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ジェルジ・リゲティ没後10年によせて

2016年12月15日 | pocknのコンサート感想録2016
12月11日(日)「ジェルジ・リゲティ没後10年によせて」ワークショップ+コンサート

上野学園石橋メモリアルホール

《ワークショップ》

「ポエム・サンフォニックを読み解く」& 参加者による実演
♪リゲティ/ポエム・サンフォニック

《コンサート》
1.リゲティ/コンティヌウム(1968)
2.鈴木純明/リゲティーヤナⅡ(2016/初演)
3.リゲティ/木管五重奏のための10の小品(1968)
4.リゲティ/ヴォルミナ(1961-62)
5.リゲティ/アヴァンチュール(1962-63)
6.松平頼曉/オートル・アヴァンチュール(2016/初演)
7.リゲティ/ヌーヴェル・アヴァンチュール(1962-65)

【演奏】
S:松井亜希/A:澤村翔子/Bar:青山貴
Fl:木ノ脇道元/Ob:大植圭太郎/Cl:勝山大舗/Fg:岡本正之/Hrn:猪俣和也/Vc:山澤慧/CB:佐藤洋嗣/Perc:會田瑞樹/Cem:新垣隆/Pf:中川俊郎/Org:近藤岳
指揮:杉山洋一/副指揮者:橋本晋哉
【舞台】
演出:大岡淳
人形遣い:小原美紗(人形劇団プーク)
パフォーマー:平井光子、佐藤萌子、小野良太
ダンサー:市川まや、今村よしこ、新宅一平
音響:有馬純寿/照明:加治瑞穂/衣装:富永美夏/映像:山田泰士
舞台監督:杉村向陽、土井怜香


20 世紀を代表する前衛作曲家、ジェルジ・リゲティの没後 10 周年を記念して、日本現代音楽協会主催の大規模なワークショップとコンサートが行われた。リゲティの作品は「現代音楽」のなかでは比較的よく聴くが、5 時間に及ぶイベントに参加して、今日ほど作品を堪能し、度肝を抜かれるほどの衝撃を受け、すごい作曲家だと思ったことはなかった。

100 台のメトロノームを集めた興味深いワークショップは、募集に応じた参加者がメトロノームを持ち寄り、指示に従ってゼンマイを調整した上で、それぞれ100通りにテンポを設定してテーブルに並べてスタートさせる。 100 台が一斉に動き始め、速いものから順番に止まっていき、最後の 1 台が止まるまでが「ポエム・サンフォニック」という作品。

最初は 100 通りのテンポのメトロノームが一斉に拍を刻み、聴き分けることができない一つのカオスとして括られる単一性の状態。やがて、残った比較的ゆっくり動くものの刻みをあちこちで聴き分けられる「複雑」な状態となる。それが、数台だけ残ると音は単一性の状態に戻る。この単純→複雑→単純の状態の変化を聴くことがこの作品の狙いだと、ミニレクチャーを担当した徳永氏が説明してくれた。

ゲネプロを行って、間近でずっと実演の様子を体験できた。音響の中に身を置いていると、無機質なはずの音が何やら生き物のように感じられ、序盤はカオスの中に規則を聞き取ろうとし、中盤ではあちこちから聞こえる複数の規則的なパルスに意識が行くと共に、もう止まっていいはずの速いメトロノームがいつまでも動いている音がやけに気になるなど、目からの情報が聴覚を刺激する。

終盤、お互いに少しだけテンポが異なる数台のメトロノームによるアンサンブルはミニマルミュージックの世界。「一体どれが先に止まるんだろう?」とハラハラ気分も混ざり、結局僅かな差で本来残るべき最も遅く設定されたものが最後まで残って止まると、受講者達からは拍手と歓声が沸いた。機械の単純な拍打ちが、こんなにも人々を惹きつけてしまったことがおもしろい。演奏には 25 分かかったが、ずっと短く感じたし、何度でもハマりそうな不思議な感覚。但し、これは視覚を伴ってこその面白さかも。

コンサートの開場時刻に合わせてロビーで本番の演奏を始めると、周りには入場者の人だかりができ、みんなじっとメトロノームを見つめていた。この引き付ける不思議な力、2度目だけれど僕もまたくぎ付けになった。


この後はメインのコンサート。1960年代に書かれたリゲティの5つの作品に加えて、リゲティにちなんだ日本人作曲家のオルガン作品が2つ演奏された。

リゲティには微に入り細に入り精巧な作品が多く、演奏がとてもタイヘンそう。しかも、前衛音楽はメチャクチャに聴こえて、ミスをしてもわからないと思いきや、リゲティの音楽は、複雑怪奇でも間違えると「あれっ?」と知覚することが多い。それだけ音楽が緻密かつ精巧に作られているのだろう。今日の演奏は、そんなミスに気づくことも殆どなく、管楽五重奏曲にしても、非常にハードな演奏要求をプレイヤー達はキチンとこなし、更に多彩な音色と、微分音も含めた微妙な音程バランスから成る響きを作り上げ、アンサンブルとして生気あふれるコミュニケーションを聴かせてくれた。

終始引きずり込まれたのがオルガン作品の「ヴォルミナ」。冒頭の衝撃的な響きに「ドキッ」とし、2人がかりのレジストレーション操作による激しいコントラストを伴って、未知の軟体生物が身体を膨らませたり縮ませたりしながら、リアルに激しくうごめく姿が浮かんだ。クラスター書法でありながら、暴力的な荒々しさよりも緻密さが感じられた。たくさんの鍵盤を押さえたまま送風機をオフにすることによって徐々に音量が弱まり、鳴る音が減って終わる様子からは、「死」がイメージされた。何とも凄い音楽で、演奏した近藤氏は大健闘!

そして今日の極め付けは、「アヴァンチュール」と「ヌーヴェル・アヴァンチュール」という2つの大規模な舞台作品。この奇想天外な作品を説明するのは難しいが、日常とはかけ離れた世界を描いているようでいて、実は人間の根源的なものに触れるリアリティーが光る。

プログラムノートによれば、登場する3人の歌手は61種類の母音と58種類の子音を細かく使い分け、ほぼ全曲を通して特殊な発声法が要求されているという。松井、澤村、青山の3氏は、難なく迫真の鮮やかなパフォーマンスを繰り広げ、室内オーケストラの、先の五重奏曲と同様に緻密で生き生きとした演奏が歌唱にシンクロし、更にダンサー達の奇抜なダンスが入り… と様々な要素が重なる度に難易度が跳ね上がる。練習は想像を絶する苦労の連続で困難を極めたという話を聞いたが、これは針の穴を通すほど精巧に研ぎ澄まされ、そこに魂が入った上演で、これほど完成度の高い上演を体験できる機会はこの先あるだろうか、と思ったほど。

リゲティがこの作品から伝えようとしていたものはわからない。もしかすると、明確なメッセージのない抽象画のイメージを提示しようとしたのかも知れないが、僕は、社会性というバリアに隠されている人間の根源的な「想い」、更にもっと原初的な感覚が剥き出しになっている姿を感じた。それはある意味滑稽にも見え、笑いも誘うが、実は真実が白日の下に晒されたリアリティーにドキッとしてしまう。CGによるイラストの投影も入り、音楽とダンスと映像が合わさった究極の舞台作品を堪能した。
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さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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