凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

かぼすを搾って

2013年10月31日 | 酒についての話
 ちょっと前の話になるが、妻の実家から今年の初収穫となるりんごが大量に送られてきた。毎年のことなので恐縮なのだが、早生種のりんごは日持ちしない。かといって、冷蔵庫には入れにくい。りんごはエチレンガスを発するため、野菜などと一緒にしておけない(野菜が傷んでしまう)。
 そもそもダンボール2箱ぶんなど冷蔵庫に入りきらないので、あちこちにお裾分けしてまわった。しかしこれも恐縮な話なのだが、そうしてお分けするとたいてい「お返し」をいただいてしまう。こっちは別に自分で買ったものではないから、人の褌で相撲をとっていることになる。結構いいものも頂いたりするので、海老で鯛を釣っていることにもなる。いやはや。
 最後に持っていったお宅で、大量のかぼすを頂いた。30個くらいある。どう考えても海老鯛だが、途方にくれてしまった。
 ミカン30個なら軽く食べられるが、かぼすは皮をむいてパクパク食べるものではない。だがせっかく頂いたものをさらに他にお裾分けするのもまた無礼であるし、そういう知り合いのお宅は今まわったところ。もう一回行きにくいよ。「ジュースにすればいい」と先方はおっしゃるのだが、僕はジュースを飲む習慣がほぼ無い。コンビニや自販機ではお茶しか買わない。冷凍保存も可能なのだろうが、冷凍庫に隙間が無い(詰め過ぎだ)。
 妻は、秋刀魚を焼いたときに添えたり、様々料理に使ったりしていたようだが追いつかず、冬なら湯豆腐や鍋物にぽん酢で使うのに、とか呟きつつ「お酒に搾ってのんだら?」と僕に言ってきた。

 僕は、晩酌にそういう酒ののみ方は基本的にしない。酒に何か別の味わいのものを混ぜることは、積極的にはしたくない。
 そう言うと「カクテル全否定」みたいな話になってしまうので申し添えなければならないが、僕はカクテルもおいしくいただいている。そして、異なる味わいのものを混ぜて絶妙のバランスを見出す積年の技術は素晴らしいと思っている。
 ただカクテル(特にショートドリンク)は、晩酌時にのむ酒ではない。あれは食前酒だろう。別にアペリティフでなくてもいつのんでも良いのだが、いずれにせよ何かを食べながらのむ酒ではなく、単独で味わうべきものである。以前にも書いたので繰り返さないが、ショートドリンクはそうでないともったいない。
 そして、僕の場合においてはロングドリンクも、食事には適合しないのではないかと思っている。

 ちなみに、カクテルにおいてショートドリンクとはいわゆるカクテルグラスで供される強いヤツのこと。マティーニ、マンハッタン、ダイキリ、ピンクレディetc. ロングドリンクとはタンブラーやゴブレットなどで供される、たいていは強い酒を割った飲み物。ジントニックやフィズなどがすぐに挙げられるが、広義に考えれば水割りもロングドリンクと言えるかもしれない。ハイボールはもちろんロングドリンクの代表的なものであるから、つまりチューハイやサワーなども、ロングドリンクの範疇と言える。
 このロングドリンクの中で、僕が先程から「食事中にはほぼのまない」と言っているのは、酒に別の味わいを加えたものである。水割りや酎ハイは、酒をほぼ無味のもので割っているだけだから全く抵抗はない。あまりのみたくないのは、カルアミルクやスクリュードライバーはもちろんだが、酎ハイレモンやグレープフルーツサワーなどもそうである。そして、かぼすを焼酎に搾るのも、食事の際にのむのは二の足を踏んでしまう。

 アタマの中でこの嗜好について整理すると、これには、2つの理由があったりする。
 ひとつは「酒がもったいない」と思ってしまう場合があること。
 今でもそうなのかもしれないが、ひところ焼酎のお湯割りに梅干を入れることがよくあった。お湯割りを注文すると店側も「梅干入れますか」と尋ねてくる。
 それには「入れないで」と言えばいいだけのことなのだが、ある居酒屋での宴席。僕がちょっと席を外して戻ると「君の分の酒も頼んどいたからな。お湯割りでいいだろ」と。寒い日だったので異論はないが、その人は「梅干入り」で頼んでしまっていた。よかれと思ってのことだろうが、焼酎は鹿児島の上質の芋焼酎だった。ブランドもので、値も張る。
 芋焼酎はその香りが身上である。あちゃー。僕は芋のお湯割りは大好きなのに。ご丁寧に梅干はもうグラスの中で崩されている。注文した人の指示らしい。なんてもったいない。案の定、酸っぱい。これでは高い上等の芋焼酎が泣く、と僕は思った。この出来事は、僕にとってはオールドパーをコークハイにされたのと並ぶ痛恨の思い出である。
 うまい酒は、出来ればあるがままにのみたい。酒には酒の味わいがあり、それを殺すべきではない。芋焼酎はクセがあるから梅干でも入れなければのめない、という人には、そこまでしてのまなければいいのに、なんて考える。個人の嗜好だから人のことにとやかく言うべきではないかもしれないが。
 
 もうひとつの理由。こっちのほうが重要なのだが、料理と酒を合わせる場合は、できれば酒はプレーンなほうが料理を生かすのではないかと思っていることである。
 完全に個人的な嗜好なのだが、僕は「食事における酒は、料理に奉仕すべきである」という考え方を持っている。味わいとして酒が突出するのは望ましくない。料理をうまく食べんがために、酒が存在している。
 つまり酒は、ごはんみたいなものである。そしてごはんも、おかずをうまく食べるために奉仕してくれる。秋刀魚の塩焼きも鯖の味噌煮も、単体でそれだけ食べていては何だか物足りない。白いごはんがあって共に食べてこそ相乗効果が得られると思っている(異論はあるでしょうが僕はそう)。
 ところが、それが白いごはんでなかった場合はどうなるか。僕は炊き込みごはんが好きだが、トンカツと共に出されても困ってしまう。いくら鯛飯や牡蠣御飯が好きでも、定食のごはんはプレーンなほうがいい。そしてカキフライとともに牡蠣御飯を頬張れば、フライも牡蠣御飯も死ぬような気がする。双方の強い個性がバッティングする。牡蠣御飯を食べるならあくまで口直し程度の汁と香の物でいい。主と従の関係性は重要だと思う。
 この主従の関係性は、酒においても然りである。
 「味付け」した酒は、つまり炊き込みごはんと同じことだろうと思う。単体でのむ場合には、さほど問題は生じない。だが料理と合わせるのは難しいのではないのか。個性が喧嘩しないか。
 さらに。僕は酒にうるさいほうではない。第三のビールや普通酒だって喜んでのんでいる。だが酒と肴の合わせ方についてはある程度考えるし、選ぶ。塩辛なら燗酒を選びたいと思うし、ワインはのみたくない。相性というものは存在していると思っている。そういうことは、ずいぶん記事にしてきた。
 さらに酒がロングドリンクである場合は、ベースとなる酒と料理の相性だけ考えればいいわけではない。この料理には果たして梅干テイストは合うのか。ライムと相性がいいのだろうか。そういうことまで考えなければならない。これは、甚だ面倒くさいことである(自分で勝手に面倒にしているのは百も承知だが、そういう男なのですよ)。
 だから、かぼすを酒に搾り入れるのに二の足を踏むのだ。

 しかし、現実にかぼすが山ほどある。妻に「なぜかぼすを絞らないのか」について滔々と語ったら、阿呆かと一蹴された。みんなそうやってのんでるじゃないの。あんただけよそんな鬱陶しいことを言ってるのは、と。
 阿呆、偏屈、頭デッカチと言われればもうしょうがない。試しに絞ってみることに。
 
 かぼすと合わせる酒は、どうすべきか。
 一般に柑橘系は、酒と合わせやすいという声が多い。僕はやらないが、ブランデーやウイスキーにレモン、という組み合わせでのむ人もいる。テキーラにライムはもうつきものと言ってもよく、ジントニックやモヒート、さらにダイキリやギムレットなど、カクテルは柑橘類を多用する。 
 スピリッツだけではない。ワインは果実酒だからそもそも酸味を含み柑橘類は合わないと思うのだが、アメリカン・レモネードというワイン使用カクテルもあるらしい。まさかビールには泡を殺す果汁を入れることはない、と思えば、メキシコではコロナビールには当たり前のようにライムを入れると聞く。まさか清酒に…と思えば、昨今女性を中心にレモンを浮かべた清酒がのまれていたりもするようだ。おそらく日本酒が苦手な層に「口当たりよく」のませるためのものだろう。芋焼酎&梅干同様、何もそこまでしてのまずとも、と一瞬思うが、清酒の消費が冷え込む昨今は、何でもいいからのんでくれればいいのかもしれない。僕はやらないが。
 基本的には焼酎だろう。それも、芋などの個性の強いのではなく麦あたりがいいか。いやむしろ本格焼酎ではなく、甲種焼酎のほうがいいのかもしれない。
 我が家を探せば、ペットボトルに入った甲種焼酎が一本あった。いわゆる「ホワイトリカー」である。味に個性はほぼない、と言っていい。僕は焼肉や餃子のときは、よくこういうプレーンなアルコールをのんでいる。一時期ビールを止めたときからの習慣。

 グラスに氷を入れ、25度のリカーを入れ、半割りにしたかぼすを上からぎゅっと搾る。
 うん…かぼすの味しかしない。無味に近いリカーに絞り入れたのだからこれは当然の帰結だ。そして、かなり酸っぱい。かぼすの実は大きい。半割にしても果汁はたっぷりある。加減が必要か。ただ甲種焼酎特有のアルコールくささは消える。のみやすくなるのは確かだ。
 何と合わせれば良いのかわからぬまま、そのまま一杯のみ干した。これは危険だぞ。アルコールをのんでいる感覚が薄まるため、度数にかかわらずすいっとのどを通ってゆく。

 その後。
 最近は、鶏唐揚げがブームのようだ。大分発のご当地グルメとしても高名になり、専門店が増えた。北海道の「ザンギ」も本州上陸している。僕は唐揚げといえば餃子の王将で出す「花椒塩」をつけて食べるものをすぐ思い出すが、昨今は下味をしっかりつけたものが多い。唐揚げというより竜田揚げに近いものも多いが、概してうまい。
 ところで、店で唐揚げを注文するとレモンがついてくることが多い。あれ、僕は好きじゃないのね。さっぱりと食べられるのだが、唐揚げは元来脂っこいものだと認識しているし、さっぱりさせなくともいい。持ち味を失うような気もする。また、果汁を掛けることによって衣がしなっとしてしまうのも残念。だから、多人数で食べるときに、何も問わずにレモンを上からじゃっと搾りかけてしまう人がいたりすると「何をする!」と思う。これは、唐揚げだけではなくフライなどもそうだ。レモンは食べる都度、また小皿に搾ってつけて食べるほうが料理のパリパリ感を失わずにすむと思うのだが、そんな細かいことを主張するわけにもいかずしばしば残念な思いをする。
 そんなことはともかく。近所でから揚げをごそっと買ってきた。
 これに、かぼすを搾った焼酎をあわせてみると、これがなかなかいける。
 唐揚げにレモンをかけることによって食感、また温度が変わってしまうのだから、柑橘味は酒のほうにつければよかろう。そう思って試したのだが、想像通り実に相性がいい。ビールは最初だけでいい僕のようなものには、実に適している。
 難点は、食べすぎかつのみすぎてしまうことか。唐揚げはしつこいのだが、酸味のある酒をのむことによって口中がリセットされ、いつまでたってもうまい。酒もまた、過ぎてしまう。ビールでないため多少のカロリーオフになっているが、食べ過ぎてしまってはなんにもなるまい。

 以降、かぼすを多用するようになった。つまり、単純に脂っこい食べ物にはそこそこいける。ジンギスカンのときにものんだ。羊肉に酸味はいいな。そのとき試しにウイスキーの安いやつを水割りにしてかぼすを搾ったら、これはあまり良くなかったかも。やはり酒自体に個性がないやつのほうがいい。
 そうしているうちに、かぼすも徐々になくなってきた。妻は「だから言ったのよ入れてのんだらおいしいはずって」と言う。確かにね。しかし何でもいいというわけじゃないのだよ。やはり、相性というものはある。
 それに、徐々に秋風が吹いて涼しくなってきた。燗酒やお湯割りが恋しい季節。お湯割りにかぼすは難しいよね。むせそうだ。ホットレモネードってのもあるけどさ。
 そろそろ鍋でもどうかな。かぼすをポン酢醤油にして。うまそうだよ。かぼすはそちらで消費して、僕は燗酒を。

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