5月11日(水)ペーター・レーゼル(Pf)
ペーター・レーゼルのバッハ、そしてモーツァルト~
紀尾井ホール
【曲目】
1.バッハ/イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971
2.バッハ/パルティータ ニ長調 BWV828

3.モーツァルト/ソナタ ニ長調 K.576

4.モーツァルト/幻想曲 ハ短調 K.475‐ソナタ ハ短調 K.457
【アンコール】
1.バッハ/フランス組曲第5番 ト長調~ガヴォット
2.バッハ/コラール「主よ、人の望みの喜びよ」
2014年11月に行われた紀尾井シンフォニエッタとのコンチェルトの演奏会で、それまで毎年行われていたペーター・レーゼルのシリーズはひとまず終了ということだったが、そのレーゼルがまた元気に紀尾井ホールに戻って来てくれて、1年半ぶりに紀尾井ホールでリサイタルを行った。これまでのシリーズで一度も取り上げていなかったというバッハとモーツァルトを並べたシンプルで魅力的なプログラム。
イタリア協奏曲が始まるや、パリッとした張りのある美音が耳に新鮮で心地よい刺激を運んできた。音色のパレットは控え目にしつつ、チェンバロを思わせる明るく生えた響きが光る。「トゥッティ」の部分のカチッとした美しいフォルムと存在感、「ソロ」の部分の優美さ。軽やかで上品な装飾音も素敵だ。第2楽章のメロディーでは、もう少し情感や音色のグラデーションがあってもいいと思ったが、これがレーゼルの提示したいバッハなのだろう。
次のパルティータでもそうなのだが、レーゼルの演奏からは、バッハが活躍したケーテンの宮殿のきらびやかな装飾が施された広間で、正装した男女が優美に、格式高くダンスを踊っている様子が浮かぶ。キリッとすました表情で一つ一つ所作をこなし、その度にシャシャッと衣ずれの音が聞こえてきそうな、生き生きとした動きと息遣い。
縦の線がビシッと決まっているので、全体の形が鮮明で存在感を増す。声部の違いを音色で弾き分けるのではなく、息遣いと完璧なアーティキュレーションだけで表現してしまうので、引き締まって凝縮された構成力を生み出す。終曲のジーグでのスピード感溢れるフーガなど、華やかな輝きが眩しく感じた。
後半のモーツァルトではピアノの音に柔らかな温かみが加わった。バッハを聴いていて欲しいと思ったプライベートで親密な情感がここで醸し出された。均整のとれた美しいフォルムを保ちつつ、歌い、弾け、はにかみ、ささやく。ニ長調のソナタは幸福感に溢れていた。とりわけ第3楽章では、少年モーツァルトが満面の笑みを湛えて走り回っているような、天真爛漫な姿が目に浮かび、聴いていて自然に表情が緩んできた。レーゼルはこんな溢れるファンタジーを淡々とした表情で紡いで行く。まさに名匠の技!
プログラム最後に置かれたハ短調の幻想曲とソナタは、幸福感に浸れる音楽ではないが、厳しく緊迫したパッセージの合間に覗かせる、優美で温かな語りかけには、親密な眼差しが感じられた。そして、全体を貫く気品と美しさはここでもレーゼルの演奏の大きな持ち味として聴衆を魅了した。ただ、モーツァルトのこの手の曲では、ベートーヴェンへのアプローチのようにもっと赤裸々に攻めてきた方がインパクトが強い。モーツァルトでは、やはりニ長調のソナタに軍配を上げたい。そして、またあのレーゼルのベートーヴェンが聴きたくなった。
ペーター・レーゼル リサイタル3 2014.11.8 紀尾井ホール
ペーター・レーゼル&紀尾井シンフォニエッタ東京 2014.11.14 紀尾井ホール
ペーター・レーゼルのバッハ、そしてモーツァルト~
紀尾井ホール
【曲目】
1.バッハ/イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971

2.バッハ/パルティータ ニ長調 BWV828


3.モーツァルト/ソナタ ニ長調 K.576


4.モーツァルト/幻想曲 ハ短調 K.475‐ソナタ ハ短調 K.457

【アンコール】
1.バッハ/フランス組曲第5番 ト長調~ガヴォット

2.バッハ/コラール「主よ、人の望みの喜びよ」
2014年11月に行われた紀尾井シンフォニエッタとのコンチェルトの演奏会で、それまで毎年行われていたペーター・レーゼルのシリーズはひとまず終了ということだったが、そのレーゼルがまた元気に紀尾井ホールに戻って来てくれて、1年半ぶりに紀尾井ホールでリサイタルを行った。これまでのシリーズで一度も取り上げていなかったというバッハとモーツァルトを並べたシンプルで魅力的なプログラム。
イタリア協奏曲が始まるや、パリッとした張りのある美音が耳に新鮮で心地よい刺激を運んできた。音色のパレットは控え目にしつつ、チェンバロを思わせる明るく生えた響きが光る。「トゥッティ」の部分のカチッとした美しいフォルムと存在感、「ソロ」の部分の優美さ。軽やかで上品な装飾音も素敵だ。第2楽章のメロディーでは、もう少し情感や音色のグラデーションがあってもいいと思ったが、これがレーゼルの提示したいバッハなのだろう。
次のパルティータでもそうなのだが、レーゼルの演奏からは、バッハが活躍したケーテンの宮殿のきらびやかな装飾が施された広間で、正装した男女が優美に、格式高くダンスを踊っている様子が浮かぶ。キリッとすました表情で一つ一つ所作をこなし、その度にシャシャッと衣ずれの音が聞こえてきそうな、生き生きとした動きと息遣い。
縦の線がビシッと決まっているので、全体の形が鮮明で存在感を増す。声部の違いを音色で弾き分けるのではなく、息遣いと完璧なアーティキュレーションだけで表現してしまうので、引き締まって凝縮された構成力を生み出す。終曲のジーグでのスピード感溢れるフーガなど、華やかな輝きが眩しく感じた。
後半のモーツァルトではピアノの音に柔らかな温かみが加わった。バッハを聴いていて欲しいと思ったプライベートで親密な情感がここで醸し出された。均整のとれた美しいフォルムを保ちつつ、歌い、弾け、はにかみ、ささやく。ニ長調のソナタは幸福感に溢れていた。とりわけ第3楽章では、少年モーツァルトが満面の笑みを湛えて走り回っているような、天真爛漫な姿が目に浮かび、聴いていて自然に表情が緩んできた。レーゼルはこんな溢れるファンタジーを淡々とした表情で紡いで行く。まさに名匠の技!
プログラム最後に置かれたハ短調の幻想曲とソナタは、幸福感に浸れる音楽ではないが、厳しく緊迫したパッセージの合間に覗かせる、優美で温かな語りかけには、親密な眼差しが感じられた。そして、全体を貫く気品と美しさはここでもレーゼルの演奏の大きな持ち味として聴衆を魅了した。ただ、モーツァルトのこの手の曲では、ベートーヴェンへのアプローチのようにもっと赤裸々に攻めてきた方がインパクトが強い。モーツァルトでは、やはりニ長調のソナタに軍配を上げたい。そして、またあのレーゼルのベートーヴェンが聴きたくなった。
ペーター・レーゼル リサイタル3 2014.11.8 紀尾井ホール
ペーター・レーゼル&紀尾井シンフォニエッタ東京 2014.11.14 紀尾井ホール