凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

酒場のB.G.M.

2013年09月01日 | 酒についての話
 例年のことだが八月、妻が里帰りをしてしばらく一人暮らしが続いた。
 短い期間なら、なんら不自由は感じない。掃除などしないし(散らかり放題でいつも怒られるが馬耳東風)、洗濯は機械が勝手にやってくれる。柔軟剤を入れるのよ、とかいつも言われるのだがしゃらくさいので洗剤だけ投入する。我が家には乾燥機がないので干す作業だけが面倒くさいくらいか。あまり皺を伸ばさないのでシャツはいつもヨレヨレになる。弊害はそれくらいだろう。暑いのでアイロンなどかけない。A型のくせに、とよく言われるが、こういうことに几帳面さは全くない。血液型診断などだからアテにはならない。
 結婚する前は、何年か一人暮らしをしていた。そのときは、しょうがないので一応アイロンなんかもかけていたのだよな。今にして思えば信じ難い。加齢と共に全てが七面倒くさくなるのは、誰も同じだろうと(勝手な解釈)。
 食事は、半分以上は外で、ということになる。朝はモーニング。夜は、日ごろの不義理を解消すべく誘いには必ず乗る。だがそんなに人気者でもないので宴会が続くわけでもない。一人で駅前居酒屋のときもあれば、時間が早ければうちで一人で呑む。シャワーを浴びて適当につまみを作って一人で座って呑むのも、また愉悦である。ちょっと凝ったものも作ったりして。

 そんなときはTVを点けるのが常道だろうが、一人のときくらいはTVから離れたい。ナイターを見ることもあったが、それも中継が贔屓チームのときくらい。あとは、主として音楽を聴いていた。
 面白いもので、酒と音楽には相性がある。
 もちろんこれは僕だけの嗜好で他の人と共通理解は得られにくいとは思うが、例えばハードロックを聴くとウイスキーをガツンと呑みたくなる。ブラックサバスになると氷さえ入れずストレートで、サラミを切らずに齧りながらグラスを干す。これは酔いがまわって楽しい。
 また、するめの天ぷらを作って(暑いのに我ながらよくやるよな)、冷奴とともに焼酎を呑む。何故か南こうせつおいちゃんを聴いている。「君は僕の肩に~頬つけて~眠ってた~」とかつい口ずさむ。時は流れて風が吹く。なんともしみじみする夏の夜。
 そのうちに「今日は何を聴こうか」から始まってメニューを考えるようになった。小松菜を買ってきて、常備してあった車麩を戻し卵液に浸して膨らませ、ともにざっと炒め塩とかつお顆粒出汁、少量の醤油で味付け。麩チャンプルーの出来上がり。ゴーヤは天ぷらにして塩で。当然、泡盛。そしてりんけんバンドを聴く。というよりりんけんバンドが聴きたかったから、そういうメニューになったのだ。
 一人暮らしは、意外に楽しい。
 
 このように自宅なら、酒とB.G.M.を完璧にコントロールできるが、酒場だとそうはいかない。酒はチョイスできても、流れる音楽はほぼお仕着せになる。
 とある場所に、古めの居酒屋がある。数度入ったことがある。そこが最近、わざとスピーカーを外に向けて音楽を流すようになった。そういうタイプの酒場ではなかったはずだが、代替わりしたのだろうか。
 流れているのはチェッカーズとかハウンドドッグとか米米とか、ちょうど昭和から平成に代わる前後のヒット曲。おそらくそういう有線チャンネルがあるのだろう。ターゲットはアラフォーか。僕はもうひとつ上の世代なのであまり興味はなかったのだが、小泉さんの「GOOD MORNING-CALL」が流れていたので思わずのれんをくぐってしまった。
 驚いたことに、店の中でも外と同じ音量で流れている。はっきり言って、喧しい。既にバックグラウンドミュージックではなくなってしまっている。そのうちに長○とか○崎とかが聴こえてきたので甚だ面倒くさくなり、とん平焼きにビール一本だけで退散した。
 いろいろな考え方はあるだろうが、少なくとも酒場で流れる音楽は、B.G.M.であるべきだ、と僕は考える。もの思いや会話の邪魔になるような音量はいかがなものかと思う。

 もちろん、音楽を主体にした酒場はある(あるいは飲食店全てを範疇にしてもいいが)。それは、そういう目的があってその店を訪れるわけであって、音楽鑑賞が主体で飲食が従だ。それにまで文句をつけているわけではない。
 僕の知らない頃の話だが、名曲喫茶という場所が当たり前に存在した時代がある。かつてはオーディオ機器やレコードは高価なものであり、個人で所有が叶わなかった庶民が音楽を聴きに行った。もちろんそこで流れる音楽はB.G.M.ではなく、おそらくしゃべっていると「うるせー」と言われたはず。名曲喫茶はクラシック主体、他にジャズ喫茶もあった。
 酒場に限れば、かつて大箱のキャバレーが一世を風靡していたころ、多くは生バンドが演奏していた。歌手が営業で歌いに来ていた。これはB.G.M.に近いものであったかもしれないが、ホステスさんとチークを踊るためだけに存在するのではなく、音楽を聴かせたいという意図ももちろん酒場にはあっただろう。ラウンジの生ピアノはB.G.M.だったかもしれないが。居酒屋の流しさんはどうだったか。
 鑑賞だけではない。うたごえ喫茶なるものも存在した。客に歌集を配り、みんなで声をそろえて歌う。今の時代、全くニーズに合わない店と思われ、ほとんどは衰退したと思われる。
 こういう形態は、おそらくライブハウスなどに受け継がれているのだろう。ライブハウスなら僕も何度も行った。ドリンクを注文して演奏を聴く。コンサートより廉価でバーボンを呑みつつ好きな音楽を生で聴けるのは有難い。また観客参加型の、フォーク酒場なども存在している。
 全て、酒は従である。音楽とは異なるがスポーツカフェなどもその一形態だろう。もっともこちらはパブリックビューイングや街頭テレビがそのルーツだろうが。

 あとは、カラオケか。
 僕は、カラオケボックスという発明を非常に評価している。評価していると書けば偉そうに聞こえるので、ありがたいと言い換えようか。
 カラオケボックスが発明(?)された正確な時期は知らないが、僕は'90年代初めにその存在を知った。当時住んでいた町の、自宅近くの焼肉屋が閉店した場所にあるときコンテナがいくつも運ばれ、カラオケボックスと称して営業を始めた。
 通信カラオケが客の選曲セルフサービスを可能にし、ボックスが成立したのだろう。それまでは、カラオケは飲食店で歌うものだった。
 スナックが代表的だろう。通信などなく、機器にLDなどを入れていた時代は、カラオケは接客する人の介在を必要としていた。そしてカラオケに対する酔っ払いの需要は大きく、スナックのみならず、若者向けのカフェバーやおっさん向けのラウンジまで、カラオケが席巻していた。
 そうなると、喧しいと感じることも多かったのである。スナックは、カラオケを置かない店は少なかっただろう。店側も一曲いくらと勘定につくので積極的に歌わせようとする。さすれば、次から次へとリクエストが入り途切れることが無い。僕も歌っていたからもちろん人のことは言えないのだが、カウンターの向うのおねえさんを口説くことすらうるさくて出来なくなっていた。もう少し大きな店でも、せっかくホステスさんがいるのに会話すらしにくい。
 驚くことに、居酒屋にもカラオケがあったのだ。個室ではない。カウンターにマイクが回って、客は演歌をがなる。無線マイクではない店で、コードが燗酒の徳利をなぎ倒す事故も頻発した。
 酔えば、放吟したくなる。それはわかる。自分が歌うのは気持ちがいい。しかし、それは他の客にとって酒場におけるB.G.M.にはならない。プロが歌うならともかく、知らないおっさんの調子外れで大音量の歌など酒をうまくするわけがない。スナックはカラオケに特化していたからまだしょうがないとしても、居酒屋のカラオケは本当に困った。前述のアラフォーホイホイの居酒屋より酷い。僕もさすがに焼き鳥食べながら歌う気にもなれず、そういう居酒屋に入ってしまうたび、もう二度とここへは来まいと思った。
 それを思うと、カラオケボックスの普及は本当に有難かった。居酒屋とカラオケを分離してくれただけでも、功績はある。
 
 酒場にもいろいろあるが、例えば居酒屋なら、僕は無音が望ましいと思っている。居酒屋は、酒を呑み旨いものを食べることが主体であるべき。音楽は必要ないと言える。それが寂しいのなら、せめて従であるべきだ。B.G.M.に留まってほしい。何か鳴っているな、程度であれば邪魔にならない。
 そのB.G.M.の選曲だって難しいだろう。何か聴こえているな、程度の音量でも、酒に影響する。パンクロックは合わないだろう。郷土料理店なら民謡でもかまわないかもしれないが、ごく普通の居酒屋だとどうか。津軽三味線が聴こえてきたなら思わずじゃっぱ汁を食べたくなってしまうではないか。そんなものは普通の居酒屋にはない。以前、和楽器アレンジのB.G.M.が流れていた店があったが、琴による「世界にひとつだけの花」とか聴くとなんだか和風ファミレスにいるような気がしてしまった。天ざるとにぎりのセットを注文したくなるではないか。ややこしいのだ。
 万人に喜ばれる居酒屋のB.G.M.などなかなかないのだから、もう無しでいいではないか。居酒屋のB.G.M.は喧騒。あるいは、音楽ではなく野球や相撲の中継のほうがむしろ有難いように個人的には思う。
 
 こうやって考えると、僕はずいぶん音楽に気分を左右される人種であるなと思う。影響を受けやすいのか。だから、気になる。
 統一感があればいいのだろうと思う。ビアホールでアイスバインと黒ビールをやっているのに、岸壁の母が流れてきたらおかしな気分になる。それは市場食堂で新鮮な刺身と焼き魚でコップ酒のときのB.G.M.だろう。単純な話だが例えば洋酒主体の店では洋楽が流れていてしかるべきだ。
 しかし、ビアホールにはドイツの音楽がふさわしいと仮にして、メンデルスゾーンとスコーピオンズでは全く異なる。ワインにシャンソンがいいのかどうかもよくわからない。店の雰囲気にもよる。以前ポンドステーキでビールをガバガバ飲むという店でデキシーランドジャズが流れていたが、あれは良かったな。勢いがついた。

 カクテルを供するようなバーでは、静かなモダンジャズの頻度が高いような気がする。僕はモダンジャズはほとんど知らないが、たいてい心地いい。そういうB.G.M.として定番の音楽があるのは、結構なことだと思う。
 酒と音楽の一体感というのは、客の個々の好みがある以上正解は出せないものだろうとは思うが、店側もB.G.M.を流すのなら吟味してもらいたいとは思う。わがままかもしれないが。

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音楽も酒の「あて」? (よぴち)
2013-09-10 18:50:40
凜太郎さん

前回の「お通し問題」の記事といい、今回の記事といい、すごく同感するところがありますね~。
お通しの話は、「その通り!」と思うことばかりで、コメントが出来なかったけれど、今回の音楽は、1つだけ、私はウィスキーにはJazzかブルース、という感じなのです。
まあ、Jazzかブルースが流れてる中で、日本酒、というのも悪くはない、そもそもビールや焼酎をそんなに好きでない私は、ビールや焼酎ではないかな、という程度。
ずいぶん前ですが、福井駅前の「笑笑」に入ったら、薄暗くて、BGMがJazzでした。ここは居酒屋なんじゃないの? しかも、チェーンの大衆居酒屋なんじゃないの?
…なんだか、違う気がしてしまった。若者にとっては、あれでいいのかもしれないけど、おばさんの私がイメージする居酒屋は、Jazzではない。
むしろ、昭和歌謡(演歌)の方がいい。

そして、そもそも「騒がしい」ことがニガテな私なので、居酒屋などでも、あまり騒がしいところは、わざわざ選んでまでは行かないですね、おつきあいで そういう店に出くわしてしまったら「我慢」しますが。
当然、音楽は静かに、BGMでいいわけです。
ただ、居酒屋でも、ひとりで、カウンターで飲むシーンを考えると、ちょっとBGMが欲しくなるかな、間違っても 隣の人の話に聴き入ってしまいたくないし…。
最近の私なら、ひとりならカウンターの向こうのお店の人などに話しかけてしまいそうですが。

今日は禁断を解いて 飲んじゃおうかな。
なんとなく、この記事を読んで、今はそんな気分でいます。
読んでるだけで、いい気分の記事でした(*^_^*)
ありがとう。
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>よぴちさん (凛太郎)
2013-09-12 06:38:41
すみません。お通しの話は屁理屈ばかりですしこの話は感情先行です。お許しを(汗)。
その、ここで書いていることはどうも焦点がぼやけていて、今読み返すとなんだかわかんないですよね。
わかんない部分は、酒と音楽の相性の話なのか酒場のBGMの話なのか、どっちつかずのところです。ダラダラ書いちゃったからなぁ。
そのうえで…。
ウイスキーを呑む酒場のBGMは、おっしゃるとおりジャズとかがいいですね。落ち着く。僕はジャズもブルースも全く詳しくないので知ったかぶりですが、雰囲気が出ます。ゆっくりと水割りやロックを味わうに似合う。
うちでハードロックを聴きつつストレート呑むのとは、場が違います。ウイスキーを呑ませる酒場(Barなど)でヘビメタなんか絶対イヤだ(笑)。だいたい、ヤカマしい。

ビールや焼酎ですと場は居酒屋、ということになるでしょうね。それだと昭和歌謡なんかは相性がいいですな。
「笑笑」には入ったことが無いのですが、勝手に白木屋とか、そんな感じを想像していました。ジャズかあ。
確かに若者の店ですから、そこにくちばし挟むのはおかどちがいかもしれませんけれどもね(汗)。そして、薄暗いと。
「酒場の照明」については、少し準備しています。もしかしたら、年内書くかもしれません。書けないかもしれないけど(汗)。
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店と音楽 (マロニエのこみち・・・。)
2013-09-16 11:54:03
凜太郎さん、ご無沙汰しております。
酒場のBGM、楽しい記事、堪能させていただきました^^
本当に、酒場に限らず、店の雰囲気って、BGMで随分変わりますよね・・
店の作りや内容が好みでも、BGMが煩わしいと、早く出たくなってしまうし、もう来たくない・・
確かにそんなお店にも、何度か出会った気がします。
おっしゃるとおり、居酒屋さんは、八代亜紀の歌ではありませんが、無音、いいですね・・・
いいお店って、気が付いたら、無音だった・・・
そんなこともありました。
昔のカラオケのある住宅街や場末の居酒屋、思わず、ウンウン、あったあった・と苦笑しました^^;
案外いいのは、低く流れているラジオ、聞き入るでもなく、聞かないわけでもなく、程よい感じで・・
店とBGMという意味では、京都のお店は、凜太郎さんもよくご周知のとおり、流石に店の雰囲気とBGMがぴったりあっていて、曲を聴くと、懐かしいその店のことを思い出すこと、よくあります。
捨得の70年代フォークとバーボン、ろくよ~のジャズとウィスキー、荒神口のある店で一人で頼んだバイオレットフィズ、80年代の喧騒の木屋町のスナックのサザン、寺町の居酒屋の熱燗と昭和歌謡、祇園のクラブのムード歌謡とウーロン茶割り、ディスコのモスコミュール・・・
本当に、この手の話は尽きませんね(^^;
でも、一番印象深く残っているのは、中国のシンセンの日本料理店と名の付いたチープな居酒屋で、ふと流れてきた吉幾三の雪国・・・
大して好きでもないのに、出張先の心細い心に沁みたのか、なぜか心に残っています。

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>マロニエのこみちさん (凛太郎)
2013-09-17 05:29:04
こちらこそご無礼を続けています。このたびの豪雨、被害に遭われませんでしたでしょうか。

酒場のBGMについては完全に好みの問題だと思いますし正解はありません。その上で、自分と好みが合致した店に入れればうれしいですよねー。店の価値はもちろん料理の味や接客サービスなどで大半は決まるのでしょうが、案外音楽も要因としてあるような。いいなと思えば贔屓にしたくなりますし。もっとも書きましたようにその逆もあるわけですが(汗)。
僕は22歳で学校卒業と同時に京都を出ましたので、あの街で社会人経験がないんです。ですから、あまりちゃんとした店は…。学生でしたからね。マロニエのこみちさんが流れるようなリズムで書いてくださった文章からはそのままBGMが聴こえてきそうですが、僕はそれほどよく知らないんです。
けれども、捨得には何度も行きました。
僕は、このブログでフォークや何かの話のときに「とあるライブハウスで昔それを聴いた」なんて書くことがありますが、それは捨得であることが多い。好きだった女の子も連れて行きましたし、想い出がいくつもあります。
もう20数年も訪れていません。あの蔵のライブハウスは、今住む町からそんなに遠くはないはずなのに。
返信する
はじめまして (山江まろん)
2013-10-25 21:56:27
「織田信忠」検索で、時々凛太郎さんの数段下をうろちょろしている山江と申します。
すごくどっしりした、芯のある文章です。
お酒は、呑めればなんでも、なので、ここまでのテーマで、呑んだことは、ありません。
これからのご活躍、お祈りします。
返信する
>山江まろんさん (凛太郎)
2013-10-27 18:20:14
恐れ入ります。読んでくださってありがとうございます。書くのは好きなのですが、文章はまだまだ修行中です。織田信忠なんてのはずいぶん昔に書いたもんですから今ですと全く恥ずかしい(汗)。
最近は酒の話を書いていますが、いつも酔っ払いの戯言の範疇を出ることはなく、思いついたことを適当に書いているだけで、テーマなどと言われますと冷や汗が出ます。ホントすみません。
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