整えた学生による舞楽もよかった。雅楽の響きに包まれて、二人の舞人が、シンクロしてつかず離れずゆっくりと形を決めながら、徐々にテンポを上げていく様子は、人の世と神々の世界をつなぐ、まさしく神事の儀式の観があった。また、雅楽器を副科として専攻している、邦楽科以外の学生も加わっての「越天楽」は壮観だった。
東京藝大バッハカンタータクラブ 日曜コンサート
~旧東京音楽学校奏楽堂~

バッハ/パルティータ第1番より
バッハ/カンタータ第93番「ただ愛する神の御手にゆだねる者を」BWV93
バッハ/ミサ曲イ長調BWV234


今回の藝祭の演奏スケジュールにはカンタータクラブの演奏予定が載っておらず、藝祭に来て初めて、今回は旧奏楽堂で行われることを知った。いつも一番楽しみにしているカンタータクラブの公演、藝祭の枠外という扱いであるにせよ、もう少し情報が欲しかった。

オープニングのチェンバロ独奏に続きお待ちかねのカンタータ。合唱では、女声の清らかで瑞々しい声による伸びやかな歌が、いつものようにカンタータクラブを聴く幸せを伝えてくれる。けれど、テノールパートが二人しかいないのは寂しい。ソロでは、谷垣千沙さんの歌唱から、以前聴いたときに増して奥行きのある表情を感じた。

続くミサ曲は、キリエとグローリアだけからなるミサ・ブレヴィス。短いけれど、合唱の部分が多いのが嬉しい。特に、グローリアの終曲は、各声部が活き活きと息づき、オーケストラも生命力を蓄え、華やかで輝かしい賛美の歌が響いた。アンコールは、この「クム・サンクト・スピリトゥ」だったらいいな… と思ったが、次の「やの屋」の開演が迫っていたので、本プログラムが終わってすぐに泣く泣く会場を後にした。

うーむ、でも言わせてもらうと、よかったにはよかったが、カンタータクラブの実力はこんなもんじゃない。これは2月に聴いた定期演奏会でも感じてしまったことだが… 思いつくのは、心の底からこみ上げてくる「歌」が十分に伝わってこないこと、それと、最後の磨き上げが十分に仕上がっていないのでは、と思う点。カンタータクラブを長年愛すればこその苦言、というか独り言ということで悪しからず。頑張れ、カンタータクラブ!
「やの屋」~矢野顕子と芸大生によるコラボ 第2日
~第6ホール~

1.映像と即興演奏 ひよこの夢
2.こころ ころころ
3.ケルト朗読劇 キケと人魚
4.やの屋ホカホカ音ごはん


整理券配布開始1時間10分前に並び、奥さんの分と2枚整理券をゲット。早めに配布を開始してくれたのは嬉しかったが、開演は1時間20分も遅れた。6ホールの前の公演が押せ押せになったしわ寄せらしい。でもあの昨夜の楽しいイベントの第2部ということなら、いくら待たされても我慢できる。

2日目の今夜は4部構成。最初は、デザイン科の山口直哉さんほか5人が制作した、なんともかわいいひよこの物語のアニメーションを見ながら、2台のピアノがそこに即興で音楽をつけるというもの。あっこさんのピアノの共演者は作曲科の山中淳史さん。あっこさんの柔軟で多彩なピアノは、いつ聴いても惚れ惚れするが、普段のライブでの演奏と同じクオリティーのものが、こうして即興で出てくることを目の当たりにして、改めて感動。あっこさんとコラボした山中さんは、中盤あたり、ちょっと独りで頑張り過ぎて「あっこさんのピアノを聴いて!」と思った場面もあったが、終盤ではかなりいい雰囲気の対話ができていた。
あっこさん曰く「こういうのは、会話と一緒なのよ。今日は山中さんと初対面の挨拶をピアノで交わして、お互い、こんなヒトかな?っていうのがわかった感じ。」なるほどねー!

2番目のコラボは、谷川俊太郎の詩「こころ ころころ」を中心に、Voice Spaceという芸大生のグループが、詩の言葉や、そこから派生した言葉の断片などをそれぞれが発し、言葉によるコラージュを作っていくというもの。ピアノに座ったあっこさんも含め、みんなが不思議なマスクを被り、ファンタジックな世界を演出する。Voice Spaceの発することばのコラージュのなかで、ピアノを弾きながら発するあっこさんの語りかけは、とてもアクティブで、あっこさんの言葉に他の言葉たちが集まってくるようなイメージを持った。ある中心を持ったコラージュが、会場全体を覆うような不思議感覚。ヘタな現代曲を聴くよりもよっぽど新鮮で刺激的!

3番目のコラボは、漆芸科の大谷佳那子さんが創作した童話「キケと人魚」に、油画科の山崎千尋さんが作画、あっこさんが物語を朗読し、それに合わせてケルト音楽研究部がケルトの音楽を演奏する。不思議で心温まる物語が、あっこさんのあの声と口調で語られ、点数が少ないのは残念だったが、印象的なモノトーンの素描調の絵にケルトの音楽が調和して、童話の世界へ聴く者を誘う。絵に鮮やかな色彩が入り、物語は終盤を迎えた。そしてあっこさんが、エンディングの歌を歌い始める。その歌が心に沁みること!映画のエンドロール気分のなか、最後の高い声が心の中にいつまでも余韻を残した。

2日間に渡る「やの屋」最後の企画は、イベントのテーマ「希望」という言葉にふさわしい言葉を会場から集め、それらの言葉を素材に「料理長」のあっこさんが即興で料理して歌を作り、芸大生のアンサンブルが楽器で味付けを施すという趣向。

会場から「青空」「キラキラ」「白」「なでしこジャパン」など、次々と素材が提供されると、あっこさんは即座にピアノを弾きながら歌を乗せる。そのあっこ節のセンスは本当にすごい。学生たちも自分の「味」を一生懸命重ねていた。「なでしこジャパン」を素材に、ちょっとコミカルな雰囲気の歌でお開き、となりそうになった時、あっこさんが「これで終わりってやだな。なんか、もっと心に残る言葉でおわりたい… ですよね?!
お客が拍手で応え、改めて言葉を募り、「いま生きているということ」という小室等の歌の言葉(谷川俊太郎作詞)が採用された。あっこさんがこの言葉につけたメロディーを聴衆がコーラスし、あっこさんが熱唱+熱演!そこにバンドが加わる。会場にできたてホカホカの歌が響き渡った。やっぱり最後はこういう風に盛り上がらないとね!
芸大生のバンドは、一生懸命音を探して合わせていたが、料理に控えめにトッピングを加えた程度でちょっと物足りない。「矢野顕子と芸大生のコラボ」というからには、もっと自分の「味」を遠慮なく出していいな、と思う。あっこさんに「ほう、そう来るか?じゃあ、これでどお!?」と思わせるような「味」を投げかければ、この最後の大団円は更に盛り上がったかも知れない。

2日間に渡り、矢野顕子という偉大なアーティストとこんな素敵なイベントを共有できた学生は本当に幸せ。それに参加できた聴衆も幸せだった。普段は殆ど交流のない美校生と音校生、先端芸術の院生まで、「芸大」が一つになって矢野顕子と作り上げたステージは、今後に大きなものを残せたと思う。段取りの悪さもあって進行がうまく行かないとき、お客からクレームも飛んでいたようだが、あっこさんは優しいフォローで会場をなごませた。ビッグアーティストはどんな時でも「希望」を与えてくれる。学生たちは多くのことを感じ、学んだことだろう。

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