凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

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熱燗・ぬる燗・人肌

2005年12月06日 | 酒についての話
 燗酒が美味い季節になったのは嬉しいことなのだが、前回も書いたように居酒屋では常に「熱燗一丁!」である。これはいったいどういうことなのかとも思う。当方は熱燗にしてくれとは全く頼んでいないのに、手で持てないような熱々の徳利をよく供されてしまう。うーむ。
 これは、つまり燗の温度が決まっている専用の機械でつけてくるからだ。「自動酒燗器」の登場からであろうと思う。よく居酒屋のカウンターの向こうに、一升瓶を逆さまに取り付けた機械を見たことがあるだろう。あれである。
 あれは実に興ざめする機械だ。あれは瞬間加熱方式でじっくり温めることをしないので味わいが消えてしまう。最新の機械では徳利一本ごとに温度調節が可能らしいがそんな面倒なことはしたくないのでたいていは温度設定を最強にしてあるのだと思う。その温度設定とは65℃であるらしい。うーむ。
 流行っている居酒屋は忙しいので、いちいち湯せんになどしてはいられないだろう。客ごとに燗の温度など聞いていられないに違いない。僕が燗酒を頼み、「熱燗ですね~」と言われて、断固「いや、ぬる燗で頼みます」と言うと一瞬間があって「あ、はい、ぬる燗ですね」と言う。面倒なのに違いない。でも注文をちゃんと聞いてくれるのはいい方で、露骨にイヤな顔をされたり無視したりするところもたまにある。そんな店には二度と行かない。

 燗酒の適温とはいったいどのくらいなのだろうか。
 食べ物、飲み物の温度というのは微妙である。風呂の温度と同じだろう。肌に直接触れるので1℃、2℃で全然違ってくる。風呂だって41℃ならちょっとぬるいが43℃だと熱く感じる。難しいのである。
 一般に言われる燗酒の温度の分類は、以下のような感じだろうか。
  熱燗  45~50℃
  ぬる燗 40~42℃
  人肌  35~37℃
 これについては諸説もちろんあり、僕も念のために検索したらいろいろなことが書いてあった。熱燗は50℃から55℃と書いたあったサイトもある。定義は難しいのかもしれない。感じ方なのだろうな。つまり、季節、土地によっても変動するだろう。秋田の燗と高知の燗じゃ感じ方が違って当たり前。初秋と厳冬でも違うだろう。熱めに感じるのが熱燗、呑み易く感じるのがぬる燗、ちょっとぬるめだな、で人肌、こんな感じだろうか。人肌という艶めかしい表現の仕方にも実に趣がある。
 他にも言い方はある。上記の温度区分で言うと、じゃあ43℃の燗はなんと言うのか、と言えばこれは上燗と言う。熱燗とぬる燗の間が最高の燗どころなのだろうなとも思う。しかし割烹でもよっぽど気を遣ってくれないと「上燗」は通用しないだろう。また「日向燗」という言葉もある。これは人肌よりぬるめ。日のあたる場所に出しておいた温度、とでも言うべきか。30℃オーバーくらいの燗である。

 しかるに、65℃の熱燗とはいかがなものか。徳利が手で持てない程の熱さ。こんなもの熱くて呑めないではないか。アルコールの沸点というのは水よりも低い。ちゃんと調べなくてはいけないのだけれど記憶で書いてしまうと70℃台ではなかったか? それだと65℃の燗というのは…もうアルコールが沸騰する間近なのである。
 世の中に「燗嫌い」の人は多い。女性に顕著だ。あのアルコールの臭いがイヤ、とみんな言う。立ち上る湯気にそれだけで酔っ払いそうだ、とも。こんな熱い酒であればさもありなん、である。揮発してゆくアルコールが目や鼻に沁みる。ツンとくる臭い。香りを楽しむなどと言うレベルではもはやなくなっている。だって、もう少し熱すれば、マッチを近づけると燃えるのである。なんでこんなのを供するのか。ここまで熱いと、イワナのコツ酒やフグのヒレ酒の世界に近い。

 酒の技術の粋を集めた吟醸酒。薫り高い酒の王様である。これは普通常温、或いは冷やして呑み、燗をつけるのなどとんでもないことだとよく言われる。しかし、僕はある人のすすめで吟醸燗をいただいたことがある。
 これは旨かった。先ほどの分類でいけば「日向燗」であろう。ほのかに温かい。その特有のフルーティな吟醸香がやわらかく立ち、ゆっくりと鼻から抜けていく。これを至福と言わずしてなんと言おうか。温度をうまく操ることによって最上の旨さを紡ぎだす、そこが日本酒の実力なのである。

 燗酒というのは実に難しく奥が深い。ひとつの料理の極みとも言えないか。ちょうどいいあんばいにするには神経を使う。いい居酒屋ではお燗番の人が専属で居て、常に湯せんにした徳利を触って温度を確かめている。割烹着を着た主人のお母さんらしき年配の人がずっと燗の前に居て、気配りをしながら燗をつけている風情はそれだけで絵になる。最高の燗具合ですっと出してくれるのを杯に注ぐその一瞬こそ酒呑みの喜びの最上のものだと言えるだろう。こんな文化はもう完全に廃れてしまったと言っていい。呑む側ももう熱燗が当たり前になっていて、それで満足している。日本酒離れはこういうところに原因があるのだろう。立ち上る湯気が目に沁みる熱すぎる酒が燗酒では決してないのに。

 そういう僕だって、えらそうなことを言っているわりには自宅では散々なものである。呑んべの僕に女房は決してお燗などつけてくれたりはしない。僕も面倒になってつい電子レンジに入れる。すると、徳利の上部と下部で温度差のある燗が出来上がる。これではとてもいい燗とは言えない。しばらく置いておけば対流して適温にはなるが、それはもはや燗冷ましである。情けないとは思いつつ、それでもよしとしているのだからこんなことを言う資格などない。激しく反省の日々である。

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4 コメント

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燗酒の季節到来♪ (NAO)
2005-12-08 21:57:17
私も手抜きで電子レンジです。温度差が気になりつつも注ぐ楽しみを捨てたくなくて、徳利ごとチン!一本で熱燗から人肌まで楽しめる?
日本語ってキレイだね (jasmintea)
2005-12-08 22:41:30
外は雪が降ってて、古びたお店の中おばちゃんの手料理と人肌の熱燗♪

うーん、煮魚が食べたい~!!



って熱燗の話より凛太郎さんの言葉と表\現に感心した私でした!
>NAOさん (凛太郎)
2005-12-08 22:53:25
徳利をレンジに入れるとどうしても温度差が出来るのです。全くねぇ。本文には書きませんでしたが、レンジの場合僕は沖縄の酒器である「カラカラ」に酒を入れて燗をすることがあります。カラカラとは、上の凛太郎のとこにURL入れましたが…。平たい容器だとうまくいきますね。無ければ急須でも出来ると思いますが、風情はないですね(笑)。
>jasminteaさん  (凛太郎)
2005-12-08 22:58:10
外にしんしんと雪が降っているときの居酒屋の灯りというのは、なんだか心和ませるものが確かにありますね。

言葉と表現に感心したと言って下さってありがとうございます。書いている中身は酒にまつわるグズグズした話ですが、そう言って下さると書いてよかったと思えます(涙)。

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