凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

お通し問題2

2013年08月03日 | 酒についての話
 前回の続き。子安大輔氏の「お通しはなぜ必ず出るのか」からもう少し引かせていただく。
 このお通しですが、「自分が頼んだわけではない」という点が問題となるケースがあります。
「必ずお通しが出るのは不愉快。押し売りみたいなもんだ」と思っている人もいるでしょう。実際に、頼んでもいないお通しが有料であることについては、外国人客などからクレームがつけられることもあるようです。
 そうだろうなと思う。頼んでもいないのに勝手に商品を押し付けて料金を請求するというのは、日本じゃこのお通しとNHKの受信料くらいか。外国人だけではなく、居酒屋に入り慣れていない人はみな戸惑うだろう。
 280円均一で全国展開を推し進めている焼き鳥居酒屋「鳥貴族」はお通しを出さない。それについて社長はブログで説明している(→鳥貴族 社長の焼鳥日記!!:居酒屋の【お通し】について)。
 大倉社長は自らの体験を語る。
勝手に出てくるということで、お店のサービス(無料)だと思い込んでました。
ところがある時、お会計でレシートをくれたお店があり(その頃は珍しかった)、内容を見ると、代金を取られてたことを発見したんです。
その後、行きつけのお店でも確かめたところ、やはり代金を取られてました。
【取られてた】・ ・・まさにそんな心境でした。
もっと厳しい言い方をすれば、【詐欺】にあったような気持ちになりました。
 確かに厳しい言葉だが、なんの説明も無ければその通りだろう。だから鳥貴族では「お通し」を出さないのだ、と。
 これは、法的に問題ではないのだろうか。
 木村晋介弁護士は、「居酒屋でお通しを有償で提供することが、社会的にみて商法第一条の商慣習として成立しているとは言いがたいのではないか」とされる。(PRESIDENT Online 「解決!法律教室」)
 確かにね、「お通しが出てないじゃないか!」と怒り出す客は少ないと思う。これが成立しなければ、客側に代金を支払う義務はなくなる。
 
 僕は、そこまで厳しく言うべきかは迷う。
 立ちのみなどを除いては、酒場はとにかく客回転の悪い場所であり、席料をとらなくてはやっていけないであろうことは、前回書いた。客側からすれば席料などないにこしたことはないが、もしもお通しが無くなっても他で料金に上乗せされるのであれば同じことだと思われる。
 難しいなと思う。居酒屋という場所は廉価であるから有難いので、だからしげく通うことができるのだ。これが底上げされれば困る。ただでさえ消費税を上げようと政府に企まれているのに。
 僕は前回「お通し」には否定的であることを書いた。しかし、席料まで否定的なのではない。仮に、今までお通しで補っていた分を値上げでまかなおうとするならば。また値上げでなくとも、例えばホテルのサービス料のように、料金の10%を席料として頂戴する、なんてことになったなら。
 同じ時間飲み食いしたとしても、品数を多く、また高価な品を頼んだほうが損になる。漬物盛り合わせでチビチビ徳利を一本なめるようにのむ客もガンガン注文してガバガバのむ客も、同じ2時間居たのに。なんだかそういうのは楽しくない。
 しかし時間制で席料が決められるのもイヤだ。酒をのむ時間を縛るのは終電の時刻とニョーボの角くらいで十分。もちろん飲み食べ放題2時間制とかは別だが、時間で料金がかわるのはなんだかせわしない。僕などはセコいので、あと5分でまた席料が別途かかる、と思えば何となしに腰が浮く。
 じゃ均一席料が最もいい方法か、といえば、それもどうなのかなと。
 バーなどにはチャージ料というものがある。そこには、ここは酒だけを提供しているのではない、時間と空間が売り物なのだ、という矜持もあるだろう。居酒屋だってもちろん酒と肴だけを提供しているわけではないが、居酒屋の売りを空間等に設定されると困るし、そういう店には行きたくない。実質的なのが居酒屋のいいところではないのか。
 席料の必要性を否定するわけではないが、やっぱりそう明示されると「今日はサク呑みなのに」「そんなに長居してないのに」とか考えてしまう。
 こういう話になると、「お通し」という存在はいい落しどころであるようにも思えてくる。

 けどなぁ…。
 若いときの話なのだが、とある休日、昼食をとろうとうどん屋に入った。そこで僕は、カツ丼とミニうどんの定食を頼んだ。それですませればいいものを、休日だったのでつい「ビール一本追加して」と言った。暑かったんだよ。
 そのビール(中瓶)に、お通しがついてきた。少量のヒジキか切干大根か何かが、刺身の醤油皿のようなものに盛られてきたと記憶している。いずれにせよ大したものではなかった。ビールも中瓶なのでカツ丼が供される前に飲み干し、そのお通しはしょうがないのでカツ丼の合いの手に食べた。食べ終わるまでに15分とかからなかったはず。
 はっきりと憶えてはいないが、カツ丼定食700円、ビール500円、お通し300円くらいだったと思う。あの一口で食べられるような小鉢にそんな値段がついていたので驚いた。一言いったら「お酒を召し上がる方にはお出ししております」と。この店、夜には居酒屋に変身するようだ。
 しかし釈然としない。昼間だよ。結局中瓶ビール一本800円か。外でロング缶イッキしてから店に入ればよかったよ。
 そしてこのお通し、全くもってコスパが悪い。お通しというものは席料込みとすればコスパが悪いのは当然のことだが、それにしても。

 話が堂々巡りになっているのは承知していて申し訳ないが、やっぱり変な気もしてくる。お通しのつまらなさについて、①順番と酒との相性を無視②好き嫌い無視という側面から書いたが、やはり③コストパフォーマンスへの不満もあるだろう。
 まず、値段が高い場合。
 僕が知る中でお通しの最高額は、1500円である。こうなると、お通しの概念を超える。
 なお、これをボッタクリというつもりは毛頭ない。この店のお通しが1500円であることを承知で、入店しているからであるが。
 1500円のお通しと書くだけで、あああの店だとわかる人はわかるだろう。杜の都のあの店である。そのお通しの内容といえば、僕が行ったときには鮪と牡丹海老と帆立の造り盛り合わせだった。相当に吟味された上質のものであり、1500円はサービス品であると判断することも可能だ。うどん屋で出された少量の惣菜お通しが300円だったことを考えると、五倍の値打ちどころではない。
 しかし、知らずに入ったらびっくりするだろうなとは思う。これは既にコース料理の一部だと考えたほうが適っている。
 かに酢を出してきた店のことは述べたが、こういうものをお通しと称しているのはどうなのかなと思う。コスパに合う合わない以前に。

 お通しは3~400円くらいにして欲しいのだが、その値段にすら全くみあわないものも、やっぱり出てくる。
 個人でやっている小さな居酒屋などで、例えば刺身の切り落としや前日の魚の残ったものをさらりと煮てお通しとして出してくる店がある。こういうのは個人的にはうれしい。お通しは席料込みだから原材料費を切り詰めないとその役割を果たさないが、こういう余剰材料なら何とかまかなえるのだろう。だいいち、美味い。やっぱり困るのは大きい店やチェーン店だ。お通し用に仕入れをするはずだから、どうしても業務用の惣菜になったりする。
 どうしてああいうものは、美味くないんだろうねぇ…。100円であっても値段にみあわない気がする。

 こうして考えていると、僕も文句ばっかり言っている。代案を出さねばいけないのだが、それが思いつかないのが困ったことだ。
 まず、改善してほしいこと。
 詐欺にあったとまで思う客もいるのだし、食習慣の異なる外国人客もいるのだから、まず「お通し」を最初に出すことについては事前に告げるべきである。勝手に出して勝手に勘定に入れるのなら、それは確かに問題点が多すぎる。
 これは、メニューに書くだけでは足らないような気もしている。
 大手の居酒屋チェーンではクレーム対策なのか、一応メニューには明示している。例えば「養老の滝」はこんなふうに。(→Web版メニュー)
 こういうのは、現状を考えれば良心的と言えるだろう。だが、メニューのかなり後部下段にしるされている。つぼ八は裏表紙だ(こちら)。やはり、申し訳ないがクレーム対処用にも見える。
 こうした大手チェーン店には、メニューの表ないしは1ページ目にお通しについて書くことを義務付けられないものか。「頼んでないぞ」「いや書いてあります」というのは、あまりにも客をないがしろにしてはいないか。
 僕が望む形は、店頭に張り出してもらうことである。「今日の突き出しは○○。315円」と。
 それを見て客は店を選ぶ。
 本来は、お通しに何種類か選択肢があるのが理想である。好みにしたがって、また酒に合わせて選べるようにせよ。それが居酒屋の楽しみじゃないか。
 だが、それはコスパの関係上難しい(1種類に絞らないと席料込みで採算がとれない)ならば、やはり店頭に明示しなさい。自信を持って。
 なかなか難しいのはわかりますけれどもね。けれども、メニュー表の最後に小さく載せておく、なんてのもちょっといやらしいやり方じゃないのかい。
 あるいは、お通しのメニューを固定化する、というのもいいかもしれない。うちは、春夏秋冬いついらっしゃっても煮豆です、とか(根岸の鍵屋)。これもうまくやれば、店の名物をつくることにもなり集客につながる。
 そして、拒絶されたら出さない覚悟を持つこと。あくまでお通しは、本音は席料であっても肴の一品であるのだから。僕はびしょびしょの酸っぱい春雨サラダなど出されても困るのだ。せっかく呑みに来てるんだもの、好きなものだけを食べたいよ。
 僕個人だけの都合でいえば、お通しは300円で今日は○○ですが、もしお好みでなかった場合はお出ししません、替りに席料200円別途とさせていただきます、でもいい。むしろそちらのほうが無駄がなく、食べ物を粗末にする罪悪感からも逃れられる。無粋だけれども。

 以上の話は、お通しが席料込みであるということを前提で書いている。だが、そうでない場合はもう「ふざけるな」としか言いようがない。
 全国どこにでもある大手チェーン居酒屋の話なのだが。
 その夜、気の置けない友人と夜半過ぎから呑んでいた。話が続いて夜も更け、終電も終わった。翌日は休日なので朝まで呑んでもいいと思っている。だが、店が次々と閉まってゆく。僕らは、朝まで開いているその大手居酒屋に入った。もう何も食べたくないし、酒呑んで話せる場所さえあればいい。
 店に入るとカウンターがあり、二人だからそこに座ろうとすると「空いていますのでテーブル席へどうぞ」と言う。確かにガラガラだったが、そんな10人くらい座れる席など話しにくくてしょうがない。
 その広い席で、二人で焼酎ばかり呑んで、2時間くらい居ただろうか。ここは、僕が支払うことにして勘定をした。
 レシートをくれたので、なんとなしにそれを見た。さすれば「席料105×2 お通し315×2」と書いてある。
 ん?
 酔っていたので、聞いてみた。何だこの席料というのは? と。
 さすれば、テーブルチャージだということ。おいおい、僕らはカウンターのほうが良かったんだ、それを無理にあんたらが連れてったんじゃないか。そのときに一言でも席料の話をしたか? 僕は酔いもまわっていたのでつい「店長を呼べ」と言ってしまった。
 でも、理不尽じゃないですかこれ。深夜料金10%というのも加算されていて、まあそれはファミレスだと思えばいいのだけれどもね。お通しに別途席料か。小さい話ではあるのだが…どうも釈然としなかったのも事実で。
 何でも、事前説明というのが必要だと思う。こんな小額でも、気分がよろしくない。「お通し」というものの存在を知らない人がサービスだと思っていて、代金を「取られていた」と知ったときの気分ってこういうものか、とその時に思った(ちょっと違うかしらん)。

 軽い気持ちで書き始めたが思わず長くなった。案外、難しい問題だったのかも、これは。


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