人間には急所というものがある。異形のレスラーとてそれは同様。なので、急所を攻撃することは当然反則であり、厳禁とされる。
具体的に急所はどこを示すのかについては、団体のルールにより少しづつ異なっている。
喉を急所とする見方もあるが、これは気管そのものを急所と捉えるか、あるいは喉笛、ノドボトケを急所と考えるか。喉笛であればラリアートなどは反則技となってしまう。しかし多くのルールはそうは捉えていない。気管は確かに急所だろうが、多くのルールブックは「喉を絞めること」を反則としており、場所というより行為だろう。喉への反則攻撃については反則技1で言及した。
どこでも共通して急所としているのは、目と金的である。これは、絶対にいけない。プロレスに限らず、どんな格闘技もこれは禁止しているだろう。金的攻撃=急所攻撃とすぐに連想される。ああ考えただけで気分が悪くなる。
ところでふと疑問に思うのだが、股間攻撃が反則とされることについては、男子プロレスだけのローカルルールとして考えたほうがいいのだろうか。手元に資料がないので検索してみたが、今は日本の女子プロレスはみなインディーズ化しており、公式サイトもブログのようになっているのがほとんどで、ルールまでなかなか示してくれていない。なのでわからないのだが、どうなんだろう?
とにもかくにも、金的攻撃は少なくとも男子においては反則である。
ただ、金的攻撃が反則技として成立するのかは、微妙だ。プロレスには「5カウントルール」があるため、金的攻撃ですらその範疇に入ってしまう可能性はあるが、ルールブックにはたいてい「あまりにも悪質な反則行為を行った選手に対し、レフェリーの判断で即、反則負けを宣告する時もある」との一文が入っている。金的攻撃はこれに該当するのではないかと推測する。そりゃそうでしょ。あそこへの攻撃だけは、ダメだ。これが悪質すぎる行為という考え方に、全ての男性は賛成するだろう。
したがって金的攻撃は反則技ではなく、反則であると考えられる。なので多くは、レフェリーのブラインドをついて行われる(やっぱりあるんじゃないか^^;)。
2種に大別できると思うのだが、ひとつは金的そのものを狙ってダメージを与えようとする場合。直接蹴ったり、あるいは腕を股間に入れて振り上げて当てる。また、アトミックドロップの要領で持ち上げ、トップロープに落とすという方法もよく見られる。
多くは相手がスタンディング状態でなされ、グラウンドでされる(いわゆる電気アンマ方式)ことはほとんどない。ダメージがわかりにくいからだろうか。例外として、コーナーポストを股の間に位置させ、場外から引っ張るという方式がある。うはぁ、書いているだけで僕にもダメージがある(汗)。
もうひとつは、防御のために行われる場合である。具体的には、スタンディングでバックをとられスープレックスを放たれんとしたときに、脚を後ろに蹴り上げる。バックをとられた場合は通常、上半身を曲げてエルボーで防ぐことが多い。ずるいやり方で爪先を踏んづけるというのもある。しかし股間はもっとずるい。昔初代タイガーマスクがスープレックスを放つとき、よくブラックタイガーがこれをやった。あれを見ていて憤慨したものだ。そんな省エネ型で解こうとするな、と。
他に例外として「股間の急所を握ること(新日公式)」がある。握りつぶすのなら論外で大変な反則だが、オカマレスラーが「そっと握る」のであればこれは「相手に精神的ダメージを与える」ことで5カウント以内なら反則技の範疇だろう。
とにかく金的攻撃は、いずれにせよ卑怯感がつきまとうやり方であり、ヒールしかやらない行為だ。だから、金丸がヒールとしてイッチョマエでもないのによくこれをやっていた時は本当に腹が立った。オマエ中途半端なんだよ。またアナウンサーも「うまく頭を使っています」などと実況してアホかと思った。悪役として生きる、憎まれる覚悟を持たないと金的攻撃はやってはいけないのだよ。そこの分別はちゃんとしなさい。
またグレーゾーンの技に、マンハッタンドロップがある。向かい合って双手刈りから抱え上げ片膝に落とす。いわばアトミックドロップのリバースバージョンである。ニューヨークの暴れん坊アドリアン・アドニスが得意とした。アドニスがさかんにこの技を用いていたときは、当然尾てい骨狙いであり反則とはみなされていなかったのだが、落とす角度によってはこれは急所に当たる。蝶野らは、そのようにして使用した。
よってグレーゾーンと書いたが、この今は亡きアドニスの技を反則技として本当に用いないでほしい。違うんだよ本当は。そんな卑怯な技じゃないんだ。
さて、アドニスで思い出したのだが、アドニスは金的攻撃はしなかったものの一人で勝手に痛がっていた。例えば藤波をボディスラムで投げ、マットに倒れたことろをコーナーに上がってエルボーを落とそうとする。その刹那藤波は立ち上がり、コーナートップにいるアドニスに雪崩式ブレーンバスターを放たんとして駆け上がり、まずボディにパンチを打つ。すると、アドニスはトップから崩れ落ちてターンバックルに股間を打ち付けてしまうのだ。悶絶する哀れなアドニス!
これはアドニスの得意技(?)だったが、男が股間を打つ行為を自らするわけがない。したがってこのポーズはフェイクだったと思う。しかし、あんなふうに落ちたら絶対打つだろう。アドニスの位置は我々と違っていたのかもしれない。そういえば白人は前付きだというぞ。外国製ジーンズはファスナーの位置が上に(こういう話は技となんの関係も無くただの下ネタなので略)。
金的と並ぶ危険な急所攻撃に、目潰しがある。技名だと「サミング」となるが、いくら名称があっても、これも金的と並んで反則技ではなく反則だろう。
ただ、プロレスにサミングはほとんどない。総合やボクシングではあったりすると聞いているが(ジェラルド・ゴルドーのアレとかグローブに松脂をすり込んで目を擦るとか)、プロレスは「明日がある」スポーツであるため、相手の目を傷つけることは欠場に繋がりプロモーターから干されてしまう。したがってほぼこのルールは遵守される。前田日明が長州の顔面を後ろから蹴って眼底骨折に追い込んだ結果、解雇された。これには他に様々な事情があるが措いて、目への本気の攻撃は反則負けより代償は大きくなる。
僕が見たことがあるのは、小鉄さんが天山に不意をついて指で突いたもので、突いたというより触れたという程度だろう。天山は悶絶したが、これはエキシビジョンであり「初っ切り」みたいなものだろうか。
他に猪木が昔、アウェイで韓国のパクソンナン、パキスタンのアクラムペールワンにサミングをしたことが伝えられているが、この真相はよくわからない。ただ、プロレスのサミングは「よっぽどのこと」だと言えるだろう。
金的とサミングはこのくらいにして、他に急所攻撃として「目・鼻・口・耳へのあらゆる攻撃(全日公式)」というのがある。鼻と口と耳か。
基本的には顔面には目以外にも急所が多く、それは眉間だったり人中(鼻と口の間)であったりするが、突起している鼻と耳、歯や舌がある口への攻撃は特にご法度ということだろう。新日公式はもう少し具体的に「鼻を掴む、口の中に手を入れる、耳を引っ張る」と書いている。
ルールとしてはあいまいだが(これでは例えば新日では鼻へのヘッドバットはOK、また全日では耳そぎチョップはNGとなる)、極端でなければ「反則技」の範囲内とみていいだろう。鼻の穴に指を入れたり耳を引っ張ったり歯や舌を掴んだりするのはプロとして魅せる競技に相応しくなく、嘲笑の対象になるから避けるのが賢明だと思われる。キャメルクラッチ中に口のなかに指を入れて引っ張ったりすることは時々見られるが、レフェリーはカウントを取る。反則技だ。
他に「手足の指関節への攻撃は、三本以上でなくてはならない(全日公式)」というのがある。これは、折れるからだろう。昔タイガーマスク(佐山)へのインタビューでこういうのがあったようなおぼえがある(記憶で出典無く不正確です)。
「じゃ、タイガーはアンドレにも勝てると?」
「そうですね。戦法によっては」
「どう攻めれば勝てるのですか」
「手の指を一本一本折っていけば勝てます」
なんとも怖ろしい話だが、アンドレがそう素直に指を折らせてくれるだろうか。それはともかくとして、プロレスは相手に怪我をさせるために競技をしているわけではない。上田馬之助がかつて指を逆に曲げる攻撃をしたりしていたが、それでも指は四本掴んでいたような。指一本への攻撃は、ほぼ反則技としても存在していないと思われる。折れるもん(汗)。
だいたい急所攻撃というのは以上である。ルールは、みぞおちや脇腹(レバー)への打撃については明文化していない。これは暗黙の了解という部分もあるだろうし、正拳でなければレスラーもプロだから「うまく相手の攻撃をずらす」ことが可能だろう。そういう受身が出来ないようでは厳しいようだが駄目なのだろう。
ところが、もうひとつ身体内で「掴むな」と書いている箇所がある。どのルールにおいても然り。それは、頭髪である。
確かに毛を引っ張られたら痛いが、決して髪が急所だということではないだろう。頭髪を掴むと攻撃が有利になる、という視点からのルールだろうと思われる。だが、昔のルーテーズ、武藤敬司やハルクホーガン、また秋山準あたりは明確に「頭髪は急所だ」と考えていたかもしれない。おい、掴むな抜けるじゃないか!
実際には、頭髪はよく掴まれる。ダウンしたのを起こすときはたいてい頭髪に手をかけている。みんな反則である。したがって5カウント以内に起さなければならない。
ヘッドバットも、そうだ。ボボ・ブラジルらは頭を正面から両手で掴みぶつけていたので反則ではないが、大木金太郎や藤原組長の「一本足頭突き」は髪を掴んでいた。あれはみな反則技の範疇となる。
さらに反則技として、ディックマードックのカーフブランディング(仔牛の焼き印押し)が挙げられると思う。マードックは藤波に各種技でダメージを負わせ、コーナーに背中から叩きつける。藤波が朦朧としている間にマードックは、コーナートップに上がって後ろから藤波の頭髪を掴む。朦朧としていた藤波がハッと気づくがもう遅い。マードックは藤波の後頭部にヒザを押し付け、そのまま前方へなだれ落ちる。極めて危険度の高い技だが、これは頭髪を掴んでいる時点で反則である。よって、髪を持ってから5秒以内に仕掛けなければならない。
この技は天山が一応継承しているが、天山は頭髪を持たず後頭部もしくは首を両手でホールドして仕掛けている。そっちのほうがツルツルレスラーにも仕掛けられなおかつ反則にもならず良いのかもしれないが、あの「藤波がハッと気づく」くだりが天山の技にはなく、そこが多少ものたらない。もっとも稀代の受け手である藤波が居ないことが不幸なのか。それに、牛は天山であって牛が牛に焼印を押すというのはどうなのだろうか。
他にも頭髪を掴む技はあるだろう。フェイスバスター。アドニスのブルドッキングヘッドロック。みな、反則技となる。5カウント以内でなされなければならない。
頭髪と同じくこれも急所攻撃ではないのだが、ついでに言及しておきたい。「コスチューム等を、掴んだり、引っ張ったりする行為(全日公式)」について。
コスチュームということは、マスクもその範疇となる。したがって「マスク剥ぎ」は反則となる。これは技とは言えないから、ただの反則。
マスクに手をかけることが反則だという認識は一般的だが、タイツはどうか。タイツに手をかけることは、ブレーンバスターで普通に行われている。したがってブレーンバスターの多くは反則技なのである。むろん5カウント以内ならOK。だから、両者の「どっちが投げるか」の攻防で長く時間がかかるのは本来ダメなのだ。しかし、これは技の攻防として黙認されている感がある。
ドリルアホール・パイルドライバーを放つ場合には、正面から相手の頭部を股間に挟み込み、胴をクラッチして相手を逆さに持ち上げて落とす。この際に、相手の胴を持たずタイツを持って引き上げればそれは反則となる。これもブレーンバスターと同様に技の過程であるのでそれほど大した問題でもなさそうだが、この場合はレフェリーがチェックを入れる。アンドレがこの方式でやろうして止められていた。
これは、バディ・オースチンのパイルドライバーによる惨劇が記憶にあるからだろうと推察される。
オースチンのドリルアホール・パイルドライバーは、タイツを掴んで持ち上げる。この方式は、相手の胴をしっかりとホールドする方式と異なり、加減が出来ず体重がもろに脳天にかかる。つまり、威力がすさまじくなり怪我をする。怪我をするどころか、オースチンはこのタイツ掴み式で2人殺している。即死だったと言われる。したがって、パイルドライバーでタイツを持つのは反則技の範疇に入らず完全な反則として厳しく取り締まられることになったのだろう。
このようにタイツを掴む行為にも、黙認されているものから完全に反則とみなされるものまで状況により様々だが、もうひとつだけ。
ディックマードックと藤波が(またこの2人か^^;)場外乱闘を繰り広げて時間が過ぎる。20カウント近くなり戻らないとリングアウトになるため、藤波がエプロンに足をかけて上がろうとすると、マードックが後方からタイツを掴んで引きずりおろそうとする。その刹那、藤波のタイツが下がって、おしりがぷりんとむき出しになるのだ。
もうこの光景は、何度も見た。これは藤波に一種の恥辱を与えているわけで、精神的ダメージを加える反則技となる。さらに、このことによって藤波はあわててタイツを引き上げようとし、その隙にマードックがリングインしてしまう。勝敗を左右する反則技と言える。
しかし、この項にはマードックとアドニス、そして藤波の登場頻度が高かったが、技を受ける天才だった藤波は反則技ですらしっかりと受け止めていたことにいまさらながら驚く。その藤波の巧さを、今は亡きマードックやアドニスは、よく分かっていたのだろうと思う。
次回に続く。
具体的に急所はどこを示すのかについては、団体のルールにより少しづつ異なっている。
喉を急所とする見方もあるが、これは気管そのものを急所と捉えるか、あるいは喉笛、ノドボトケを急所と考えるか。喉笛であればラリアートなどは反則技となってしまう。しかし多くのルールはそうは捉えていない。気管は確かに急所だろうが、多くのルールブックは「喉を絞めること」を反則としており、場所というより行為だろう。喉への反則攻撃については反則技1で言及した。
どこでも共通して急所としているのは、目と金的である。これは、絶対にいけない。プロレスに限らず、どんな格闘技もこれは禁止しているだろう。金的攻撃=急所攻撃とすぐに連想される。ああ考えただけで気分が悪くなる。
ところでふと疑問に思うのだが、股間攻撃が反則とされることについては、男子プロレスだけのローカルルールとして考えたほうがいいのだろうか。手元に資料がないので検索してみたが、今は日本の女子プロレスはみなインディーズ化しており、公式サイトもブログのようになっているのがほとんどで、ルールまでなかなか示してくれていない。なのでわからないのだが、どうなんだろう?
とにもかくにも、金的攻撃は少なくとも男子においては反則である。
ただ、金的攻撃が反則技として成立するのかは、微妙だ。プロレスには「5カウントルール」があるため、金的攻撃ですらその範疇に入ってしまう可能性はあるが、ルールブックにはたいてい「あまりにも悪質な反則行為を行った選手に対し、レフェリーの判断で即、反則負けを宣告する時もある」との一文が入っている。金的攻撃はこれに該当するのではないかと推測する。そりゃそうでしょ。あそこへの攻撃だけは、ダメだ。これが悪質すぎる行為という考え方に、全ての男性は賛成するだろう。
したがって金的攻撃は反則技ではなく、反則であると考えられる。なので多くは、レフェリーのブラインドをついて行われる(やっぱりあるんじゃないか^^;)。
2種に大別できると思うのだが、ひとつは金的そのものを狙ってダメージを与えようとする場合。直接蹴ったり、あるいは腕を股間に入れて振り上げて当てる。また、アトミックドロップの要領で持ち上げ、トップロープに落とすという方法もよく見られる。
多くは相手がスタンディング状態でなされ、グラウンドでされる(いわゆる電気アンマ方式)ことはほとんどない。ダメージがわかりにくいからだろうか。例外として、コーナーポストを股の間に位置させ、場外から引っ張るという方式がある。うはぁ、書いているだけで僕にもダメージがある(汗)。
もうひとつは、防御のために行われる場合である。具体的には、スタンディングでバックをとられスープレックスを放たれんとしたときに、脚を後ろに蹴り上げる。バックをとられた場合は通常、上半身を曲げてエルボーで防ぐことが多い。ずるいやり方で爪先を踏んづけるというのもある。しかし股間はもっとずるい。昔初代タイガーマスクがスープレックスを放つとき、よくブラックタイガーがこれをやった。あれを見ていて憤慨したものだ。そんな省エネ型で解こうとするな、と。
他に例外として「股間の急所を握ること(新日公式)」がある。握りつぶすのなら論外で大変な反則だが、オカマレスラーが「そっと握る」のであればこれは「相手に精神的ダメージを与える」ことで5カウント以内なら反則技の範疇だろう。
とにかく金的攻撃は、いずれにせよ卑怯感がつきまとうやり方であり、ヒールしかやらない行為だ。だから、金丸がヒールとしてイッチョマエでもないのによくこれをやっていた時は本当に腹が立った。オマエ中途半端なんだよ。またアナウンサーも「うまく頭を使っています」などと実況してアホかと思った。悪役として生きる、憎まれる覚悟を持たないと金的攻撃はやってはいけないのだよ。そこの分別はちゃんとしなさい。
またグレーゾーンの技に、マンハッタンドロップがある。向かい合って双手刈りから抱え上げ片膝に落とす。いわばアトミックドロップのリバースバージョンである。ニューヨークの暴れん坊アドリアン・アドニスが得意とした。アドニスがさかんにこの技を用いていたときは、当然尾てい骨狙いであり反則とはみなされていなかったのだが、落とす角度によってはこれは急所に当たる。蝶野らは、そのようにして使用した。
よってグレーゾーンと書いたが、この今は亡きアドニスの技を反則技として本当に用いないでほしい。違うんだよ本当は。そんな卑怯な技じゃないんだ。
さて、アドニスで思い出したのだが、アドニスは金的攻撃はしなかったものの一人で勝手に痛がっていた。例えば藤波をボディスラムで投げ、マットに倒れたことろをコーナーに上がってエルボーを落とそうとする。その刹那藤波は立ち上がり、コーナートップにいるアドニスに雪崩式ブレーンバスターを放たんとして駆け上がり、まずボディにパンチを打つ。すると、アドニスはトップから崩れ落ちてターンバックルに股間を打ち付けてしまうのだ。悶絶する哀れなアドニス!
これはアドニスの得意技(?)だったが、男が股間を打つ行為を自らするわけがない。したがってこのポーズはフェイクだったと思う。しかし、あんなふうに落ちたら絶対打つだろう。アドニスの位置は我々と違っていたのかもしれない。そういえば白人は前付きだというぞ。外国製ジーンズはファスナーの位置が上に(こういう話は技となんの関係も無くただの下ネタなので略)。
金的と並ぶ危険な急所攻撃に、目潰しがある。技名だと「サミング」となるが、いくら名称があっても、これも金的と並んで反則技ではなく反則だろう。
ただ、プロレスにサミングはほとんどない。総合やボクシングではあったりすると聞いているが(ジェラルド・ゴルドーのアレとかグローブに松脂をすり込んで目を擦るとか)、プロレスは「明日がある」スポーツであるため、相手の目を傷つけることは欠場に繋がりプロモーターから干されてしまう。したがってほぼこのルールは遵守される。前田日明が長州の顔面を後ろから蹴って眼底骨折に追い込んだ結果、解雇された。これには他に様々な事情があるが措いて、目への本気の攻撃は反則負けより代償は大きくなる。
僕が見たことがあるのは、小鉄さんが天山に不意をついて指で突いたもので、突いたというより触れたという程度だろう。天山は悶絶したが、これはエキシビジョンであり「初っ切り」みたいなものだろうか。
他に猪木が昔、アウェイで韓国のパクソンナン、パキスタンのアクラムペールワンにサミングをしたことが伝えられているが、この真相はよくわからない。ただ、プロレスのサミングは「よっぽどのこと」だと言えるだろう。
金的とサミングはこのくらいにして、他に急所攻撃として「目・鼻・口・耳へのあらゆる攻撃(全日公式)」というのがある。鼻と口と耳か。
基本的には顔面には目以外にも急所が多く、それは眉間だったり人中(鼻と口の間)であったりするが、突起している鼻と耳、歯や舌がある口への攻撃は特にご法度ということだろう。新日公式はもう少し具体的に「鼻を掴む、口の中に手を入れる、耳を引っ張る」と書いている。
ルールとしてはあいまいだが(これでは例えば新日では鼻へのヘッドバットはOK、また全日では耳そぎチョップはNGとなる)、極端でなければ「反則技」の範囲内とみていいだろう。鼻の穴に指を入れたり耳を引っ張ったり歯や舌を掴んだりするのはプロとして魅せる競技に相応しくなく、嘲笑の対象になるから避けるのが賢明だと思われる。キャメルクラッチ中に口のなかに指を入れて引っ張ったりすることは時々見られるが、レフェリーはカウントを取る。反則技だ。
他に「手足の指関節への攻撃は、三本以上でなくてはならない(全日公式)」というのがある。これは、折れるからだろう。昔タイガーマスク(佐山)へのインタビューでこういうのがあったようなおぼえがある(記憶で出典無く不正確です)。
「じゃ、タイガーはアンドレにも勝てると?」
「そうですね。戦法によっては」
「どう攻めれば勝てるのですか」
「手の指を一本一本折っていけば勝てます」
なんとも怖ろしい話だが、アンドレがそう素直に指を折らせてくれるだろうか。それはともかくとして、プロレスは相手に怪我をさせるために競技をしているわけではない。上田馬之助がかつて指を逆に曲げる攻撃をしたりしていたが、それでも指は四本掴んでいたような。指一本への攻撃は、ほぼ反則技としても存在していないと思われる。折れるもん(汗)。
だいたい急所攻撃というのは以上である。ルールは、みぞおちや脇腹(レバー)への打撃については明文化していない。これは暗黙の了解という部分もあるだろうし、正拳でなければレスラーもプロだから「うまく相手の攻撃をずらす」ことが可能だろう。そういう受身が出来ないようでは厳しいようだが駄目なのだろう。
ところが、もうひとつ身体内で「掴むな」と書いている箇所がある。どのルールにおいても然り。それは、頭髪である。
確かに毛を引っ張られたら痛いが、決して髪が急所だということではないだろう。頭髪を掴むと攻撃が有利になる、という視点からのルールだろうと思われる。だが、昔のルーテーズ、武藤敬司やハルクホーガン、また秋山準あたりは明確に「頭髪は急所だ」と考えていたかもしれない。おい、掴むな抜けるじゃないか!
実際には、頭髪はよく掴まれる。ダウンしたのを起こすときはたいてい頭髪に手をかけている。みんな反則である。したがって5カウント以内に起さなければならない。
ヘッドバットも、そうだ。ボボ・ブラジルらは頭を正面から両手で掴みぶつけていたので反則ではないが、大木金太郎や藤原組長の「一本足頭突き」は髪を掴んでいた。あれはみな反則技の範疇となる。
さらに反則技として、ディックマードックのカーフブランディング(仔牛の焼き印押し)が挙げられると思う。マードックは藤波に各種技でダメージを負わせ、コーナーに背中から叩きつける。藤波が朦朧としている間にマードックは、コーナートップに上がって後ろから藤波の頭髪を掴む。朦朧としていた藤波がハッと気づくがもう遅い。マードックは藤波の後頭部にヒザを押し付け、そのまま前方へなだれ落ちる。極めて危険度の高い技だが、これは頭髪を掴んでいる時点で反則である。よって、髪を持ってから5秒以内に仕掛けなければならない。
この技は天山が一応継承しているが、天山は頭髪を持たず後頭部もしくは首を両手でホールドして仕掛けている。そっちのほうがツルツルレスラーにも仕掛けられなおかつ反則にもならず良いのかもしれないが、あの「藤波がハッと気づく」くだりが天山の技にはなく、そこが多少ものたらない。もっとも稀代の受け手である藤波が居ないことが不幸なのか。それに、牛は天山であって牛が牛に焼印を押すというのはどうなのだろうか。
他にも頭髪を掴む技はあるだろう。フェイスバスター。アドニスのブルドッキングヘッドロック。みな、反則技となる。5カウント以内でなされなければならない。
頭髪と同じくこれも急所攻撃ではないのだが、ついでに言及しておきたい。「コスチューム等を、掴んだり、引っ張ったりする行為(全日公式)」について。
コスチュームということは、マスクもその範疇となる。したがって「マスク剥ぎ」は反則となる。これは技とは言えないから、ただの反則。
マスクに手をかけることが反則だという認識は一般的だが、タイツはどうか。タイツに手をかけることは、ブレーンバスターで普通に行われている。したがってブレーンバスターの多くは反則技なのである。むろん5カウント以内ならOK。だから、両者の「どっちが投げるか」の攻防で長く時間がかかるのは本来ダメなのだ。しかし、これは技の攻防として黙認されている感がある。
ドリルアホール・パイルドライバーを放つ場合には、正面から相手の頭部を股間に挟み込み、胴をクラッチして相手を逆さに持ち上げて落とす。この際に、相手の胴を持たずタイツを持って引き上げればそれは反則となる。これもブレーンバスターと同様に技の過程であるのでそれほど大した問題でもなさそうだが、この場合はレフェリーがチェックを入れる。アンドレがこの方式でやろうして止められていた。
これは、バディ・オースチンのパイルドライバーによる惨劇が記憶にあるからだろうと推察される。
オースチンのドリルアホール・パイルドライバーは、タイツを掴んで持ち上げる。この方式は、相手の胴をしっかりとホールドする方式と異なり、加減が出来ず体重がもろに脳天にかかる。つまり、威力がすさまじくなり怪我をする。怪我をするどころか、オースチンはこのタイツ掴み式で2人殺している。即死だったと言われる。したがって、パイルドライバーでタイツを持つのは反則技の範疇に入らず完全な反則として厳しく取り締まられることになったのだろう。
このようにタイツを掴む行為にも、黙認されているものから完全に反則とみなされるものまで状況により様々だが、もうひとつだけ。
ディックマードックと藤波が(またこの2人か^^;)場外乱闘を繰り広げて時間が過ぎる。20カウント近くなり戻らないとリングアウトになるため、藤波がエプロンに足をかけて上がろうとすると、マードックが後方からタイツを掴んで引きずりおろそうとする。その刹那、藤波のタイツが下がって、おしりがぷりんとむき出しになるのだ。
もうこの光景は、何度も見た。これは藤波に一種の恥辱を与えているわけで、精神的ダメージを加える反則技となる。さらに、このことによって藤波はあわててタイツを引き上げようとし、その隙にマードックがリングインしてしまう。勝敗を左右する反則技と言える。
しかし、この項にはマードックとアドニス、そして藤波の登場頻度が高かったが、技を受ける天才だった藤波は反則技ですらしっかりと受け止めていたことにいまさらながら驚く。その藤波の巧さを、今は亡きマードックやアドニスは、よく分かっていたのだろうと思う。
次回に続く。
全日の公式ルール第5条において、「タッグマッチにおいて、試合権利のない選手が攻撃を加える行為」を反則とする一文がある。
タッグマッチという試合形式は、周知の通り複数の選手がチームを組んで対戦する。ただし、リング内で戦えるのは1名づつが決まり。それ以外の選手は自陣コーナーのロープ外側(エプロン)で待機する。選手交代は、自陣コーナーにあるタッチロープを持っている状態でタッチしなくてはいけない(ローカルルールは存在するが基本は以上)。
選手交代はタッチのみで成立し、待機選手はそれ以外の状況でリングに入ってはいけない。また、交代は速やかに行われなければならない。
ということで、本来はカットプレー(今ピンフォールされんとする味方、また長期の極め技で苦しめられギブアップ必至の味方選手を助けるためにリングインして相手を蹴散らす行為)も厳禁である。まして、本来エプロンにいなければならない待機選手がリングインして技を繰り出すことはもちろん出来ない(ルール上は)。
したがって、タッグ戦において二人もしくはそれ以上で行う攻撃は、全て反則技である。無論5カウント以内で仕掛けられる。
二人がかりの攻撃というのは、もしかしたらタッグマッチという試合形式が始まった100年以上前から存在していた可能性もある。もちろん実態はよく知らない。
日本に初めてタッグマッチがお目見えしたのはもちろんシャープ兄弟の来日だが、この時既にシャープ兄弟の自陣コーナーに押し込んでの二人がかりの攻撃はみられる。しかしまだ「合体技」とまでは言えない範囲かと。せいぜい両者が交互にストンピングを繰り出す程度である。そして、力道山と木村はもちろん二人がかりの技など出していない。日本人がデカくてずるい外人選手を倒す、という当時の日本プロレスのプランにおいて、力道山と木村が反則技である合体技を繰り出すわけにもいかなかっただろう。
さて、その程度だったプロレスの二人がかり攻撃が「合体技」もしくは「ツープラトン」と呼ばれるまでの完成度まで到達するのはいつ頃だろうか。
二人が同時に技を繰り出す場面は、その後しばしば見られるようになった。多くはロープに振って、戻ってきたところをダブルチョップ。またはダブルカウンターキック。ダブルエルボー。ダブルドロップキック。
ただ、これらはあくまで「二人でやる技」であって名称がついていたわけではない。日本においてはミルマスカラス、ドスカラス兄弟のダブルクロスチョップ(またはダブルドロップキック)が「編隊飛行」と呼ばれたが、これは技名を示していたわけではない。
タッグチームというのは、基本的にはシングルプレイヤーが二人で組む場合が主で、昔はタッグ専門のレスラーというのは少数派だったと思われる。日本に初来日した外人レスラーがシャープ兄弟というほぼタッグ専門チームだったためにこれを意外に思われるむきも少なくないだろうが、当時はタッグ専門でシングル戦をほとんどやらなかったレスラーというのはそれほど多くなかったのではないか。僕はシャープ兄弟くらいしか思い出せないのである。他の代表的なチームだったブルーザー&リソワスキー組など、いずれもシングルプレイヤーとしても傑出している。他は、時代が下ってマクガイヤーブラザーズくらいか。
タッグチーム名、というものもなかった。「ブッチャー&シーク組」などとたいていは表記され、例外として兄弟チームなどはその姓で「トロス・ブラザーズ」「ファンクス」また「スタイナー・ブラザーズ」などと呼ばれた。兄弟でもないのに「バリアント・ブラザーズ」などと名乗っていたチームもあり、それほどタッグチーム名というのが一般的ではなかった証左だろう。ヤマハブラザーズ(山本小鉄&星野勘太郎)も同様の兄弟ギミックである。「BI砲」というのもあったがあくまで愛称的なものであり、やはり「馬場&猪木組」が通常である。
血縁由来以外でチーム名というのが前面に出てきたのは、僕の知る限りではファビュラス・フリーバーズくらいからではないかと思う。いや、テキサスアウトローズが先か。しかしこれはダスティ・ローデスとディック・マードックという既にシングルプレイヤーとして傑出していた二人のチームであり「ローデス&マードック組」と表記してもなんら違和感なく、やはりテキサスアウトローズというのはBI砲と同様に愛称的なものだったと思われる。ブロンド・ボンバーズも、レイ・スティーブンスとパット・パターソンというシングルでも一流の選手のチーム。あ、ザ・ブラックジャックスってのも居たな。だんだん難しくなってきたがそのへんで措く。
フリーバーズは、タッグチームとして頭角を現した。当時はマイケル・ヘイズとテリー・ゴディと言っても誰のことかわからなかった感がある。もちろん後にゴディはシングルプレイヤーとしてぐっと知名度が上がるのだが、そもそもはタッグチームのパワー担当だった。そうして、フリーバーズという名前がシングルよりも先行してゆく。
80年代はアメリカでそういうタッグチームが花盛りだった感がある。「世界のプロレス」という番組があり、当時高校生だった僕は毎週楽しみにしていた。そこで観たファビュラス・ワンズ、ロックンロール・エクスプレス、ミッドナイト・エクスプレス。彼らはフリーバーズとは異なって同じタイプのレスラーでタッグを組み、各々の個性を前面に出さずチームワークを中心としたファイトで、他のシングルレスラーが暫定的に組んだタッグを翻弄していた。そうしたムーブメントの中で、ロード・ウォリアーズという突出したチームが出現する。
彼らの出現において「合体技」「ツープラトン攻撃」というものが極みに達した感がある。
ウォリアーズは例えば、マットに倒れている相手の上に、味方をデッドリードライブの要領で投げてボディプレスとするような技を使う。パワーでとにかく常識外のことをやってのけていた。
そのウォリアーズがフィニッシュホールドとした技がまた驚異的だった。まずアニマルが相手を肩車で担ぎ上げ、そこへホークがコーナー上から相手をめがけてダイビング・ラリアットを放ち、同時にアニマルが後方へ投げ捨てる。つまりラリアートとバックドロップが一緒になったような複合技である。やられる側はたまったものではなく、まずフォールを奪われる。それまでの合体技からひとつ段階を上がった技と言えよう。
この技には当初名前はなかった。スカイハイラリアットとか言われていたような気がするが記憶が定かでない。その後、日本に来日してからだと思うが「ダブル・インパクト」という名称で固まったように思う。或いはこの技は、「二人がかりの○○」「ダブル○○」と表現されていたにとどまっていた合体技に、初めて固有の名称がついた嚆矢ではなかろうか(僕の記憶では。もしかしたらもっと前にあったかもしれないが)。
その後、合体技に固有の名称がつくことが当たり前になっていく。合体技がプロレス技の一形態として成立していく過程である。
ただし、たいていは分かりにくい名称ばかりだ。全然技の形状がネーミングに生かされていないものばかり。「ブラックサンデー」「リミットレスエクスプロージョン」「N・G・A」などと言われても、その状態が全く浮かんでこない。困ったことではあるのだが。
合体技は、いくつかに分類できる。
最も古典的なのは、同時に二人がかりで同じ技を相手に放つことだろう。二人で相手をコーナーに追い詰め、よってたかってチョップやストンピングを浴びせる。こんなのに技名などない。例外として三人タッグの場合だが、かつて長州力率いる維新軍団が全員で一斉に相手の背中にパンチを連続して叩き込むことがあり、これを「太鼓の乱れ打ち」と称した。これはめずらしく形状を的確に捉えたネーミングだった。
さらにコーナーではなく、ロープに振って二人揃って攻撃する場合。「ダブルドロップキック」「ダブルエルボー」などがある。
この「ダブル○○」で最も迫力があったのは、何といってもハンセン&ブロディの「超獣コンビ」だろう。チョップ、カウンターキック、エルボーそしてドロップキックまで二人で繰り出したが、中でも凄かったのは「ダブル・ショルダータックル」だった。この二人はもともとアメフト出身であり、それが容貌もファイトスタイルも異なった超スターレスラーである二人の唯一の共通点だったと言っていい。相手をロープに振って、二人がマット上で並んで片腕を下ろしてセット、そして還ってきた相手に揃って肩口から激突する。その強烈な衝撃で必ず相手は吹っ飛ぶ。個人的には、僕はハンセン&ブロディのダブルショルダータックルを合体技では至上のものと考えている。
同時に二人がかりで同じ技を繰り出す例としては、同方向からでなく前後から挟撃する、つまり「サンドイッチ式」もある。ラリアートやトラースキックがよく放たれる。しかし「サンドイッチ式延髄斬り」というのはどうなのだろうか。延髄は後ろにしかなくサンドイッチ出来ないのだが。
さらに、二人がかりでひとつの技を仕掛ける場合。
これは、ダブルブレーンバスターあたりが最初だろうか。重くて持ち上がらない巨漢レスラーを二人で持ち上げる場合によく用いられていた方法だが、一応、威力も増すと考えられる。なお二人がかりのジャーマンスープレックスというのもあって、これはジャーマンの体勢に入った味方を後ろからジャーマンで投げるという「縦関係」である(新崎人生とアレクサンダー大塚が放つ)。角度は強烈になるが味方も当然ダメージを負う。
この系統の究極形は何といってもツープラトン・パイルドライバーだろう。一人がドリルアホール・パイルドライバーの体勢で相手を持ち上げ、もう一人がコーナー上段でそのひっくり返った相手の両足を裏から掴む。そして、パイルドライバーで相手を脳天から落とすと同時に、足を持ったもう一人が飛び降りて上からマットに突き刺す負荷を加える。二人がかりの脳天杭打ち。「ハイジャック・パイルドライバー」と称される。
ヤマハブラザーズが始めたという話も聞いたことがありよくわからないが、僕が知る上ではこの技はアドリアンアドニスとボブオートンJr.の「マンハッタン・コンビ」のものである。このやんちゃでトンパチな二人のえげつない合体技として認識している。
これは、多くのタッグチームが使用する技となる。長州力とアニマル浜口がよくやった。そしてついにはハンセン&ブロディまでもが使い、馬場さんの無欠場記録を途切れさせている。
また、一人が相方の技をアシストする合体技もある。
古典的には、羽交い絞めにしてもう一人が攻撃を加えるやり方。これはよく避けられて誤爆、仲間割れの要因となっていくのもまた古典的である。
味方のスピードや高度を補助する場合も。コーナーの相手に味方を振って串刺し式をアシストしたり、前述のデッドリードライブ式ボディプレスなどもそうだ。テンコジカッターなど、こういうのはきりがないほど存在する。
結構衝撃的だったのはマンハッタンコンビで、まずオートンがベンジュラムバックブリーカーで相手を固定し、そこへアドニスがコーナー上からニードロップで落下し首を狙うというもの。今ではこれに類似した技はしばしば見られるようになってしまったが、この時はさすがに「殺す気か!」と思ったものだ。
「俺ごと刈れ」というのはSTOのアシストバージョンだとは思うが、例えばコブラツイストに固めた相手にミドルキックを放つのは、アシストなのか複合技なのかわからなくなってくる。どっちが主体なのか。
と言うように、もうひとつは複合技であるのだが、この代表格は前述のダブル・インパクトだろう。厳密に考えればこの技はラリアートの威力が減じてしまうようにも思えるが、それでも落下角度が厳しいために説得力はある。
サンドイッチ技でも、一人がラリアート、一人がエルボーであればそれは複合技となる。しかし複雑になると何だかわからなくなる。刈龍怒というのはもちろん小川直也のSTOと橋本真也の水面蹴りの複合技だが、本当に必要があるのかどうもよくわからない。
なお、合体技というのはあくまで反則技である。したがって5カウント以内でないと技として成立しないのは当然のこと。したがって、打撃技と投げ技しか成り立たない。二人で相手の両腕を腕ひしぎ逆十字固めに捉えたりするのは、反則技ではなく「反則」である。
また、いくら技として成立していても「反則技」である。なので、これをフィニッシュにするのはいかがなものかと僕はいつも思っている。厳密に言えば、補助付きパワーボムなどのそのままフォール技でなければ、合体技を繰り出したあとに「体固め」という技でカウントを奪っているわけであり問題はないのかもしれないが、どうも釈然としない。昔は、合体技のあとはレフェリーはカウントをとらなかったはずなんだけどなあ? いつから合体技がフィニッシュになったのだろう。やっぱりウォリアーズからかもしれないけれども。
なお、合体技もルールによっては、仮に5カウント以内であっても完全に反則となる場合もある。稀有な例だが、昔猪木と国際軍団(ラッシャー木村・アニマル浜口、寺西勇)による1vs3のハンディキャップマッチが行われたことがある。その際は、待機選手がリングインすることが厳密に取り締まられた。
ハンディキャップマッチというのは、たいていは例えばアンドレのような異常な体躯のレスラーに二人がかりで対戦するような「肉体の差を埋める」ために組まれる試合。なので、当然合体技は出されてもいい。むしろそれがあってこそで、二人がかりでもアンドレを持ち上げることが出来ずダブルドロップキックも効かない、なーんて場面を観るものである。しかしこの場合は体格差がなく、ツープラトンをやられれば一気に試合が決してしまうために、そのような形態となったのだ。
この最初の試合(2度あった)の主役は、レフェリーの山本小鉄だったと言っていい。待機選手がカットインに入ろうとするのを、小鉄さんは身体を張って止め続けた。絶対に手出しはさせぬという強い意志が伝わり、場内から大「小鉄コール」が沸き起こった。
これは、小鉄さんが強かったから出来たことである。思えば、昔はレフェリーはみなレスラーあがりだった。日本で見れば沖識名に始まり、ジョー樋口、ユセフトルコ、ミスター高橋、タイガー服部らは全て元レスラーだった。小鉄さんのような一流レスラーではなかったが、それなりに皆バックボーンを持ち毅然とした態度がとれた。ミスター高橋もロープブレイクを無視した外人レスラーにミドルキックかましたりしていたからね。和田京平さんくらいからかなあ。レスラー経験の無い人がレフェリーになっていったのは。レッドシューズ海野とかは弱そうだ。一概に言ってはいけないが、もうこういう試合を裁けるレフェリーはいないかもしれない。マイティ井上は引退したし。保永昇男はどうしたかなあ。
話が合体技からそれた。次回に続く。
タッグマッチという試合形式は、周知の通り複数の選手がチームを組んで対戦する。ただし、リング内で戦えるのは1名づつが決まり。それ以外の選手は自陣コーナーのロープ外側(エプロン)で待機する。選手交代は、自陣コーナーにあるタッチロープを持っている状態でタッチしなくてはいけない(ローカルルールは存在するが基本は以上)。
選手交代はタッチのみで成立し、待機選手はそれ以外の状況でリングに入ってはいけない。また、交代は速やかに行われなければならない。
ということで、本来はカットプレー(今ピンフォールされんとする味方、また長期の極め技で苦しめられギブアップ必至の味方選手を助けるためにリングインして相手を蹴散らす行為)も厳禁である。まして、本来エプロンにいなければならない待機選手がリングインして技を繰り出すことはもちろん出来ない(ルール上は)。
したがって、タッグ戦において二人もしくはそれ以上で行う攻撃は、全て反則技である。無論5カウント以内で仕掛けられる。
二人がかりの攻撃というのは、もしかしたらタッグマッチという試合形式が始まった100年以上前から存在していた可能性もある。もちろん実態はよく知らない。
日本に初めてタッグマッチがお目見えしたのはもちろんシャープ兄弟の来日だが、この時既にシャープ兄弟の自陣コーナーに押し込んでの二人がかりの攻撃はみられる。しかしまだ「合体技」とまでは言えない範囲かと。せいぜい両者が交互にストンピングを繰り出す程度である。そして、力道山と木村はもちろん二人がかりの技など出していない。日本人がデカくてずるい外人選手を倒す、という当時の日本プロレスのプランにおいて、力道山と木村が反則技である合体技を繰り出すわけにもいかなかっただろう。
さて、その程度だったプロレスの二人がかり攻撃が「合体技」もしくは「ツープラトン」と呼ばれるまでの完成度まで到達するのはいつ頃だろうか。
二人が同時に技を繰り出す場面は、その後しばしば見られるようになった。多くはロープに振って、戻ってきたところをダブルチョップ。またはダブルカウンターキック。ダブルエルボー。ダブルドロップキック。
ただ、これらはあくまで「二人でやる技」であって名称がついていたわけではない。日本においてはミルマスカラス、ドスカラス兄弟のダブルクロスチョップ(またはダブルドロップキック)が「編隊飛行」と呼ばれたが、これは技名を示していたわけではない。
タッグチームというのは、基本的にはシングルプレイヤーが二人で組む場合が主で、昔はタッグ専門のレスラーというのは少数派だったと思われる。日本に初来日した外人レスラーがシャープ兄弟というほぼタッグ専門チームだったためにこれを意外に思われるむきも少なくないだろうが、当時はタッグ専門でシングル戦をほとんどやらなかったレスラーというのはそれほど多くなかったのではないか。僕はシャープ兄弟くらいしか思い出せないのである。他の代表的なチームだったブルーザー&リソワスキー組など、いずれもシングルプレイヤーとしても傑出している。他は、時代が下ってマクガイヤーブラザーズくらいか。
タッグチーム名、というものもなかった。「ブッチャー&シーク組」などとたいていは表記され、例外として兄弟チームなどはその姓で「トロス・ブラザーズ」「ファンクス」また「スタイナー・ブラザーズ」などと呼ばれた。兄弟でもないのに「バリアント・ブラザーズ」などと名乗っていたチームもあり、それほどタッグチーム名というのが一般的ではなかった証左だろう。ヤマハブラザーズ(山本小鉄&星野勘太郎)も同様の兄弟ギミックである。「BI砲」というのもあったがあくまで愛称的なものであり、やはり「馬場&猪木組」が通常である。
血縁由来以外でチーム名というのが前面に出てきたのは、僕の知る限りではファビュラス・フリーバーズくらいからではないかと思う。いや、テキサスアウトローズが先か。しかしこれはダスティ・ローデスとディック・マードックという既にシングルプレイヤーとして傑出していた二人のチームであり「ローデス&マードック組」と表記してもなんら違和感なく、やはりテキサスアウトローズというのはBI砲と同様に愛称的なものだったと思われる。ブロンド・ボンバーズも、レイ・スティーブンスとパット・パターソンというシングルでも一流の選手のチーム。あ、ザ・ブラックジャックスってのも居たな。だんだん難しくなってきたがそのへんで措く。
フリーバーズは、タッグチームとして頭角を現した。当時はマイケル・ヘイズとテリー・ゴディと言っても誰のことかわからなかった感がある。もちろん後にゴディはシングルプレイヤーとしてぐっと知名度が上がるのだが、そもそもはタッグチームのパワー担当だった。そうして、フリーバーズという名前がシングルよりも先行してゆく。
80年代はアメリカでそういうタッグチームが花盛りだった感がある。「世界のプロレス」という番組があり、当時高校生だった僕は毎週楽しみにしていた。そこで観たファビュラス・ワンズ、ロックンロール・エクスプレス、ミッドナイト・エクスプレス。彼らはフリーバーズとは異なって同じタイプのレスラーでタッグを組み、各々の個性を前面に出さずチームワークを中心としたファイトで、他のシングルレスラーが暫定的に組んだタッグを翻弄していた。そうしたムーブメントの中で、ロード・ウォリアーズという突出したチームが出現する。
彼らの出現において「合体技」「ツープラトン攻撃」というものが極みに達した感がある。
ウォリアーズは例えば、マットに倒れている相手の上に、味方をデッドリードライブの要領で投げてボディプレスとするような技を使う。パワーでとにかく常識外のことをやってのけていた。
そのウォリアーズがフィニッシュホールドとした技がまた驚異的だった。まずアニマルが相手を肩車で担ぎ上げ、そこへホークがコーナー上から相手をめがけてダイビング・ラリアットを放ち、同時にアニマルが後方へ投げ捨てる。つまりラリアートとバックドロップが一緒になったような複合技である。やられる側はたまったものではなく、まずフォールを奪われる。それまでの合体技からひとつ段階を上がった技と言えよう。
この技には当初名前はなかった。スカイハイラリアットとか言われていたような気がするが記憶が定かでない。その後、日本に来日してからだと思うが「ダブル・インパクト」という名称で固まったように思う。或いはこの技は、「二人がかりの○○」「ダブル○○」と表現されていたにとどまっていた合体技に、初めて固有の名称がついた嚆矢ではなかろうか(僕の記憶では。もしかしたらもっと前にあったかもしれないが)。
その後、合体技に固有の名称がつくことが当たり前になっていく。合体技がプロレス技の一形態として成立していく過程である。
ただし、たいていは分かりにくい名称ばかりだ。全然技の形状がネーミングに生かされていないものばかり。「ブラックサンデー」「リミットレスエクスプロージョン」「N・G・A」などと言われても、その状態が全く浮かんでこない。困ったことではあるのだが。
合体技は、いくつかに分類できる。
最も古典的なのは、同時に二人がかりで同じ技を相手に放つことだろう。二人で相手をコーナーに追い詰め、よってたかってチョップやストンピングを浴びせる。こんなのに技名などない。例外として三人タッグの場合だが、かつて長州力率いる維新軍団が全員で一斉に相手の背中にパンチを連続して叩き込むことがあり、これを「太鼓の乱れ打ち」と称した。これはめずらしく形状を的確に捉えたネーミングだった。
さらにコーナーではなく、ロープに振って二人揃って攻撃する場合。「ダブルドロップキック」「ダブルエルボー」などがある。
この「ダブル○○」で最も迫力があったのは、何といってもハンセン&ブロディの「超獣コンビ」だろう。チョップ、カウンターキック、エルボーそしてドロップキックまで二人で繰り出したが、中でも凄かったのは「ダブル・ショルダータックル」だった。この二人はもともとアメフト出身であり、それが容貌もファイトスタイルも異なった超スターレスラーである二人の唯一の共通点だったと言っていい。相手をロープに振って、二人がマット上で並んで片腕を下ろしてセット、そして還ってきた相手に揃って肩口から激突する。その強烈な衝撃で必ず相手は吹っ飛ぶ。個人的には、僕はハンセン&ブロディのダブルショルダータックルを合体技では至上のものと考えている。
同時に二人がかりで同じ技を繰り出す例としては、同方向からでなく前後から挟撃する、つまり「サンドイッチ式」もある。ラリアートやトラースキックがよく放たれる。しかし「サンドイッチ式延髄斬り」というのはどうなのだろうか。延髄は後ろにしかなくサンドイッチ出来ないのだが。
さらに、二人がかりでひとつの技を仕掛ける場合。
これは、ダブルブレーンバスターあたりが最初だろうか。重くて持ち上がらない巨漢レスラーを二人で持ち上げる場合によく用いられていた方法だが、一応、威力も増すと考えられる。なお二人がかりのジャーマンスープレックスというのもあって、これはジャーマンの体勢に入った味方を後ろからジャーマンで投げるという「縦関係」である(新崎人生とアレクサンダー大塚が放つ)。角度は強烈になるが味方も当然ダメージを負う。
この系統の究極形は何といってもツープラトン・パイルドライバーだろう。一人がドリルアホール・パイルドライバーの体勢で相手を持ち上げ、もう一人がコーナー上段でそのひっくり返った相手の両足を裏から掴む。そして、パイルドライバーで相手を脳天から落とすと同時に、足を持ったもう一人が飛び降りて上からマットに突き刺す負荷を加える。二人がかりの脳天杭打ち。「ハイジャック・パイルドライバー」と称される。
ヤマハブラザーズが始めたという話も聞いたことがありよくわからないが、僕が知る上ではこの技はアドリアンアドニスとボブオートンJr.の「マンハッタン・コンビ」のものである。このやんちゃでトンパチな二人のえげつない合体技として認識している。
これは、多くのタッグチームが使用する技となる。長州力とアニマル浜口がよくやった。そしてついにはハンセン&ブロディまでもが使い、馬場さんの無欠場記録を途切れさせている。
また、一人が相方の技をアシストする合体技もある。
古典的には、羽交い絞めにしてもう一人が攻撃を加えるやり方。これはよく避けられて誤爆、仲間割れの要因となっていくのもまた古典的である。
味方のスピードや高度を補助する場合も。コーナーの相手に味方を振って串刺し式をアシストしたり、前述のデッドリードライブ式ボディプレスなどもそうだ。テンコジカッターなど、こういうのはきりがないほど存在する。
結構衝撃的だったのはマンハッタンコンビで、まずオートンがベンジュラムバックブリーカーで相手を固定し、そこへアドニスがコーナー上からニードロップで落下し首を狙うというもの。今ではこれに類似した技はしばしば見られるようになってしまったが、この時はさすがに「殺す気か!」と思ったものだ。
「俺ごと刈れ」というのはSTOのアシストバージョンだとは思うが、例えばコブラツイストに固めた相手にミドルキックを放つのは、アシストなのか複合技なのかわからなくなってくる。どっちが主体なのか。
と言うように、もうひとつは複合技であるのだが、この代表格は前述のダブル・インパクトだろう。厳密に考えればこの技はラリアートの威力が減じてしまうようにも思えるが、それでも落下角度が厳しいために説得力はある。
サンドイッチ技でも、一人がラリアート、一人がエルボーであればそれは複合技となる。しかし複雑になると何だかわからなくなる。刈龍怒というのはもちろん小川直也のSTOと橋本真也の水面蹴りの複合技だが、本当に必要があるのかどうもよくわからない。
なお、合体技というのはあくまで反則技である。したがって5カウント以内でないと技として成立しないのは当然のこと。したがって、打撃技と投げ技しか成り立たない。二人で相手の両腕を腕ひしぎ逆十字固めに捉えたりするのは、反則技ではなく「反則」である。
また、いくら技として成立していても「反則技」である。なので、これをフィニッシュにするのはいかがなものかと僕はいつも思っている。厳密に言えば、補助付きパワーボムなどのそのままフォール技でなければ、合体技を繰り出したあとに「体固め」という技でカウントを奪っているわけであり問題はないのかもしれないが、どうも釈然としない。昔は、合体技のあとはレフェリーはカウントをとらなかったはずなんだけどなあ? いつから合体技がフィニッシュになったのだろう。やっぱりウォリアーズからかもしれないけれども。
なお、合体技もルールによっては、仮に5カウント以内であっても完全に反則となる場合もある。稀有な例だが、昔猪木と国際軍団(ラッシャー木村・アニマル浜口、寺西勇)による1vs3のハンディキャップマッチが行われたことがある。その際は、待機選手がリングインすることが厳密に取り締まられた。
ハンディキャップマッチというのは、たいていは例えばアンドレのような異常な体躯のレスラーに二人がかりで対戦するような「肉体の差を埋める」ために組まれる試合。なので、当然合体技は出されてもいい。むしろそれがあってこそで、二人がかりでもアンドレを持ち上げることが出来ずダブルドロップキックも効かない、なーんて場面を観るものである。しかしこの場合は体格差がなく、ツープラトンをやられれば一気に試合が決してしまうために、そのような形態となったのだ。
この最初の試合(2度あった)の主役は、レフェリーの山本小鉄だったと言っていい。待機選手がカットインに入ろうとするのを、小鉄さんは身体を張って止め続けた。絶対に手出しはさせぬという強い意志が伝わり、場内から大「小鉄コール」が沸き起こった。
これは、小鉄さんが強かったから出来たことである。思えば、昔はレフェリーはみなレスラーあがりだった。日本で見れば沖識名に始まり、ジョー樋口、ユセフトルコ、ミスター高橋、タイガー服部らは全て元レスラーだった。小鉄さんのような一流レスラーではなかったが、それなりに皆バックボーンを持ち毅然とした態度がとれた。ミスター高橋もロープブレイクを無視した外人レスラーにミドルキックかましたりしていたからね。和田京平さんくらいからかなあ。レスラー経験の無い人がレフェリーになっていったのは。レッドシューズ海野とかは弱そうだ。一概に言ってはいけないが、もうこういう試合を裁けるレフェリーはいないかもしれない。マイティ井上は引退したし。保永昇男はどうしたかなあ。
話が合体技からそれた。次回に続く。
どんなスポーツにもルールがありそれに逆らったプレーは「反則」となる。「反則」は、基本的には犯してはならない事柄であり、反則を犯したものには一定のペナルティが与えられるのが通常である。競技によっては反則行為を犯せば即敗退、となる場合もある(陸上短距離のフライングなど)。
したがって、やってもいい「反則行為」というものは本来は存在しないはずである。
細かいことを言えば例えばサッカーには「マリーシア」とよく呼称されるレフェリーのブラインドをつく反則行為があったりするが、もちろん公式に認められているものではない。認められる行為であればそれは、反則ではない。
ところが、その「認められている反則行為」という、言葉だけでみれば完全に矛盾したプレーが、唯一プロレスリングにのみ存在する。それを総称して「反則技」と呼ぶ。
なぜそのような「反則技」が存在するのか。それは決してルールがいいかげんであるからではない。原因は、プロレスルールの二重構造による。
プロレスファンであれば常識の範疇であり、またプロレス好きでなくとも極めて知れ渡っている「プロレスのルール」であるが、一度ちゃんと整理しようと思う。
実はプロレスのルールには「ローカル・ルール」というものもある。団体によって微妙な差異があるのだが、おおまかな部分はほぼ統一されている。
一例として全日本プロレスの公式ルールを紹介する。
他団体もほぼ同様である。新日本プロレスの公式ルールを参照しても、ニュアンスが多少異なれど基本的には変らない。これ以外に新日には「故意に相手競技者を場外フェンスにぶつけてはならない」との一文が加わっている程度である。これは、場外フェンスを設けていない団体も存在し、ローカルルールと言える。(場外フェンスは今はどこにでもあるが、昔は全日はじめ他団体には存在しなかった。これは新日本で始まったとされる。タイガージェットシンが暴れまわって危険だったから。当時はオーバーザフェンスという反則もあった)
で、これらの反則を犯した場合のペナルティは「敗退」である。
前述全日のルールの「第4条 勝敗の決定」において、試合の勝敗決定要因として以下の項目が挙げられている。「ピンフォール」「ギブアップ」「KO」「レフェリーストップ」「リングアウト」「TKO」「試合放棄」「ドクターストップ」「反則」と列記されている。反則攻撃を行えば負けなのだ。これは、全てのスポーツの中でもかなり厳しいルールだと言える。
ただし「留保」が付く。
「第5条 主な反則行為」中の一文「以上が主な反則行為で、レフェリーの判断で反則カウントを取ることが出来る。また、レフェリーの判断下において反則行為はこの限りではない」。そして「第4条 勝敗の決定」中の「相手が反則行為を繰り返し、レフェリーが5カウントを数えた場合、勝ち。※また、あまりにも悪質な反則行為を行った選手に対し、レフェリーの判断で即、反則負けを宣告する時もある」という説明。
あまりにも有名なプロレスのルールである、反則行為は「5カウント以内はOK(ただしやりすぎちゃダメよ)」という規定。これにより「反則行為」は「反則技」へと昇華する。5秒以内なら、やってもいいのだ(あまりにも悪質でなければ)。
この「あまりにも悪質な反則行為」というのも非常に文学的ではあるが、一応「生命に関わる行為」「選手生命に関わる行為」「翌日の試合に影響を及ぼす行為」と解釈しておこう。そういう行為は反則負けの要因となる。したがい、それ未満の行為(攻撃)は、「反則技」の範疇となる。
では「反則技」には、どういう技があるのか。
全日、新日とも、ルールブック筆頭に挙げられているのが「体のいずれの箇所をもナックルパート(正拳)で殴打してはならない(新日)」である。拳で殴る行為は、反則である。殴ってはいけない(但し、5秒以内ならその限りではない)。
一発殴るのに5秒もかかるスローパンチなど幼稚園児でも避けられる。そんなパンチは存在しない。したがって正拳での殴打は「反則技」となる。
レスラーは皆、盛大にこの反則技を使用している。これについては以前記事にしたので参照していただきたい。→ナックル
他に打撃系の反則といえば、爪先での蹴り(トーキック)、そして肘、膝を鋭角的に使用した打撃である。
これは、あまり使用されない。
ひとつには拳と異なって加減がしにくいことがあるだろう。プロレスは相手に怪我をさせるために技を繰り出すわけではなく、具体的にはダメージを蓄積させるためである。トーキック(足で行う打撃では最も鋭角的)はそれを超えてしまう可能性がある。実に危険。相手の腹にトーキックをぶちこめば、腹腔破裂の可能性も出てくる。5秒以内の技であっても、危険すぎる。
なのでトーキックはほとんどのレスラーが使用しないが、僕が知る中では唯一、タイガージェットシンが多用していた。腹部を突き上げるように爪先で蹴る。危ねーなーと思っていつも見ていた・
鋭角的なエルボーも同様に危険である。実際のエルボー攻撃は肘の先端を使わない。エルボーパッド、エルボースマッシュは肘関節から前腕外側をヒットさせ、エルボードロップやエルボースタンプは肘関節から上腕外側をヒットさせる技である。アックスボンバーは肘関節側面。
ニー攻撃もこれに準じ、基本的に先端を鋭角的には用いない。例外的に、武藤のシャイニング・ウィザードはその開発初期、膝の先端が相手頭部に正面からぶち込まれていたと思う。あれは、反則技であったと言ってもいいだろう(もちろん5秒以内だが)。この初期型は危険すぎるのですぐに改良され、膝関節上部腿部分が相手の頭部側面に回し蹴りのようにヒットする形態となった。現在のシャイニング・ウィザードは反則技ではない。
このように、肘・膝の鋭角的攻撃は怪我をするため通常は5秒以内であっても鋭角的には使用されない。
したがい、打撃系の反則技は、ほぼナックルパートに限られるということになる。また一部トーキックも使用されるが(シンとかね)、一般的ではない。
なおローカルルールでは、例えばUWFで頭突きが反則となったりもしたが、一般的にはなんら問題は無い。また、チョップが反則とされる国(地域)があったと聞いた事があるが、詳細は知らない。手刀も鋭角的だからなあ。しかし力道山の空手チョップや橋本の袈裟斬りチョップ無き現在、日本のチョップの大半は掌を使用しているので鋭角的ではなくなっているが。
地獄突きも鋭角的ではあるが、あれは貫手であり鍛え上げたレスラー相手ではなかなかに通用しない。顔面、喉笛、みぞおちなど場所限定となるだろう。なので、反則とはされていない。
他にも、コーナー上段からの攻撃などが反則とされている場合があるが、いずれもローカルルールである。
プロレス技は、打撃技・投げ技、極め技(絞め技・関節技)から成る。ジャイアントスイングや雪崩式リングインのような例外もあるが、基本的に攻撃形態はこの3種類に分類される。打撃技においては前述のように主としてナックルが反則技となっているが、他の形態ではどうか。
投げ技には、反則技はない。ローカルルールとして、例えば藤波辰巳が放つドラゴンスープレックスが危険すぎるとWWWF(現WWE)で「禁じ手」とされたことがあったが、これも「反則技」の範疇であったかどうか。現実的にはルール上は問題がなく、選手を壊す可能性があるので止めてほしい、との要請による。「禁じ手」という技はアンドレのツームストンパイルドライバーなど多々あるが、それらは厳密には反則ではない。
極め技にも、反則技はほぼ無い。関節技は加減がきくので、相手を壊さない程度であればそれは認められるのがプロレスである。ヒールホールドなどはかなり危険度が高く多くの格闘技では禁止されているが、プロレスにおいて「靭帯や半月板を損傷しない程度で」仕掛けるのは合法である。
ただひとつ、絞めで禁止されている技がある。それは、チョーク攻撃である。首を絞める行為。首を絞めれば呼吸が出来なくなって死んでしまう。プロレスは殺人のために試合をしているのではない。当然ながら反則となる。スリーパーホールドのように頚動脈を絞めて「落とす」のは合法であるが、気管は絞めてはいけない。
余談だが、チョークが総合格闘技において合法とされているのがどうも納得いかない。すぐにギブアップするからかまわない、と考えているからなのだろうが、これは明確に「殺す」技である。プロレスのように5カウントがない試合で仕掛けていい技なのだろうか。派生して安田がギロチンチョーク(ワンハンド・チョーク)を掛けたりノゲイラがスピニングチョークを得意技としていたりしたが、実に恐ろしいと思う。(スピニングチョークが喉を絞めているのかには疑問があるがそれはさておき)
このチョーク攻撃はもちろん反則だが、のどに手がかかっているだけで気道をふさがなければいい。したがってチョーク・スラムなどは無問題である。ネックハンギングツリーもOK。
問題は絞めていると考えられる技で、ひとつはやはりチョークスリーパーだろう。
スリーパーホールド(裸絞め)は、技術が必要である。頚動脈を圧迫するように仕掛けて脳への血流を阻害し、落とす。これをヘタなレスラーが力任せにやれば、喉まで絞まってしまうことになる。そうなれば、反則である。ただし、これは外見では判断がつけにくい。
ただ、スリーパーで喉を絞めるということの多くは、腕でノドボトケを圧迫するということになる。気管を絞めようと思えば本来喉仏より少し上だが、レスラーの太い前腕だけで的確にポイントを押えるのは難しいので、そうなる。
喉仏を前腕で押されたら。これは自分で喉笛を押してみればわかるが猛烈に痛い。したがってチョークに入ったなら掛けられた側は痛いからアピールをする。そしてレフェリーがチェックに入って反則カウントをとる。5カウント以内に技を解かないと反則負けとなる。
ここで、グレーゾーンの技がある。猪木の「魔性のスリーパー」と称された、衰えた後年の猪木がフィニッシュとした技のことである。この技の判断は難しい。
藤原組長に掛けたスリーパー、高田へのスリーパーなどが初期の代表例だが、カクンと入って瞬時に落ちる。落ちる、ということは頚動脈絞めであり喉絞め→呼吸困難による失神ではない。実際喉に入っているとは思えないのだが、vs天龍戦においてレフェリー(タイガー服部)は、このスリーパーをチョークスリーパーと判断し反則とした。あの角度だと違うと思うけれどもなあ。
この魔性のスリーパーが「反則技」であったかどうかは措いて(よくわかんないんだもん)、喉攻撃のもうひとつの代表的な反則技は、コブラクローである。
コブラクローは、もちろんタイガージェットシンの技である。シンは、大試合ではブレーンバスターやアルゼンチンバックブリーカーなども使用したが、通常の試合は大抵このコブラクローで決めていた(もっとも凶器使用による反則負けが多くコブラクローがフィニッシュに結びつくことは少なかったと思うが)。
さて、コブラクローは反則技、と書いたが、実はそうではないという説も。wikipediaなどは「気管ではなく頸動脈を絞めているので、反則のように見えて、実際は反則ではない」と明確に書いている。そぉかあ?
コブラクローは通常のクロー技と異なり指2本で喉仏を挟み、そのまま押すことになって頚動脈を圧迫していると言われるが、僕が見た中ではノドボトケを掴んでいるように見えたこともあったぞ。実際はノドボトケを掴んでも反則ではないかもしれないが、角度によっては喉も絞まる。スリーパーのように曲げられない前腕で絞めるのと違い、指はいかようにでも動くので、ノドボトケであろうが頚動脈であろうが気管であろうが自由自在に攻められ、しかもレフェリーに見えにくい。これは、チョークと言ってもいいだろう。パッと見れば、これはどう見ても首を絞めている以外には見えないよ。
シンがコブラクローを繰り出しても、たいていは反則カウントをとられなかった。だから反則ではない、との見方もあるが、それは単にレフェリーの裁量だったからではないか。たいていはコブラクローとロープブレイクがセットになっていて、二重に反則行為が行われており多くはロープブレイクで反則カウントがとられていたことと、シンは他にもトーキックや凶器攻撃で反則だらけであり、いちいちコブラクロー如きで反則カウントをとってられなかったのかもしれない。しかし、あれはやはり「反則技」だろう。
なお、コブラクローは別名サフォケーションクローとも呼ばれる。suffocationって窒息の意味だから、やはりコブラクローは反則と言える。
しかしサフォケーションクローという名称はコブラクローを指すのではなく、チンロックやキャメルクラッチ、またステップオーバーフェイスロックなどの際に、鼻の穴と口をふさいで呼吸できなくなる顔の掴み方を指す、ともいう。鼻と口をふさげばそれは窒息するわな。喉は絞めてないけどね。これは、反則としてどう位置づければよいのかは迷う。口や鼻への攻撃、とも見られるけれども、ふさいでいるだけなのでね。しかし明文化されていなくとも、呼吸できなくする行為はすなわち殺人行為であるから、サフォケーションクローはどっちにせよ反則技だろう。
次回に続く。
したがって、やってもいい「反則行為」というものは本来は存在しないはずである。
細かいことを言えば例えばサッカーには「マリーシア」とよく呼称されるレフェリーのブラインドをつく反則行為があったりするが、もちろん公式に認められているものではない。認められる行為であればそれは、反則ではない。
ところが、その「認められている反則行為」という、言葉だけでみれば完全に矛盾したプレーが、唯一プロレスリングにのみ存在する。それを総称して「反則技」と呼ぶ。
なぜそのような「反則技」が存在するのか。それは決してルールがいいかげんであるからではない。原因は、プロレスルールの二重構造による。
プロレスファンであれば常識の範疇であり、またプロレス好きでなくとも極めて知れ渡っている「プロレスのルール」であるが、一度ちゃんと整理しようと思う。
実はプロレスのルールには「ローカル・ルール」というものもある。団体によって微妙な差異があるのだが、おおまかな部分はほぼ統一されている。
一例として全日本プロレスの公式ルールを紹介する。
第5条 主な反則行為このような行為が禁止事項であり「反則」となる。
拳で殴打してはならない。ただし、レフェリーのチェックを受けたオープン・フィンガー・グローブを着用した場合は許可されるが、顔面への攻撃はしてはいけない。
頭髪・コスチューム等を、掴んだり、引っ張ったりする行為。
爪先で蹴る行為。
噛み付く行為。ひっかく行為。
肘・膝などによる鋭角的な攻撃。
金的へのあらゆる攻撃。
手足の指関節への攻撃は、三本以上でなくてはならない。
喉をしめる行為。
ロープエスケープをしている相手に対しての攻撃。
タッグマッチにおいて、試合権利のない選手が攻撃を加える行為。
目・鼻・口・耳へのあらゆる攻撃。
器物・危険物を使用しての攻撃。(凶器攻撃)
覆面レスラーの覆面を剥がしたり、引っ張る行為。
レフェリーへの暴行。
他団体もほぼ同様である。新日本プロレスの公式ルールを参照しても、ニュアンスが多少異なれど基本的には変らない。これ以外に新日には「故意に相手競技者を場外フェンスにぶつけてはならない」との一文が加わっている程度である。これは、場外フェンスを設けていない団体も存在し、ローカルルールと言える。(場外フェンスは今はどこにでもあるが、昔は全日はじめ他団体には存在しなかった。これは新日本で始まったとされる。タイガージェットシンが暴れまわって危険だったから。当時はオーバーザフェンスという反則もあった)
で、これらの反則を犯した場合のペナルティは「敗退」である。
前述全日のルールの「第4条 勝敗の決定」において、試合の勝敗決定要因として以下の項目が挙げられている。「ピンフォール」「ギブアップ」「KO」「レフェリーストップ」「リングアウト」「TKO」「試合放棄」「ドクターストップ」「反則」と列記されている。反則攻撃を行えば負けなのだ。これは、全てのスポーツの中でもかなり厳しいルールだと言える。
ただし「留保」が付く。
「第5条 主な反則行為」中の一文「以上が主な反則行為で、レフェリーの判断で反則カウントを取ることが出来る。また、レフェリーの判断下において反則行為はこの限りではない」。そして「第4条 勝敗の決定」中の「相手が反則行為を繰り返し、レフェリーが5カウントを数えた場合、勝ち。※また、あまりにも悪質な反則行為を行った選手に対し、レフェリーの判断で即、反則負けを宣告する時もある」という説明。
あまりにも有名なプロレスのルールである、反則行為は「5カウント以内はOK(ただしやりすぎちゃダメよ)」という規定。これにより「反則行為」は「反則技」へと昇華する。5秒以内なら、やってもいいのだ(あまりにも悪質でなければ)。
この「あまりにも悪質な反則行為」というのも非常に文学的ではあるが、一応「生命に関わる行為」「選手生命に関わる行為」「翌日の試合に影響を及ぼす行為」と解釈しておこう。そういう行為は反則負けの要因となる。したがい、それ未満の行為(攻撃)は、「反則技」の範疇となる。
では「反則技」には、どういう技があるのか。
全日、新日とも、ルールブック筆頭に挙げられているのが「体のいずれの箇所をもナックルパート(正拳)で殴打してはならない(新日)」である。拳で殴る行為は、反則である。殴ってはいけない(但し、5秒以内ならその限りではない)。
一発殴るのに5秒もかかるスローパンチなど幼稚園児でも避けられる。そんなパンチは存在しない。したがって正拳での殴打は「反則技」となる。
レスラーは皆、盛大にこの反則技を使用している。これについては以前記事にしたので参照していただきたい。→ナックル
他に打撃系の反則といえば、爪先での蹴り(トーキック)、そして肘、膝を鋭角的に使用した打撃である。
これは、あまり使用されない。
ひとつには拳と異なって加減がしにくいことがあるだろう。プロレスは相手に怪我をさせるために技を繰り出すわけではなく、具体的にはダメージを蓄積させるためである。トーキック(足で行う打撃では最も鋭角的)はそれを超えてしまう可能性がある。実に危険。相手の腹にトーキックをぶちこめば、腹腔破裂の可能性も出てくる。5秒以内の技であっても、危険すぎる。
なのでトーキックはほとんどのレスラーが使用しないが、僕が知る中では唯一、タイガージェットシンが多用していた。腹部を突き上げるように爪先で蹴る。危ねーなーと思っていつも見ていた・
鋭角的なエルボーも同様に危険である。実際のエルボー攻撃は肘の先端を使わない。エルボーパッド、エルボースマッシュは肘関節から前腕外側をヒットさせ、エルボードロップやエルボースタンプは肘関節から上腕外側をヒットさせる技である。アックスボンバーは肘関節側面。
ニー攻撃もこれに準じ、基本的に先端を鋭角的には用いない。例外的に、武藤のシャイニング・ウィザードはその開発初期、膝の先端が相手頭部に正面からぶち込まれていたと思う。あれは、反則技であったと言ってもいいだろう(もちろん5秒以内だが)。この初期型は危険すぎるのですぐに改良され、膝関節上部腿部分が相手の頭部側面に回し蹴りのようにヒットする形態となった。現在のシャイニング・ウィザードは反則技ではない。
このように、肘・膝の鋭角的攻撃は怪我をするため通常は5秒以内であっても鋭角的には使用されない。
したがい、打撃系の反則技は、ほぼナックルパートに限られるということになる。また一部トーキックも使用されるが(シンとかね)、一般的ではない。
なおローカルルールでは、例えばUWFで頭突きが反則となったりもしたが、一般的にはなんら問題は無い。また、チョップが反則とされる国(地域)があったと聞いた事があるが、詳細は知らない。手刀も鋭角的だからなあ。しかし力道山の空手チョップや橋本の袈裟斬りチョップ無き現在、日本のチョップの大半は掌を使用しているので鋭角的ではなくなっているが。
地獄突きも鋭角的ではあるが、あれは貫手であり鍛え上げたレスラー相手ではなかなかに通用しない。顔面、喉笛、みぞおちなど場所限定となるだろう。なので、反則とはされていない。
他にも、コーナー上段からの攻撃などが反則とされている場合があるが、いずれもローカルルールである。
プロレス技は、打撃技・投げ技、極め技(絞め技・関節技)から成る。ジャイアントスイングや雪崩式リングインのような例外もあるが、基本的に攻撃形態はこの3種類に分類される。打撃技においては前述のように主としてナックルが反則技となっているが、他の形態ではどうか。
投げ技には、反則技はない。ローカルルールとして、例えば藤波辰巳が放つドラゴンスープレックスが危険すぎるとWWWF(現WWE)で「禁じ手」とされたことがあったが、これも「反則技」の範疇であったかどうか。現実的にはルール上は問題がなく、選手を壊す可能性があるので止めてほしい、との要請による。「禁じ手」という技はアンドレのツームストンパイルドライバーなど多々あるが、それらは厳密には反則ではない。
極め技にも、反則技はほぼ無い。関節技は加減がきくので、相手を壊さない程度であればそれは認められるのがプロレスである。ヒールホールドなどはかなり危険度が高く多くの格闘技では禁止されているが、プロレスにおいて「靭帯や半月板を損傷しない程度で」仕掛けるのは合法である。
ただひとつ、絞めで禁止されている技がある。それは、チョーク攻撃である。首を絞める行為。首を絞めれば呼吸が出来なくなって死んでしまう。プロレスは殺人のために試合をしているのではない。当然ながら反則となる。スリーパーホールドのように頚動脈を絞めて「落とす」のは合法であるが、気管は絞めてはいけない。
余談だが、チョークが総合格闘技において合法とされているのがどうも納得いかない。すぐにギブアップするからかまわない、と考えているからなのだろうが、これは明確に「殺す」技である。プロレスのように5カウントがない試合で仕掛けていい技なのだろうか。派生して安田がギロチンチョーク(ワンハンド・チョーク)を掛けたりノゲイラがスピニングチョークを得意技としていたりしたが、実に恐ろしいと思う。(スピニングチョークが喉を絞めているのかには疑問があるがそれはさておき)
このチョーク攻撃はもちろん反則だが、のどに手がかかっているだけで気道をふさがなければいい。したがってチョーク・スラムなどは無問題である。ネックハンギングツリーもOK。
問題は絞めていると考えられる技で、ひとつはやはりチョークスリーパーだろう。
スリーパーホールド(裸絞め)は、技術が必要である。頚動脈を圧迫するように仕掛けて脳への血流を阻害し、落とす。これをヘタなレスラーが力任せにやれば、喉まで絞まってしまうことになる。そうなれば、反則である。ただし、これは外見では判断がつけにくい。
ただ、スリーパーで喉を絞めるということの多くは、腕でノドボトケを圧迫するということになる。気管を絞めようと思えば本来喉仏より少し上だが、レスラーの太い前腕だけで的確にポイントを押えるのは難しいので、そうなる。
喉仏を前腕で押されたら。これは自分で喉笛を押してみればわかるが猛烈に痛い。したがってチョークに入ったなら掛けられた側は痛いからアピールをする。そしてレフェリーがチェックに入って反則カウントをとる。5カウント以内に技を解かないと反則負けとなる。
ここで、グレーゾーンの技がある。猪木の「魔性のスリーパー」と称された、衰えた後年の猪木がフィニッシュとした技のことである。この技の判断は難しい。
藤原組長に掛けたスリーパー、高田へのスリーパーなどが初期の代表例だが、カクンと入って瞬時に落ちる。落ちる、ということは頚動脈絞めであり喉絞め→呼吸困難による失神ではない。実際喉に入っているとは思えないのだが、vs天龍戦においてレフェリー(タイガー服部)は、このスリーパーをチョークスリーパーと判断し反則とした。あの角度だと違うと思うけれどもなあ。
この魔性のスリーパーが「反則技」であったかどうかは措いて(よくわかんないんだもん)、喉攻撃のもうひとつの代表的な反則技は、コブラクローである。
コブラクローは、もちろんタイガージェットシンの技である。シンは、大試合ではブレーンバスターやアルゼンチンバックブリーカーなども使用したが、通常の試合は大抵このコブラクローで決めていた(もっとも凶器使用による反則負けが多くコブラクローがフィニッシュに結びつくことは少なかったと思うが)。
さて、コブラクローは反則技、と書いたが、実はそうではないという説も。wikipediaなどは「気管ではなく頸動脈を絞めているので、反則のように見えて、実際は反則ではない」と明確に書いている。そぉかあ?
コブラクローは通常のクロー技と異なり指2本で喉仏を挟み、そのまま押すことになって頚動脈を圧迫していると言われるが、僕が見た中ではノドボトケを掴んでいるように見えたこともあったぞ。実際はノドボトケを掴んでも反則ではないかもしれないが、角度によっては喉も絞まる。スリーパーのように曲げられない前腕で絞めるのと違い、指はいかようにでも動くので、ノドボトケであろうが頚動脈であろうが気管であろうが自由自在に攻められ、しかもレフェリーに見えにくい。これは、チョークと言ってもいいだろう。パッと見れば、これはどう見ても首を絞めている以外には見えないよ。
シンがコブラクローを繰り出しても、たいていは反則カウントをとられなかった。だから反則ではない、との見方もあるが、それは単にレフェリーの裁量だったからではないか。たいていはコブラクローとロープブレイクがセットになっていて、二重に反則行為が行われており多くはロープブレイクで反則カウントがとられていたことと、シンは他にもトーキックや凶器攻撃で反則だらけであり、いちいちコブラクロー如きで反則カウントをとってられなかったのかもしれない。しかし、あれはやはり「反則技」だろう。
なお、コブラクローは別名サフォケーションクローとも呼ばれる。suffocationって窒息の意味だから、やはりコブラクローは反則と言える。
しかしサフォケーションクローという名称はコブラクローを指すのではなく、チンロックやキャメルクラッチ、またステップオーバーフェイスロックなどの際に、鼻の穴と口をふさいで呼吸できなくなる顔の掴み方を指す、ともいう。鼻と口をふさげばそれは窒息するわな。喉は絞めてないけどね。これは、反則としてどう位置づければよいのかは迷う。口や鼻への攻撃、とも見られるけれども、ふさいでいるだけなのでね。しかし明文化されていなくとも、呼吸できなくする行為はすなわち殺人行為であるから、サフォケーションクローはどっちにせよ反則技だろう。
次回に続く。
プロレスという競技はもちろんKing of sportsであるのは間違いないが、これが不可思議なことに子供の頃からずっとプロレスを続けてきてプロレスラーになった、という例はまずない。レスラーの多くは、他のスポーツ出身である。もちろんアメフトや体操出身者なども居るが、他の格闘技からの参入が多い。
そもそもプロレスという競技は、様々な格闘技の発展系(集大成)であるという見方も出来る。プロレスのルーツをどこに求めるのかという話は、古代ギリシャのパンクラチオンからプロレスは始まったのだ、という雄大な説から、アマレスの賞金マッチ説、サーカスの出し物説まで様々あるが、その技術的なルーツを辿れば、イギリスの「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」と呼ばれるレスリング、グレコローマン式レスリングあたりがベースとなるだろう。ギブアップもしくは相手の両肩をマットに付けることを決着とするルールであり、プロレス興行のルーツが米英であることは定説化しているので、それはもう間違いない。そこへ、参入する競技者のバックボーンから、各地に伝わる様々な格闘技のエッセンスが入りこみ、現在のプロレスがある。
日本のプロレスにおいてもそれは同様で、特に日本では伝統的格闘技として相撲と柔道があり、その技術がプロレスへ流入した。それは、日本のプロレス黎明期に相撲出身の力道山と柔道出身の木村政彦が突出した存在であったことも寄与していると考えられる。当時の日本人レスラーはほぼ相撲ないしは柔道出身であり、ハロルド登喜がボクサーであったことくらいしか例外が無い。アマレス出身者等がプロレスに参入するのはもう少し後の時代となる。
興行という面からは長い歴史のある相撲が日本のプロレスの形を作ったとも言え、また徒弟制度やトレーニング方式、食事などでは大いに影響を及ぼしたが、「技」の面から言えば、さほど相撲はプロレスには浸透していない。相撲は土俵から押し出す、また足の裏以外が地面につくことが勝敗の分かれ目であり、プロレスとはあまりにかけ離れていたことがある。もちろん頭突きなどは相撲も得意とするが、相撲から来た技としては、力道山の空手チョップが相撲の突き押し、張り手をルーツとしている他、鯖折り(ベアハッグはそもそも輸入技だが)やすくい投げくらいしか出てこない。天竜チョップという摩訶不思議な技もあったが。
それに比べ柔道は、その技術がかなりプロレスに生かされた。戦後間もない頃は、柔道は現在の講道館柔道よりも以前の柔術系の技がまだ残されており、投げ技、固め技(絞めや関節技)の他、当て身技と呼ばれる打撃技まであった(講道館では禁止)。このうち、関節技については現在も腕ひしぎ逆十字固めなど、頻繁にその姿を見ることが出来る。これら柔道系の関節技は海外のプロレスにも輸出されていった。
しかし、柔道とプロレスでは決定的な違いがある。それは、柔道は着衣で行う格闘技だということ。したがい、絞め技、投げ技においてはそのままプロレスには移行できない。もちろん頚動脈を抑えるツボであるとか、相手の体勢の崩し方、体重移動まで柔道の技術は相当に使えるのだが、アレンジが必要となる。三角絞めなど着衣とあまり関係無い技はいいが、それ以外は難しい。ことに、投げ技はそうだろう。バックドロップが柔道の裏投げをルーツとしているという説はよく言われるが、相当にアレンジされている。
柔道の投げ技は、本来かなり威力のあるものである。現在の柔道はどちらかといえば護身よりも教育を旨としているようで、相手の背中を畳につけることが出来れば一本であり、怪我をしないように受身をとりやすく投げる。だが、柔道(柔術)は組討由来であり、相手を倒すために投げる技術もやはり存在している。
コミックスの話になるが「1・2の三四郎2」で、プロ柔道の金田麻男が背負い投げにおいて引手釣手をどちらも引きつけないで、背中から落とさず垂直に頭から畳に叩きつけた。漫画ではあるが、見てゾッとした。柔道の投げは、いかようにでも必殺技になりうる。
ただし、前述のようにプロレスは着衣がないため、相手の襟も袖も掴めない。したがって袖釣込腰などは使えない。ばかりか、ほとんどの投げ技にアレンジが必須となる。刈ったり払ったりの足技の他は、そのまま使用できるのは双手刈や俵返など。また、大腰は相手の脇に手を入れ腰に乗せて投げる。さらに一本背負いは相手の上腕を掴む。なので無着衣でもOKである。佐々木健介が「逆一本背負い」を使う。
それ以外は掴む場所がなく、実際プロレスではあまり使われない。
その中で、大外刈りはプロレスでも例外的に一部のレスラーが使用している。
全日本柔道選手権を7度獲った小川直也がプロレスに転向したとき、フィニッシュ技に開発したのはSTO(Space Tornade Ogawa)だった。このネーミングは猪木とされているが全くもってヒドい。しかしながら、これはどう見ても大外刈りである。
大外刈りの説明は不要とは思うが一応書くと、お互い正面から組み合った状態で、袖を持つ引手、襟を持つ釣手をぐっと引き胸を合わせ、同時に相手の側面に踏み込んで上体を押し込み、左に踏み込んだなら右足で相手右足を刈り(相手の膝下に自分の足を合わせて後方へ振る)、相手を後ろに倒す技である。相手は背中から床へ落ちる。
上体の引付が強く足を高く刈れば、相手は後頭部から落ち危険な技となる。
STOは、裸体のプロレスでは引手釣手がとれないため、引手は相手の対面する腕をとり、釣手は相手の首に回す。このことで首が固定され、受身がとりにくくなる。そして胸を合わせた際に体重を相手に乗せさらに大きく刈ることで、威力を増している。完全に後頭部を狙っている。
ほぼ同系の技に、垣原賢人のカッキーカッターがある。Jr.ヘビーのカッキーは足を大きく振りかぶり一瞬で刈ることによってスピードを増し、超ヘビー級の小川のSTOと同様の威力を生み出している。瞬時にバタンと倒れるため、実に受身がとりにくい。
他に佐々木健介のSTKがある。これはSTOのコピーだが、釣手を首ではなく顎にすることが異なっている。
相手を引き付けて、後頭部を狙って後方へ倒す、ということであれば、プロレスには同様の技がいくつもある。ロック・ボトムもそうだろう。これは、足を刈って倒すのではなく上方へ持ち上げて叩きつける。体重を乗せる、ということになればスパインバスターにまで広がってしまう。方向性から言えば、チョークスラムも身体の向きは同じである。
しかしダメージに近い点はあるにせよ、「足を刈って後方に倒す」ということが大外狩りの重要な点であり、技術的に全く異なる技と考えられる。むしろ、身体の向きは異なっているが河津落としが類似技と言える。
柔道の投げ技において、大外刈りは最も「柔道らしい」技と言える。知名度は、内股や背負い投げと並んで高いだろう。したがって、柔道においてもオールラウンドプレイヤーであり自らの代名詞のような技を持たなかった器用な小川が、プロレスにおいて「柔道出身」であるというアイデンティティを前面に出すために大外刈りを選んだのはプランとして頷ける部分がある。ただ、プロレスは着衣がないためどうしても変形の「STO」とせざるを得なかったのもまたよく理解できる。
柔道出身のレスラーは多い。僕が実際に観戦して知っている範囲でも、大物として坂口征二、さらに柔道選手として実績のある小原、武藤、経験者として村上和成、橋本、金本、健介らがいるが、この中で関節技等はともかく、柔道の投げ技を取り入れているのはわずかに健介くらい。海外に目を転じれば超大物のルスカ、ヘーシンク、そしてバッドニュースアレンらがいるが、ルスカの払い腰など凄まじかったものの、やはり絞めや関節技への布石だった。どうしても着衣の問題から、投げ技をフィニッシュに出来なかったものと思われる。また彼らには、立ち技でノックアウトを狙うという発想に欠けていたのかもしれない。寝技の方が確実である。そこが、小川の非凡さをまた浮かび上がらせる。
日本人である僕としては、柔道技の凄さをもっとプロレスでアピールして欲しいとは願っているのだが。吉田や石井慧は総合に行っちゃったからなあ。
柔道出身としての実績で言えば小川直也は確かにピカ一だが、かつて日本のプロレス界にはもっと凄まじい選手が居た。もちろん、木村政彦である。「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と謳われ、小川や吉田、石井はもちろんのこと、山下や斉藤でもルスカやヘーシンクでも、全盛期の木村には敵わなかっただろうとされる(誇張ではなく)。さすれば、柔道界においては世界最強だ。そういう選手が、レスラーだった時代がある。
グレーシー柔術関連の話や、また「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」という評伝が昨年大ベストセラーとなったことで、木村政彦については昨今よく知られている。その木村が最も得意としていた投げ技が、大外刈りだった。
木村は、実は身長が170cmしかない。これは時代を考えても、決して大きな方ではない。
大外刈りは相手の身体を上方に浮かせないため、仕掛ける側の身体が大きいほうが体重を乗せるのに有利である。プロレス技になると「浴びせ倒す」ことになるためことさらである。190cmをゆうに超える小川直也は言わずもがな、カッキーもJr.ヘビーとすればそこそこ上背はある。木村はもっと小さい。なのに、どうして大外刈りを得意としたのか。背負い投げなど重心を低くとる技のほうが有利なのに。
その木村政彦の大外刈りの描写が、上記評伝にいくつか書かれている。
木村の大外刈りは、乱取りでは禁じ手にさえなったという。それは、相手へのダメージが大きすぎるからだ。まず、足を刈るときは踵で打撃を与えるが如くだったという。ふくらはぎもしくはアキレス腱にかかと蹴りを食らわすわけだ。そして一気に倒す。もちろんこれで柔道では一本だが、この踵の打撃で相手の足は壊され、さらに投げる角度が鋭いため相手は受身をとれず脳震盪を起すのだと。何という凄まじさか。
この大外刈りに対するエリオ・グレイシーの目撃談が上記本にある。
「エリオは木村の大外刈りを見て自らの格闘技観が変わるほどのショックを受けた。エリオは実戦では投技は役に立たない、最後に仕留めるには絞め技か関節技しかないと思っていた」
その投げ一発で対戦相手を失神させたのは衝撃的だったということである。
有難いことに、その木村とエリオの試合の動画が残されている。こちら。エリオは、木村の投げを警戒していたにもかかわらず、大外刈りで投げられている。あのグレイシー柔術の始祖であり不敗を誇ったエリオすら「わかっていても投げられた」のであるから、これはもう防ぎようのない技なのだ。
その木村の大外刈りは、強力な刈り足で相手のバランスを崩すばかりか、釣手で相手を押し倒すように投げている。胸を合わせて浴びせ倒す形ではないところが怖い。強烈な腕力で畳に叩きつけているのだ。そして、スピードが尋常ではない。これでは、生半可な相手であれば確実にK.O.されてしまう。エリオはその後も踏ん張ったが、結局これまた必殺の腕絡(アームロック)で腕を折られて敗れた。
だが、この試合は柔道(柔術)である。僕はプロレスにおいて木村が繰り出す大外刈りが知りたいのだ。
しかし上記「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」は木村の名誉回復を目的として著されており、木村のプロレス時代は黒歴史の扱いである。なので、さほど試合内容に言及されているわけではない。かと言って他に依拠する資料もないので、頼る。
木村がプロレスラーとして活動した期間は、短い。日本に限れば、昭和29年のシャープ兄弟がやってきたシリーズだけである。しかしその試合内容の詳細はわからない。上記評伝にはわずかに腕の逆取り、腕固め、一本背負い、投げ技などと記されているだけである。そりゃ細かなことなど記録には残らないだろう。よく資料映像として出されるこの動画を見ても、大外刈りは出されていない。投げ技としては、相手がヘッドロックに来たところを大腰とみられる投げ、一本背負いを2回、さらにフロントヘッドロックからまた大腰的な投げを放っている(この技は面白い。フライングメイヤーとも異なる)。そして巴投げ。さらに、エプロンから一瞬の足払いをかけてベン・シャープに尻もちをつかせている。ここらへん、達人の片鱗が窺える。あとはヘッドシザース、ステップオーバートーホールドくらいか。このヘッドシザースはリバースで掛けていて、のちのフランケンシュタイナーの原型をみるようである。腕も固めているが残念ながらこれは必殺の腕絡ではない。
さて、他に残されている動画はあの力道山戦である。こちらとこちら。
この試合で、実は木村は大外刈りを出しているらしい。ただしその場面は残されてはいないようだ。現在出回っている動画は、木村有利の場面は全てカットされているという。非常に惜しいことである。したがって木村の技は、開始早々の一本背負いくらいしか見られない。腕固めもあるが、ハンマーロックからの不完全なアームロックへの移行であり、とても必殺の腕絡にはなっていない。
木村は、どんな大外刈りを出したのだろうか。木村一流の必殺技である大外刈りを。
だがその後の試合展開から見て、力道山にさほどのダメージを与えたものとは思えない。エリオに対して繰り出した、相手の後頭部を腕力でマットに叩きつけるが如くの大外刈りではなかったのだろう。
もしもあの大外刈りを放ったならば。エリオでも投げられた大外刈りである。力道山は防ぎようがなかったはずだ。そして後頭部に相当なダメージを負うことになっただろう。そうなったら、日本のプロレスの歴史は、変わっていた。さらに「オオソトガリ」がプロレス技として定着した可能性がある。後の「STO」なんてヘンな一代きりのネーミングでは終わらず、バックドロップやブレーンバスターのような古典に昇華した可能性も、ゼロではなかった。惜しいことだったと思う。
そもそもプロレスという競技は、様々な格闘技の発展系(集大成)であるという見方も出来る。プロレスのルーツをどこに求めるのかという話は、古代ギリシャのパンクラチオンからプロレスは始まったのだ、という雄大な説から、アマレスの賞金マッチ説、サーカスの出し物説まで様々あるが、その技術的なルーツを辿れば、イギリスの「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」と呼ばれるレスリング、グレコローマン式レスリングあたりがベースとなるだろう。ギブアップもしくは相手の両肩をマットに付けることを決着とするルールであり、プロレス興行のルーツが米英であることは定説化しているので、それはもう間違いない。そこへ、参入する競技者のバックボーンから、各地に伝わる様々な格闘技のエッセンスが入りこみ、現在のプロレスがある。
日本のプロレスにおいてもそれは同様で、特に日本では伝統的格闘技として相撲と柔道があり、その技術がプロレスへ流入した。それは、日本のプロレス黎明期に相撲出身の力道山と柔道出身の木村政彦が突出した存在であったことも寄与していると考えられる。当時の日本人レスラーはほぼ相撲ないしは柔道出身であり、ハロルド登喜がボクサーであったことくらいしか例外が無い。アマレス出身者等がプロレスに参入するのはもう少し後の時代となる。
興行という面からは長い歴史のある相撲が日本のプロレスの形を作ったとも言え、また徒弟制度やトレーニング方式、食事などでは大いに影響を及ぼしたが、「技」の面から言えば、さほど相撲はプロレスには浸透していない。相撲は土俵から押し出す、また足の裏以外が地面につくことが勝敗の分かれ目であり、プロレスとはあまりにかけ離れていたことがある。もちろん頭突きなどは相撲も得意とするが、相撲から来た技としては、力道山の空手チョップが相撲の突き押し、張り手をルーツとしている他、鯖折り(ベアハッグはそもそも輸入技だが)やすくい投げくらいしか出てこない。天竜チョップという摩訶不思議な技もあったが。
それに比べ柔道は、その技術がかなりプロレスに生かされた。戦後間もない頃は、柔道は現在の講道館柔道よりも以前の柔術系の技がまだ残されており、投げ技、固め技(絞めや関節技)の他、当て身技と呼ばれる打撃技まであった(講道館では禁止)。このうち、関節技については現在も腕ひしぎ逆十字固めなど、頻繁にその姿を見ることが出来る。これら柔道系の関節技は海外のプロレスにも輸出されていった。
しかし、柔道とプロレスでは決定的な違いがある。それは、柔道は着衣で行う格闘技だということ。したがい、絞め技、投げ技においてはそのままプロレスには移行できない。もちろん頚動脈を抑えるツボであるとか、相手の体勢の崩し方、体重移動まで柔道の技術は相当に使えるのだが、アレンジが必要となる。三角絞めなど着衣とあまり関係無い技はいいが、それ以外は難しい。ことに、投げ技はそうだろう。バックドロップが柔道の裏投げをルーツとしているという説はよく言われるが、相当にアレンジされている。
柔道の投げ技は、本来かなり威力のあるものである。現在の柔道はどちらかといえば護身よりも教育を旨としているようで、相手の背中を畳につけることが出来れば一本であり、怪我をしないように受身をとりやすく投げる。だが、柔道(柔術)は組討由来であり、相手を倒すために投げる技術もやはり存在している。
コミックスの話になるが「1・2の三四郎2」で、プロ柔道の金田麻男が背負い投げにおいて引手釣手をどちらも引きつけないで、背中から落とさず垂直に頭から畳に叩きつけた。漫画ではあるが、見てゾッとした。柔道の投げは、いかようにでも必殺技になりうる。
ただし、前述のようにプロレスは着衣がないため、相手の襟も袖も掴めない。したがって袖釣込腰などは使えない。ばかりか、ほとんどの投げ技にアレンジが必須となる。刈ったり払ったりの足技の他は、そのまま使用できるのは双手刈や俵返など。また、大腰は相手の脇に手を入れ腰に乗せて投げる。さらに一本背負いは相手の上腕を掴む。なので無着衣でもOKである。佐々木健介が「逆一本背負い」を使う。
それ以外は掴む場所がなく、実際プロレスではあまり使われない。
その中で、大外刈りはプロレスでも例外的に一部のレスラーが使用している。
全日本柔道選手権を7度獲った小川直也がプロレスに転向したとき、フィニッシュ技に開発したのはSTO(Space Tornade Ogawa)だった。このネーミングは猪木とされているが全くもってヒドい。しかしながら、これはどう見ても大外刈りである。
大外刈りの説明は不要とは思うが一応書くと、お互い正面から組み合った状態で、袖を持つ引手、襟を持つ釣手をぐっと引き胸を合わせ、同時に相手の側面に踏み込んで上体を押し込み、左に踏み込んだなら右足で相手右足を刈り(相手の膝下に自分の足を合わせて後方へ振る)、相手を後ろに倒す技である。相手は背中から床へ落ちる。
上体の引付が強く足を高く刈れば、相手は後頭部から落ち危険な技となる。
STOは、裸体のプロレスでは引手釣手がとれないため、引手は相手の対面する腕をとり、釣手は相手の首に回す。このことで首が固定され、受身がとりにくくなる。そして胸を合わせた際に体重を相手に乗せさらに大きく刈ることで、威力を増している。完全に後頭部を狙っている。
ほぼ同系の技に、垣原賢人のカッキーカッターがある。Jr.ヘビーのカッキーは足を大きく振りかぶり一瞬で刈ることによってスピードを増し、超ヘビー級の小川のSTOと同様の威力を生み出している。瞬時にバタンと倒れるため、実に受身がとりにくい。
他に佐々木健介のSTKがある。これはSTOのコピーだが、釣手を首ではなく顎にすることが異なっている。
相手を引き付けて、後頭部を狙って後方へ倒す、ということであれば、プロレスには同様の技がいくつもある。ロック・ボトムもそうだろう。これは、足を刈って倒すのではなく上方へ持ち上げて叩きつける。体重を乗せる、ということになればスパインバスターにまで広がってしまう。方向性から言えば、チョークスラムも身体の向きは同じである。
しかしダメージに近い点はあるにせよ、「足を刈って後方に倒す」ということが大外狩りの重要な点であり、技術的に全く異なる技と考えられる。むしろ、身体の向きは異なっているが河津落としが類似技と言える。
柔道の投げ技において、大外刈りは最も「柔道らしい」技と言える。知名度は、内股や背負い投げと並んで高いだろう。したがって、柔道においてもオールラウンドプレイヤーであり自らの代名詞のような技を持たなかった器用な小川が、プロレスにおいて「柔道出身」であるというアイデンティティを前面に出すために大外刈りを選んだのはプランとして頷ける部分がある。ただ、プロレスは着衣がないためどうしても変形の「STO」とせざるを得なかったのもまたよく理解できる。
柔道出身のレスラーは多い。僕が実際に観戦して知っている範囲でも、大物として坂口征二、さらに柔道選手として実績のある小原、武藤、経験者として村上和成、橋本、金本、健介らがいるが、この中で関節技等はともかく、柔道の投げ技を取り入れているのはわずかに健介くらい。海外に目を転じれば超大物のルスカ、ヘーシンク、そしてバッドニュースアレンらがいるが、ルスカの払い腰など凄まじかったものの、やはり絞めや関節技への布石だった。どうしても着衣の問題から、投げ技をフィニッシュに出来なかったものと思われる。また彼らには、立ち技でノックアウトを狙うという発想に欠けていたのかもしれない。寝技の方が確実である。そこが、小川の非凡さをまた浮かび上がらせる。
日本人である僕としては、柔道技の凄さをもっとプロレスでアピールして欲しいとは願っているのだが。吉田や石井慧は総合に行っちゃったからなあ。
柔道出身としての実績で言えば小川直也は確かにピカ一だが、かつて日本のプロレス界にはもっと凄まじい選手が居た。もちろん、木村政彦である。「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と謳われ、小川や吉田、石井はもちろんのこと、山下や斉藤でもルスカやヘーシンクでも、全盛期の木村には敵わなかっただろうとされる(誇張ではなく)。さすれば、柔道界においては世界最強だ。そういう選手が、レスラーだった時代がある。
グレーシー柔術関連の話や、また「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」という評伝が昨年大ベストセラーとなったことで、木村政彦については昨今よく知られている。その木村が最も得意としていた投げ技が、大外刈りだった。
木村は、実は身長が170cmしかない。これは時代を考えても、決して大きな方ではない。
大外刈りは相手の身体を上方に浮かせないため、仕掛ける側の身体が大きいほうが体重を乗せるのに有利である。プロレス技になると「浴びせ倒す」ことになるためことさらである。190cmをゆうに超える小川直也は言わずもがな、カッキーもJr.ヘビーとすればそこそこ上背はある。木村はもっと小さい。なのに、どうして大外刈りを得意としたのか。背負い投げなど重心を低くとる技のほうが有利なのに。
その木村政彦の大外刈りの描写が、上記評伝にいくつか書かれている。
木村の大外刈りは、乱取りでは禁じ手にさえなったという。それは、相手へのダメージが大きすぎるからだ。まず、足を刈るときは踵で打撃を与えるが如くだったという。ふくらはぎもしくはアキレス腱にかかと蹴りを食らわすわけだ。そして一気に倒す。もちろんこれで柔道では一本だが、この踵の打撃で相手の足は壊され、さらに投げる角度が鋭いため相手は受身をとれず脳震盪を起すのだと。何という凄まじさか。
この大外刈りに対するエリオ・グレイシーの目撃談が上記本にある。
「エリオは木村の大外刈りを見て自らの格闘技観が変わるほどのショックを受けた。エリオは実戦では投技は役に立たない、最後に仕留めるには絞め技か関節技しかないと思っていた」
その投げ一発で対戦相手を失神させたのは衝撃的だったということである。
有難いことに、その木村とエリオの試合の動画が残されている。こちら。エリオは、木村の投げを警戒していたにもかかわらず、大外刈りで投げられている。あのグレイシー柔術の始祖であり不敗を誇ったエリオすら「わかっていても投げられた」のであるから、これはもう防ぎようのない技なのだ。
その木村の大外刈りは、強力な刈り足で相手のバランスを崩すばかりか、釣手で相手を押し倒すように投げている。胸を合わせて浴びせ倒す形ではないところが怖い。強烈な腕力で畳に叩きつけているのだ。そして、スピードが尋常ではない。これでは、生半可な相手であれば確実にK.O.されてしまう。エリオはその後も踏ん張ったが、結局これまた必殺の腕絡(アームロック)で腕を折られて敗れた。
だが、この試合は柔道(柔術)である。僕はプロレスにおいて木村が繰り出す大外刈りが知りたいのだ。
しかし上記「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」は木村の名誉回復を目的として著されており、木村のプロレス時代は黒歴史の扱いである。なので、さほど試合内容に言及されているわけではない。かと言って他に依拠する資料もないので、頼る。
木村がプロレスラーとして活動した期間は、短い。日本に限れば、昭和29年のシャープ兄弟がやってきたシリーズだけである。しかしその試合内容の詳細はわからない。上記評伝にはわずかに腕の逆取り、腕固め、一本背負い、投げ技などと記されているだけである。そりゃ細かなことなど記録には残らないだろう。よく資料映像として出されるこの動画を見ても、大外刈りは出されていない。投げ技としては、相手がヘッドロックに来たところを大腰とみられる投げ、一本背負いを2回、さらにフロントヘッドロックからまた大腰的な投げを放っている(この技は面白い。フライングメイヤーとも異なる)。そして巴投げ。さらに、エプロンから一瞬の足払いをかけてベン・シャープに尻もちをつかせている。ここらへん、達人の片鱗が窺える。あとはヘッドシザース、ステップオーバートーホールドくらいか。このヘッドシザースはリバースで掛けていて、のちのフランケンシュタイナーの原型をみるようである。腕も固めているが残念ながらこれは必殺の腕絡ではない。
さて、他に残されている動画はあの力道山戦である。こちらとこちら。
この試合で、実は木村は大外刈りを出しているらしい。ただしその場面は残されてはいないようだ。現在出回っている動画は、木村有利の場面は全てカットされているという。非常に惜しいことである。したがって木村の技は、開始早々の一本背負いくらいしか見られない。腕固めもあるが、ハンマーロックからの不完全なアームロックへの移行であり、とても必殺の腕絡にはなっていない。
木村は、どんな大外刈りを出したのだろうか。木村一流の必殺技である大外刈りを。
だがその後の試合展開から見て、力道山にさほどのダメージを与えたものとは思えない。エリオに対して繰り出した、相手の後頭部を腕力でマットに叩きつけるが如くの大外刈りではなかったのだろう。
もしもあの大外刈りを放ったならば。エリオでも投げられた大外刈りである。力道山は防ぎようがなかったはずだ。そして後頭部に相当なダメージを負うことになっただろう。そうなったら、日本のプロレスの歴史は、変わっていた。さらに「オオソトガリ」がプロレス技として定着した可能性がある。後の「STO」なんてヘンな一代きりのネーミングでは終わらず、バックドロップやブレーンバスターのような古典に昇華した可能性も、ゼロではなかった。惜しいことだったと思う。
こうしてプロレス技の話を書いていると、ここしばらくでずいぶんと様相が変わったなと感じる。活躍しているのが自分より若いレスラーばかりになった、というのもあるのかもしれない。彼らは、もちろん僕が見てきたプロレスとは違うものを見て育っている。現IWGP王者(2012/5月現在)のオカダ・カズチカなどは1987年生まれで、僕がこのブログを始めた頃にデビューし、新日本に来たのは2007年。隔世の感がある。当然のことながら、僕より20年以上若い。アントニオ猪木の全盛期など知らないだろう。もちろん彼はプロレスマニアだったはずで、かなり古い試合のVTRだって見ていると思うが、あまり参考にしてはいまい。
そのオカダがツームストン・パイルドライバーを用いているのは、うれしくもある。これはカール・ゴッチ以来の技。この技を有名にしたのはモンスター・ロシモフ時代のアンドレ・ザ・ジャイアントで、ターザンタイラーを病院送りにしてしまい以後禁じ手にしたという話が凄みを呼んだ。僕らの時代はむろんタイガーマスクの得意技として印象に残る。彼のような体格があればもちろんフィニッシュ・ホールドになりうる技でありそれを期待したいが、今のところ「レインメーカー」とか称する、手を繋いでネックブリーカードロップ(アックスボンバー?)という、非常に分かりにくい技でフィニッシュとしている。ああいう技が、若い人にはうけるのだろうか。僕などにはとても大技には見えないのだが。
もう少しツームストン・パイルドライバーを前面に押し出してほしいと僕などは願うものだが、いわゆる「古い技」と呼ばれるものも、時々このように復権したりする。中西が使用したアルゼンチンバックブリーカーもそうだろう。あの技は、完全に死に体だったはずだ。カナディアンはまだ少し坂口らが使っていたが、アルゼンチンはあのタイガージェットシンが猪木からギブアップを奪うという衝撃以来、沈黙の中にいた。それをフィニッシュに持ってきた中西は、ある意味センスがあったと思われる。もう彼の復活は無理だろうか。
パイルドライバーは、今は鈴木みのるがフィニッシュにしている。これも、一種の復権か。鈴木の場合は「ゴッチ式」という従来と異なるクラッチの仕方で、ここに何とか個性を出したいと思ったのだろう。ただ本来の「脳天杭打ち」と呼ばれるドリルアホール・パイルドライバーは、とんと見なくなった。危険なのか、それとも難易度が高いのか。パワーボムが流行りだして、全てとって代わられた気がする。諏訪魔のような高角度のパワーボムもなされているくらいだから、パイルドライバーだって危険度は同様だと思うのだが。かつてのボブ・バックランドや木村健吾のようなジャンピング式など、結構な見せ場が作れるとは思うのだけれどもね。ファルコンアローなど語る気も起きない。
そうした技の中で、まず復権することはないと思われる技もいくつかある。例えば、ベアハッグ。海の向うではまだ使用されることもあるだろうが、現在のスピード重視の日本のプロレスではまず無理だろう。力皇猛が一時期使用したが、待ちきれずすぐに派生技へと繋げた。その力皇も引退してしまった。
そういう技は、いくつかある。キャメルクラッチ。また、コブラツイストでさえその仲間に入ろうとしている。
ネック・ハンギング・ツリーはその最右翼だろう。
ネック・ハンギング・ツリー。おそらく誰もが聞いたことがある技だと思う。知名度は高い(と思うけど今はそうでもないかな?)。言わずと知れた「人間絞首刑」である。
そうは言っても一応書くが、正面から両手で相手の首根っこをむんずと掴み、そのまま両腕をさしあげて相手を上方に持ち上げる。つまり「吊り上げる」わけ。相手の体重を支えているのは首根っこだけであり、その技が掛かった姿はまさに首を吊っているのと同じである。相当に恐ろしい技であることは、これだけでわかると思われる。普通なら悶死してしまうぞ。
子供の頃、4の字固めや逆えび固めはよく真似したりしたものだが(良い子は絶対にやってはいけない)、このネックハンギングツリーだけは絶対に真似出来なかった。むろん、危険ということが大前提としてあるが、これは大変に腕力が必要な技なのである。なんせ相手の体重を首の部分で支えて目よりも高く差し上げなければいけない。無理である。
つまり、相当な怪力でないと出来ない技となる。なんせレスラーの体重は常人並ではない。相手を腕力だけで持ち上げる技は、他にもパワーリフトなどがあるが(あれは技かな?)、腕への負担はネックハンギングツリーの方が上だろう。いくら力自慢でも、これはギブアップまで長時間続けることはなかなか出来ない。アンドレがグラン浜田を長時間持ち上げることは可能だろうが、そんな対戦は現実的ではない。
ここで、ちょっと考える。この技は、どう効くのだろうか。
これは、案外難しい問題のように思う。プロレスは、首を絞めるのは当然反則である。したがって、この技は実は絞首刑ではない。
首根っこを掴む、と書いたが そんなところを持ったら反則である。実際は、下顎を両手で支えているのである。その下顎、エラの部分に負荷として自分の体重がかかる。そうなるとかなりキツかろうとは思うのである。おそらくは親指がエラか下顎の内側に食い込んでいるに違いない。レスラーは基本として常人よりも遥かに首を鍛えているが、こういう部分を攻められることは想定外だろう。鍛えられないところは、急所となる。
この痛みももちろんだが、呼吸もおそらく困難になる。相当な負荷がかかるゆえに。
そして、首が自らの体重によって伸ばされる。これも、案外キツいのではないか。首関節が脱臼するなどということはないと思うが、究極はそうなる。グラウンドで相手の手首を取り両足を相手の首と脇腹に当てて踏ん張って引っ張る技があり、僕はジャイアント馬場式アームバーと仮に呼んでいるが、これは肩関節の脱臼を狙う技である。それと同じ事を首関節でやっていると言えよう。一種の「ひっぱり技・引っこ抜き技」としても分類できる。首を引っこ抜く技としては藤原組長がフェイスロックを仕掛ける際に後方からよく「首を栓抜きで引っこ抜くように」と表現されるが、ちゃんと掛かればネックハンギングツリーのほうがキツいのではないか。
かような拷問技だと推定されるが、この技が現在ほぼ幻の技となっている。いや、正確に言えば時々は出る。相手の首根っこを掴んで(便宜上この表現とする)勢いをつけて持ち上げる。この状態でネックハンギングツリーだが、それは一瞬だけで、そのまま相手を前方に叩きつける。仕掛ける側は足を開いて尻餅する形で着地するので、高角度ライガーボムとでも言おうか。一種のパワーボムである。ジャイアント・バーナードがやる。これでは、ネックハンギングツリーとは言えない。派生技にもならないのではないか。むしろ変形チョークスラム(喉輪落とし)だろう。こんな形でしか、姿を垣間見ることが出来ない。
この技は、やるほうだって大変なのである。
まず、相手の体重を支えきれる腕力がないと始まらない。そんな力持ちはヘビー級でしか考えられないから、必然的に相手も100kgを超える。ジュニア混合のタッグ戦ならそうでない場合も考えられるが、こういう技はシングルでないと掛かりにくい。
さらに、高身長であること。例えば大仁田厚が馬場さんに掛けようと手を伸ばしても吊り上げることが出来ない。漫画になってしまう。相手と同等の身長であれば理屈上は仕掛けられるが、見栄えがよくない。やはり、ある程度の上背が必要となる。背の高い怪力レスラーでないと、あまり仕掛けても絵にならない。
日本で言えば坂口や鶴田などがやっていたが、得意技の範疇にまで入るかどうか。馬場さんの身長であればそれは絵になっただろうとは思うが、後年のあの細腕繁盛記をみるととてもネックハンギングツリーという発想が浮かばない。その後、日本人レスラーでこれをやったのは、中西くらいだろうか。
僕がちゃんとしたネックハンギングツリーを見た最後は、スコットノートンだったかもしれない。しかしウォリアーズにせよ誰にせよ、いずれも短時間の技でありギブアップを奪うまでには至らないのが実情だろう。漫画のタイガーマスクではこれを仕掛けて相手が泡を吹き気絶、というシーンが出てきたような記憶があるが、そんなことはなかなか起こらない。
この技の代名詞的存在として、かつてはアーニー・ラッドが居た。
これは僕の記憶なので資料として考えないで欲しいが、アーニーラッドはネックハンギングツリーでギブアップを奪ったことがあったのではないか。今少し検索してみたがそういう話は出てこないので記憶違いかもしれないが、それほどラッドはネックハンギングツリーを得意技としていた。
身長207cm。馬場さんにも匹敵する。ただこれが不思議なことに体型のバランスが良く、さほど異形の者として映じなかった。もちろん大変にデカくて、試合をして相手レスラーと組み合うとその大きさはよくわかるのだが。アンドレと組み合うとこれまたアンドレが常人に見えた。その長い手足により日本では「毒蜘蛛」と異名をとった。
アメフト出身であり、タックルやベアハッグなども得意としたが、この長い手足を生かす技も多く使用した。それはフロント・キックであり(馬場さんやアンドレと同様である)、またギロチン・ドロップも映えた。さらにフライングボディプレスも敢行したが、こういうところがいわゆる「巨体レスラー」とは一線を画した均整のとれた体躯であったことを証明している(実際、あまり違和感が無い)。
そのアーニーラッドの長い腕を十二分に生かした技が、ネックハンギングツリーであったとも言えるかもしれない。身長と腕の長さでラッドを凌駕するレスラーはほとんど居ないため「人間絞首刑台」の役割を果たすには十分に過ぎた。
そのラッドも亡くなってしばらく経つ。ネックハンギングツリーを必殺技として使い得る、そういう意味での後継者はいない。
必殺技とまで昇華せよとは言わない。今なら誰がこの技をこなせるか。田上や高山は盛りを過ぎた。高橋裕二郎は圧倒的に身長が足らない。それこそ、身長のあるオカダ・カズチカがやれば、目よりも高く相手を吊るし上げてニヤリとでもすればヒールチャンピオンっぽいとは思うが、やらないだろうな。
とりあえず、東京スカイツリー開業記念として書いてみた。
そのオカダがツームストン・パイルドライバーを用いているのは、うれしくもある。これはカール・ゴッチ以来の技。この技を有名にしたのはモンスター・ロシモフ時代のアンドレ・ザ・ジャイアントで、ターザンタイラーを病院送りにしてしまい以後禁じ手にしたという話が凄みを呼んだ。僕らの時代はむろんタイガーマスクの得意技として印象に残る。彼のような体格があればもちろんフィニッシュ・ホールドになりうる技でありそれを期待したいが、今のところ「レインメーカー」とか称する、手を繋いでネックブリーカードロップ(アックスボンバー?)という、非常に分かりにくい技でフィニッシュとしている。ああいう技が、若い人にはうけるのだろうか。僕などにはとても大技には見えないのだが。
もう少しツームストン・パイルドライバーを前面に押し出してほしいと僕などは願うものだが、いわゆる「古い技」と呼ばれるものも、時々このように復権したりする。中西が使用したアルゼンチンバックブリーカーもそうだろう。あの技は、完全に死に体だったはずだ。カナディアンはまだ少し坂口らが使っていたが、アルゼンチンはあのタイガージェットシンが猪木からギブアップを奪うという衝撃以来、沈黙の中にいた。それをフィニッシュに持ってきた中西は、ある意味センスがあったと思われる。もう彼の復活は無理だろうか。
パイルドライバーは、今は鈴木みのるがフィニッシュにしている。これも、一種の復権か。鈴木の場合は「ゴッチ式」という従来と異なるクラッチの仕方で、ここに何とか個性を出したいと思ったのだろう。ただ本来の「脳天杭打ち」と呼ばれるドリルアホール・パイルドライバーは、とんと見なくなった。危険なのか、それとも難易度が高いのか。パワーボムが流行りだして、全てとって代わられた気がする。諏訪魔のような高角度のパワーボムもなされているくらいだから、パイルドライバーだって危険度は同様だと思うのだが。かつてのボブ・バックランドや木村健吾のようなジャンピング式など、結構な見せ場が作れるとは思うのだけれどもね。ファルコンアローなど語る気も起きない。
そうした技の中で、まず復権することはないと思われる技もいくつかある。例えば、ベアハッグ。海の向うではまだ使用されることもあるだろうが、現在のスピード重視の日本のプロレスではまず無理だろう。力皇猛が一時期使用したが、待ちきれずすぐに派生技へと繋げた。その力皇も引退してしまった。
そういう技は、いくつかある。キャメルクラッチ。また、コブラツイストでさえその仲間に入ろうとしている。
ネック・ハンギング・ツリーはその最右翼だろう。
ネック・ハンギング・ツリー。おそらく誰もが聞いたことがある技だと思う。知名度は高い(と思うけど今はそうでもないかな?)。言わずと知れた「人間絞首刑」である。
そうは言っても一応書くが、正面から両手で相手の首根っこをむんずと掴み、そのまま両腕をさしあげて相手を上方に持ち上げる。つまり「吊り上げる」わけ。相手の体重を支えているのは首根っこだけであり、その技が掛かった姿はまさに首を吊っているのと同じである。相当に恐ろしい技であることは、これだけでわかると思われる。普通なら悶死してしまうぞ。
子供の頃、4の字固めや逆えび固めはよく真似したりしたものだが(良い子は絶対にやってはいけない)、このネックハンギングツリーだけは絶対に真似出来なかった。むろん、危険ということが大前提としてあるが、これは大変に腕力が必要な技なのである。なんせ相手の体重を首の部分で支えて目よりも高く差し上げなければいけない。無理である。
つまり、相当な怪力でないと出来ない技となる。なんせレスラーの体重は常人並ではない。相手を腕力だけで持ち上げる技は、他にもパワーリフトなどがあるが(あれは技かな?)、腕への負担はネックハンギングツリーの方が上だろう。いくら力自慢でも、これはギブアップまで長時間続けることはなかなか出来ない。アンドレがグラン浜田を長時間持ち上げることは可能だろうが、そんな対戦は現実的ではない。
ここで、ちょっと考える。この技は、どう効くのだろうか。
これは、案外難しい問題のように思う。プロレスは、首を絞めるのは当然反則である。したがって、この技は実は絞首刑ではない。
首根っこを掴む、と書いたが そんなところを持ったら反則である。実際は、下顎を両手で支えているのである。その下顎、エラの部分に負荷として自分の体重がかかる。そうなるとかなりキツかろうとは思うのである。おそらくは親指がエラか下顎の内側に食い込んでいるに違いない。レスラーは基本として常人よりも遥かに首を鍛えているが、こういう部分を攻められることは想定外だろう。鍛えられないところは、急所となる。
この痛みももちろんだが、呼吸もおそらく困難になる。相当な負荷がかかるゆえに。
そして、首が自らの体重によって伸ばされる。これも、案外キツいのではないか。首関節が脱臼するなどということはないと思うが、究極はそうなる。グラウンドで相手の手首を取り両足を相手の首と脇腹に当てて踏ん張って引っ張る技があり、僕はジャイアント馬場式アームバーと仮に呼んでいるが、これは肩関節の脱臼を狙う技である。それと同じ事を首関節でやっていると言えよう。一種の「ひっぱり技・引っこ抜き技」としても分類できる。首を引っこ抜く技としては藤原組長がフェイスロックを仕掛ける際に後方からよく「首を栓抜きで引っこ抜くように」と表現されるが、ちゃんと掛かればネックハンギングツリーのほうがキツいのではないか。
かような拷問技だと推定されるが、この技が現在ほぼ幻の技となっている。いや、正確に言えば時々は出る。相手の首根っこを掴んで(便宜上この表現とする)勢いをつけて持ち上げる。この状態でネックハンギングツリーだが、それは一瞬だけで、そのまま相手を前方に叩きつける。仕掛ける側は足を開いて尻餅する形で着地するので、高角度ライガーボムとでも言おうか。一種のパワーボムである。ジャイアント・バーナードがやる。これでは、ネックハンギングツリーとは言えない。派生技にもならないのではないか。むしろ変形チョークスラム(喉輪落とし)だろう。こんな形でしか、姿を垣間見ることが出来ない。
この技は、やるほうだって大変なのである。
まず、相手の体重を支えきれる腕力がないと始まらない。そんな力持ちはヘビー級でしか考えられないから、必然的に相手も100kgを超える。ジュニア混合のタッグ戦ならそうでない場合も考えられるが、こういう技はシングルでないと掛かりにくい。
さらに、高身長であること。例えば大仁田厚が馬場さんに掛けようと手を伸ばしても吊り上げることが出来ない。漫画になってしまう。相手と同等の身長であれば理屈上は仕掛けられるが、見栄えがよくない。やはり、ある程度の上背が必要となる。背の高い怪力レスラーでないと、あまり仕掛けても絵にならない。
日本で言えば坂口や鶴田などがやっていたが、得意技の範疇にまで入るかどうか。馬場さんの身長であればそれは絵になっただろうとは思うが、後年のあの細腕繁盛記をみるととてもネックハンギングツリーという発想が浮かばない。その後、日本人レスラーでこれをやったのは、中西くらいだろうか。
僕がちゃんとしたネックハンギングツリーを見た最後は、スコットノートンだったかもしれない。しかしウォリアーズにせよ誰にせよ、いずれも短時間の技でありギブアップを奪うまでには至らないのが実情だろう。漫画のタイガーマスクではこれを仕掛けて相手が泡を吹き気絶、というシーンが出てきたような記憶があるが、そんなことはなかなか起こらない。
この技の代名詞的存在として、かつてはアーニー・ラッドが居た。
これは僕の記憶なので資料として考えないで欲しいが、アーニーラッドはネックハンギングツリーでギブアップを奪ったことがあったのではないか。今少し検索してみたがそういう話は出てこないので記憶違いかもしれないが、それほどラッドはネックハンギングツリーを得意技としていた。
身長207cm。馬場さんにも匹敵する。ただこれが不思議なことに体型のバランスが良く、さほど異形の者として映じなかった。もちろん大変にデカくて、試合をして相手レスラーと組み合うとその大きさはよくわかるのだが。アンドレと組み合うとこれまたアンドレが常人に見えた。その長い手足により日本では「毒蜘蛛」と異名をとった。
アメフト出身であり、タックルやベアハッグなども得意としたが、この長い手足を生かす技も多く使用した。それはフロント・キックであり(馬場さんやアンドレと同様である)、またギロチン・ドロップも映えた。さらにフライングボディプレスも敢行したが、こういうところがいわゆる「巨体レスラー」とは一線を画した均整のとれた体躯であったことを証明している(実際、あまり違和感が無い)。
そのアーニーラッドの長い腕を十二分に生かした技が、ネックハンギングツリーであったとも言えるかもしれない。身長と腕の長さでラッドを凌駕するレスラーはほとんど居ないため「人間絞首刑台」の役割を果たすには十分に過ぎた。
そのラッドも亡くなってしばらく経つ。ネックハンギングツリーを必殺技として使い得る、そういう意味での後継者はいない。
必殺技とまで昇華せよとは言わない。今なら誰がこの技をこなせるか。田上や高山は盛りを過ぎた。高橋裕二郎は圧倒的に身長が足らない。それこそ、身長のあるオカダ・カズチカがやれば、目よりも高く相手を吊るし上げてニヤリとでもすればヒールチャンピオンっぽいとは思うが、やらないだろうな。
とりあえず、東京スカイツリー開業記念として書いてみた。