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青柳晋&伊藤恵 2台のピアノによる第九

2010年12月16日 | pocknのコンサート感想録2010
12月16日(木)青柳 晋 (Pf)&伊藤 恵(Pf) 
リストのいる部屋 vol.5 《第九》~青柳晋 自主企画リサイタルシリーズ~
浜離宮朝日ホール
【曲目】
1.モーツァルト/2台のピアノのためのソナタ ニ長調K.448
2.ベートーヴェン/リスト編/交響曲第9番ニ短調Op.125
【アンコール】
バッハ/カンタータ第147番~コラール「イエスは変わりなきわが喜び」(主よ、人の望みの喜びよ)

2台のピアノで第九だなんてちょっと想像できないかも知れないが、ずーっと昔、NHKFMで大作曲家の生涯シリーズでリストをやっていたとき、ピアノ版第9が放送されて、それをエアチェック(注:FM放送の音楽をラジカセやデッキでテープに録音すること)して愛聴していた時期があった。オリジナルの雰囲気がピアノでこんなにもリアルに再現できるのか!と感動しつつ聴いていたことを思い出す。そのリスト編曲のビアノ版第九をこの年末の第九シーズンにやると知り、しかもピアノのひとりは伊藤恵さんとあって、奥さんも連れて聴いてきた。

まず最初は、これも愛聴し、愛奏もしているモーツァルト。青柳さんの明快で清々しいプリモと、恵さんの柔らかで深いニュアンスたっぷりのセコンダ(女性形)が、親子の語らい(ちょっと失礼かな…)のように自然でしっくりきて、幸福感溢れる演奏。僕はセコンドをさらっていたが、丁度恵さんの手の動きがよく見える席で、当たり前だけれど、いとも易々と滑らかに動く手を見て、その動きそのものに奏でられる「歌」を聴いていると、自分のへたさ加減を嘆かずにはいられない。

チャーミングさと、しっとり感を兼ね備えた第2楽章に聴き入っていたとき、なんとまたもや携帯の着信音がかなり近くで鳴った。これで気分は急降下… 以下はしばらく、この携帯について・・・

しょっちゅう悩まされ、怒りを感じていた演奏中の携帯音、 近くで鳴りでもしたら怒鳴りつけてやろうと思っていたのだが、どうやらそのときが来たらしい。そんなこと考えていては気持ちは演奏に集中できない。そんな怒りも込めて、演奏が終わり、拍手が止んだ直後に
「携帯切っとけよ!超メーワクなんだよ!」
と、携帯が鳴ったときに困った様子で手元をゴソゴソやってたように見えた人の方に向かって、更に音源に確信が持てなかったので、かなり広い範囲にも聞こえるように声を上げた。周りの人がみんなこっちを見た。負けずとこちらも睨み返す。

ああしかし、どんなに感動したときもブラボーを叫んだこともこれまで2回しかないような大人しく、普段は礼儀正しさを自負するおれが、こんな怒鳴り声を上げるのはやっぱりエネルギーと覚悟が要ったし、言った前後では動揺もした。携帯を鳴らしてみんなに迷惑をかけておいて、お咎めもなければ謝罪もなく許されてしまうのが許せなくて、少しはヘコませてやろうと思って怒鳴ってはみたものの、結局平常心を乱されたのは自分。奥さんにも「怖すぎる。。。」と言われたし…

後半の演奏が始まる前に、王子ホールのようにホールの人が「携帯電話のスイッチはお切り下さい」と言って回ってくれ、その後は携帯は鳴らなかったのは、おれの声が少しは役に立ったのだろうか。

それにしてもこのコンサートでの携帯地獄、どうすれば解決できるのだろう。お隣同士で声を掛け合うとか、お客からのアクションが必要なときではないだろうか。いずれにしても、気分的にこんなに尾を引いてしまっては元も子もない。次はもう怒鳴るのはやめようかな… 睨んでしまった方、すみませんでした。それに、皆さまお騒がせしました(だけど、本当は携帯鳴らした人に謝ってもらいたい…)。


さて、肝心の第9、とりあえず気を取り直して臨んだ。青柳さんと恵さんのデュオによる第9は、力演であり、熱演であり、素晴らしい快演だった。この声楽付きの大規模な楽曲をピアノでやること、しかも2台のピアノでやることは、1台よりも大変だと思う。一人ずつが、オケのいろいろなパートを担当し、それを二人で合わせるというのは、呼吸もバランスも、相当な準備が必要だろうし、本番での神経の使い方もハンパじゃない気がする。

しかし、これがうまく行けば、ソロではできない、場合によってはオケにもできない、2台のピアノならではの、2人の間のやり取りやぶつかり合いの効果が生まれる。青柳&伊藤のデュオは、真剣勝負でこの大曲に挑み、見事にそうした2台のピアノならではの強烈なインパクトを与えることに成功した。巨大な音の塊同士がぶつかり合い、共闘し合い、或いは寄り添い、オケの演奏からでは聴けないような激しいウェイヴさえ起きた。

恵さんの情熱的なピアノは相変わらず素敵だったが、青柳さんの輝きのある音色も心に響いてきた。二人の演奏からは、オケのいろいろな楽器の音がリアルにイメージでき、スリリングさはオケ以上。しかも、ホルンがトチるんじゃないかとか、バリトンやテナーのソロが上ずるんじゃないかとか、或いは、ソプラノソロがヴィヴラートを掛けすぎやしないかとか、そういった余計な心配をしないで聴いていられるのもいい。

大伽藍を打ち立てたような第1楽章、波乱万丈のギリギリのところでバランスを保ち、スリリングでリアルだった第2楽章、音が減衰して行くというピアノの宿命を忘れるほど、息の長い歌と柔らかなハーモニーに聴き惚れた第3楽章、そして第4楽章は豪華絢爛で湧き上がるエネルギーに言葉もないほどに打ちのめされた。

これはすごい!奥さんも「こんな面白いものがあるなんて、今まで生きてきて知らなかった!リストさん、やりすぎ!」と、編曲者リストのことも称えていた。確かに、合唱練習でコレペティの弾くピアノパートとは次元の違う、ひとつの芸術品だ。そして、このピアノ版は演奏者にとっても気力・体力両面において、ブラームスのコンチェルトを越えるほどハードな代物ではないだろうか。それを、青柳&伊藤デュオは、素晴らしいテンションを持続させ、見事に弾き切ったこともすごい。第九を聴いて、久々に熱くなり、スッキリできた。「第九はスポーツだ!」という自分が前に放った言葉はあながち外れてはいない。

アンコールのバッハは、第九の興奮覚めやらぬ感じで、癒しというより、二人の第九での気合いの余韻を感じる熱い演奏だった。

この2台のピアノ版の第九は滅多に演奏されることはないと思うが、青柳&伊藤デュオはこれを毎年恒例にしてはどうだろうか。是非また聴きたい!

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2 コメント

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私も聴きました! (HIROSHI)
2010-12-17 23:35:35
あの「携帯切っとけよ!」はpocknさんだったんですね(笑)

私も、よりによってモーツァルトの第2楽章で携帯音が鳴るなんてありえない!!って思っていたので、小心者の私は黙って“よくぞ言ってくれた!”と思っていました。

私はこの演奏を最前列の、しかもほぼ中央部で聴いたんです。

2台のピアノから、最前列で音はどう聴こえてくるんだろうと心配だったのですが、晋さんと恵さんのピアノの音には本当に命が宿っているかのようで、正のエネルギーをたっぷり浴びた心地に浸りまくりました。おかげで演奏会後には身体中が熱くなって、帰宅し床についても目が冴えてなかなか寝付けませんでした。

本当に、このお二人のデュオ・リサイタルは恒例になってほしいですね!
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Re: 私も聴きました! (pockn)
2010-12-18 01:48:16
HIROSHIさん、いらしてたのですね。。。
いやお恥ずかしい… 大変失礼致しました。
特定できなかった犯人に確実に聞えるように、と結構真剣でした。。。
でも、賛同してくださる方がいて、よかったです。また怒鳴っちゃおうかな
いやいや、こんなこと、もう起きてほしくないですね。心臓にも悪いです。

昨夜の第9、ぼくもオケの演奏を聴くときにも負けないくらい熱くなりました。
青柳&伊藤デュオは、今度は東京春祭でマーラーの巨人をやるみたいですね。これもすごそう。恵さんはずっと応援しているピアニストなので、新たな楽しみが加わりました。
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