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ユニット調整法4

2009年09月15日 23時58分19秒 | オーディオ

こんばんは。今日は制振材についてです。技術用語等で内容的に難し過ぎるとのコメントもいただきましたので、出来るだけ分かりやすく説明したいと思います。

前回の付加マスのエントリーで制振材と内容がかぶるものがあり、ちょっとややこしい印象を与えてしまったかも知れませんが、制振材と言えどもそれ自体に重量がある以上、付加マスとしても動作するので、あえて最初は同じ付加マスとして特性差を示しましたが、今後誤解を避けるために、便宜上ボイスコイル近傍に付けられたものだけを付加マスとして扱い、その他の部分への付加は制振材ということで説明させていただきます。

即ち、付加マスでは出来るだけ全帯域でのレベル落としを期待する(低域の肩特性は別ですが)のに対し、制振材では名前のとおりそれを貼る部分の振動(共振)を制御することで特定の周波数をコントロールすることを目的としています。分かりやすく言えば、ネック部に重りを追加する付加マスは低域の一部を除いてほぼ全体域を絞るいわばアンプのボリュームを絞るような感じで、制振材は一部の帯域を変化させるいわばアンプのトーンコントロールをいじるようなものと思ってください。もちろん、トーンコントロールと言っても、前にも言ったようにレベルを上げることはあまり期待できないので、あくまでレベルを下げることが中心になります。(例外として、共振ポイントがずれることにより同じ周波数で比べれば上がることもありますが)

さて前置きが長くなりましたが、これからが本題です。ここで前回の特性図(図1)を例として解説していきましょう。(大きい図はこちら

図1


図を見てもお分かりのように、制振材(ブチル)を貼る位置によって周波数特性が部分的に変化しています。特に特徴的なのが外周部に近い赤と緑の位置ですね。

先ず赤(位置はコーン外周部の少し内側)ですが、この位置はコーンの高域共振(コーンが高い周波数で分割振動をするために起こる共振)を抑えるのによく効くことが多く、私も何か中高域がうるさく感じた時はこの辺を先ずいじることが多いです。特性でも4kHz~7kHz近辺のピークディップがうまく制御されてかなりフラットな感じになっていますね。実はこの位置に制振材を貼ることは昔から知られており、何とビクターからは大昔に特許(or 実用新案?)が出ていたりします。(ずいぶん昔のものなので、今は既に権利が消滅していると思いますが) このビクターのパテントは、コーン外周部にV字型に制振材を貼るというもので、V字の頂点を外周部に向けてネック部に開くような形で制振材を貼るというものです。こんなものがパテントになるのと思われるかも知れませんが、これは結構効果があり昔のビクターのユニットではよく使われていました。このパテントを逃げるため、他社ではV字型をさけて少し違う形状で貼ったりして苦労していたようです。先日コメント欄で、円周方向ではなく径方向(ネック方向に向けて)に貼るのはどうかとの質問がありましたが、経験的には径方向に比べて円周方向の方が効果があることが多く、それの変形としてビクターのタイプがあると思います。ただ実際のベストポイントはユニットによって微妙に違うので、位置や貼る重量等は試聴と測定をやりながら探っていくというのが実状です。

次に緑(位置はコーン最外周部)ですが、これは先程の赤と違い、中高域はあまり変化せず、中域の1kHz近辺のディップが改善されていますね。このディップは中域の谷とも呼ばれるもので、このポイントではコーンの分割振動によりコーン
外周部とエッジ部がコーン内周部と完全に逆の動き(前後に)をしており、音圧がキャンセルされてディップが発生しています。この時はエッジがコーン外周部にあおられて大きく変形するため、エッジの逆共振とも言われます。今回テストに使ったDCU-C171PPはコーン深さが結構あるため形状的には比較的強いのであまり大きなディップは発生していませんが、コーンの非常に浅いもの(カー用のユニットが代表的)ではこの中域のディップはかなり大きいものが一般的で、中にはディップの深さが20dBを超えるようなものもあったりします。ただここのディップは深いものでもその間隔が非常にせまい(つまりシャープなディップ)こともよくあり、経験的に言えば非常にシャープなものは特性で見るほど聴感上気にならないこともあったりします。ちなみに、このディップをユニットで元から改善する方法としてはコーン外周部を強くすることで、具体的にはコーン深さを深くしたり、コーンのカーブを変えて外周部の角度を深くする、またコーンの材質を強くしたり重くしたりといった手法があります。中域のディップに関してはコーン外周部の強度が一番効くので、その意味ではカーブコーンよりもストレートコーン(コーンの断面が直線)の方が有利です。この辺は、いずれまた。

なお今回はコーン上でしかテストをしていませんが、実は制動材はエッジ部、センターキャップ部でも効果が出ることがあります。特に中域のディップに関しては、エッジ部は結構効果的だったりします。エッジ部に制振材を付けた具体的な例としてソニーのSS-A5があります。リンク先の写真にもありますが、このモデルはエッジ部に制振材を8個も貼り、更にエッジ全体にダンプ材を塗布しています。今から思うととても量産品とは思えないような手作り感たっぷり(笑)の外観ですが、これの効果は抜群で、このユニットは私が設計したモデルの中で特性のフラットさではベストユニットでした。ただ発売前には周りからこんな制振材をべたべた貼ったユニットは試作品みたいで量産しちゃダメだなどとずいぶんもめたものです。この時は、A5はグリルネットが外せないモデルという言い訳があったので何とかOKになりましたが、通常のモデルだとなかなかOKにするのは外観的にしんどいかも知れません。ちなみに、エッジ部というのはユニットの中でも最も多く動く部分なので、その部分に制振材を貼るというのも結構信頼性的に神経を使うところです。A5の時もパワーテスト後に制振材が何個か剥がれていて、フリーズしたことがありました。(^^;

ただ一般のユーザーが自分のユニットに付ける場合は、剥がれればまた付ければいいことなので、エッジについても機会があれば是非トライしてみてください。エッジ部の場所は、ロール内周部、ロール頂点部、ロール外周部とユニットによっていろいろ相性がありますので、いろいろと場所や数量を変えてみてください。

あとセンターキャップ部は、口径の大きいキャップや、共振の出やすい金属系キャップには効果があることが多いです。ただし、金属系の場合は薄い材質のものが多いので、貼るときにキャップを変形させないように慎重にやってください。メーカーでは通常前面に貼って確認を行った後、量産では背面に貼ることが多く、皆さんがお持ちのユニットでもばらしてみたら付いていたなんていうことは結構あったりします。ちなみに効果としては当然前面の方が大きいので、外観が気にならないなら前面に貼る方がベターです。


制振材の材質では、私が一番お薦めしたいのはソルボセインというウレタン系のものです。実はちょっと裏話があって、A5の時にいろいろな材質の制振材をテストしたのですが、ソルボ以外に制振特性の優れたシリコン系のものもあったのですが、何故か音質はこのソルボが一番自然で好ましかったということです。何故特性では少し劣るこのソルボが音質的には良かったのかということについては、私なりの意見として制振材と言えども最終的にはそれ自身も振動するわけで、そのものの音色みたいなものが最終的に効いているのではないかとのことです。実はウレタン系ではエッジ、塗料でも評価が高く、ある材料屋の「ウレタンの表面は人間の皮膚に一番近い」などどまことしやかな話も聞いたりすると、なるほどなんて思ったものです。

今回テストに使用したブチルゴムもよく使われる代表的な制振材ですが、制振効果は結構あるものの、ソルボに比べちょっと比重が高いので、制振効果とともに付加マスの影響も出やすいのでちょっと音が死にすぎることもあるので、軽量で制振効果を出す(特に小口径ユニットやトゥイーター等)場合にはソルボの方がお勧めです。ソルボの欠点としては、ちょっと高価ということと、粘着力があまり強くないので恒久的に付ける場合は特殊な接着剤や両面テープを使用する必要があるという点です。

逆にブチルの場合は質量があるので、今回のようにウエイトリングとしてのテストには非常に使いやすいものがありますので、ちょっといろいろなテストをやってみるという時には重宝します。ちなみに私は海外でのデモなんかの時には、必ずポケットにブチルを少量入れておいて、現地でバランス調整が必要な時はちょっと付けたり外したりなんてことをやってました。

最後に音質のことをいうと、制振材はもともとあるピークを抑えるというのが一般的な使い方なので、基本的にうまくまとまれば音はピークのとれた素直な方向になります。ただし要注意は制振材と言えども付加マスとしても効いてくるので、やり過ぎると音が鈍くなったり、暗くなったりしますので、先ずは少量から初めて様子を見るようにしてください。

では今日はこの辺で。


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26 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (LSR)
2009-09-16 13:31:29
更新お疲れ様です。

4回にわたってのユニット調整法、勉強になりました!
丁度自宅のLS-1000のミッドレンジの鳴きが気になって
いたところだったので、色々な素材を張ったりしていました。平面ユニットにはどう張ればいいんだろ?と考えながら進めていましたが、、、一連の記事を見ながら勉強になりました。

今は“ポリウレタン”製なる、滑り止め用円形ラバーシールをミッドレンジ外周に張っていますが、これが案外自然な感じで良かったです。

あと意外に良かったのが、0.5mm程度のアルミシールでした。
張りすぎると若干明るくなるような感じがあるものの、少量張ると落ち着きと柔らかさが出てよかったです。
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Unknown (PARC)
2009-09-16 23:19:29
LSR様

少しはお役に立てたようで何よりです。コメントを拝見していて思ったのですが、いろいろなユーザーの方のユニットに対しての改良(調整)レポート(失敗談も含め)をupできる掲示板のようなものがあると便利かも知れませんね。
返信する
自然素材 (nhaka)
2009-09-17 00:02:34
ユニット改造法連載ありがとうございます.
興味深く読ませてもらってます.

ソルボセインは東急ハンズにも売っていたと思うので
(青色で, 裏がシールになっていたと思うのですが,)
試してみます.

バイアスかかっていますが, 自然に近い素材がいい音というのは面白いですね.

# 寒天とかゼリーとかも, いい音のなのかもしれないです.

バイオリンのニスが天然素材がいい音になるのを思い出しました.
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Unknown (PARC)
2009-09-17 00:12:36
nhaka様

>青色で, 裏がシールになっていたと思うのですが

そうですね、ソルボの標準色は青です。裏面のシールが両面テープ付だといいですね。ただの保護シートだと、ソルボの粘着力だけでの接着になるので恒久的に付けるのは厳しいかもしれません。

それとソルボには硬度でH,M,S,SSと種類がありますが、出来れば一番柔らかいSSがお勧めです。また板厚は出来れば一番薄い1mmがベストです。


># 寒天とかゼリーとかも, いい音のなのかもしれないです.

ゼリーですか。さすがに食べ物はやったことがないですね。でも賞味期限があるからなぁ・・・。
返信する
ご教示ください。 (穴 明太)
2009-09-17 20:56:50
毎回おもしろいお話、有難うございます。そろそろ出版化の話なんかも出てきているのではないですか?その価値のある内容と思います。
またまた質問で恐れ入ります。差し支えない範囲でご教示ください。

>経験的には径方向に比べて円周方向の方が効果があることが多く…

コーンの分割振動は目では見えませんが、社長はコーンはどのような形態(パターン)で振動しているか?どのようにイメージしていらっしゃいますか?
楽器などの分割振動は弦のハーモニックス、唄の裏声など美しいものばかりですが、スピーカーでは歪むもの、というイメージしかありません。分割振動による歪みのメカニズムは何なんでしょう?また制振材は振動の腹部分に張る方が良いのか、それとも腹の頂点を少し外すのが良いのか? まさか谷部分ということはないですよね?

>ちなみに効果としては当然前面の方が大きいので、外観が気にならないなら前面に貼る方がベターです。

制振材を前面に張る方が効果が高いのは何故なんでしょう?素人考えでは表でも裏でも同じでは?と考えてしまいますが?

昔ビクターのウーファにはコーンの形状が独特のものがありました。楕円形でディンプルのようなパータンが複数あるものです。最近ではF社が独特のコーン形状のものを同様に出しておりますが、これらは分割振動を拒否するものだと思っているのですが、制振する方向とは逆の対策です。社長さんは分割振動とこれらの対策に対してどのようなお考えをお持ちでしょうか?見解をご披露いただけませんでしょうか?お願い申しあげます。
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Unknown (mo)
2009-09-17 22:58:05
SS-A5のユニットの外観には驚きましたが、そういう理由だったのですね。よくわかりました。
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Unknown (PARC)
2009-09-18 00:16:25
穴明太様

>そろそろ出版化の話なんかも出てきているのではないですか?

いやぁ、この手のローテクの話で出版化なんてとんでもないですよ。


>コーンの分割振動は目では見えませんが、社長はコーンはどのような形態(パターン)で振動しているか?どのようにイメージしていらっしゃいますか?

コーンの分割振動のパターンにはいろいろなタイプがあり、ちょっとコメント欄で解説するには重すぎるテーマなので、調整法が終わったらいずれブログでお話したいと思います。

ちなみにコーンの分割振動そのものを目で見ることも可能です。昔は、松花粉(漢字あってるかなぁ?)のような細かい粉をコーン上に乗せて分割振動をする周波数で鳴らして目で確認しましたし、ストロボを使ってコーンの振動と同期させると、ゆっくりとコーンが変形しながら動く様子が簡単に目で見えます。
最近では高価ではありますが、レーザーでかなり高い
周波数まで分割振動の様子を見ることが可能です。またコンピューター解析で分割振動の様子をシミュレーションしたりすることも可能です。
ただ実際は、分割振動の状態がいくら正確に分かったとしても最終的な対策はカット&トライで対処することが多いと思います。



>制振材を前面に張る方が効果が高いのは何故なんでしょう?素人考えでは表でも裏でも同じでは?と考えてしまいますが?

これも結構重い(かつ面白い)テーマなので、また後日ゆっくりと解説したいと思います。面白い裏話なんかもありますので、お楽しみに。
まぁ結論だけを言えば、その差は確実にあります。一度皆さんもお試しいただければと思います。


>社長さんは分割振動とこれらの対策に対してどのようなお考えをお持ちでしょうか?

ビクターがやっていたのは、RCAのスピーカーのコピーだったと記憶しています。同じやり方を、デジタルドメインでもトライしていましたね。

私個人としては、コーン形状で補強リブ的な構造アップを狙うというやり方は一つの手法だと思います。ただこの手のやり方はうまくやらないと重量アップになることが多いため、なかなか重量とのバランスが難しいところではあります。ちなみにRCAのタイプは、そもそもコーン深さが非常に浅いため外周部の強度が非常に弱いため、必然的にあの手の補強策が必要だったのではないかと思っています。
韓国勤務時代にF社とも仕事をさせてもらいましたが、その時参考に聴かせていただいた例の特殊コーンはバランスは良いものの、やはりコーンの重さを感じたのも事実です。
まぁ結局のところ、Simple is BESTというところでしょうか。
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Unknown (PARC)
2009-09-18 00:20:47
mo様

>SS-A5のユニットの外観には驚きましたが、そういう理由だったのですね。

今から思えば、(外観を含め)よく商品として発売できたなぁとしみじみ思います。Mさんの執念もありましたが、私の設計したユニットの中で最も多くの試作サンプルを作ったモデルだったと思います。もうあの手のユニットは量産モデルでは出せないでしょうね。ソニーの中でもあんなことをやるのは私ぐらいでしたから・・・。(^^;
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ウレタンエッジ (yoiiro)
2009-09-18 21:14:10
ウレタンエッジは音が鈍いと言うのが定説なんだけどなぁ。
長岡鉄男氏も言っていたし、小口径では癖が強く出るので私は避けます
楽器用スピーカーではウレタンエッジは使っているのは稀でしょう。
返信する
Unknown (PARC)
2009-09-19 00:30:11
yoiiro様

せっかくコメントをいただいて言うのも何ですが、だいぶ私とはお好みが違うようですので、私なりの印象を書かせていただきますね。おそらく、ご同意はいただけないかと思いますが、まぁPARC Audioのユニットはこんな考え方の設計者が設計しているとご理解いただければ幸いです。


>ウレタンエッジは音が鈍いと言うのが定説なんだけどなぁ。

う~ん、私の印象ではエッジ材で音が鈍い代表選手はゴムエッジだと思います。長年ユニット設計をやってますが、正直上記の定説は初めて聞きました。
そういう定説があるとすると、好き嫌いは別として、一連のJBLのユニットも音が鈍いということになるのでしょうか?


>長岡鉄男氏も言っていたし、小口径では癖が強く出るので私は避けます

ちょっと言いにくいのですが、PARCの音の方向と長岡先生とは対極にあるのではとの印象を持っています。なので逆説的に言えば、長岡先生が評価されないウレタンを私が好むというのはある面分かるような気がします。(決して長岡先生を批判しているわけではなく、目指す方向が違うということなので、誤解なきようお願いいたします。)


>楽器用スピーカーではウレタンエッジは使っているのは稀でしょう。

これは事実だと思いますが、楽器用(たぶんギターアンプ用とかベースアンプ用?)とホーム用とでは、耐久性や目指す音の方向が全く違うので、楽器用で使われないことがホーム用としても良くないということとは違うと思います。私も楽器用ならウレタンは使わないと思いますが、逆に楽器用のユニットをホームで使えるかと言えば、まずそれは難しいかと思います。
返信する

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