三島由紀夫 (近代浪漫派文庫) | |
三島 由紀夫 | |
新学社 |
昨年夏は、特別イベントとして、短編「橋づくし」の道行を辿る、という行事を企画した。
「橋づくし」は、十五夜に、願い事をしながら無言で所定の橋を全て渡るとその願いがかなうという言い伝えを、柳橋の二人の芸者と料亭の早大生の箱入り娘とその使用人の女4人が、それぞれの願いを抱えて、銀座の7つの橋で実践するという物語だ。
十五夜というわけにはいかないが、みんなでこの小説の通りに歩いてみよう、という企画である。
小説の通り、三吉橋からスタートしようとしたのだが、橋の袂に「橋づくし」の文学碑を発見し、一同記念撮影。
ここからは一言もしゃべってはいけない。
橋を渡る前と後に手を合わせる。
次は築地橋。
入船橋
暁橋
聖路加病院のところに来た。
この次の堺橋が見当たらず、困った。
大体、文庫本を片手に歩くが、そこに出てくる川の水はなく、埋め立てられて道路になっていたり、何の用途にも使われていない場所もあり、風景はすっかり様変わりしているのだ。
しかし、言葉を発すると願が破れるので、一同無言で探す。
公園のようになっていて、最後の備前橋はすぐそこにあるのに、どうしても橋が見つからない。
しかし、土の上に、板を張り欄干のようなものが両端にある部分を発見、これかもしれないということでこれを礼をして渡る。
最後の備前橋を渡ったら、そこは築地本願寺の前。
三島の葬儀が行われた場所というのも符牒である。
一同、何とか無事に終えて、ほっとした。
なお、原作では、芸者の一人は腹痛でretire、もう一人は知り合いの老妓に声をかけられ破願、早大生の娘は最後の橋の袂で警官に不審尋問され失敗、結局、母親の言いつけで付き添いに連れて来た女中のみなだけが成功するが、一見愚鈍な田舎娘に見える彼女は、ただの付き添いでありながら、不審尋問にも頑固に黙りとおして主人に答えさせるなど、願かけを誰よりも周到に冷静に貫徹した、という、三島らしい人間洞察のある見事な短編である。
願い事は他人にいってはいけないので、ここには書かないが、それは実現し、時々自殺を考えるほどつらい職業生活においても、一条の光になったということだけ付言しておく。
読書会の友達は、「あんな楽しいことは本当になかった。また何か企画して」と何度もいうので、現在検討中。
季節が良くなったら、本郷、水道橋、後楽園等の「天人五衰」に出てくる場所めぐりでもしようか、と思案している。馬込文士村散策もいいなあ。