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ユニット調整法2

2009年09月02日 22時28分54秒 | オーディオ



こんばんは。今日は前回に続き、ユニット調整法についてです。ちょっとディープな話かも知れませんが、ご興味の無い方は読み飛ばしてください。

先ずは一番お手軽な付加マス、つまり重りを追加する方法から始めましょう。これは一番簡単で、ダメなら簡単に元に戻せますし、また単に調整法ということだけではなく、次の試作をどうするかのあたりをつけるためにも役に立つので、私はよくやります。まぁ一般のユーザーの方の場合は、次の試作というのは関係ないので、あくまで調整法という観点で見てください。

さて重りを追加することでユニットはどのような変化をするかですが、まとめると下記のようになります。

1)SPLが下がる。
これは振動系が重くなるので当たり前の話ですが、ここで重要なことはスピーカーユニットの場合、重りを付ける場所によって影響が変わるということです。図1を見てください。これは17cmPPコーンコアキシャル(
DCP-C171PP)を推奨箱に入れたもので、トゥイーターには入力せずウーファー部のみに直接入力をしています。これに上の写真のようなブチルゴム(0.28g/1個)を4個、場所を変えて付けた時の特性変化です。ボイスコイルに一番近いネック部から順番に外側に位置をずらし、コーン最外周部までで位置を変化させています。

図1のデータを見てください。(大きいサイズはこちら) ちなみにこのデータは、無響室ではなく普通の部屋で測定しているのであくまで簡易測定であり、低域(特に100Hz以下)のデータはあまり信頼性が高くないですが、おおよその傾向は分かりますので、相対的な変化だけを見るようにしてくださいね。このデータでもお分かりのように、同じ重量を追加しても、その貼る場所によって周波数特性に対する影響は変わります。この中で、ネック部に重りを付けた場合(青)は付けてない場合(黄)に比べて150Hz以上からはほぼ同じ感じでSPLが落ちていますね。つまりリニアに付加マスが効いているわけです。

それに比べて、重りを貼る位置がコーンネック部から離れていくにしたがって、重りの影響によるSPLの減衰量は高域にいくほど少なくなり、周波数に対してリニアでないことが分かります。特に最外周部に付けた場合(緑)では、2kHzあたりから上の帯域ではほとんど重りは効いていません。これは重りがコーン(振動板)というコンプライアンス成分(バネ成分、電気回路で言えばコンデンサー)の先に付いていることになっており、高域ではボイスコイルの振動に追従できなくなり効かなくなっているのが主な理由です。ということで、SPLをリニアに減衰させたいなら、付加マス(重り)は出来るだけボイスコイルの近傍に付けるのが基本となります。また同じ理由で、付加マス自体も出来るだけ剛性が高い材質の方がよく、接着もエポキシ等の剛性の高いものでやるのがよりリニアに効いてきます。今回は仮実験ということで、簡易なブチルゴムを使いましたが、ブチルのような柔らかい材料はしっかりうすく貼るのがベターです。

図1



図2は付加マスの重量を変えた時の差です。(大きいサイズはこちら) 接着する場所は全てネック部で同じとしています。接着部位がネック部のため、中域の減衰量は付加マスの重量に比例してきれいに落ちていることが分かりますね。

図2



さてここで低域が付加マスに対してリニアに変化してないことの理由ですが、これはスピーカーユニットの低域特性はF0とその共振の鋭さ(Q0)によって決まることによります。このQ0はざっくり言うとF0と重量(M0)に比例し、磁束密度(マグネットの強さ)の二乗に反比例します。そのため、Q0はもし同じ支持系とマグネットで重量だけが重くなった場合は高くなり、結果として同じ箱なら低域の肩特性は重くなることで逆に上がることになるからです。実際は重量upによりF自体も下がるので、話はそう簡単ではないのですが、簡単に言ってしまえば低域(特に肩特性)は付加マスにより相対的に上がるということです。重くなってSPLが増えるというのはピンとこない方もいるかも知れませんが、これはあくまで相対値つまり中域と低域の特性を比べてのことを言っているのです。図2の黄色と青色をよく見てください。重りの無い黄色の80Hzと200Hzあたりの差と、重りを付けた青色の80Hzと200Hzあたりの差では青色の方が差が大きいですよね。これは低域が中域に比べてより出ている、つまり低域が出たように聞こえるということなのです。もちろん、この場合の低域は制動が弱くなって出ている方向なので、質的に良いかどうかは別の話ではあります。
なお、このQ0の話はこの後の他の調整法でも結構出てきますので、覚えておいてください。

質問がありましたので、今回のテストでブチルを貼った状態の写真をupしておきます。ちなみにこの写真では分かりやすいように全てのポジションを一緒に貼っていますが、実際にこれらを同時にやることはまずありません。
また4つの中で「ネック寄り」の位置はあまり使うことはありません。その他の細かい点は次回以降の制振材のところでお話したいと思います。

図3



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さて話が少し長くなったので、この続きは次回とします。ちょっと途中ですが次回は少し早めにupしますので、お楽しみに。それにしても、久しぶりに技術レポートを提出した感じで、ちょっと疲れました。内容はそんなに難しいことでは無いのですが、いざまとめて書こうとすると・・・・。




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19 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (PARC)
2009-09-08 00:04:13
nhaka様

>動画 + どのように音が変化したか,
マイク録音はどうでしょう?

提案ありがとうございます。動画については次回以降で写真だけでは説明が難しい場合は検討したいと思います。

録音については、正直なところ私自身は懐疑的です。WEBでもたまに録音をupされているのを見かけますが、中途半端に音を出して誤解を受ける場合もあるのではと感じます。今回のような調整法で一番重要なことは、先ず御自身で試されることではと思います。これから出てくるちょっと過激(不可逆)な手法は別ですが・・・。

ちょっと話がそれますが、ソニー時代にいろんな部下や後輩にノウハウ的なことを話しましたが、聞くだけで自分で試さないとまずその人の本当の生きた知識にはならないなぁと感じています。特に音に関しては、実際に御自身で試されて、その出た音をどう感じたかが一番重要なのです。一度自分で体験したことは必ず後で効いてきますので。
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Unknown (PARC)
2009-09-07 23:52:33
穴明太 様

ご指摘の件は、緑はそれでよろしいかと思いますが、青の高域に関してちょっと専門的に言えば、コーンの高域共振ではコーンの外側マスが実質的に外れるのでコイルにマスがあるとその変化分が小さくなったことになりピークがより抑えられるということ(私も先輩からそう教えられました)ですが、まぁ平たく言えばネック重量が増えると高域のピークに対してより効いてくるとお考えください。

音に関しては、ネック部に付加の場合は今日のエントリーで書きましたのでそちらをご覧ください。それ以外の場所については次回の制振材の方で書きたいと思います。ただ音に関してはあくまで傾向であって、ここに貼ると音は必ずこうなるというほど簡単な話ではないので、最終的には御自身で試されることをお勧めします。

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動画はどうでしょう (nhaka)
2009-09-07 23:17:56
こんばんは.

手の技術を文字で説明するのは難しいので,

動画 + どのように音が変化したか,
マイク録音はどうでしょう?

すごく貴重な資料になると思います.

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次回が待ちきれない。 (穴 明太)
2009-09-07 21:04:25
次回において詳細なご解説がある事を知りながら、待ちきれずお便りいたします。
図1で900Hzから1300Hzの間にいわゆる「中音の谷」が見られますが、緑の曲線では谷が埋められ緩和されています。これはエッジの逆共振を、コーン最外周に付けたブチルがダンプしているということでしょうか?
また10Khz上の領域で鋭いピークが見られますが、青のラインのみピークは抑えられ、なだらかな丘状になっています。これはコーン根本に付けられた制振材がメカニカル2ウエイ的な根本の動きを抑制していると思って良いでしょうか?
またそれぞれの聴感上のメリットはどんなものでしょうか?

私、長年スピーカー工作をやっていて、残念ながら全てに満足するユニットに出会っておりません。おそらくは今後も無理かと思います。しかし魅かれるユニットはまだまだ多い(貴社のユニットにも食指が動きます)今回、社長さんが示してくれる正当な調節方法をご伝授頂ければ、予想買いや、だろう買いをしても、ある程度は自分で好みの音に調整、改造できるというものです。非常に期待しております。出来れば弟子を志願したいくらいに思っております。
詳細なご披露を希望申し上げます。
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Unknown (PARC)
2009-09-06 23:10:04
UTP様

いやぁ、せんせいは勘弁してください。(^^;


>このオーダの重さを量る何か手頃な方法はないでしょうか?

結論から言えば、一般のユーザーの方が調整を目的としての使用の場合は、細かい重量を量る必要はないと思います。重要なことは数値ではなく、結果つまりそれをやって音が良かったのかダメだったのかということです。ですので、やるときは出来るだけ軽いものから初めて様子を見るというのがよろしいかと思います。17cmでもこれくらいの重量で結構変化しますので、小口径になるとかなり少量でやらないと効き過ぎてNGとなることがありますので。

なお我々プロが商品開発の一環としてやる場合は、そうはいきません。何故ならいくら試作でいい音が出てもそれが量産で再現できなければ意味が無いからです。そのため、重量確認は基本となります。

今回重量を書いたのは、あくまで参考ということで、数値自体はあまり気にしないでください。
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Unknown (PARC)
2009-09-06 22:57:39
GX333+25様

>「振動板をしなやかに動かす」方向なのかな、その方が特性もさることながら、音色に良い影響がある、とお考えなのかな

はいご指摘のとおりです。振動板は高剛性、高内部損失という材料を目指すのが本質ではありますが、現実はなかなかそうはいかず、高剛性の材料ほど最終的にはきついピークが出るというのが現実です。ソニー時代は1方向カーボン繊維、ピュアSiC、結晶ダイヤモンド等とかなりいろいろな高剛性素材にトライしましたが、結局それらの材質が今は市場にほとんど残っていないというのが全てを示していると思います。もちろん無くなった理由のなかにコストということもありますが、商品である以上やはりコストと性能のバランスも非常に重要です。
ということで、私は業務用をやるころにはこの高剛性信仰という呪縛からは解き放たれて、最終的には聴感での印象を最優先にするようになりました。プロ用ドライバーで周りの反対(大ブーイング)を無視して極薄アルミを使うことにしたのもその一例です。
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Unknown (UTP)
2009-09-06 22:08:36
面白くなってきました。それと同時に、冨宅先生の御苦労が忍ばれます(昔、講義を仕事にしていた者として、お察ししますです)

で、せんせぇー、質問です。
ここで付加マスは4×0.28グラム=約1グラム
…ですが、アマチュアが実験するときにこのオーダの重さを量る何か手頃な方法はないでしょうか?

もちろん、デジタル天秤があれば楽勝ですけど…そんな物もってないですぅ。
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Unknown (GX333+25)
2009-09-06 16:03:03
PARC 様

相変わらず脳みその具合は悪いままですが、代表がお考えの振動板とは、一般に言われる「ピストニック・モーション(前にアキュレイトを付けたらAPMになっちまいますな)」と少し違って、「振動板をしなやかに動かす」方向なのかな、その方が特性もさることながら、音色に良い影響がある、とお考えなのかな、と思いました。
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Unknown (PARC)
2009-09-06 00:16:03
nhaka様

貼る方向については次回に少し書きたいと思います。


>NWは麻布さんのオリジナルなんだそうですが, 異様にいい音でした.

麻布様のNWは私も聴かせていただきましたが、WFにもNWが入っているのでPARC純正よりもよりフラットな感じがしました。お好みにもよりますが、ウッドコーンの方は少しキャラクターがあるので、こちらの方がより聴きやすくなるかも知れませんね。

WFをスルー(NW無し)でやるか、素子を入れるかは悩むところで、それぞれに長所と短所がありますので、一概にどちらと言うのは言いにくいのですが、マルチ派の方にはNW付き、フルレンジ派の方にはWFスルーの方が相性が良いのかも知れません。
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写真ありがとうございます (nhaka)
2009-09-05 20:49:31
PARCさま

写真ありがとうございます. なるほど, よくわかりました.
同心円状ではなくて, 同心円に直角(直径方向)に貼るとまた違った効果があるのでしょうか?
(自分で試してみるのが一番ですね)

時間のあるときにやってみます.

全然関係ないのですが, アキバの麻布オーディオで
コアキシャル試聴しました.
NWは麻布さんのオリジナルなんだそうですが, 異様にいい音でした.
解像度と音色のツヤとがすごいレベルで両立してました. 聞き入ってしまいました.


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Unknown (PARC)
2009-09-04 23:01:48
GX333+25様

>SS-A5やSS-A3にも、ご指摘のようなチューニングの後が見られますね。

はいご指摘のようにこれらのモデルでは制振材を使っています。これについては次回以降のエントリーで詳しく紹介できればと思います。
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Unknown (PARC)
2009-09-04 22:59:18
nhaka様

先程写真をupさせていただきました。参考になれば幸いです。
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Unknown (GX333+25)
2009-09-04 21:28:48
もともと頭が悪い上、今、脳ミソの具合がおかしいので、少し具合が良くなってから読み返して勉強することにします。
かつてコーン紙の素材競争で百科繚乱だった時代を思い出しますが、ギラリと光る素材の各部をガッチガチに固めて、どうだこれでもか、といわんばかりの「ハイエンド」機の音にどこかキンキンした癖を感じて遂に手を出さなかったのですが、なるほど共振鋭度を上げに上げたも同然、そいつをどっかでダンピングして「音作り」と称していたのでしょうね。今や、それらはすべて消滅も同然ですが、例のバイオセルロース、細々とヘッドフォンの世界に生き残り、驚異的って言ってよいほどのロングセラーですね。
たしかにあれは一味違う、少し華奢過ぎるのが弱点といわれつつ買い替えに買い替えを重ねていらっしゃる方もいらっしゃれば、ラ・ヴォーチェを長く愛用されていらっしゃる方もあるようです。
実際、あのヘッドフォンには高い素質を感じるのですが、未完の大器に終わってしまったようです。
たしかSS-A5やSS-A3にも、ご指摘のようなチューニングの後が見られますね。
それだけに近所の中古屋の店先でまだまだちゃんと音の出そうなSS-A3が無惨な姿でジャンク、なのに8400円などと法外な値段を付けられていたのには泣きたくなりました。
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Unknown (PARC)
2009-09-03 23:51:48
Yah!様

喜んでいただけて何よりです。次も頑張って書きますのでよろしくお願いいたします。
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Unknown (Yah!)
2009-09-03 23:48:44
面白いですよね。
続きも期待しています。
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Unknown (PARC)
2009-09-03 22:20:21
穴明太様

>図1において2.8KHzから6KHzあたりの赤色:コーン外周部寄り、の特性に注目しました。

さすがですね。実はこの点は次回以降に書こうと思っていました。ご指摘のとおり、コーン外周部に近いところでコーンの分割振動やエッジの逆共振をうまくキャンセル出来るポイントがあり、この時は付加マスというより制振対策としての意味合いが強いのです。初回で書かなかったのは、付加マスと一緒に話をするとちょっとややこしくなるかなぁと思い、あえて分けて書くことにしました。このことを分かりやすくするためにこのポイントの色をあえて分かりやすい赤にしています。詳細は次回書きますが、この制振材によるコーンやエッジの逆共振対策をする件は結構効果があるので、私はよく使います。実際にこれを製品に採用した例もあります。詳しくは次回に・・・。

聴感の件は一概に言いにくいのですが、次回に書きましょう。(忘れていたら催促してくださいね)
返信する
Unknown (PARC)
2009-09-03 22:12:17
nhaka様

貼るのは一般的にコーンの表側です。写真は明日までにはupしておきますね。
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なるほど、なるほど。 (穴 明太)
2009-09-03 21:55:58
図1において2.8KHzから6KHzあたりの赤色:コーン外周部寄り、の特性に注目しました。他の色のカーブと明らかに軌跡が違います。特に4.4KHzあたりのピークが消え、滑らかに上昇しています。おそらくこれは、付加マスの貼り付け位置が、ちょうどコーンの分割振動ポイントで、ダンパーとして付加されたからではないでしょうか?よって分割振動が弱められたのでは?おそらくブチル紐はコーンの円周方向に貼り付けられたのでしょう。中心から外周方向、あるいは斜め方向、半円形形貼り付けなどしたら特性はどうなるか?興味は尽きません。

低域特性のお話はよくわかりました。moを大きくすればfoは下がりピークは低域方向にずれると思っていたのですが
さにあらず。ピーク位置は変わらないんですね。意外でした。

聴感による音色の変化はどんなものでしょうか?概略でもお教え願えれば幸いです。
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どのへんに (nhaka)
2009-09-03 16:49:08
具体的な話になってきましたね.

>これに上の写真のようなブチルゴム(0.28g/1個)を4個、場所を変えて付けた時の特性変化です。ボイスコイルに一番近いネック部から順番に外側に位置をずらし、コーン最外周部までで位置を変化させています。

すいません. 初心者的な質問なのですが,
ネック部 ~ 外周部 というと, コーンの表の話でしょうか?

出来れば貼った写真があると助かります.

ではよろしくお願いします.
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