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接着材について

2008年04月03日 23時19分11秒 | オーディオ

今日は趣向を変えて、スピーカーユニットの接着剤について話をしたいと思います。

前にもお話したようにスピーカーユニットは部品点数がたかだか20点くらいのものなので、各パーツの音質や性能に対しての影響は非常に大きいのですが、意外に知られていないのが接着剤の影響です。

スピーカーユニットは他の電子部品とは違い、ネジやハンダ等による組立や加工よりも接着剤による加工が非常に多いのが特徴です。そのため、接着剤の選択を誤るとその性能や音質に大きく差が出ます。

ところがこの接着剤による加工というのは量産上結構面倒で、量産モデルではどうしても音質よりも量産性を優先することが多くなります。特に、量産モデルを大量に生産することの多いユニット専業メーカーにはこの傾向がどうしても強くなります。私が今まで付きあった多くのユニットメーカーでも、性能最優先で接着剤を選定するようなメーカーはほとんどありませんでした。

その中で良い意味の例外メーカーだった関西のトネゲンでは、「お客様の望むものは出来るだけ応えたい」とのスタンスで、ソニーが指定した非常に特殊な接着剤を採用して生産していただきました。その時に流したモデルが例の
SS-A5ですが、外からは見えない非常に地味な内容なのですが、実はこれが非常に効果が大きいのです。そのトネゲンも、その後某大手ユニットメーカーと一緒になり、今は昔のようなやり方は全くできなくなってしまいました。

私が接着剤の影響について知ったのは、ビクター時代のことです。当時のビクターはスピーカーユニットの他社へのOEMも含めた部品事業をやっており、スピーカーユニットのいろいろな要素技術を真面目に研究していたのですが、中でも接着剤については当時の日本メーカーの中でも突出していたように感じます。JBL等の名機といわれるモデルを解析し、接着剤の分析も行い、アメリカの接着剤メーカーから高いお金を出してわざわざ輸入して使用したのも、その一例です。後で分かったことですが、このJBLが使っていた接着剤はスピーカー用に開発されたものではなくアメリカでは一般に市販されているものだったのですが、その臭いと粘度の高さからくる作業性の悪さから、日本の量産モデルでは到底使えるものではありませんでした。それを当時のビクターはシステムコンポのクラスまで使ったのです。実はビクターのスピーカー製造部は当時非常に怖い存在で、設計者も何かあるとすぐラインに呼びつけられて怒られたものです。その怖い製造ラインの関係者に彼らが最も嫌うタイプの接着剤を使わせるわけですから、その説得たるや本当に大変でした。でも今では、大手メーカーでもそのようなことをできるところはほとんど無くなりつつあります。

実は私がSS-A5で使った接着剤の一部はこの時のものですが、私がソニーに入社した時には輸入商社から何と既にソニーに渡されていたそのサンプルは埃をかぶって試作室に置かれたままだったのです。当時私は本当にそれを見て驚きました。「ええ~、何でこんないい接着剤があるのに使わないの?」と。 猫に小判とは正にこのことで、そのものの本当の価値の分からない人のところにいくら良いものがあっても活用されないという悪い例でした。もちろん、私が入社後に早速それを活用し、製造ラインと交渉し、量産モデルに採用したのは言うまでもありません。この時も製造ラインを説得するのは本当にしんどかったです。こういう時は、これを本当に使いたいんだという執念のようなものしかありませんね。

さて本題に戻りますが、接着剤では一般に量産性を良くしていくと音質面が悪くなるというトレードオフの関係になることが多いのです。

具体的には、量産性を良くするには次のような条件が求められますが、これらは音質的にあまり良い方向にいかないことが多いのです。
*乾燥時間が早いこと
 
*接着剤の糸切れが良いこと(接着剤の低粘度化の方向になります)

*作業者の安全を考慮し、毒性の強いトルエン等の有機溶剤を使わず、水溶性のものを使うこと(水溶性もやはり低粘度のものが多い)

つまり言い換えれば、音の良い接着剤は固形分が多く高粘度で、糸切れが悪く、乾燥時間が長くゆっくり乾燥させるタイプということで、必然的に有機溶剤系のものになります。海外のユニットメーカーでは日本メーカーに比べ量産性が若干劣っている反面、接着剤等での規制が少ないことが設計に有利に働いているのではと個人的には推測しています。

PARC Audioも一部のハイエンドモデルを除けば中国の量産メーカーに製造を依託しているので、接着剤を自由に選択するということは簡単ではないですが、幸いなことに現在付き合っているメーカーはそんなに大きな規模のメーカーでないため比較的こちらの要望を聞いてくれるので、一部ですが日本から持ち込んだ特殊な接着材を使用しています。この辺もPARC Audioのユニットが今までのユニットと少し違う雰囲気が出せていることに貢献しているのではないかと思っています。

さて次回はユニット各部の接着剤の使われ方について、書いてみたいと思います。では今日はこの辺で。



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